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3,4-エポキシアミンの触媒的位置選択的分子内アミノリシス反応の開発とその応用

栗山 佑世 東北大学

2021.03.25

概要

創薬研究において,有機合成化学は有用な活性および物性を示す化合物を獲得するための本質的技術として不可欠な役割を担ってきた.Newman らによる 2012 年の報告[1]によると,1981 年から 2010 年に FDA において承認された医薬品のうち,天然物の構造を基盤として合成された化合物が 19%,天然物から有機合成化学的に誘導体化された化合物が 28%,完全な人工合成化合物が 36%であり 80%以上が有機合成化学に基づく分子操作技術によって見出されている.したがって,有機合成化学におけるより高度な分子操作技術の進歩が,今後の創薬研究の発展につながると考えられる.

医薬品やその基となる天然物などの生物活性化合物には,極性官能基が配置したキラル構造単位を含むものが多く存在する.そのため,複数の不斉中心を効率よく構築する手法は,創薬研究を支援する基盤技術として切望され,数々の優れた方法論が開発されてきた.エポキシドの求核剤による位置選択的開環反応はそのうちの一つであり,多様なヘテロ原子求核剤による位置選択的な開環反応の実現を目指して膨大な研究が蓄積されてきた.その中でも,アミンを求核剤とするアミノリシス反応は,アルカロイド類をはじめとするキラル含窒素化合物の合成において,強力な方法論となることが期待される.しかし,その触媒反応は,今なお挑戦的な課題となっている.一般的に,エポキシドを温和な条件下で活性化して所望の位置での開環反応を惹起するために, Lewis 酸または Brønsted 酸を添加する方法が採られているが,アミンを求核剤とする場合はアミン自身の塩基性によって添加剤が不活性化を受けてしまう.このような背景のもと,2014 年に山本らは 2,3-エポキシアルコールや 2,3-エポキシスルホンアミドを基質に,W(OEt)6 を Lewis 酸触媒に用いた初の触媒的な C3 位選択的求核付加反応を報告した (Scheme 0-1) [2].本反応はアルコールやフェノールのほかにアニリンを高収率・高選択的に導入できる.さらに,山本らは Ni 錯体を触媒として 3,4-エポキシアルコールの芳香族アミンによるC4 位選択的開環反応を報告した (Scheme 0-2) [3].しかし,いずれの反応においても脂肪族アミンを求核剤とする場合においてはC3 位の電子密度が低いシンナミルアルコールや 1,1-二置換アルケン由来のエポキシアルコールのような特殊な基質のみしか検討されていなかった.

山本らによる先駆的な報告に続いて,3,4-エポキシアルコールを基質とした C3位選択的な芳香族アミンの求核付加反応が報告されている.すなわち,Taylor らは 2018 年にジアリールボリン酸 11 を触媒としC3 位選択的な求核置換反応を報告した (Scheme 0-3) [4]. さらに,2018 年には Wang らが触媒にアリールボロン酸 16 を使用した C3 位選択的開環反応を報告した (Scheme 0-4) [4].これらの反応においても,芳香族アミンでは良好に反応が進行するのに対し,脂肪族アミンを用いる際には中程度または低収率であった.

ところで,当研究室においては上杉らによって 2,3-エポキシアルコールの触媒的な位置選択的開環反応が開発され,アミノリシスについても検討が行われた (Scheme 0-5) [5].すなわち,種々の 2,3-エポキシアルコールに対して,アミン・アルコール求核剤共存下,5–20 mol% の Eu(OTf)3 と DTBMP (求核剤がアミンの場合は不要) を作用させると C2 位よりも C3 位優先的に求核剤が付加する反応である.本反応は,基質として一級アルコールだけでなく,一級アルコール保護体や二級アルコールにも適用可能である.さらに,活性化されていないエポキシアルコールへの脂肪族アミンの付加が高い位置選択性で進行することも見出されていた.

次いで上杉は,上述した Eu(OTf)3/DTBMP 触媒条件を 3,4-エポキシアルコールへ適用した (Scheme 0-6).すなわち,メタノールを溶媒量用い,良好な位置選択性で C4 位選択的メタノリシスが進行することを報告した.上杉は,ベンジルアミンおよび p-アニシジンを求核剤としたアミノリシスについても検討し,どちらの求核剤においても C4:C3 = 2:1 の位置選択性で対応する付加体が得られることを確認した (Scheme 0-7).

上杉は,上述の知見を活用して 3,4-エポキシアルコールのアミノリシス反応を統合失調症治療薬 (+)-nemonapride の合成に応用した(Scheme 0-8) [6].すなわち,エナンチオリッチな 3,4-エポキシアルコール 37 に対し,Eu(OTf)3 存在下ベンジルアミンを作用することで C4:C3 = 2.9:1 の位置選択性で 4-アミノ-1,3-ジオール 38 を優先して得た.さらに,一級水酸基選択的な活性化を鍵とした分子内 SN2反応を経て,二級水酸基の Ms 化により 3-ヒドロキシ-2-アルキルピロリジン誘導体 40 を合成した.その後,文献既知の方法に従い (+)-nemonapride (43) が 6工程,総収率 28%で合成された.

上述の合成は,エポキシドの位置選択的アミノリシスがピロリジンの簡便合成に適用できるという創薬化学的有用性の一端を示すものであった.しかしながら,ベンジルアミン導入における位置選択性が低いことが問題であった.

そこで著者は,3,4-エポキシアルコールから容易に合成可能な 3,4-エポキシアミンの分子内アミノリシスの可能性に興味を抱いた.本反応は 5-endo-tet 環化が進行すれば 3-ヒドロキシピロリジンを与え,4-exo-tet 環化が進行すればアゼチジンを与える. これらの複素環合成法の開発を目的として研究を行った (Scheme 0-9).

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参考文献

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