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ケイ素ラジカルの不飽和結合への付加を利用した新規sp3 炭素-ケイ素結合形成反応

小島, 匠人 東北大学

2023.03.24

概要

博士論文

ケイ素ラジカルの不飽和結合への付加を利用した
新規 sp3 炭素ケイ素結合形成反応

東北大学大学院薬学研究科
分子薬科学専攻

分子変換化学分野

小島 匠人

目次

略語表

1

1. 序論

2

1.1 有機ケイ素化合物について

2

1.2 ケイ素ラジカルについて

6

2. 不飽和カルボン酸のオキシシリル化反応

11

2.1 アルケンに対するケイ素化について

11

2.2 ラクトンについて

16

2.3 ケイ素ラジカルを用いた不飽和カルボン酸のシリルラクトン化反応

22

2.3.1 ラクトン化の条件検討

22

2.3.2 シリルラクトン化反応における基質適用範囲

29

2.3.3 反応機構検討
3. 2-アルキルピリジンの脱水素型 C(sp3)Si 結合形成反応

34
36

3.1 脱水素型 C(sp3)Si 結合形成反応

36

3.2 ピリジンについて

38

3.3 ケイ素ラジカルを用いた 2-アルキルピリジンの脱水素型 C(sp3)Si 結合形成反応 45
3.3.1 2-アルキルピリジンのシリル化の条件検討

45

3.3.2 2-アルキルピリジンのシリル化反応における基質適用範囲

54

3.3.3 反応機構検討

57

4. 結論

60

5. 実験項

61

6. 引用文献

99

7 発表論文リスト集

102

略語表
Ac = acetyl
Ar = aryl
CPME = Cyclopentylmethy ether
DMF = N,N-dimethylformamide
DMI = 1,3-dimethyl-2-imidazolidinone
DMSO = dimethyl sulfoxide
eq. = equivalent
Et = ethyl
h = hour
HRMS = high resolution mass spectrometry
i-Pr = isopropyl
IR = infrared spectrometry
LRMS = low resolution mass spectrometry
Me = methyl
n-Bu = normal butyl
NMR = nuclear magnetic resonance
n-Pr = normal propyl
Ph = phenyl
phen = phenanthroline
rt = room temperature
t-Bu = tertiary butyl
temp. = temperature
TMS = trimethylsilyl
THF = tetrahydrofuran

1

1. 序論

1.1 有機ケイ素化合物について
有機ケイ素化合物は光応答・電子輸送などの観点から工学の分野で用いられる.例
えば,ケイ素を含む五員環骨格であるシロールは,ケイ素上の環外の二つの SiC 結合
のσ*軌道とブタジエン部分のπ*軌道とのσ*-π*共役が有効的に作用し,LUMO が顕
著に低いという特徴を有する.1 この特徴から,高い電子輸送材料としての性能を示す
シロール骨格を含む化合物は,有機 EL 素子として高い性能を示す(Figure 1-1).2,3

Figure 1-1. Pyridinyl siloles for organic electro-luminescence

医薬分野においては,近年「Silicon Switch」と呼ばれる創薬の手法が注目を集めて
いる.これは,生物活性の改善を目的とし,炭素と比べて原子半径が大きい,電気陰
性度が小さい,疎水性が高い等の特徴を有するケイ素官能基を生理活性化合物の部分
構造に導入する手法である.その例として,2018 年に Zhang らは HCV NS5A 阻害剤で
ある Ombitasvir の部分構造である tert-ブチル基をトリエチルシリル基へと変更するこ
とで,阻害活性や代謝安定性,薬物動態が改善されることを報告している (Scheme 11).4

2

Scheme 1-1. Silicon switch of ombitasvir

このように有機ケイ素化合物は多分野にわたる有用な化合物群であり,その合成の
核となる炭素-ケイ素結合形成反応は重要であるといえる.
有機ケイ素化学の起こりは 1863 年 Friedel と Crafts によるものである.ジエチル亜
鉛と四塩化ケイ素によるテトラエチルシランの合成によって初の炭素-ケイ素結合形
成反応が報告された (Scheme 1-2).

Scheme 1-2. First synthesis of organic silicon compound

3

1904 年,Kipping は同時期に開発された Grignard 試薬を用いて多数の有機ケイ素化
合物を合成した.5 その後,1950 年代から 1970 年代はケイ素化学の基礎が確立されると
もに有機合成への応用がなされ,ケイ素化学の分野が発展した.この時期に開発され
た反応の中でも有用な有機ケイ素化合物合成法として考えられるのが,ヒドロシリル
化である.ラジカル開始剤や,遷移金属触媒共存下でのヒドロシリル化が開発されて
おり,例えば 1957 年に Barnes らは塩化白金酸触媒を用いたヒドロシリル化を報告し
た (Scheme 1-3).6 ヒドロシリル化はこれ以降に飛躍的な発展を遂げ,1968 年にはその
機構として,Chalk Harrod 機構が提唱された (Scheme 1-4).7

Scheme 1-3. Speier’s hydrosilylation

Scheme 1-4. ChalkHarrod mechanism

有機ケイ素化学の発展に伴い,ケイ素の特性を活かした有機合成反応も開発されて
いる.1968 年に報告されたトリメチルシリルメチル金属反応剤とカルボニル化合物と
の反応によってアルケンを生成する Peterson 反応 (Scheme 1-5)8 が報告された.また,
1968 年に Stork らによってシリルエノールエーテルの合成がされた後 (Scheme 1-6),

4

1973 年にはこのシリルエノールエーテルを基質とした交差アルドール反応を選択的に
進行させる向山アルドール反応 (Scheme 1-7)9 が報告されている.

Scheme 1-5. Peterson reaction

Scheme 1-6. Synthesis of silyl enol ethers

Scheme 1-7. Mukaiyama reaction

このように,基礎研究の分野でも有機ケイ素化合物に対する関心が高まるととも
に,多様な有機ケイ素化合物を高効率,高選択的に合成する手法が求められるように
なっている.ところで,分子内にケイ素を導入する方法の一つとして,ケイ素ラジカ
ルの不飽和結合への付加反応があり,比較的簡便にケイ素を導入可能であるという特
徴を有する.今回筆者は,この手法を用いて新規炭素-ケイ素結合形成反応の開発を
行うことで,効率的な有機ケイ素化合物合成法を拡充することを目指し,研究を行っ
た.次節に,ケイ素ラジカルの発生法とこれを用いた反応について記述する.

5

1.2 ケイ素ラジカルについて
ケイ素ラジカルは炭素ラジカルと同じ 14 族元素の三価化学種であるが,その構造や
性質にはさまざまな違いがある.ケイ素ラジカルは,1957 年に Gilman によってトリフ
ェニルヒドロシランと過酸化物との反応による不安定中間体としてのトリフェニルケ
イ素ラジカルの生成が認められて以降,10 不安定化学種として研究されてきた.1969 年
に Sakurai らは光学活性シランを用いてケイ素ラジカルがメチルラジカルのような平面
ラジカルでなく,三角錐形の構造であることを示した.11 ケイ素ラジカルが三角錐の構
造を有しているために,メチルラジカルと比べて,ラジカル反応における立体配置が
ある程度保持されるといった性質がある.ケイ素ラジカルは以前から不安定化学種と
して研究されてきたが,近年,安定なケイ素ラジカルを単離できるようになるなど,
その化学は大きな進歩を遂げている.12
ケイ素ラジカルを生成する方法としては,ヒドロシランからの水素原子引き抜き反
応,SiSi 結合の開裂反応,ハロシランの還元反応,シリルアニオンの酸化反応などが
知られている.

ヒドロシランからの水素原子引き抜き反応
ヒドロシランからの水素原子引き抜き反応は,ケイ素ラジカルの生成法として最も
汎用される手法の一つで,通常ヒドロシランとジ-tert-ブチルペルオキシド(t-BuOOtBu)などの過酸化物の溶液に光を照射するか加熱することによって行う (Scheme 18).13
この反応では,まず光または熱によってジ-tert-ブチルペルオキシドの OO 結合が開
裂して t-BuO ラジカルが生成する.これがヒドロシランの水素を引き抜くことによっ
て,ケイ素ラジカルが生成する.

6

Scheme 1-8. Generation of silyl radical

また熱反応の場合は,ジ-tert-ブチルペルオキシドのほか,約 80 °C で開裂するベン
ゾイルペルオキシド (benzoyl peroxide:BPO)や 2,2’-アゾビスイソブチロニトリル
(2,2’-azobisisobutylnitrile:AIBN)も用いられる (Figure 1-2).

Figure 1-2. Radical initiators

ケイ素ラジカルの反応
ケイ素ラジカルを利用した有用な反応の一つとして,不飽和結合への付加による炭
素-ケイ素結合形成反応がある.例えば,2016 年に Liu らによって位置選択的な脱炭
酸ケイ素化反応が開発された (Scheme 1-9).14 本反応では,t-BuO ラジカルの水素引き
抜きによって生じるケイ素ラジカルがアルケンやアルキンに付加し,続いて脱炭酸反
応が進行することで目的の生成物が得られている.

7

Scheme 1-9. Decarboxylative silylation of α, β-unsaturated acids with silanes

また,2015 年には Grubbs らが強塩基を用いたケイ素ラジカルの発生を利用して,複
素環化合物の炭素-水素結合ケイ素化反応を達成している (Scheme 1-10).15
Scheme 1-10 KOt-Bu-catalyzed silylation of C–H bonds in aromatic heterocycles

また,ケイ素ラジカルのアルケンへの付加を伴った環化反応も報告されており,シ
リル基を導入した様々な複素環を簡便に合成することが可能となっている.
2015 年 Li らは,ビアリール-2-ヒドロシラン類を基質とし,反応系中で発生したケ
イ素ラジカルが芳香環へ付加環化することでシラフルオレン骨格の構築に成功してい
る (Scheme 1-11).16 本反応は遷移金属や酸・塩基を用いることなく,容易に共役系を伸
長したシラフルオレンを合成することができるため,電子材料分野への応用が期待さ
れる.

8

Scheme 1-11. Synthesis of silafluorenes via silyl radicals from arylhydrosilanes

SiH

t-BuOOt-Bu (3.0 equiv.)
PhCF3, 130 °C, 24 h

Si
77%

他の複素環を構築する反応として,2015 年 Liu らは,N-アリールメタクリルアミド
類と過酸化物としてジクミルペルオキシド (dicumyl peroxide:DCP) を用いることで,3
位にシリルメチル基が導入されたオキシインドールの合成を達成している (Scheme 112).17 しかしながら,ジクミルペルオキシド由来のメチルラジカルが付加した副生成物
も観測され,収率の低下につながっている.

Scheme 1-12. Free-radical cascade silylation of N-arylmethacrylamides with silanes

9

Gao らは,N-アリールプロピオールアミド類を基質とし,CuI と tert-ブチルヒドロペ
ルオキシドにより発生するケイ素ラジカルのアルキンへの付加を利用した 3-シリルア
ザスピロ環骨格構築法を報告している (Scheme 1-13).18

Scheme 1-13. Copper-catalyzed oxidative ipso-annulation of activated alkynes with silanes

このように近年,比較的簡便に発生可能なケイ素ラジカルを経由した炭素-ケイ素
結合形成反応の研究が活発に行われている.しかしながら,多様な有機ケイ素化合物
を合成するという観点から考えると,その報告例は未だ少なく,新たな反応系の開発
が求められている.

10

2. 不飽和カルボン酸のオキシシリル化反応

2.1 アルケンに対するケイ素化について
第一章で述べた通り,有機ケイ素化合物は,工学や材料,医薬分野などに用いられ
る重要な化合物群であり,その効率的な合成法の開発は重要である.数ある合成法の
中でも,アルケンのケイ素化は,簡便に有機ケイ素化合物を合成可能な実用性の高い
手法である.これまで最も発展してきたのは,ヒドロシリル反応であり,遷移金属,
光触媒や有機触媒を用いた多様な反応が報告されている.2015 年には Chirik らが鉄触
媒を用いたアルケンのヒドロシリル化を達成している (Scheme 2-1).19 また,2015 年
Fagnomi らによって,タングステン光触媒を用いたヒドロシリル化反応も報告されて
いる (Scheme 2-2).20 有機触媒を用いた例としては,2013 年に Stephan らによって報告
された含フッ素ホスホニウム塩を触媒として用いたヒドロシリル化反応が挙げられる
(Scheme 2-3).21 このように,ヒドロシリル化反応は,様々なアプローチで進行する汎
用性の高い方法であるが,アルケンに対して一つの官能基しか導入することができな
い.一方で,アルケンに対するケイ素官能基化は同時に複数の官能基を導入できるた
め,複雑な有機ケイ素化合物を一挙に合成できるという特徴を有する.これまでに,
カルボシリル化,アミノシリル化,ジシリル化などが開発されてきた.カルボシリル
化の反応例としては,2019 年に Engle らが報告した,パラジウム触媒を用いたアリー
ルシリル化が挙げられる (Scheme 2-4).22 この反応は,基質内に存在する配向基によ
り,位置選択的に進行する.また,2017 年には Luo らが,鉄触媒と過酸化物を用いた
アルケンのアミノシリル化を報告している (Scheme 2-5).23 また,1993 年 Ito らは,パ
ラジウム触媒を用いたアルケンに対する分子内ジシリル化反応を報告している
(Scheme 2-6).24 この反応は,ジシランがパラジウムに対して酸化的付加することによ
って反応が進行する.

11

Scheme 2-1. Iron-catalyzed hydrosilylation of alkenes

Scheme 2-2. Photo-catalyzed hydrosilylation of dimethyl maleate

Scheme 2-3. Organo-catalyzed hydrosilylation of alkenes

Scheme 2-4. Palladium(0)-catalyzed directed syn-1,2-carbosilylation

12

Scheme 2-5. Iron-catalyzed aminosilylation of alkenes

Scheme 2-6. Palladium(0)-catalyzed intramolecular bis-silylation of alkenes

このように,アルケンのケイ素官能基化は,近年活発に研究が行われ,様々な報告
がなされているが (Figure 2-1),ケイ素と酸素官能基を同時に導入するオキシシリル化
に関してはその数が限られている.その数少ない例の一つとして,2003 年の Ishii らに
よって報告された反応が挙げられる (Scheme 2-7).25 この反応では発生したケイ素ラジ
カルがアルケンに対して付加することでアルキルラジカルが得られる.このラジカル
種が分子状酸素によって捕捉されることでアルコールへと変換される.
また,2017 年に Xu らは,銅触媒を用いたアルケンのオキシシリル化反応を報告し
ている (Scheme 2-8).26 この手法では,初めに,銅触媒によって tert-ブチルヒドロペル
オキシドの開裂が促進され,オキシラジカル種が生じる.続いて,このオキシラジカ
ルがヒドロシランの水素を引き抜くことでケイ素ラジカルが発生し,続く反応が進行
する.
また,2018 年 Li らによって,鉄触媒を用いた反応も報告されている (Scheme 2-9).27
本反応も銅触媒の反応と同様に,鉄触媒からの一電子移動によって過酸化物の開裂が
促進され,目的の反応が進行する.

13

上述のようにアルケンのオキシシリル化反応は,近年になって報告されているが,
その数は少なく,筆者が知る限り上述の 3 例のみである.さらに,酸素源として用い
られるのは,分子状酸素または過酸化物に限られており,多様な有機ケイ素化合物を
合成するためには,その適用範囲の拡大が重要である.そこで今回筆者は,この未発
展領域であるアルケンのオキシシリル化の新たな反応の開発を目標に,研究を行うこ
ととした.

Figure 2-1. Silylfunctionalization of alkenes

Scheme 2-7. Cobalt-catalyzed oxysilylation of alkenes

Scheme 2-8. Copper-catalyzed oxysilylation of alkenes

14

Scheme 2-9. Iron-catalyzed oxysilylation of alkenes

15

2.2 ラクトンについて
ラクトンは様々な天然物や生理活性物質等に存在する重要な構造である.生理活性
物質の例としては,抗がん剤である vittarilide-A,抗生物質である mupirocin H,ベンゾ
ラクトン骨格を有する HIV 阻害剤である fuscinarin,抗バクテリア作用を示す
cytosporone E,免疫抑制剤として用いられる mycophenolate mofetil などが挙げられる.
ラクトン骨格が構造中に含まれる天然物としては,トウキやセンキュウの主製油成分
であり鎮痙作用を有する butylidene phthalide 等がある (Figure 2-2).

Figure 2-2. Lactone compounds

16

その有用性から,ラクトン骨格構築法の開発は以前から活発に研究が行われてきた.
その中でも重要かつ簡便な合成戦略として知られているのが,不飽和カルボン酸を基
質とした環化反応である (Scheme 2-10).ハロラクトン化がその代表例として知られて
いるが,28 その他にも,硫黄求電子剤29 やセレン求電子剤30 など,様々な求電子剤を用
いることが可能である.また,縮環ラクトンであるフタリド合成にも適用されており,
同様に求電子剤とルイス酸,塩基を用いることでハロゲン化やチオトリフルオロメチ
ル化,31 セレニル化32 などが報告されている.以上のように,本手法を用いることで,
修飾されたラクトンやフタリドの多様な合成が可能である.

Scheme 2-10. Halo- and chalco-lactonization
X =I
O

O
OH

X = SPh
Mn(OAc)3
X = SePh, TePh
mCPBA, NH4I

O

X = Br, I
OH

O
X

O
O

X = SCF3, SePh
Lewis Acid or Base

X

さらに近年では,ラジカル種をアルケンに対して付加,さらに遷移金属触媒を作用
させることでラクトン,及びフタリドを合成する手法が開発されている.2014 年に
Zhu らは,銅触媒とアセトニトリルを用いることで,2-ビニル安息香酸類または 2-ビニ
ルベンズアミド類のアルケンに対するオキシアルキニル化によるフタリド骨格構築法
を報告している (Scheme 2-11).33 この反応に関しては,以下の 2 通りの機構が提唱され

17

ている (Scheme 2-12).すなわち,銅,塩基,アセトニトリルによって形成される有機
銅 (II) 種 A によってアルケンへのカルボクプレーションが起こり,環化体 C が得られ
る機構 (path a),または中間体 A からシアノメチルラジカルが生成したのち,アルケン
へラジカル付加,続く銅によるメタラサイクルの形成を経由する環化またはカチオン
経由の環化反応により,望みのフタリドを得る機構である (path b).これはアミドを基
質に用いたときの想定機構であるが,カルボン酸でも同様の機構でラクトン化反応が
進行していると考えられる.

Scheme 2-11. Copper-mediated oxyalkylation of alkenes with alkylnitriles

18

Scheme 2-12. Proposed mechanism of oxyalkylation
PO43H

HPO42-

CuIL

LCuII

N
CuIIL

CH2CN

N

B

A

Path b
Path a

NMe2

NMe2

O
CuIIL

O
CuIIIL

[O]

CN

NMe2

C

O
CN

+LCuII

CN
CuII

O

NMe2

O

NMe2

O
CN

O
CN

CN

近年ではさらに研究が進んでおり,2015 年 Zhao らは,マンガン錯体を用いて発生
させたホスフィンラジカルのアルケンへの付加を利用する不飽和カルボン酸のホスホ
ノラクトン化を達成している (Scheme 2-13).34 2016 年には Wang らが,銅触媒を用いて
O-benzoylhydroxylamine 類から発生させたアミノラジカルの付加による不飽和カルボン
酸のアミノラクトン化によるフタリド合成を報告している (Scheme 2-14).35

19

Scheme 2-13. Mn(OAc)3-mediated phosphonolactonization

Scheme 2-14. ...

この論文で使われている画像

参考文献

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Wang, F.-F.; Luo, C.-P.; Wang, Y.; Deng, G.; Yang, L. Org. Biomol. Chem. 2012, 10, 8605.

45

Komai, H.; Yoshino, T.; Matsunaga, S.; Kanai, M. Org. Lett. 2011, 13, 1706.

46

Fukumoto, Y.; Hirano, M.; Matsubara, N.; Chatani, N. J. Org. Chem. 2017, 82, 13649.

47

Fukumoto, Y.; Hirano, M.; Chatani, N. ACS Catal. 2017, 7, 3152.

48

Xiao, F.; Chen, S.; Chen, Y.; Huang, H.; Deng, G.-J. Chem. Commun. 2015, 51, 652.

49

Hu, R.-M.; Han, D.-Y.; Huang, L.; Feng, Y.; Xu, D.-Z. Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 3876.

50

Khan, N.-U. H.; Agrawal, S.; Kureshy, R. I.; Abdi, S. H. R.; Singh, S.; Jasra, R. V. J.

Organomet. Chem. 2007, 692, 4361.

51

Yadav, G. D.; Chauhan, M. S.; Singh, S. Synthesis 2014, 46, 629.

101

7. 発表論文リスト集

Nozawa-Kumada, K.; Ojima, T.; Inagi, M.; Shigeno, M.; Kondo, Y. Org. Lett. 2020, 22, 9591.

Nozawa-Kumada, K.; Osawa, S.; Ojima, T.; Noguchi, K.; Shigeno, M.; Kondo, Y. Asian J. Org.

Chem. 2020, 9, 765.

102

謝辞

本研究を遂行するにあたり,終始御懇篤なる御指導並びに御鞭撻を賜りました東北

大学大学院薬学研究科 根東 義則 教授に心より感謝申し上げます.

本論文の審査にあたり,貴重な御指導と御助言を賜りました本学薬学研究科 土井 隆

行,吉戒 直彦 両教授に厚く御礼申し上げます.

本研究の計画,考察,論文の作成など多岐にわたる御指導と御助言を頂いた本学薬

学研究科 重野 真徳 准教授,熊田 佳菜子 助教に深く感謝致します.

質量分析の労を取られました本学大学院薬学研究科中央機器室の諸氏に厚く御礼申

し上げます.

薬学部時に多大なるご指導並びにご鞭撻を賜りました東北大学大学院薬学研究科 安

齋 順一 名誉教授,東北医科薬科大学 薬学部 佐藤 勝彦准教授に厚く御礼申し上げます

有意義な討論と多大なるお力添えを頂き,研究室生活を楽しいものにしてくれた分

子変換化学分野の皆様および同分野卒業生に感謝致します.

研究生活を様々な面から支え,励ましてくれた友人たちに感謝致します.

最後に私を長い期間温かく見守り,支えてくれた家族に心から感謝します.

103

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