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大学・研究所にある論文を検索できる 「REM sleep-active MCH neurons are involved in forgetting hippocampus‐dependent memories」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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REM sleep-active MCH neurons are involved in forgetting hippocampus‐dependent memories

Izawa, Shuntaro 伊沢, 俊太郎 名古屋大学

2020.10.19

概要

【緒言】
 睡眠は記憶の「固定」だけではなく不必要な記憶の「忘却」にも働くと考えられている。しかし、睡眠中に忘却を引き起こす神経回路はこれまで全く見つかっていない。また、脳が活動レベルを低下させる「ノンレム睡眠」に対し、脳が活発に活動する「レム睡眠」は、ノンレム睡眠の後に現れるため、生理的役割や記憶に及ぼす影響が良く分かっていない。そこで本研究では、レム睡眠を誘導することが知られている視床下部のメラニン凝集ホルモン産生神経(MCH 神経)が、脳内の記憶中枢である海馬に作用してレム睡眠時の記憶制御に関わる可能性を検証した。

【対象及び方法】
 マウスにおいて、MCH 神経の軸索走行を逆行性および順行性に標識し、海馬への投射を組織化学的に観察した。また、記憶への影響について、MCH 神経を活性化/抑制、もしくは脱落したマウスでの行動実験により評価した。MCH 神経の活動操作には、遺伝子改変マウスとアデノ随伴ウイルス(AAV)局所注入を組み合わせた機能タンパク発現による化学遺伝学や光遺伝学の手法を用いた。光遺伝学による操作では、海馬に伸びる MCH 神経軸索末端のみを活性化させることで、MCH 神経の海馬への直接投射の役割についても検証した。さらに、MCH 神経は覚醒中とレム睡眠中に活動する異なる 2 つの集団に大別されることを明らかにしたため、各集団の記憶への働きを睡眠ステージ特異的な MCH 神経活動抑制によって検証した。その際、睡眠ステージの変化を脳波からリアルタイムに判定できるプログラム下で光照射を制御し、覚醒/レム睡眠/ノンレム睡眠のそれぞれのステージで MCH 神経活動を抑制することで、各ステージごとの MCH 神経活動の記憶への働きを評価した。

【結果】
 海馬に局所注入した逆行性ビーズは軸索末端から細胞体に輸送され、脳の多様な領域に観察された。視床下部においてもビーズで標識された細胞体が観察され、免疫染色によってその多くが MCH 神経であることを特定した。さらに、MCH 神経の軸索が緑色蛍光で観察できる遺伝子改変マウスの海馬では、密な MCH 神経軸索が観察された(図 1)。
 化学遺伝学による MCH 神経活性化と海馬が関与する記憶行動試験である新奇物体認識試験において、生理食塩水を投与したコントロール群は新奇物体を認識できたのに対し、リガンドを投与した MCH 神経活性化群は新奇物体と既存物体を区別することができず新奇物体認識試験の成績が低かった(図 2)。同じく海馬依存記憶を評価できる文脈的恐怖条件づけ試験においても、MCH 神経活性化による記憶成績の低下が観察された。一方、MCH 神経活動を抑制した場合には記憶成績の向上が見られた。また、MCH 神経の不可逆的な脱落は抑制と同様に記憶成績を向上させた。脱落による記憶成績向上は 7 日間に渡るモリス水迷路試験でも観察された。海馬が関与しない記憶の試験である音恐怖条件付け試験においては脱落に伴う記憶成績の変化は生じなかった。
 化学遺伝学に比べ時間分解能が高い光遺伝学を用いた検証では、記憶「保持」期間中の MCH 神経活動が忘却をもたらすことが明らかになった。記憶の「獲得」や「想起」のタイミングで MCH 神経を活性化した場合には記憶成績に変化は生じなかった。一方で、記憶を「保持」している期間に MCH 神経を活性化させることで記憶成績は低下した。さらに、光刺激による記憶成績低下は、海馬の MCH 神経軸索末端を活性化した場合においても同様に生じたことから、MCH 神経が海馬に作用して忘却を誘導することが確認された。脳スライスでの電気生理学的検証においては、海馬における MCH 神経軸索末端の活性化に伴う海馬錐体細胞の活動抑制が観察された。
 リアルタイム睡眠ステージ判定プログラム下での光照射による MCH 神経活動抑制において、マウスごとの判定結果をオフライン脳波解析結果と比較したところ 85~ 95%の精度を保っていた。記憶行動試験の結果、覚醒時やノンレム睡眠時の MCH 神経活動抑制は記憶成績に影響を及ぼさなかったのに対し、レム睡眠時の MCH 神経活動抑制のみが記憶成績を向上させた(図 3)。睡眠の質を示す脳波成分はいずれのステージでの MCH 神経抑制によっても変化は起こらず、レム、ノンレム睡眠ともに影響を受けていなかった。

【考察】
 記憶制御は固定と忘却の両方によってなされるが、これまでの研究の多くは固定のプロセスに着目したものである。レム睡眠中に記憶固定に働く神経回路として内側中隔の GABA 作動性神経が既に報告されているが、忘却に働く神経回路を明らかにしたのは本研究が初めてである。臨床心理学的な研究においては、レム睡眠選択的な断眠が記憶成績を「低下させる/変化を及ぼさない/向上させる」、と相反する結果が報告されており結論が出ていない。従って、レム睡眠中には記憶固定と忘却の両方の神経回路が存在する可能性があり、本研究が忘却に働く神経回路を特定できたことはレム睡眠と記憶の関係性の全体像を解き明かす上で大きな意義を持つと考えられる。さらに今後、人間にも特定のタイミング下での MCH 神経操作が応用できれば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といった記憶を消去できない疾病の治療法を切り開く可能性が期待できる。

【結語】
 MCH 神経は海馬に作用して忘却の働きを有することが明らかになった。覚醒時活動型とレム睡眠時活動型に分類される MCH 神経のうち、忘却を引き起こすのはレム睡眠時活動型の MCH 神経であった。これまで報告のなかったレム睡眠中に忘却を誘導する神経回路として、MCH 神経の機能が明らかとなった。

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