リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「新しい三次元心エコー法の左房解析への応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

新しい三次元心エコー法の左房解析への応用

倉岡, 彩子 筑波大学 DOI:10.15068/0002008034

2023.09.04

概要



波 大



博士(医学)学位論 文

新しい三次元心エコー法の
左房解析への応用

2022
筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科

倉岡

彩子

原典論文の再利用(Re-use)について

「この学位論文は Left atrial regional strain assessed by
novel

dedicated three-dimensional speckle

tracking

echocardiography.
Ayako Kuraoka, Tomoko Ishizu, Miho Sato, Miyako
Igarashi, Kimi Sato, Masayoshi Yamamoto, Tomoko
Machino-Ohtsuka, Masaki Ieda.
Journal of Cardiology 2021; 78: 517–523 (PMID: 34334266)
doi: 10.1016/j.jjcc.2021.07.002.
の内容を Elsevier 社の規定に従って再利用している」

目次
第1章

背景 p.4

1-1 左房の構造と発生
1-2 左房機能
1-3 左房の構造的機能的異常評価の臨床的重要性
1-4 三次元心エコーによる左房評価
1-5 目的

第2章

左房三次元解析用ソフトウェアを用いた左房容積計測と部位別スト

レイン計測の有用性

p.10

2-1 方法
1) 研究デザイン
2) データ収集
3) 統計解析

2-2 結果
1) 患者背景
1

2) 左房容積
3)左房ストレイン
4) 左房容積係数によるサブグループ解析

第 3 章 考察 p.17
3-1 本研究結果の概略
3-2 左房容積計測
3-3 部位別左房ストレイン
3-4 本研究の限界

第 4 章 結論 p.21

第 5 章 図表 p.22

第 6 章 参考資料 p.34
6-1 謝辞
6-2 出典
2

6-3 引用文献
参考論文

3

第1章 背景
1-1 左房の構造と発生
左房は心臓構造の中では最も背面にあり、その後方には食道・椎体、前上
方には大動脈弁・上行大動脈が位置している。左房後壁には上下 2 対の肺静
脈が開口し、左側方に左心耳が存在する。
発生学的には肺原基内に形成される肺静脈が左房後壁に吸収されるため、
左房後壁の大半は吸収された共通肺静脈由来の組織で形成される。一方で左
心耳と左房前壁は原始心房由来の組織であり、心房中隔は一次中隔と二次中
隔により形成される 1。この発生学的特徴により左房組織の由来は部位により
異なっているが、その範囲には個人差が存在することも知られている 2。
左房壁の厚さは 3 ㎜程度で、心内膜下には数層の心房筋束が重なり、心外
膜側では心房筋は租となり脂肪組織を含む間質が広がる。

1-2 左房機能
左房機能は、左室収縮期に肺静脈からの還流血流を貯留するリザーバー機
能、左室拡張期に肺静脈から左房を経由し左室に血液が流入する導管機能、
それに引き続く心房収縮期に心房から心室へ血液を能動的に充満させるブー
4

スター機能に分けられる。
心時相からみると、左室収縮期には僧帽弁は閉鎖しており、この間の肺静
脈から左房への血液流入により左房容積は増大し左房圧は上昇する。左室の
弛緩により左室圧が下降し左房圧が凌駕すると僧帽弁が解放し、左房から左
室への血液流入が開始する。この時に肺静脈から左房に流入する血液は、左
室の拡張に伴い左房に貯留することなく左室へ流入するため、左房は導管の
ように働く。しだいに左室圧は充満した血液により上昇をはじめるため左房
から左室への流入血液は減少する。一方で肺静脈から左房への血液流入は継
続しており左房圧は上昇する。この後、心房の能動的収縮により左房に貯留
した血液は左室に押し込まれ左室への血液流入が終わる。
このように肺静脈と左室の中間にある左房の機能は両者の影響を受けるが、
中でも左室機能との関係が重要視されるようになり、日常臨床での左房機能
評価が推奨されている 3,4。

1-3 左房の構造的機能的異常評価の臨床的重要性
左房評価には左房拡大と左房機能に関する指標が用いられ、臨床的には心
房細動の再発、急性心筋梗塞や大動脈弁狭窄などの疾患群における独立した
5

予後予測因子であることが明らかになっている

。また、左室収縮低下をき

5-7

たす前段階にある左室拡張障害の病態において左房評価の重要性が極めて高
い 4。従来用いられていた指標であるパルスドプラ法による肺静脈血流、左室
流入血流速度波形の変化よりも左房拡大が先行するが、この容積変化には慢
性的な時間経過が関与する(図 1)。それよりもさらに早期に変化をきたす鋭
敏な指標としての左房ストレインが計測可能となり、有用性の報告が相次い
でいる。
二次元心エコーによる左房容積とストレイン計測の概要を述べる。
従来、左房の大きさは傍胸骨左室長軸像における左房の前後径で計測され
ていた。しかし左房と周囲構造との関係から必ずしも前後方向に拡大すると
は限らないため、二断面から左房容積を求める数式が複数提唱され、さらに
は体表面積で除した左房容積係数で示すことが一般的となっている。本邦で
の報告では、biplane modified Simpson 法を用いた最大左房容積係数の平均値
が男性では 24±7 ml/m2、女性では 25±8 ml/m2 とされており 8、34 ml/m2
以上を拡大とする報告が多い 4。これまでは最大左房容積での評価が主であっ
たが、最小左房容積も、直接的に左室圧を反映した指標として有用な可能性
もある 4。また、最大左房容積と最小左房容積の変化度である左房充満率(left
6

atrial emptying fraction :LAEF)も左房リザーバー機能を表す指標として用い
られる。
ストレインとは長さの変化率を意味する指標であり、物体の変形前の長さ
を L0、変形後の長さを L とすると(L-L0)/L0 で定義される。超音波検査で
はこの長さとは任意の 2 点間の距離である。超音波で得られる白黒模様のス
ペックルは移動しても同じパターンを維持するため、このスペックルを認識
するスペックルトラッキング法により任意の点を追跡し 2 点間の距離の変化
が計測される。この方法では常に動いている心臓であっても、全体の動きに
影響されることなく局所のストレインを計測することが可能である。より正
確な計測のためには、対象の変化による影響を小さくするために、記録時の
フレームレートを高くする必要がある。また心臓は三次元的な動きをするた
め、二次元での計測では追跡対象が観察面外へ移動する現象による影響が避
けられない。
ストレイン法は左室評価の指標として広く用いられており、対象とする変
化の方向により、長軸方向、円周方向、短軸方向ストレインが用いられる。中
でも長軸方向ストレインは、心収縮率が保たれているものの拡張障害が存在
する病態において、より早期に局所レベルの心筋異常を反映する。また、左
7

室長軸方向ストレインの低下は心血管複合イベントや死亡、心不全入院の予
測因子であることなども報告され、一般的に評価すべき指標となりつつある


9,10

左房におけるストレインは、左房の複雑な形態、壁の薄さなどにより正確
な計測が難しいとされていたが、近年のエコー技術の進歩により有用性や良
好な再現性の報告が相次いでいる

。また、当初は左室ストレイン用のソフ

11

トウェアを流用していたが、近年では左房用ソフトウェアも多く利用可能と
なっている。左房は壁の薄さから長軸方向ストレインのみが測定され、多く
の報告ではリザーバー機能を表す心室収縮期におけるストレインが用いられ
ている。健常成人における左房ストレインは 38.0-42.5%で、左室拡張末期圧
と良好な相関を示す

12,13

ことから、非侵襲的な左室拡張末期圧の評価に有用

な指標である。また、高血圧や糖尿病、心房細動など疾患毎の予後予測因子
としての報告も相次いでいる。さらに、前述のように、左房ストレインは左
房拡張をきたさない段階での左房機能低下の検出が可能とされ、左室拡張障
害の最早期指標として位置づけられつつある 4。

1-4 三次元心エコーによる左房評価
8

三次元心エコーでは、複雑な形態の心腔容積をより正確に計測可能となる。
特にストレイン法では、追跡対象が二次元の観察面外へ移動する現象の影響
を受けずに三次元で追跡ができるため、より正確に評価ができる。一方でこ
れまでは二次元心エコーに比べて時間・空間分解能が低いことが課題であっ
た。近年、三次元心エコー技術の進歩は目覚ましく、左室に対しては容積計
測のみならず三次元ストレインによる局所の壁運動異常やねじれ運動の評価
などが実用化されている。これらの技術は右室や左房などに応用されつつあ
り、左室よりも複雑な形態であるこれらの心腔ではさらに有用性が高いと考
えられる。
三次元心エコーでの左房容積計測は、コンピュータ断層撮影(CT)や磁気
共鳴画像(MRI)と良好な相関が示されている。一方で三次元ストレインは
左房用ソフトウェアもまだ少ないために左室用を用いた報告も多く、今後の
発展が期待される分野である。

1-5 目的
本研究では、左房三次元解析用ソフトウェアを用いた左房容積計測と部位
別ストレイン計測の有用性を解析することを目的とした.
9

第2章

左房三次元解析用ソフトウェアを用いた左房容積計測と部位別スト

レイン計測の有用性
2-1 方法
1) 研究デザイン
本研究は筑波大学附属病院で 2019 年 4 月から 2020 年 3 月までに心房細動
に対するカテーテルアブレーション前の検査として経胸壁心エコーと心臓造
影CTを施行した患者を対象とした。カテーテルアブレーションの治療歴が
ある症例、解析可能な経胸壁心エコー画像が取得できなかった症例、心エコ
ー検査時に非洞調律であった症例を除外した 50 例について、検査結果を後ろ
向きに収集,検討した。本研究は 1975 年ヘルシンキ宣言の倫理指針に準拠し
ており、臨床研究倫理審査委員会(当院倫理審査委員会承認番号 R01-117)
で承認された。また本研究は後ろ向き観察研究であり,患者からの同意はオ
プトアウト方式とした。

2) データ収集
生年月日,性別,身長,体重,体表面積,血圧を電子カルテから抽出した。
心エコー検査はキャノンメディカルシステムズ社製 Aplio i900 を用いて臨
10

床検査技師が行った。二次元心エコーは PST-30BX プローベ、三次元心エコ
ーは PST-30VX プローベを用いた。
二次元心エコーはアメリカ心エコー図学会ガイドラインに基づいて、拡張
末期左室径、左室収縮率、拡張末期左室後壁厚、拡張末期心室中隔厚、左室心
筋重量、左室流入血流波形、組織ドプラによる心基部中隔運動速度、弁逆流
の重症度を計測した 14。また、左室収縮末期における左房容積を Simpson 法
で求めた。
三次元心エコー画像は、心尖部四腔像を息止め下での 4 心拍フルボリュー
ムで取得した。画像解析はキャノンメディカルシステムズ社製 Vitrea v.8.3 を
用いてオフラインで行った。解析時の画像は四腔像・二腔像・短軸像が表示
され、四腔像・二腔像それぞれで僧帽弁付着部から反時計回りに左房壁を複
数個所でポイントした。ガイドラインに基づき

14

、左心耳と肺静脈は左房側

に含めないこととした。関心領域は 3 ㎜に設定されており、解析開始は心電
図 R 波を用いる方法を採用した 15。左房壁が正しく認識できていることが確
認できれば、自動的に三次元トラッキングによって全心周期における左房容
積の変化とストレインが算出される。(図 2)
左房容積は体表面積で除した左房容積係数として算出し、左室収縮末期で
11

の最大左房容積(LAVmax)係数について、再現性の検討として検者内・検者間
比較をおこなった。またトラッキングにより得られたR波を起点とした心周
期の 75%にあたるタイミングでの左房容積係数を、同タイミングで撮像した
心臓CTでの計測値と比較した。さらに、最小左房容積(LAVmin)、左房収縮
前容積(LAVpreA)を計測し、これらを用いて以下の左房機能に関する指標を
算出した。
Total emptying fraction(リザーバー機能):(LAVmax-LAVmin)/LAVmax
Expansion index(リザーバー機能):(LAVmax-LAVmin)/LAVmin
Passive emptying fraction(導管機能):(LAVmax-LAVpreA)/LAVmax
Active emptying fraction(ブースター機能):(LAVpreA-LAVmin)/LAVpreA
左房ストレインは長軸方向とし、リザーバー機能を反映するとされる左室
収縮期での数値を用いた。左房を 6 分画に分け、それぞれの部位ごとのスト
レインを算出した。分画は左房長軸方向の近位部 2/3 を中隔、下方、側方、
前方の 4 分画、遠位 1/3 を天井と後方の 2 分画とした。
(図 3)ストレイン値
は心周期における追従が良好であることを視覚的に確認でき、ストレインの
ピークが心周期の 15-70%内にあるものを採用した。
部位別ストレインと最大、最小左房容積係数、Total emptying fraction との
12

関連を検討し、さらに最大左房容積係数により対象を 3 群に分け、部位別ス
トレインの変化を検討した。
心臓造影 CT はキャノンメディカルシステムズ社製 Aquilion(320 列)を
用い、心電図同期下で R 波を起点とした心周期の 75%にあたるタイミングで
撮像した。左房容積の解析はキャノンメディカルシステムズ社製 Vitrea v.8.3
を用いてオフラインで行った。自動的な心腔同定のアルゴリズムにより左房
のみを描出したのちに、用手的に左心耳と肺静脈を除いて左房容積を算出し
た。
(図 3)解析は盲検的に行い、同時相での三次元心エコーによる左房容積
係数と比較した。
カテーテルアブレーション時に心内膜の電位波高を測定し、0.5 mV 未満の
低電位部位が左房面積の 3%以上ある場合を低電位部位ありとし、左房拡大
との関係を検討した。

3) 統計解析
カテゴリ変数は数値やパーセンテージで、連続変数は平均 ± 標準偏差で
示した。計測方法による比較は Brand-Altman 解析を行い、検者間・検者内比
較は級内相関係数を算出した。2 変数には線形回帰分析、3 群間の比較は Steel13

Dwass 分析を用いた。統計学的有意性の閾値は p < 0.05 とした。解析はエク
セル統計(Microsoft Office)と SPSS 22.0(IBM Inc. Chicago, IL, USA)を
用いた。

2-2 結果
1) 患者背景
表 1 に患者の臨床背景を、表 2 に二次元心エコー結果を示す。対象 50 例の
平均年齢は 64.3 歳、男性が 62%であった。二次元心エコー指標の平均値から
は、左室収縮は保たれているものの左室拡張障害の存在が示唆されたが、全
体としては正常から高度異常まで多様な患者背景を持つ対象群であった。
中等度以上の僧帽弁逆流 4 例、大動脈弁逆流 2 例、三尖弁逆流 3 例を含ん
でいた。

2) 左房容積
三次元心エコーでの最大左房容積係数は 40.0±17.3 ml/m2、最小左房容積
係数 27.2±15.5 ml/m2、心房収縮前左房容積係数 33.9±16.6 ml/m2 であった。
(表 3) 最大左房容積係数における再現性評価では、検者内と検者間での級内
14

相関係数がそれぞれ 0.89(0.79-0.93)、0.87(0.56-0.96)と良好であった。R
波を起点とした心周期 75%タイミングでの左房容積係数は、三次元心エコー
で 32.3±16.1 ml/m2、心臓 CT で 42.7±17.1 ml/m2 であり、三次元心エコー
のほうが小さく計測されたが、両者の相関は良好(r = 0.78,p < 0.0001)であ
った。(図 4)

3) 左房ストレイン
三次元心エコーによる部位別の左房ストレインを表 4 に示す。評価が可能
であった割合は左房天井で 78%、後方で 84%と低く、最背側の位置であるこ
とと収縮方向が長軸方向ストレインでは評価が難しいことが考えられたため、
この 2 分画を除く 4 分画での検討とした。
部位別ストレインと最大左房容積係数、最小左房容積係数、Total emptying
fraction との関係を図 5 に示す。側方ストレインは最大左房容積係数と、側方
と下方ストレインは最小左房容積係数と負の相関がみられた。4 分画ともに
Total emptying fraction と正の相関がみられたが、側方と下方でより関係が強
かった。

15

4)左房容積係数によるサブグループ解析
最大左房容積係数が小さい順に、対象を均等に 3 群に割り付けた。各群の
患者背景を表 5 に示す。それぞれの最大左房容積係数は 23.9±5.5 ml/m2、
36.4±4.7 ml/m2、59.4±13.0 ml/m2 であった。各群の平均値は左房拡大なし
(1st tertile)、軽度拡大(2nd tertile)、中等度~高度拡大(3rd tertile)にあたる
計測値であった。中等度~高度拡大群では女性が多く含まれており体表面積
が小さく、心内電位で低電位ありとなった症例が多かった。また、左房リザ
ーバー機能の指標である emptying fraction と expansion index が低下してい
た。部位別ストレインでは中等度~高度拡大群で側方ストレインが他の 2 群
よりも低下していた。(図 6) 各群における部位別ストレインをみると、拡大
なし群では下方と側方ストレインが前方より有意に大きかったのに対し、拡
大がすすむと下方と側方ストレインが低下して部位別の差が消失した。
(図 7)

16

第3章 考察
3-1 本研究結果の概略
カテーテルアブレーション予定患者 50 人から、二次元ならびに三次元心エ
コーと心臓 CT のデータを後ろ向きに収集した。その結果、第一に三次元心
エコーによる左房容積計測は心臓 CT での計測値より過少評価するものの良
好な相関が得られた。第二に左房の部位別ストレイン計測では、左房拡大が
ない群では側方と下方ストレインが大きいが、左房拡大とともに両者が低下
し部位別の差が消失する結果であった。
本研究は、今回使用した左房解析ソフトを用いた三次元心エコーによる左
房部位別ストレインに関する最初の研究である.

3-2 左房容積計測
三次元心エコーを用いた左房容積計測と CT や MRI など他検査との比較は
これまでにも多数報告されている。多くは三次元心エコーのほうが過小評価
する結果であり、その差は左室容積係数として 8.8~25 ml 程度と本研究と同
等であった 16,17。三次元心エコーで過小評価する理由としては、心尖部四腔像
で左房は最も遠位に位置しており超音波線の減衰により画像精度が低下する
17

ことや、超音波画像におけるゲイン依存性の辺縁認識の特徴によることが挙
げられる 18,19。
一般的な三次元心エコーでの左房容積計測では、二次元心断面で左房の最
大容積と最小容積が正しく認識されていることを検者が確認してからトラッ
キングを行うため、このタイミングでは検者による視覚的評価と修正がなさ
れている。一方、本研究で CT との比較に用いた心周期 75%タイミングでの
左房容積はトラッキングのみで得られた数値である。このトラッキングによ
る計測値と CT 計測値との比較で既報と同等の再現性が得られたことは、正
確なトラッキングが行われていることを示している。

3-3 部位別左房ストレイン
ヨーロッパ心臓病学会・アメリカ心エコー図学会からの提言では、左房ス
トレインは二次元心エコーによる心尖部四腔像で長軸方向を計測するとされ
ている 15。メタアナリシスによる左房ストレインの正常値は 39%である 20。
近年では左房ストレインの低下が左房拡大よりも先行することから、より早
期の評価指標として重要視されつつある

。さらに三次元心エコーの普及に

21

伴い、左房への応用も目的とした左房用の解析ソフトウェアの開発が進んで
18

おり、本研究では新しい解析ソフトウェアを用いた三次元心ストレイン計測
を行った。
本研究での部位別ストレインでは、左房拡大がない群で側方と下方ストレ
インが大きく、拡大とともに低下する結果であった。左房の部位によるスト
レインの違いは二次元心エコーを用いた研究で報告されており、健康人で下
方弁輪部領域でのストレインが大きかった

22

。このような部位別ストレイン

の差異の要因としては、左房前方には上行大動脈があるため動きの制限や画
像的な評価の難しさがあり、中隔は右房と共有されているため、側方や下方
に左房拡大の影響が出やすい可能性がある。また、発生学的に左房は原始心
房と肺静脈由来組織で構成されており、これらの組織による違いも興味深い。
左房ストレインの応用としては、心房細動症例での心内低電位部位とストレ
イン低下の関係を示した報告や
の研究などがあり

23

、遅延造影による繊維化との関連について

、今後さらなる知見が得られることが期待される指標で

24

ある。
今回の検討では左房を 6 分画として検討した。各ガイドラインなどでは左
房の分画はまだ定義されていないが、本分画はカテーテルアブレーション時
に多く用いられる表現と一致しており、実用的であると考えた。今後左房の
19

部位別ストレイン解析が一般的になるには、部位の定義が望まれる。今回は
6 分画のうち最後方に位置する天井と後方は十分に正確な計測ができなかっ
たため検討から除外したが、トラッキング技術がさらに改善することに期待
したい。

3-4 本研究の限界
この研究にはいくつかの限界がある.第一に,本研究は心房細動に対する
アブレーション予定患者を対象にしており、正常コントロール群が存在しな
い。そのため、左房拡大がない群の左房ストレインを正常群と比較できてお
らず、左房ストレインの左房容積に比した早期有用性は示せていない。また、
弁膜症の有無によるサブ解析や、疾患による比較ができていないため、左房
ストレインの変化が左房拡大によるものか心房細動によるものかは検討がで
きていない。第二に,二次元心エコーによるストレイン解析が可能であった
症例が少なく、ストレイン解析に関する二次元と三次元心エコーの比較がで
きなかった。第三に、心内電位測定による低電位部位の局在性が不明である
ため、部位別ストレインとの一致が評価できなかった。

20

第 4 章 結論
左房三次元解析用ソフトウェアを用いた左房容積計測と部位別ストレイン
解析を行った。三次元心エコーで計測した左房容積は CT 計測値と良好な相
関があり、部位別ストレイン解析は左房拡大にともなう側方・下方ストレイ
ンの低下があり、部位別の差が示された。部位別ストレインを用いたさらな
る研究により、左房機能の変化と機序を評価できる可能性や、より鋭敏で早
期評価ができる指標が得られる可能性がある。 ...

この論文で使われている画像

参考文献

1. 日本小児循環器学会:小児・成育循環器学. 診断と治療社. 2018.

2. 井川

修:臨床心臓構造学. 医学書院. 2011年.

3. Thomas L, Muraru D, Popescu BA, et al. Evaluation of left atrial size and function:

34

relevance for clinical practice. J Am Soc Echocardiogr. 33, 934-952 (2020).

4. Tomas L, Marwick TH, Popescu BA, et al. Left atrial structure and function, and

left ventricular diastolic dysfunction. J Am Coll Cardiol. 73, 1961-1977 (2019).

5. Yuda, S et al: Clinical implications of left atrial function assessed by speckle

tracking echocardiography. J Echocardiogr. 14, 104-112 (2016).

6. Ersboll, M et al: The prognostic value of left atrial peak reservoir strain in acute

myocardial infarction is dependent on left ventricular longitudinal function and left

atrial size. Circ Cardiovasc Imaging. 6, 26-33 (2013).

7. Galli, E et al: Prognostic value of left atrial reservoir function in patients with severe

aortic stenosis: a 2D speckle-tracking echocardiographic study. Eur Heart J

Cardiovasc Imaging. 17, 533-541 (2016).

8. Daimon, M et al: normal values of echocardiographic parameters and their relation

with age in a healthy Japanese population : The JAMP study. Circ J. 11, 1859-1866

(2008).

9. Shah. AM et al: Prognostic importance of impaired systolic function in heart failure

with preserved ejection fraction and the impact of spironolactone. Circulation. 132,

35

402-414 (2015).

10. Park, JJ et al: Global longitudinal strain to predict mortality in patients with acute

heart failure. J Am Coll Cardiol. 71, 1947-1957 (2018).

11. Rimbas, RC et al: Sources of variation in assessing left atrial functions by 2D

speckle-tracking echocardiography. Heart Vessels. 31, 370-381 (2016).

12. Pathan, F et al: Normal range of left atrial strain by speckle-tracking

echocardiography: a systematic review and meta-analysis. J Am Soc Echocardiogr.

30, 59-70 (2017).

13. Sugimoto, T et al: Echocardiographic reference ranges for normal left atrial function

parameters: result from the EACVI NORRE study. Eur Heart J Cardiovasc Imaging.

19, 630-638 (2018).

14. Lang RM, Badano LP, Mor-Avi V, et al. Recommendations for cardiac chamber

quantification by echocardiography in adults: an update from the American Society

of Echocardiography and the European Association of Cardiovascular Imaging. Eur

Heart J Cardiovasc Imaging. 16, 233-270 (2015).

15. Rohner A, Brinkert M, Kawel N, et al. Functional assessment of the left atrium by

36

real-time three-dimensional echocardiography using a novel dedicated analysis tool;

initial validation studies in comparison with computed tomography. Eur J

Echocardiogr. 12, 497-505 (2011).

16. Isla LP, Feltes G, Moreno J, et al. Quantification of left atrial volumes using threedimensional wall motion tracking echocardiographic technology: comparison with

cardiac magnetic resonance. Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 15, 793-799 (2014).

17. Artang R, Migrino RQ, Harmann L, et al. Left atrial volume measurement with

automated border detection by 3-dimensional echocardiography: comparison with

magnetic resonance imaging. Cardiovasc Ultrasound. 7, 16 (2009).

18. Keller AM, Gopal AS, King DL, et al. Left and right atrial volume by freehand threedimensional echocardiography: in vivo validation using magnetic resonance imaging.

Eur J Echocardiogr. 1, 55-65 (2000).

19. Mor-Avi V, Yodwut C, Jenkins C, et al. Real-time 3D echocardiographic

quantification of left atrial volume. J Am Coll Cardiol Img. 5, 769-777 (2012).

20. Pathan F, D’Elia N, Nolan MT, et al. Normal ranges of left atrial strain by speckletracking echocardiography: a systematic review and meta-analysis. J Am Soc

37

Echocardiogr. 30, 59-70 (2017).

21. Santos A, Roca GQ, Claggett B, et al. The prognostic relevance of left atrial

dysfunction in heart failure with preserved ejection fraction. Circ Heart Fail. 9,

e002763 (2016).

22. Vianne-Pinton R, Moreno CA. Baxter CM, et al. Two-dimensional speckle-tracking

echocardiography of the left atrium: feasibility and regional contraction and

relaxation differences in normal subjects. J Am Soc Echocardiogr. 22, 299-305

(2009).

23. Chen Y, Shen X, Wang W, et al. Assessment of left atrial remodeling in paroxysmal

atrial fibrillation with speckle tracking echocardiography: a study with an

electrophysiological mapping system. Int J Cardiovasc Imaging. 35, 451-459 (2019).

24. Habibi M, Lima JC, Khurram IM, et al. Association of left atrial function and left

atrial enhancement in patients with atrial fibrillation: cardiac magnetic resonance

study. Circ Cardiovasc Imaging. 8, e002769 (2015).

38

...

参考文献をもっと見る

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る