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大学・研究所にある論文を検索できる 「放射線治療を受けている頭頸部がん患者の口腔カンジダ症発症予防に対するミコナゾール経口パッチの効果について:唾液中のカンジダ菌を定量化した予備的研究の結果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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放射線治療を受けている頭頸部がん患者の口腔カンジダ症発症予防に対するミコナゾール経口パッチの効果について:唾液中のカンジダ菌を定量化した予備的研究の結果

船原, 隆一郎 神戸大学

2022.03.25

概要

頭頸部がんの治療は外科的な手術が主とされているが,術後療法として,部位によっては根治的な治療として,放射線療法(RT)が選択されることが多くなっている.RT は,単独またはシスプラチンなどの抗がん剤(CRT),セツキシマブなどの分子標的薬(BRT)と組み合わせて投与され,近年では強度変調放射線治療(IMRT)が広く用いられるようになり,照射野を制御することで有害事象を低減する試みがなされている.

しかしながら頭頚部への RT 中に味覚障害や顎骨壊死など様々な有害事象が発生することは少なくない.口腔が含まれる RT では,口腔粘膜炎はほぼ必発であり口腔粘膜炎が重症化すると,患者の QOL を低下させるだけでなく RT が完了しないこともあり,RT の中断は治療成績の低下につながる可能性があ る.しかしながら RT 中の口腔粘膜炎を予防する方法は現在確立されておら ず,非ステロイド性抗炎症薬やオピオイドの投与,局所麻酔薬によるうがいなどの対症療法が一般的に行われている.

Lalla らによれば,RT や化学療法は口腔粘膜に潰瘍を生じさせ、これが局所的な細菌感染や炎症性サイトカインの産生と結びついて口腔粘膜炎を増悪させるため,粘膜炎の悪化を抑制するためには粘膜の潰瘍部に抗菌性軟膏を塗布して局所感染を予防し,ステロイド軟膏を塗布してサイトカインの産生を抑制する必要があると報告している.近年,抗がん剤投与時の口腔粘膜炎治療薬としてステロイド配合の洗口液や軟膏の有効性が示されているが,一般的に口腔カンジダ症が発症するとステロイド軟膏の塗布は中止されるため,RT 中にステロイド外用剤を使用した報告はほとんどない.これらのことからステロイド軟膏の投与を継続するためには,口腔カンジダ症の発症を予防することが重要であると考えられる.

口腔カンジダ症の外用薬にはミコナゾールの内服ゲルやアムホテリシン B のシロップなどがあるが,これらの薬剤は有効成分を維持するために 1 日の投与回数が多く(4~5 回),口腔内での不快感があると報告がある.最近,日本で口腔内用ミコナゾール貼付剤が開発されたが,この貼付剤は全身適用薬に比べ投与量が少ないため安全性が高く,服薬コンプライアンスに優れたパッチであ り,RT 中の口腔カンジダ症の予防薬として使用できないかと考えた.本研究の目的は,RT 施行中の頭頸部がん患者に対してミコナゾール経口パッチを貼付することで唾液中の Candida albicans が減少し,RT 中の口腔カンジダ症の発症が抑制されるかどうかを検討することである.

対象は、2018 年 8 月から 2021 年 2 月までに長崎大学病院にてRT を受けた頭頸部がん患者である.基準は以下の通りで,1)口腔内が照射野に含まれる, 2)年齢≧20 歳,3)総照射量≧60Gy とした.

患者を介入群と対照群に分け,対照群はミコナゾール貼付剤が使用可能になった 2019 年 2 月以前の患者 16 名,介入群には 2019 年 2 月以降の患者 12 名とした.28 名のうち 22 名が男性,6 名が女性で,平均年齢は 62.5 歳であった.原発部位は口腔が 15 例,中咽頭が 13 例であった.CRT を併用した患者は 20名,BRT を併用した患者は 2 名で,6 名は RT 単独であった.すべての患者が 60Gy 以上の RT を受け,平均 64.3Gy であった.

両群の患者は RT 期間中,週 1~2 回歯科医師と歯科衛生士による口腔内の検査とケアを行った.対照群には口腔ケアのみを行い,介入群にはグレード 2 の口腔粘膜炎出現後にミコナゾール剤(Orabi®, miconazole 50 mg 錠)を貼付した.このパッチは 1 日 1 回計 14 日間犬歯窩付近の粘膜に貼付した.

唾液サンプルは,RT 前と 30Gy と 60Gy の照射時に採取し,唾液採取当日は口腔ケアを行わなかった.唾液サンプル中の総細菌数および C. albicans 数は,リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により解析し両群間の比較を行った.

年齢,性別,原発巣,抗がん剤・分子標的薬の併用,RT の方法(3D-CRT / IMRT),白血球数,リンパ球数,照射前および 30Gy・60Gy 照射時の血清アルブミン,RT 総量,デキサメタゾン軟膏使用の有無,義歯の使用の有無,唾液量,唾液の pH,口腔粘膜炎のグレードおよび口腔カンジタ症発症の有無などを検討した.口腔粘膜炎の重症度は,Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)バージョン 5.0 に従って分類した.口腔カンジダ症の診断は,C. albicans の検出ではなく白色病変の出現などの臨床所見で行った.

介入群と対照群の唾液中の総菌数および C. albicans の対数を算出し,2 群間の差は Fisher の正確検定,一元配置分散分析で解析した.各群の 30 Gy と 60 Gy の変化は,paired t-test で解析した.治療群と口腔カンジダ症発症の関係は Kaplan-Meier 法で示し,log rank 検定により解析した.口腔カンジダ症の発症に関連する因子の多変量解析は,口腔カンジダ症の患者数が少ないため実施できなかった.すべての解析において両側 p 値<0.05 は統計的に有意であるとした.

ミコナゾールパッチの貼付は介入群の 20Gy から 48Gy の照射間に開始された.12 例中 11 例では 30Gy 前に開始し 60Gy 前に終了し,1 例は 48Gy と 70Gy の間に貼付された.

細菌数は個人差が大きいため,RT 中の細菌数の変化は,ベースライン値を 1.0とした変化率で表した.ベースライン時の総細菌数および C. albicans 数の対数は対照群及び介入群でそれぞれ 4.88-8.76(平均 6.73±0.894)および 0.382- 6.373(平均 3.10±1.33)であった.各群における 30Gy および 60Gy での総細菌数の変化は対照群及び介入群のいずれにおいてもベースライン時と差がなかった.さらに両群間での総菌数の変化にも有意差はなかった.

一方 C. albicans 数は,対照群で 30 Gy 照射時に 1.54 倍と有意に増加した(p=0.022).また 60Gy 照射時は 1.62 倍に増加したが有意差はみとめなかった(p=0.100).しかしながら介入群では,30Gy と 60Gy でのC. albicans は RT 前より増加しなかった.また 30Gy では対照群と介入群で C. albicans の量に有意差があった(p=0.003).

対照群では 10-50Gy で 16 人中 6 人(37.5%)に口腔カンジダ症が発生した(中央値 35Gy).一方介入群では,50Gy で 1 名(8.3%)のみが口腔カンジダ症を発症した.ただしこの患者は 26-44Gy でミコナゾール経口パッチを貼付されており,パッチ貼付後に口腔カンジダ症が発生した.以上のことからミコナゾール経口貼付剤を 14 日間予防投与することにより,RT 中の口腔カンジダ症発症リスクを低減できることが示唆されたが,患者数が少ないためか有意な結果ではなかった(p=0.072).

本研究では,ミコナゾール経口貼付剤の予防的使用は口腔癌または中咽頭癌患者の RT 中の口腔カンジダ症のリスク低減に有効であり,RT による口腔粘膜炎に対するステロイド軟膏塗布の継続につながることが示唆された.

また本研究において RT は唾液の pH や唾液中の総菌数には影響を及ぼさないが C. albicans 数は有意に増加することがわかった.

RT 中に口腔カンジダ症が頻発するのは,治療中の局所および全身免疫力の低下に加え,口腔内の C. albicans の量が増加するためであるが,ミコナゾールパッチを貼付された患者では RT 中の C. albicans の増加が抑制されたため,口腔カンジダ症の発症も抑制されたものと考えられた.

しかしながら本研究では少数の単一施設の患者に基づいており,そのほとんどが IMRT を受けていたため,結果を一般化できるかどうかは不明である.また,ミコナゾール経口貼付剤の投与期間が 14 日間と短いため,投与終了後にカンジダ症を発症した患者が 1 名おり,投与期間が不十分であった可能性がある.

しかし,ミコナゾール貼付剤の予防投与により,RT 中の唾液中C. albicans の増加および口腔カンジダ症の発症を予防できることは明らかであり,患者は RT 中の口腔カンジダ症の不快症状を回避できるだけでなく,口腔粘膜炎に対するステロイド軟膏を継続使用でき,口腔粘膜炎の悪化が抑制される可能性があると考えられる.今後,大規模な比較試験により,ミコナゾール経口貼付剤の有効性を検証していきたい.

本研究ではミコナゾール口腔用パッチの予防的使用は,頭頸部 RT 中の唾液中の C. albicans count の増殖抑制に有効であること,さらに RT 中の口腔内カンジダ症予防につながる可能性が示唆された.

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