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大学・研究所にある論文を検索できる 「微生物増殖に着目した新規腸管共生モデルの開発に関する基礎的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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微生物増殖に着目した新規腸管共生モデルの開発に関する基礎的研究

遠藤, 輪 筑波大学

2020.07.22

概要

腸内微生物叢は「忘れられた臓器」と比喩される(O’Hara and Shanahan, 2006)ように宿主の健康に大きな影響を与えており、近年最も注目を集めている研究対象の1つである。最近では、腸内微生物を活用して宿主の健康状態を改善する試みが為されてきており、一定の成果をおさめている(van Nood et al., 2013; Colman et al., 2014)。一方で、宿主細胞が腸内微生物に及ぼす影響に関する報告は限定的であるが、特定の疾病の患者では類似した腸内微生物叢の変化を示すことが報告されており(Manichanh et al., 2006)、宿主の健康状態が腸内微生物叢に対して影響力を持たないとは考えにくい。宿主細胞が腸内微生物に及ぼす影響に関する解析が進んでいない理由として、適切な実験系が存在しないことが原因である可能性が考えられた。そこで、本研究では新たな実験モデルを構築することを目的として、微生物挙動を測定することが可能な新規腸管モデルの構築に取り組んだ。そして、作製した実験系を用いて宿主細胞の状態を変化させた際の微生物の増殖挙動の変化を解析した。

宿主-腸内微生物叢の相互作用をinvitro実験系で解析するためには、同一の系内に両者の細胞を共存させる必要がある。そこで、腸上皮細胞(Caco-2細胞)と微生物の共培養化をおこなうために、共培養において想定される培養因子の変化を人為的にCaco-2細胞に与え、共培養時に制御が必要な培養条件を探索した。種々検討した結果、培養液pHの低下が特にCaco-2細胞に大きなダメージ(TEER値および生存率の低下)を及ぼすことが明らかとなった。また、pHが維持されていてもCaco-2細胞と微生物が接触した環境下では、Caco-2細胞にダメージが見られた。そこで、Caco-2細胞と微生物の生育空間を隔てた共培養系(培地を介して代謝産物等の物質移行は起こる)を構築したところ、少なくとも培養24hはCaco-2細胞の良好な生育が見られることが見られ、両細胞を空間的に隔てた培養系をデザインする必要性が示された。

次に、微生物増殖を測定可能にする目的で微生物をアルギン酸カルシウムゲルに固定化する形に実験系を改良した。宿主細胞側の変化の一例としてCaco-2細胞に炎症反応を引き起こし、炎症状態に応じた共培養微生物の増殖挙動を比較した。その結果、Caco-2細胞が高炎症状態を示す際には共培養したEscherichiacoliの増殖は促進された一方で、Lactobacilluscaseiは炎症状態に応じて増殖量は変化しなかった。炎症性腸疾患の患者の腸内微生物叢では、E.coliが属するProteobacteria門が優占化し、L.caseiが属するFirmicutes門の割合が減少することが知られている(Franketal.,2007)。本実験結果は、これらの生体内で起こる現象と整合性がとれていたことから、(i)作製した実験系が腸管モデルとして妥当である可能性、(ii)宿主細胞の状態が腸内微生物叢に対する影響力を有している可能性が示唆された。

また、開発した腸管モデルで共培養が可能な微生物種を増やすために、動物細胞の接着因子として重要な役割を示す金属イオンに着目した共培養培地のデザイン法に関する提案を試みた。既報の文献で高い金属吸着能が知られていたLactobacillus属の乳酸菌からL.caseiを選択し、その2価金属イオンの吸着特性を解析した。その結果、L.caseiは主に細胞表層の莢膜多糖でストロンチウムやバリウムなどの金属イオンを吸着していることが示唆された。培養9hのL.caseiによる金属の最大吸着量はイオン半径などのパラメーターと高い相関関係を示しており、これまでに報告されてきた他の微生物吸着材(Brady and Tobin, 1995; Chen and Wang, 2007; Zamil et al., 2009)とは異なる金属吸着傾向を示すことが明らかとなった。また、この相関関係を利用してL.caseiによる培地中のカルシウムイオンの濃度変化を推算したところ、DMEMに含まれるカルシウムイオンのうち最大でも20%程度しか除去されないことが予測され、この微生物をCaco-2細胞との共培養に供する際に培地へのカルシウムの供給をおこなう必要性は低いことが示唆された。

本研究では、微生物増殖に着目した腸上皮細胞と微生物の共培養系の構築をおこない、腸管モデルとして活用できる可能性を示すことができた。また、作製した実験系を用いることによって、従来はメカニズムの解析がされていなかった腸内微生物叢の変化について、宿主細胞の状態によって変化している可能性を提案した。今後、本研究で開発した腸管モデルで見られた実験結果と生体内現象の一致性を更に調査するために、多種の微生物を用いた検討や現象のメカニズムの解析が実施されることが望まれる。

参考文献

Brady J.M., Tobin J.M.: Binding of hard and soft metal ions to Rhizopus arrhizus biomass. Enzyme Microbial Technol., 17, 791-796 (1995).

Chen C., Wang J.: Influence of metal ionic characteristics on their biosorption capacity by Saccharomyces cerevisiae. Appl. Microbiol. Biotechnol., 74, 911-917 (2007).

Colman R.J., Rubin D.T.: Fecal microbiota transplantation as therapy for inflammatory bowel disease: a systematic review and meta-analysis. J. Crohn’s Colitis, 8, 1569-1581 (2014).

Frank D.N., St Amand A.L., Feldman R.A., Boedeker E.C., Harpaz N., Pace N.R.: Molecular-phylogenetic characterization of microbial community imbalances in human inflammatory bowel diseases. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 13780-13785 (2007).

Manichanh C., Rigottier-Gois L., Bonnaud E., Gloux K., Pelletier E., Frangeul L., Nalin R., Jarrin C., Chardon P., Marteau P., Roca J., Dore J.: Reduced diversity of faecal microbiota in Crohn's disease revealed by a metagenomic approach. Gut, 55, 205-211 (2006).

O'Hara A.M., Shanahan F.: The gut flora as a forgotten organ. EMBO Rep., 7, 688-693 (2006).

van Nood E., Vrieze A., Nieuwdorp M., Fuentes S., Zoetendal E.G., de Vos W.M., Visser C.E., Kuijper E.J., Bartelsman J.F., Tijssen J.G., Speelman P., Dijkgraaf M.G., Keller J.J.: Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile. N. Engl. J. Med., 368, 407-415 (2013).

Zamil S.S., Ahmad S., Choi M.H., Park J.Y., Yoon S.C.: Correlating metal ionic characteristics with biosorption capacity of Staphylococcus saprophyticus BMSZ711 using QICAR model. Bioresour. Technol., 100, 1895-1902 (2009).

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