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TGF-β、PDGF、Periostinの機能解析による、子宮内膜症の病態の原因解明

錬石, 和明 東京大学 DOI:10.15083/0002002458

2021.10.15

概要

1) 背景
 子宮内膜症は子宮内膜様組織が子宮以外に発生する疾患である。卵巣、骨盤腹膜に発生することが多く、腸管、膀胱、肺などに発生することもある。また、子宮内膜症はエストロゲン依存性の疾患で、生殖可能年齢から発症し、5〜10%の女性が患っている疾患である。子宮内膜症は月経困難症や慢性骨盤痛を来たし、35歳以下で不妊のリスクが上昇する。また、子宮内膜症患者が妊娠中に腹腔内出血を来たすこともある。子宮内膜症を母地とする卵巣癌など悪性腫瘍の報告もあり、悪性化の機序は未だ不明である。このように、子宮内膜症は少子化、晩産化が進行している社会的背景と密接に関係した疾患で、良性疾患ではあるが女性の各ライフステージでQOLに大きな影響を与える点で原因解明と治療が望まれる重要な疾患である。しかし、その病態は未だ解明されていない。
 子宮内膜症は慢性炎症性疾患であり、免疫応答や炎症性反応がその病態形成において重要な役割を果たし、炎症性サイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼ、プロスタグランジン、ホルモンレセプター、血管新生因子等の様々な物質が関係していると言われている。当科Nakazawaらが作成した子宮内膜症上皮細胞と子宮内膜上皮細胞のRNA sequenced-データベースをもとにIPA解析手法を使って、子宮内膜症上皮細胞と子宮内膜上皮細胞の遺伝子発現の差異に、TNFα、TGFβ1、エストラジオール、PDGFB、Versicanが関与をしている可能性がわかった。これらの中のTGFβとPDGFBに着目した。
 TGFβは上皮間葉転換(EMT)の主要な誘導因子であり、EMTは内膜症において臨床的にも関連が示唆されている。PDGFは間葉系細胞の遊走や増殖に関与する増殖因子として知られ、上皮細胞や内皮細胞によって産生される。また、PDGFは形質転換や細胞の遊走、血管新生、細胞分化にも関与している。Periostinは様々なアレルギー炎症性疾患と関連しており、好中球の遊走、気管リモデリングなどに関与している。子宮内膜症は炎症性疾患であり、Periostinが病態形成に関与している可能性が推測された。
 これらから、我々は特に子宮内膜症上皮細胞において、TGFβ、PDGFの役割とPeriostinの機能について検討した。

2)目的
 本研究において、子宮内膜症病変における病態形成、進展に関わる因子の同定と働きを明らかにすることを目的とし、子宮内膜症卵巣嚢胞上皮細胞と正所性子宮内膜上皮細胞の違いに関連する上流分子と予測されたTGF-β1とPDGFBに着目した。
そのための課題として、
Ⅰ-1.子宮内膜症上皮細胞におけるTGF-β1刺激による遺伝子発現の変化Ⅰ-2.子宮内膜症上皮細胞にけるPDGFの機能解析
Ⅱ.子宮内膜症上皮細胞におけるPeriostinの発現と機能解析
を挙げ実験を行った。

3)方法
 In vivo実験の検体として、子宮内膜症性卵巣嚢胞と正所性子宮内膜の、手術組織標本を使用した。子宮内膜症性卵巣嚢胞検体は、腹腔鏡下卵巣嚢胞切除術、腹腔鏡下子宮付属器切除術を施行した患者検体を、正所性子宮内膜組織検体は子宮頸癌もしくは子宮筋腫の診断で子宮全摘術を受け、病理学的に正常な子宮内膜組織を用いた。
 In vitro実験として、当研究室では、初期培養した子宮内膜症性卵巣嚢胞上皮細胞の不死化に成功しており、子宮内膜症の病態解明に使用するに適するものであると考えた。Periostinの強制発現に際してはTetracycline発現誘導システムを用いた。不死化子宮内膜症性卵巣嚢胞上皮細胞にplenti-CMV-rtTA3レンチウイルスベクターから作成したレンチウイルスを感染させ、rtTA3発現細胞を作成した。これに、PeriostinのORFをpLent-CMV-TRE3GDESTベクターに組み込み作成したエクスプレッションベクターから抽出したレンチウイルスを感染させ、doxycyclineの添加によりPeriostinの発現調節が可能な細胞を完成させた。Periostinの恒常的強制発現にはレンチウイルスを用いて細胞に感染させ、薬剤耐性細胞を選択して強制発現細胞を作成した。Periostinの発現低下に関しては、si-RNAを購入し、Lipofectamine下に細胞内に導入した。
 mRNA抽出はNucleospin RNAキットを、quantitative PCRはSYBER Green Masterを用いプロトコール通りに行った。タンパク抽出はlysis bufferにて行い、western blottingはSDS-PAGE法にてタンパクを電気泳動、転写後、一次・二次抗体を反応させAmersham ECL Primeにてタンパクの信号を得た。
 免疫組織染色EnVisionKit(Dako, California, USA)にてプロトコール通り行った。
 細胞上清中タンパク測定(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay: ELISA)はHuman Periostin Quantikine ELISA kit, Human IL-8/CXCL8 Quantikine ELISA Kitを使用した。
 Migration AssayはCell Culture Wound Closure Assayを採用した。Invasion AssayはBioCoat Matrigel Invasion Chamberを使用した。

4) 結果と考察
 今回、我々の以前の子宮内膜症性卵巣嚢胞上皮細胞と正所性子宮内膜上皮細胞のトランスクリプトーム解析により子宮内膜症性卵巣嚢胞上皮細胞に有意に発現の異なる遺伝子群から予測された上流遺伝子、TGFβ1に着目した。特に、TGFβ1刺激で発現の上昇した遺伝子群と子宮内膜症卵巣嚢胞上皮細胞に高発現な遺伝子群を比較することで、8遺伝子の候補遺伝子を同定し、その中でPeriostinを研究対象として抽出した。また、上流遺伝子の一つであるPDGFBが、TGFβ1刺激で発現の上昇した遺伝子群に含まれていることから、PDGFBの子宮内膜症の病態への関連にも着目した。
 TGFβは上皮間葉転換(EMT)の主要な誘導因子であり、子宮内膜症に特有の線維化や癒着形成を認めるように、TGFβが子宮内膜症の病態形成に関わっているという報告がある。筆者の研究室の過去の検討で、子宮内膜症上皮と子宮内膜上皮の網羅的遺伝子の結果、数理学的にその差異の上流にTGFβ1があることを同定したが、今回、invitroでのTGFβ1刺激による網羅的解析により、PeriostinやPDGFBの発現が上昇することを見出した。
 本研究では、PDGF-BB刺激によりERK, Akt, JNK pathwayを介し、内膜症上皮細胞の培養上清中のIL-8とPeriostinの増加を認め、MCP1(Monocyte chemotactic protein-1)のmRNAも上昇し、子宮内膜症の病態を増悪させる一因となっていることが示唆された。
 全身性強皮症において、PDGFR signalingはPeriostinやCTGF(connective tissue growth factor)の発現を増加させる報告がある。MCP1は単球に対する走化性亢進や、好塩基球による化学伝達物質の遊離促進や、T細胞走化性の活性化作用を有し、炎症性サイトカインによる刺激により単球やマクロファージ、線維芽細胞、内皮細胞などで産生される。MCP1は健常患者に対して子宮内膜症患者の血漿中で上昇しており、診断に有用である可能性が報告されている。さらに、MCP1がEMTを惹起する報告もあり、PDGF刺激により増加したMCP1がEMTプロセスを誘導し炎症を増悪させることで内膜症の線維化を引き起こしている可能性がある。IL-8は子宮内膜症における炎症マーカーとして知られており、共に内膜症性病変の微小環境で炎症病変が存在していることを示している。また、血管病変においては、PDGF-BBによりTGFβ1, MCP1のmRNAの発現が増加し、細胞遊走能や細胞増殖を亢進させ、これらがERK inhibitorにより抑制する報告があり、各々シグナル経路阻害薬によりPeriostinの産生抑制、MCP1やIL-8の発現抑制を期待できる可能性がある。
 子宮内膜症組織におけるPeriostinの発現は、上皮細胞に強く、正所性子宮内膜組織では低発現であった。In vitroの検討では、TGFβ1の刺激により、子宮内膜症上皮細胞におけるPeriostinの発現が有意に亢進し、それらはPI3K、ERK、JNKの阻害剤で抑制されることが解った。また、Periostinの強制発現で、子宮内膜症上皮細胞の遊走能、浸潤能が亢進し、siRNAでPeriostinの発現を抑制することで、子宮内膜症上皮細胞の遊走能、浸潤能が抑制された。
 Periostinは、EMTのプロセスにおいて重要な役割を果たしており、骨や歯牙の形成や維持、心臓の発生などに重要な役割を果たしている。また、様々な癌腫での浸潤、転移に関与しているとの報告がある。さらに、Periostinは気管支喘息などのアレルギー炎症性疾患ではIL-4やIL-13などのサイトカインにより分泌され、繊維化を引き起こす。子宮内膜上皮に比較し、子宮内膜症上皮でPeriostinが高発現であることは、子宮内膜症で遊走能、浸潤能の亢進、線維化の亢進といった子宮内膜症におけるEMTの関与をよく表していると考えられる。また、多くの場合、Periostinはがん関連線維芽細胞(CAF)などの癌の間質成分に発現が高く、上皮にPeriostinの発現が高いことは正常組織においても稀なことである。したがって、Periostin発現が上皮に高いという現象は、子宮内膜症に特徴的であり、上皮でありながら間質系の性質を持っていることを示唆しており、EMT関連の分子が子宮内膜症上皮に高いという報告を支持するものである。
 本研究によって、si-RNAを用いてPeriostinを抑制することで細胞遊走能力も抑制された。子宮内膜症性卵巣嚢胞間質細胞でPeriostinが遊走能、浸潤能に関与する報告があるが、培養が難しい子宮内膜症性卵巣嚢胞上皮細胞において同様の報告はまだない。
 さらに、腸管子宮内膜症病変部位の上皮細胞においてPeriostinが間質細胞よりも強く発現していることが示された。腸管子宮内膜症病変部位の上皮細胞により強く染色されている点が子宮内膜症性卵巣嚢胞上皮細胞と共通しており、腸管子宮内膜症においても上皮細胞からPeriostinが分泌されている可能性がある。
 今回、女性のQOLに大きな影響を与える子宮内膜症の病態形成や進展に関わる因子としてTGF-β1とPDGFBが挙げられ、これらがPeriostinを産生することにより、炎症やEMTが惹起されることが解った。これら分子が子宮内膜症の治療ターゲットとして挙げられる。TGF-β阻害剤やPDGF-BB阻害剤は臨床応用されていないが、Periostinの産生を誘導するIL-13に対する抗体(lebrikizumab)は喘息患者を対象に第二相試験が行われており、子宮内膜症にも応用できる可能性がある。

5)まとめ
 正所性子宮内膜上皮細胞に対して子宮内膜症卵巣嚢胞上皮細胞で高発現であった遺伝子群のIPA上流解析により上流分子と予測されたTGF-β1とPDGFBに着目した。TGF-β1、PDGFB刺激により子宮内膜症卵巣嚢胞上皮細胞では、ERK, Akt, JNK pathwayを介しPeriostinが高発現であった。Periostinが高発現となった子宮内膜症卵巣嚢胞上皮細胞はIL-8, MCP1の発現を誘導し炎症やEMTを惹起するとともに、子宮内膜症卵巣嚢胞上皮細胞の細胞遊走能と浸潤能を獲得した。これらの結果より、Periostinが子宮内膜症の病態に関与していることが示され、TGF-β1やPDGFBが高発現である子宮内膜症の環境下で治療ターゲットになりうることを示唆している。

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