Pd触媒によるα-ヒドロキシケトン誘導体のC-O結合切断を鍵とした脱炭酸型アルキニル化反応
概要
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
DOI
Doc URL
Type
File Information
Pd触媒によるα-ヒドロキシケトン誘導体のC−O結合切断を鍵とした脱炭酸型アルキニル化反応
藪田, 明優
北海道大学. 博士(薬科学) 甲第15321号
2023-03-23
10.14943/doctoral.k15321
http://hdl.handle.net/2115/89902
theses (doctoral)
Akimasa_Yabuta.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
博士学位論文
Pd 触媒による α-ヒドロキシケトン誘導体
の C-O 結合切断を鍵とした
脱炭酸型アルキニル化反応
藪田 明優
北海道大学大学院生命科学院
生命科学専攻
生命医薬科学コース
精密合成化学研究室
2023 年 3 月
謝辞
本研究を行うにあたり、終始御懇篤なる御指導、御鞭撻を賜りました北海道大学大学院
薬学研究院
佐藤美洋教授に厚く御礼申し上げます。
著者の直接の指導者として、常に温かく御指導、御激励下さいました北海道大学大学院
薬学研究院
大西英博准教授に心より感謝致します。
単結晶 X 線構造解析を行って頂きました大阪大学大学院工学研究科
土井良平博士に深
く感謝します。
DFT 計算を行って頂きました北海道大学大学院薬学研究院
森崎一宏博士に深く感謝し
ます。
終始温かく御助言、御激励下さいました北海道大学大学院薬学研究院
中村顕斗博士に
深く御礼申し上げます。
本論文を執筆するにあたり、貴重な御助言を頂きました北海道大学薬学研究院
松永茂
樹教授ならびに吉野達彦准教授に心から御礼申し上げます。
常に有益な御助言、御支援を下さるとともに、様々な形で御支援、御協力下さいました
精密合成化学研究室の皆様ならびに卒業生の皆様に心より御礼申し上げます。
各種機器スペクトルデータを測定して下さいました北海道大学創成研究機構グローバル
ファシリティセンター機器分析受託部門のオペレーターの皆様に深く感謝致します。
なお、筆者は北海道大学
物質科学フロンティアを開拓する Ambitious リーダー育成プロ
グラム採用者として本研究に従事したことここに記し、研究奨励金を賜りましたことを深
く御礼申し上げます。
最後に、常に著者を温かく見守り支援していただきました家族、友人に心より感謝致し
ます。
2023 年
春
藪田 明優
略語表
本論文中で以下の略語を使った。
Ac
;
acetyl
Ar
;
aryl
B
;
base
Bn
;
benzyl
BrettPhos
;
Bu
;
Cat.
;
catalyst
CN
;
cyanide
Cp
;
cyclopentadienyl
CPME
;
cyclopentyl methyl ether
COD
;
1,5-cyclooctadiene
Cy
;
cyclohexyl
CyJohnPhos
;
(2-biphenyl)dicyclohexylphosphine
DAIBAL-H
;
diisobutyl aluminium hydride
dba
;
dibenzylideneacetone
DCC
;
N,N'-dicyclohexyl carbodiimide
dcpf
;
1,1’-bis(dicyclohexylphosphino)ferrocene
dcpp
;
1,3-bis(dicyclohexylphosphino)propane
DDQ
;
2,3-dichloro-5,6-dicyano-p-benzoquinone
DIAD
;
diisopropyl azodicarboxylate
DIPEA
;
N,N-diisopropylethylamine
DMA
;
N,N-dimethylacetamide
DMAP
;
4-dimethylaminopyridine
dmdba
;
3,5,3’,5’-dimethoxydibenzylideneacetone
DME
;
1,2-dimethoxyethane
DMP
;
Dess-Martin periodinane
DMF
;
N,N-dimethylformamide
dicyclohexyl(2',4',6'-triisopropyl-3,6-dimethoxy-[1,1'-biphenyl]-2yl)phosphine
butyl
DMSO
;
dimethyl sulfoxide
dppe
;
1,2-bis(diphenylphosphino)ethane
dppf
;
1,1’-bis(diphenyllphosphino)ferrocene
dppp
;
1,3-bis(diphenylphosphino)propane
E
;
electrophile
EPhos
;
ESI-MS
;
Et
;
ethyl
eq
;
equivalent
EWG
;
electron-withdrawing group
GC
;
gas chromatography
h
;
hour(s)
HMBC
;
heteronuclear multiple-bond correlation spectroscopy
HMQC
;
heteronuclear multiple quantum correlation
JohnPhos
;
2-(di-tert-butylphosphino)biphenyl
i
;
iso
LDA
;
lithium diisopropylamide
LHMDS
;
lithium bis(trimethylsilyl)amide
M
;
metal
m
;
meta
m-CPBA
;
m-chloroperoxybenzoic acid
Me
;
methyl
min
;
minute(s)
n
;
normal
N.D.
;
not detected
NMR
;
nuclear magnetic resonance
℃
;
degree Celsius
o
;
ortho
p
;
para
Ph
;
phenyl
dicyclohexyl(3-isopropoxy-2’,4’,6,7-triisopropyl-[1,1’-biphenyl]-2yl)phosphane
electrospray ionization mass spectrometry
Piv
;
pivaloyl
PMB
;
p-methoxybenzyl
Pr
;
propyl
R
;
alkyl group or heteroatom
rec.
;
recovered
rt
;
room temperature
RuPhos
;
dicyclohexyl(2’,6’-diisopropoxy-[1,1’-biphenyl]-2-yl)phosphine
SM
;
starting material
t
;
tertiary
TBAF
;
tetrabutylammonium fluoride
TBAI
;
tetrabutylammonium iodide
tBuBrettPhos
;
tBuMePhos
;
TBS
;
tert-butyldimethylsilyl
temp.
;
temperature
Tf
;
trifluoromethylsulfonyl
THF
;
tetrahydrofuran
THP
;
2-tetrahydropyranyl
TIPS
;
triisopropylsilyl
TLC
;
thin-layer chromatography
TMS
;
trimethylsilyl
Tol
;
tolyl
Ts
;
toluenesulfonyl
UV
;
ultraviolet
XantPhos
;
4,5-bis(diphenylphosphino)-9,9-dimethylxanthene
XPhos
;
2-dicyclohexylphosphino-2’,4’,6’-triisopropylbiphenyl
[3,6-dimethoxy-2’,4’,6’-tris(1-methylethyl) [1,1’-biphenyl]-2-yl]bis(1,1dimethylethyl)phosphine
2-di-tert-butylphosphino-2’-methylbiphenyl
目次
序論
1
本論
第一章
第二章
Pd 触媒による脱炭酸を伴うケトンのα位アルキニル化反応の開発
第一節
研究背景
第二節
Pd 触媒による脱炭酸を伴うケトンのα位アルキニル化反応の検討
第三節
基質適用範囲の検討
第四節
α-アルキニルケトンの誘導体化
第五節
反応機構の探索
Pd 触媒による C-O 結合切断を鍵としたアレンの挿入を伴う
脱炭酸型環化アルキニル化反応の開発
第一節
研究背景
第二節
Pd 触媒による C-O 結合切断を鍵としたアレンの挿入を伴う
脱炭酸型環化アルキニル化反応の検討
結語
実験の部
参考文献
第三節
基質適用範囲の検討
第四節
DFT 計算を用いた反応機構の考察
序論
序論
有機化合物は炭素を基本骨格とした物質であり、それらの用途は医薬品や機能性材料など多岐に
わたっている。そのため、様々なニーズに応じて有機化合物を合成する上で C-C 結合形成反応の
開発は重要であり、古くから有機合成化学における中心課題として研究されている。最近でも 2021
年の List、MacMillan の有機触媒を用いた不斉C-C結合形成反応に対してノーベル化学賞が与えら
れており、C-C結合形成反応の開発はいまだに有機合成化学において重要な研究分野である。こ
れまでの反応開発の長い歴史の中でも、特にカルボニル化合物の α 位における C-C 結合形成は、
aldol 反応などに代表されるように分子骨格構築の重要な方法論となっている。
一般に、カルボニル化合物の α 位におけるC-C結合形成反応はエノラートやエノラート等価体
を用いる手法が広く用いられている(Scheme 1)1)。中でも LDA などの塩基とカルボニル化合物から
簡便に調製できるリチウムエノラートは、反応性も高く、様々な求電子剤との反応により、α 位で
の新たな C-C 結合の形成が可能になる。また、ケトンと第二級アミンを反応させることで調製さ
れるエナミンは、ハロゲン化アルキルなどの求電子剤と反応させた後、加水分解することで対応す
るケトンの α 位置換体が得られる。エナミンを用いた α 位のアルキル化では、1)エノラートを発生
させるための強塩基を用いる必要がない、2)一般に熱力学的に安定なエナミンが調製されるため、
ケトンと強塩基からは調製しにくい熱力学的エノラート等価体として利用できる、などの利点があ
る。また、シリルエノールエーテルは、ルイス酸存在下、様々な求電子剤と反応し、カルボニル化
合物の α 位に官能基を導入することができる。しかしながら、これらのエノラートまたはエノラー
ト等価体を用いた α 位官能基化反応は、通常 sp3 炭素上での求核置換反応であるため、sp2 および sp
炭素の導入は、一般に困難であることが知られている。
一方、エノラートまたはエノラート等価体の調製を要しないカルボニル基の α 位官能基化反応と
しては、Pd 触媒による β-ケトエステルの脱炭酸型カップリングも有用な手段の一つである 2)。1980
年に三枝らは、β-ケトエステル 1 やプロピオール酸エステル 3 を基質に用いた最初の分子内脱炭酸
型カップリングを報告した(Scheme 2)2d)。
1
序論
この反応では、アリル位の C−O 結合が Pd 触媒に酸化的付加し、Pd 中間体 B となり、B からの脱
炭酸が起こり、π-アリル Pd 中間体 C が生成する。中間体 C の Pd 上のエノラート部と π-アリル部で
還元的脱離が進行することで、α-アリル化体 2 が得られる(Scheme 3)。C−O 結合の反結合性軌道
が隣接する二重結合の π 結合と重なり合うことで SN2’による酸化的付加が可能となっている。
また、同様の機構で分子内脱炭酸型ベンジル化が進行することも報告されている(Scheme 4)3)。こ
の反応においても、ベンジル位C-O 結合が Pd に酸化的付加し生じる π-ベンジル Pd 中間体を経由
し、脱炭酸型カップリングが進行する。
このように Pd 触媒による β-ケトエステルの脱炭酸を伴うカップリング反応は、1) 基質合成が容
易、2) 副生成物が二酸化炭素のみ、3) 中性条件で反応が進行する等、既存のケトンの α 位アルキル
化反応と比較して、多くの利点を有する。また、これらの反応は触媒的不斉反応にも展開されてい
る(Scheme 5)4)。2006 年に Trost らは環状ビニロガスチオエステル 9 に対して自身が開発した配位子
を用いることで高い不斉収率で脱炭酸型アリル化が進行することを見出した 4b)。また、Stolz らに
2
序論
よって、Phox 型配位子が不斉脱炭酸型アリル化反応に有効であることを明らかにし、基質適用範囲
はより広範なものとなった 4c)。
これらの触媒的不斉反応は、全合成における鍵反応としても用いられている(Scheme 6)。Stoltz ら
はダブル脱炭酸アリル化反応によって合成中間体 14 を高い不斉収率で得たのち数工程で(-)cyanthiwigin を合成した 4h)。Zhu らは不斉脱炭酸型アリル化を利用し、(-)-isoschizogamine の合成を達
成している
。このように、β-ケトエステルの脱炭酸を伴う触媒的不斉カップリング反応は有用性
4i)
の高い反応であるが、Pd 触媒に基質の C−O 結合が酸化的付加することが必要であり、そのため α
位のアリル化とベンジル化に反応が制限される。したがって、本反応ではカルボニル化合物の α 位
に sp2 および sp 炭素を導入するのは困難である。
一方、カルボニル基の α 位に sp2 炭素を導入する反応として、遷移金属触媒によるハロゲン化ア
リールと金属エノラートとのカップリング反応が古くから研究されてきた 5)。1975 年に Semmelhack
らは、(±)-Cephalotaxinone の全合成の鍵工程として、アリール Ni 種とエノラートとのカップリング
反応をはじめて報告した(Scheme 7)5b)。この反応では、基質のヨウ化アリール部が Ni(0)に酸化的付
加して生成したアリール Ni 錯体 E が、塩基によって生成したリチウムエノラートとトランスメタ
ル化、続いて還元的脱離することで閉環する。
3
序論
その後、1990 年代後半になって三浦
、Buchwald5d)、Hartwig5e)らがそれぞれ Pd 触媒を用いたケ
5c)
トンの α 位アリール化を報告した(Scheme 8)。カルボニル化合物と強塩基から系内にて発生させ
たエノラートを求核剤とし、ヨウ化アリールもしくは臭化アリールとカップリングさせることで、
ベンジルケトンが得られる。本反応では、ハロゲン化アリール 19 が Pd(0)に酸化的付加し、アリー
ル Pd 錯体 G が生成する。この錯体がエノラート H とトランスメタル化することによって Pd エノラ
ート I(I’)を形成し、続く還元的脱離によってアリール化体 20 が得られる。
4
序論
α 位アリール化はケトンだけでなくアルデヒド、エステル、アミドにも適用可能であり、不斉配
位子を用いた不斉アリール化反応にも展開されている。またそれぞれの反応において Ni 触媒を用
いた反応も開発されている 5g)。これらの反応は α 位のビニル化反応へも展開されており、多様な
sp2 炭素を導入する手法として確立されている 5j)。しかしながら、カルボニルの α 位に sp 炭素を導
入する方法としては確立されていない。
ところで、ヒドロキシケトン誘導体の α 位 C-O 結合は、Pd 触媒に酸化的付加し、Pd エノラート
を与えることが知られている(Scheme 9)6)。例えば、野依らは α,β-エポキシケトン 21 に対して Pd 触
媒を作用させると酸化的付加が進行し、生じた Pd エノラート J の β 水素脱離によって 1,3-ジケトン
22 が生成することを報告している 6a)。O’Donnell らはヘミアミナール誘導体 23 の α 位 C-O 結合の
酸化的付加によって生じた Pd エノラート K に対して、ジメチルマロネートの求核付加反応が進行
することを見出している
。また村井らはカルボナート 25 の Pd への酸化的付加続く脱炭酸により
6c)
生じる Pd エノラート L とノルボルネンとの反応により、シクロプロパン 26 が生成することを報告
している 6d)。このように、α 位 C-O 結合の酸化的付加により直接 Pd エノラートが生じることは知
られているものの、カルボニル化合物の α 位官能基化反応に利用された例は限られる。
そこで著者は、上記のような α 位 C-O 結合の Pd 触媒への酸化的付加の過程で生じる Pd エノラ
ートに注目し、新たなケトンの α 位官能基化反応を開発すべく研究に着手した(Scheme 10)。すなわ
ち α 位にアシル基を持つ基質 27 と Pd 触媒を反応させると、27 の酸化的付加により Pd エノラート
5
序論
M が生成すると考えられる。この Pd 中間体 M から、脱炭酸が起こり、続いて還元的脱離が進行す
るならば、α 位が官能基化されたカルボニル化合物 28 が得られる。もし本反応が進行すれば、従来
の α 位官能基化では達成困難なアルキニル基を含む、様々な官能基が導入できるものと期待した。
以下に本論文の概略を示す。
Pd 触媒による α-ヒドロキシケトン誘導体の C-O 結合切断を鍵とした脱炭酸型ケトンの α 位アル
キニル化反応の開発に成功した(第一章)7)。また、本反応の鍵中間体である Pd エノラート M に相当
する中間体の単離に成功し、反応機構に関する考察を行った。さらに、分子内に不飽和結合を有す
るヒドロキシケトン誘導体を用いて反応を検討したところ、Pd エノラートへのアレンの挿入を伴う
環化反応を見出した(第二章)8)。また、DFT 計算を用いて本反応の反応機構の考察を行った。これら
の研究の詳細について以下順に記載する。
6
第一章 本論 第一節
第一章
Pd 触媒による脱炭酸を伴う
ケトンの α 位アルキニル化反応の開発
第一節 研究背景
これまで報告されているカルボニル基の α 位へのアルキニル基(sp 炭素)の導入反
応の例を以下に概観する。
エノラートを求核剤としたカルボニル化合物の α 位アルキニル化の例としては、相
間移動触媒の存在下、β-ケトエステルとハロゲン化アルキニルとの反応による α 位アル
キニル化反応が報告されている
。この反応は、電子求引性基を有するハロゲン化ア
9)
ルキニルへの 1,4-付加,引き続く 1,2-脱離反応によって反応が進行するため、電子求引
性基を有するアルキンのみに基質が限定され、また β-ケトエステルのような活性化さ
れたカルボニル化合物を基質に用いる必要がある(Scheme 11)。
カルボニル化合物のアルキニル求電子剤として超原子価ヨウ素 33 を用いると、ビニ
ルカルベンの転位を経由してケトンの α 位アルキニル化が進行することが知られてい
る(Scheme 12)10)。しかしながら、ケトンの α 位に置換基を持たない基質ではモノア
ルキニル化では反応が停止せず、2 つのアルキニル基が導入されたジイン 35 が生成物
となる。また、超原子価ヨウ素の調製にも複数の工程を必要とする。
一方、α-ハロカルボニル化合物に対してアルキンを反応させる α 位アルキニル化反応
も報告されている
11)
。例えば、α-ハロカルボニル化合物とフェニルアセチレンの光照
射下におけるアルキニル化反応では、光照射によって α 位 C−ハロゲン結合を均等開裂
することによって α 位にラジカルが生じ、これが末端アルキンと反応することでアル
キニル化が進行する(Scheme 13a)11a)。この反応は、ラジカルとの反応性が低いエス
テルとアミドに基質は限られている。唯一、ケトンでの反応例は安田、馬場らによっ
7
第一章 本論 第一節
て報告されているが、毒性の高いスズ求核剤と紫外線照射が必要である(Scheme 13b)
。
11b)
一般に、α-ハロカルボニル化合物にアセチリドを求核剤として反応させた場合は、
カルボニル基への付加反応や α 水素の脱プロトン化が併発することが知られている
。
12)
例えば、α-ハロケトン 42 とアセチリド求核剤との反応では、カルボニル基が求核攻撃
を受け、生じたアルコキシド O が C−ハロゲン結合と SNi 反応することでエポキシド 43
が生成する (Scheme 14)。従って、カルボニル化合物の α 位アルキニル化反応では中性
条件および求核力の高いアセチリドを用いない反応設計が求められる。
このような背景のもと、遷移金属触媒を用いた α-ハロカルボニル化合物とアルキニ
ル求核剤との反応も報告されている(Scheme 15)13)。この反応は、α-ハロカルボニル化
合物 44 の Pd への酸化的付加によって生じた Pd エノラート P とアルキニル求核剤 45
とのトランスメタル化、続く還元的脱離によって α-アルキニルカルボニル化合物 46 が
生成する。この反応では中性条件にてトランスメタル化が進行するアルキニルスズや
強い求核性を持たないホウ素試薬を用いることでカルボニル基への付加反応や α 水素
の脱プロトン化を抑制している。しかしながら、ホモカップリング体*1 が副生する点
や、基質として α-ハロケトンの適用ができないことが、未だ課題として残されてい
る。
8
第一章 本論 第一節
そこで、著者は、脱炭酸型カップリング反応がケトンの α 位アルキニル化に有効な
手法になると考えた(Scheme 16a)。すなわちプロピオール酸エステル 48 の α 位 C−O 結
合の Pd 触媒への酸化的付加が進行すれば、Pd エノラート R が生成し、続く脱炭酸と
還元的脱離によって α-アルキニルケトン 49 が得られると想定した。 ...