日本人高齢者における1日の歩行時間と無障害生存期間の関連:大崎コホート2006研究
概要
背景:先行研究において、歩行は要介護や死亡の予防因子であることが明らかになっている。そのため、1 日の歩行時間が長いことは無障害生存期間の延長に寄与すると予想されるが、1 日の歩行時間によって無障害生存期間がどの程度長くなるかについては明らかではない。
目的:本研究の目的は、地域在住高齢者の 1 日あたりの歩行時間と無障害生存期間との関連について検討することである。
方法:2006 年に宮城県大崎市の 65 歳以上の住民全員(31,694 人)を対象に、1 日の平均歩行時間を含んだ生活習慣に関する自記式質問紙調査を実施した。曝露変数は、1 日の平均歩行時間とし、「30 分以下」、「30分から 1 時間」、「1 時間以上」の 3 群に分類した。主要エンドポイントは 11 年間(2006 年~2017 年)の新規要介護または死亡の発生の複合アウトカムとし、無障害生存期間はベースライン時点から複合アウトカムが発生するまでの期間と定義した。解析は、第一に、Cox 比例ハザードモデルを用い、「30 分以下」の群を基準群とした複合アウトカムのハザード比と 95%信頼区間(95%CI)を算出した。第二に、Laplace 回帰分析を用い、「30 分以下」の群を基準群とした 50 パーセンタイル差(50th PD:複合アウトカム発生 50%に至るまでの期間の差)と 95%CI を推定した。
結果:11 年間の追跡の結果、解析対象者(14,342 人)のうち、複合アウトカム発生者は 7,761 人(1,000 人年あたり 67.6 人)であった。「30 分以下」群に対する複合アウトカムの多変量調整ハザード比(95%CI)は、「30 分から 1 時間」で 0.84(0.79‐0.88)、「1 時間以上」で 0.78(0.74‐0.83)となり、歩行時間が長い者ほど複合アウトカムのリスクは低かった(傾向性の P 値<0.001)。また、「30 分以下」群に対する 50th PD(95%CI)の推定値(多変量調整)は、「30 分から 1 時間」で 238 日(155‐322 日)、「1 時間以上」で 360日(265‐454 日)となり、歩行時間が長い者ほど無障害生存期間が有意に長かった。この関連は、性別、年齢(前期高齢者、後期高齢者)、喫煙経験の有無、body mass index(<25kg/m2、≥ 25kg/m2)、運動機能(高い、低い)、身体的な痛み(なしから軽い、中くらい以上)によっても変わらなかった。
結論:地域在住高齢者において、1 日の歩行時間が長いことは無障害生存期間の延長に寄与することが示唆された。本研究の結果から、健康寿命を延伸するためには、高齢者に対して、日常的に取り入れやすい歩行を健康行動として促すことが重要であると考えられた。