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晩期梅毒の診断治療の経験、2組の夫妻の事例

塚平, 晃弘 桜井, 一彰 信州大学

2023.08.22

概要

Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023

   晩期梅毒の診断治療の経験、2
05-1
組の夫妻の事例
塚平晃弘(飯田市福祉部保健課 飯田市立上村診療所長)、
桜井一彰(飯田市立病院 感染管理室 感染管理者)
キーワード:神経梅毒、届出 5 類感染症、STS(serological tests for syphilis)、TPHA

要旨:近年、梅毒の届出が増えている。専門以外の医師が診療に当たる機会も増える。飯田市立病院
で経験した 2 組の夫妻の晩期梅毒の症例を提示し、診断治療と効果判定の一助にしたい。髄液検査を
行いペニシリン G2400 万単位 / 日 6 週間以上の治療でも、STS4 倍の低下が無い晩期顕性梅毒を経験
した。また、STS16 倍が届出対象だが、STS8 倍の未治療神経梅毒を経験した。病期不明梅毒には髄
液検査を考慮すべきである。病期に見合った薬剤、薬量、投与期間で治療を行う必要がある。

A.背景と目的

髄液所見:細胞数 15/3 個、蛋白 35mg/dl、FTA-

 近年、新規に報告される梅毒の増加が著しい。

ABS(+)、IgG:5.8mg/ml。 半 年 の 経 過で STS

性風俗、SNS、インバウンド、貧困問題などが関

は低下せず、更に PCG 治療 2 週間 2 コース(合計

係して原因は複雑である。梅毒は偽装の達人と

6 週間)追加した。治療後 5 年の経過で、STS:

言われる。患者から具体的な申し出が無ければ、

64 倍、TPHA:10240 倍まで低下したが STS で 4

医師が積極的に梅毒の検査を勧めることは難し

倍の低下は無く、現在も経過観察中である。

い。診療経験の少ない医師が初診で患者を診る
機会も増えた。梅毒検査は、術前検査や内視鏡

・夫妻② 70 代夫 緊急手術の術前検査で STS:

検査、人間ドックの項目から外れ任意となった。

16 倍 TPHA:10240 倍を指 摘された。30 歳頃、

偶然見つかって治療に繋がる症例は減ったと思

性病と言われ近医で内服治療の既往がある。認知

われる。

症がある。髄液検査をお勧めした。

B.症例提示

髄液所見:細胞数 36/3 個、蛋白 33mg/dl、FTA-

・夫妻① 60 代夫 30 歳頃梅毒の治療既往がある。

ABS(+)、IgG:5.3mg/ml。 神 経 梅 毒 の 診 断 で

妻の梅 毒判明で検 査に来院。STS(-)、TPHA:

PCG 2400 万単位 / 日、2 週間の持続点滴を行った。

640 倍。

・夫妻② 60 代妻 夫の他に感染の機会は無く、

・夫妻① 60 代妻 30 年前、夫の梅毒罹患で受診し

これまで梅毒検査を受けたことが無い。夫の梅

た泌尿器科で感染の既往と言われ未治療。20 年後

毒届出に伴い検査をお勧めした。無自覚無症状。

に緑内障と言われ片眼失明。30 年後、胸部上行大

STS:8 倍、TPHA:40960 倍。髄液検査をお勧め

動脈瘤の術前検査で STS:16 倍、TPHA:40960

した。

倍 を指 摘され た。 術 前に ceftriaxone(CTRX)

髄 液 所 見: 細 胞 数 753/3 個、 蛋 白 70mg/dl、

2 g / 日の点 滴を 2 週 間 行った が、 術 後に STS

FTA-ABS(+)、IgG:6.0mg/ml。 神 経 梅 毒 の 診

が 128 倍に上昇した。経験のない経 過を国立国

断で PCG 2400 万単位 / 日、2 週間の持続点滴を

際医療センター(エイズ治療・研究開発センター:

行った。

ACC)に相談した。CDC ガイドラインに従って 、

C.経過

髄液検査と 2 週間のペニシリン G(PCG)2400 万

 梅毒性眼内炎と思われる続発性緑内障で失明

単位 / 日持続点滴を勧められ、髄液検査と治療を

し、梅毒性大動脈瘤で診断された晩期顕性梅毒

行った。

の患者 1 名、神経梅毒の夫妻の症例を経験した。

1)

72

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. 1, August 2023

Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023

無症状の梅毒は STS16 倍以上が届け出対象にな

である。

る。効果判定は STS4 倍低下で見る。皮疹を伴わ

E.まとめ 

ない病期不明の梅毒患者に髄液検査を行った。し

 梅毒は現在のところペニシリンに対する薬剤

かし、晩期梅毒では十分な治療を行っても、STS4

耐性の報告は無く、正しい治療を行えば治癒す

倍の低下を認めない症例や、STS8 倍でも髄液に

る疾患である。しかし、自然治癒は無いと考え

明らかな炎症所見を認める未治療の梅毒を経験し

られる。患者の具体的な申出が無ければ、医師

た。

が患者に梅毒の検査を勧めることは難しい。新

D.考察

規梅毒患者の増加に伴い、患者には検査の啓発

 梅毒は、1 期(初期硬結)、2 期(再発を繰り

を、診療に関わる医師にはもう一度、梅毒の病

返す皮疹)、感染から 1 年以上経過すると、性交

期に見合った薬剤選択と投与量、投与期間の確

渉で感染性がない後期梅毒(血管梅毒、神経梅

認を求めたい。

毒)に移行する。※未治療だと 1-3 年間程度感染

F.利益相反 

力が有るとされる 2)。

 利益相反なし。症例提示の患者同意を得ている。

 1 期梅毒は、STS(RPR)が陰性~低値(定量

G.文献

で 8 倍、8RU 以下)であることがある。患者に

1)
CDC MMWR Sexually Transmitted Diseases

感染機会について聴取し、症状で梅毒の可能性

Treatment Guidelines. Vol.64 No.3.5.2015.

が高いと判断した場合は、暫定的に治療を行う

2)
柳澤如樹、味沢篤 . 現代の梅毒 モダンメディ

か、または 2-4 週間後に梅毒抗体の再検査を行う。

ア 54.2.14-21.2008.

普通は、STS(RPR)が先行して陽性となり、次

3)
https://www.kansensho.or.jp/ref/d52.html

いで TPHA が 4 週間前後で陽性となっていたが、

感 染 症クイック・リファレンス . 各 論 .52 梅 毒

近年 TP 抗体が先行して上昇する報告が増えて

(Syphilis)日本感染症学会ホームページ.

いるため、1 期梅毒は抗体検査を鵜呑みに出来ず、

4)
味沢篤 . 東京都立駒込病院 ドクターサロン 56

感染機会の聴取や身体所見を含めた総合的な判

号 11 月 .2012.

断が必要となる。早期梅毒 2 期は、STS(RPR)

5)
Syphilis. Nature Reviews Dis. Primers 3,

は通常高値(定量で 16 倍、16RU 以上)となり

17073.2017.

治療適応となる 。
3)

 ここで一つの疑問が生じる。そもそも、梅毒に
自然治癒は有るのか?エキスパートオピニオン
として、味沢氏は「抗生物質が無かった時代の
話ですが、梅毒患者を 100 人診るとだいたい 70
人位は自然に治って、30 人位が血管梅毒や神経
梅毒で大変な状態になりました…4)」と語る。一
方で、「梅毒抗体は中和抗体にならないため再感
染がある。感染から 1-3 年経過すると梅毒は無症
候期に移行し、性交渉で他者に感染することは
無くなる。しかし、治癒とは言えず 20-30 年かけ
て神経や血管が障害される。皮疹を認めない梅
毒は、活動性と病期を評価して十分なペニシリ
ン治療を行う 1.5)」これが現在の標準的な考え方
73

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. ...

参考文献

で 8 倍、8RU 以下)であることがある。患者に

1)

CDC MMWR Sexually Transmitted Diseases

感染機会について聴取し、症状で梅毒の可能性

Treatment Guidelines. Vol.64 No.3.5.2015.

が高いと判断した場合は、暫定的に治療を行う

2)

柳澤如樹、味沢篤 . 現代の梅毒 モダンメディ

か、または 2-4 週間後に梅毒抗体の再検査を行う。

ア 54.2.14-21.2008.

普通は、STS(RPR)が先行して陽性となり、次

3)

https://www.kansensho.or.jp/ref/d52.html

いで TPHA が 4 週間前後で陽性となっていたが、

感 染 症クイック・リファレンス . 各 論 .52 梅 毒

近年 TP 抗体が先行して上昇する報告が増えて

(Syphilis)日本感染症学会ホームページ.

いるため、1 期梅毒は抗体検査を鵜呑みに出来ず、

4)

味沢篤 . 東京都立駒込病院 ドクターサロン 56

感染機会の聴取や身体所見を含めた総合的な判

号 11 月 .2012.

断が必要となる。早期梅毒 2 期は、STS(RPR)

5)

Syphilis. Nature Reviews Dis. Primers 3,

は通常高値(定量で 16 倍、16RU 以上)となり

17073.2017.

治療適応となる 。

3)

ここで一つの疑問が生じる。そもそも、梅毒に

自然治癒は有るのか?エキスパートオピニオン

として、味沢氏は「抗生物質が無かった時代の

話ですが、梅毒患者を 100 人診るとだいたい 70

人位は自然に治って、30 人位が血管梅毒や神経

梅毒で大変な状態になりました…4)」と語る。一

方で、「梅毒抗体は中和抗体にならないため再感

染がある。感染から 1-3 年経過すると梅毒は無症

候期に移行し、性交渉で他者に感染することは

無くなる。しかし、治癒とは言えず 20-30 年かけ

て神経や血管が障害される。皮疹を認めない梅

毒は、活動性と病期を評価して十分なペニシリ

ン治療を行う 1.5)」これが現在の標準的な考え方

73

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. 1, August 2023

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