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超音波を用いた高分解能計測による左室心筋伸縮伝播の可視化に関する研究

黒川 貴史 東北大学

2021.03.25

概要

1.1 研究背景
わが国では毎年 20 万人以上が心疾患で死亡しており,その死因別死亡率は悪性新生物に次いで 2 番目に多く,また心疾患のうち心不全による死亡数が最多である 1).現在高齢化率が 27.7%と 3.6 人に 1 人が 65 歳以上の超高齢化社会であり,今後心不全に罹患する患者は更に増加し 2030 年には心不全患者数が 130 万人以上になると考えられている 2).

心不全とは単一疾患ではなく,心臓ポンプ機能不全であるため Fig. 1.1 に示すように様々な要因により起こりうる.いずれの場合においても迅速かつ適切な評価を行い診断および治療へと結び付けていくことが必須である.

一方,心臓ポンプ機能を評価するためには心筋線維の機械的な伸縮特性および相互的な関連性を評価する必要があるが,Brutsaert ら 3),4)によると心臓の機械的行動には不均一性が存在し,その不均一性が最終的に均整のとれた機能を生じさせている.すなわち,心筋の伸縮そのものに不均一性が存在するとされており,局所心筋の伸縮性を評価することが心臓全体のポンプ機能を評価することにつながる.

局所心筋の伸縮性に関わる研究は 1970 年代頃から始まり,in vitro の方法としては Fabiato らによる摘出した心筋線維を用いた心筋線維の収縮と Ca2+の関与に関する報告 5)や Ingels らによる心筋に付与したマーカーの挙動から心筋壁の変形を力学的に解析した報告 6)が存在している.しかしこれらの方法は摘出した心筋もしくは心筋線維に関する研究であり,大気圧下での評価を行っている.そのため陰圧に保たれている胸腔内の心筋についての解釈と同一にすることはできない.また in vivo の方法としては局所心筋伸縮性に加え心臓ポンプ機能の評価法とし て Fig. 1.2 に示すように超音波診断法をはじめ心臓カテーテル法,多列 CT(Multi Detector Computer Tomography : MDCT)を用いた負荷 CT7)や遅延造影を用いた心 筋バイアビリティ評価 8),心臓 MRI を用いた tagging 法による心筋の求心性移動お よび局所壁肥厚率の評価 9)や T2 強調画像による心筋組織評価 10),核医学検査によ る心筋血流イメージング(Myocardial Perfusion Imaging)を用いた心筋障害部 位の検出やバイアビリティ評価 11)などが用いられている.各種評価法とも様々な 長所・短所を持ち合わせているが,臨床的に広く用いられている.

この中でも特に超音波診断法はコストが低くかつ非侵襲的な検査であることから繰り返し検査を行うことが可能であり臨床現場における重要性は極めて高い.超音波診断法による従来の心筋伸縮性の評価には M モード法や組織ドプライメージング法を用いた心筋の運動速度計測 12),13),および近年ではスペックルトラッキングを用いた global longitudinal strain の評価 14)など多くの評価法が用いられている.しかしこれらの関心領域は mm 単位に設定されているため,複数の筋束による心筋伸縮性の評価を行うことは可能であるが,筋線維レベルにおける詳細な心筋伸縮性の評価は困難である.また組織ドプライメージング法により 200 Hz の時間分解能を用いた評価を行った報告がある 15)が,心筋内の刺激伝導は左右の脚からプルキンエ線維において 2~4 m/s,左室固有心筋において 0.3~1 m/s と極めて高速であり 16),心筋伸縮応答はこの電気刺激に対応して約 10 ms の間に生じているため伸縮の伝播過程を連続的に観察するには 500 Hz 以上の時間分解能が必要である 17).

したがって心臓のポンプ機能を詳細に評価するためには, 筋線維のレベルである 100~200 ㎛単位での空間分解能および心筋伸縮伝播過程を連続的に観察可能な 500 Hz 以上の時間分解能をもって心筋伸縮特性の評価を行う必要性があり,その実用的な方法を確立させることにより臨床上有用な評価法となる.

1.2 研究目的
心筋組織の伸縮特性を評価するためには,心筋線維の走行に沿った方向の長さに対する変化量を測定しなければならない.しかし,心筋組織は心筋細胞が直列に配列し,構造上融合細胞を形成している.したがって長さに対する変化量を測定するためにはサルコメアレベルで筋節間隔の測定が必要であるが,現在臨床現場で用いられている医療用診断装置では筋節間隔での測定は困難である.そこで今回,Sonnenblick らによる心筋の厚み変化はサルコメアレベルにおける長さ変化と強い相関を有するという報告 18)をもとに心筋線維の方向と直交する方向の厚み変化を測定することで伸縮性の評価を行うこととした.

本研究を遂行するにあたり時間的・空間的に高分解能な計測が必須である.そこで超音波診断装置を用い,超音波ビーム密度を減じたスパーススキャンを行うことで 500 Hz 以上の高フレームレートイメージングを実現させ心室中隔および左室心筋からの高時間分解能 RF 信号を取得した.取得した RF 信号に対して金井らによって開発された位相差トラッキング法 19)-21)を適用することで空間的高分解能に超音波ビーム軸上の心筋微小振動速度を計測し,ストレインレートが算出され高精度に局所の厚み変化が測定可能となる.現在臨床で超音波検査によりストレインおよびストレインレートを用いて左室収縮能評価を行う際には心尖部断面を用いた longitudinal 方向(心筋の接線方向)と transverse 方向(内向き方向)の評価を行い,短軸断面から circumferential 方向(円周方向)と radial 方向(放射線方向)の解析を行うことが可能であり,特に global longitudinal strain は左室心筋全体の長軸方向の収縮指標であることから従来の EF より鋭敏に左室収縮能を評価できるという報告 22)のもと広く用いられつつある.一方,心筋の収縮に最も大きく寄与するのは厚み方向の変化であることから本研究では超音波ビーム軸上の厚み変化をもって左室の伸縮性を評価するためにスパーススキャンおよび位相差トラッキング法から導き出された超音波ビーム軸上ストレインレート(axial Strain Rate(aSR))を用いることとした.

本研究では左室心筋の伸縮特性および伸縮伝播様式を評価し,本法を新たな心機能評価法として実用性のある臨床診断技術とすることを目的として以下の検討を行った.

(1) 位相差トラッキング法を用いて導き出された局所の心筋内 aSR 分布を解析することによる局所心筋伸縮性と左室全体のポンプ機能との関わりにおける検証.
(2) 隣接する心筋組織間における心筋内 aSR 分布を解析することによる伸縮伝播様式の検証.
(3) 健常例と疾患例における心筋内 aSR 分布と伸縮伝播様式を比較することによる臨床的実用性の検証.

1.3 本論文の構成
本論文の以下の構成は次のようになっている。

第 2 章では,本研究で使用するスパーススキャンによる高速イメージング法および位相差トラッキング法による aSR 算出の原理について述べる.

第 3 章では健常例群の左室長軸断面に対し同手法を用いることで左室心筋内 aSR 分布を導出し,短軸方向の厚み変化から心筋伸縮特性の評価および長軸方向における伸縮伝播様式の評価を行い、第 4 章では、多方向左室短軸断面から円周方向の伸縮伝播について評価することで本法の左室ポンプ機能評価手法としての有用性について評価を行う.

次いで第 5 章で病的症例群の左室長軸断面および多方向左室短軸断面から心筋伸縮特性および伸縮伝播様式を検討することにより健常例との比較を行い臨床実用性について評価を行う.

最後に、第 6 章で本研究の結論を述べる.

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参考文献

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