Myocardial viability as shown by left ventricular lead pacing threshold and improved dyssynchrony by QRS narrowing predicts the response to cardiac resynchronization therapy
概要
【緒言】
心室再同期療法(CRT)は、心電図にてQRS幅の延長を伴う左室駆出率が低下した心不全症例において確立した治療法である。CRTは両室ペーシングを行うことで、機械的および電気的非同期収縮の改善を図り、左室駆出率や血行動態が改善されリバースリモデリングを見込むことができる。しかしながら、すべての症例に対してCRTは効果が期待できるものではなく、治療効果が得られない症例もある。これまでに、治療効果を予測するため様々な指標が提唱されてきたが、いずれも決定的なものとはなっていない。一般的にCRTへの反応を予測するためには生存心筋の存在と非同期収縮の改善が重要であると言われている。心筋シンチグラム検査やMRI検査では生存心筋と心筋の瘢痕化を評価することができるが、全ての症例に対して上記のような侵襲的検査を行うことは困難である。今回我々は術中に施行可能である心電図のQRS幅短縮による非同期収縮の改善評価と、左室ペーシングリード閾値(LVPT)による生存心筋評価に着目し、これらの指標を用いてCRT治療後の反応予測について検討を行った。
【方法】
2009年1月から2014年12月までに名古屋大学医学部附属病院においてCRTが移植された93人について後ろ向きに調査を行った。CRT移植の適応は日本循環器学会のガイドラインに従い、至適内服状況下においてNYHA分類Ⅱ-Ⅲ以上の心不全症例で、QRS幅が120msec以上かつ左室駆出率が35% 以下、3ヶ月以内に血行再建療法が行われていないものとした。ペースメーカや植え込み型除細動器(ICD)からのアップグレード症例も含めた。すべての症例において術前後の12誘導心電図のQRS幅短縮による非同期収縮の改善と、左室ペーシングリード閾値(LVPT)による生存心筋の評価を行った。移植後1, 3, 6ヶ月後に、外来にて12誘導心電図、経胸壁心臓超音波検査、LVPTについて評価を行った。
心電図は盲検化された少なくとも2名の専門家によって評価を行った。経胸壁心臓超音波検査は米国心エコー図学会の測定項目に従った。非同期収縮の指標は組織ドップラーや2Dストレイン法を用いて評価した。CRTレスポンダーの定義は、植え込み6か月後の経胸壁心臓超音波検査における左室収縮末期容積の15% 以上の改善とした。CRT移植は胸郭外穿刺にてリードを挿入し、冠静脈造影を行い、冠静脈肢で側壁もしくは後壁側の中部を左室リードの留置目標部位とした。横隔神経刺激や出力閾値が高値となる部位は避けた。右心房リードは右心耳に固定し、右室リードは右心室中位中隔の、左室リードの対側となる位置を目標とした。最終的に2方向(第一斜位、第二斜位)の透視画像にてリード位置の確認を行った。左室リードの波高値、ペーシング閾値、抵抗値をそれぞれ測定し、LVPTはバイポーラのパルス幅0.4–0.5msecとして、5.0Vより出力を開始し、ペーシングによる心筋捕捉が出来なくなるまで徐々に下げて閾値を測定した。術最後の測定値を以ってLVPTとした。
【結果】
全症例の術前の背景因子と検査結果をTable 1に示す。62人(67% )がレスポンダーとなった。レスポンダー群と非レスポンダー群で背景因子や検査所見の比較を行うと、CRT移植前のQRS幅、移植後のQRS幅の短縮、左房径、左心室中隔と後壁の壁運動遅延(SPWMD)、左室拡張末期径、短軸(radial)ストレイン値、LVPTにおいて両群間で有意差を認めた(Table 2)。
多変量解析の結果では、QRS幅の短縮(odds ratio[OR], 1.03; 95% confidence interval[CI], 1.01–1.05; p=0.005)と、LVPT(OR, 0.42; 95% CI, 0.22–0.82; p=0.011)が、独立したCRTレスポンダーの予測因子となった(Table 3)。
それぞれの予測因子についてROC曲線からカットオフ値を算出すると、QRS幅の短縮は22.5msec、LVPTは1.55Vであった(Figure 1, 2)。
QRS幅の22.5msec以上の短縮とLVPTが1.55V以下の両方を満たす群、どちらか片方のみを満たす群、どちらも満たさない群にグループ分けを行うと、CRTレスポンダー率はそれぞれ91% 、61% 、25% であり、グループ間で有意な差を認めた(p<0.001)(Figure 3)。
【考察】
重症心不全においては、約30% の症例でQRS幅が120msec以上に延長しており、左室内・心室間の伝導遅延が生じ非同期収縮を引き起こす。CRT移植後にQRS幅の短縮が20msec以上得られるものにおいては、非同期収縮が改善されてリバースリモデリングを認め、レスポンダーとなるという過去の報告がある。本研究においてもレスポンダーへのQRS幅改善のカットオフ値は22.5msecとなり、過去に報告されたQRS幅の改善度と同様な結果となった。
左室リードの刺激部位における心筋の瘢痕化は、伝導遅延や心筋の不十分な興奮が生じ、結果として効率的な心収縮が行えなくなるためリバースリモデリングが期待できない。過去の報告では、LVPT1.8V以上であった場合はリバースリモデリングが乏しかったという報告があるが、本研究で得られたLVPTのカットオフ値は1.55Vであり、やや低い値であった。これについては、本研究においては心不全の原因として非虚血性心疾患の症例が多かった為と考えられる。
今回、それぞれ1つの予測因子(QRS幅短縮もしくはLVPT低値)のみではレスポンダーの予測は60% 程度であり、通常のCRT後の治療反応の割合とほぼ変わらない結果であった。2つの予測因子を合わせるとレスポンダーの予測は90% 程度となったことから、CRT移植による心機能の改善には電気的な非同期収縮の改善だけでなく、生存心筋の存在も重要であると考えられる。今回、周術期に簡便に取得できる指標を用いて、心室非同期収縮の改善と生存心筋の評価を行い、両因子が共にCRTの良好な治療反応に不可欠な要素であることが確認された。
【結語】
生存心筋の存在と電気的な非同期の改善は、CRT治療後の良好な反応を得る為の重要な因子であることが確認された。今回提唱した心電図でのQRS幅短縮と左室リード閾値測定の指標は低侵襲で簡便に得ることができ、臨床的にも応用できると考えられる。