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都市近郊型広域合併農協における産地形成と販売戦略に関する研究

田熊 重利 東京農業大学

2021.09.24

概要

研究背景および問題意識
現在の農業の抱える諸問題には,食料自給率の低下,農業の担い手不足,中山間地域の後退あるいは衰退,農業,農村の多面的機能の低下の大きく 4 つの局面が考えられる。それら諸問題において,重要な役割を担う農業協同組合(以下 JA)の組織や事業体制はどうあるべきかについての検討が必要である。

現在の JA の諸課題のうち,広域合併についてみると,全国の単位 JA 数は戦後発足時 12,050 組合であったが 2001 年には 1,347 組合,2019 年では 634 組合と大規模・広域化しており,全国的に見ても1県 1JA や1県数 JA の広域合併を行っているという背景がある。このことで地域による単位 JA の指導面や販売面での個性の画一化が懸念される。JA 合併の一般論として「規模の経済」が挙げられ,これは財やサービスの生産過程に伴い,生産規模の拡大による費用の削減を目指したものである。

全国の JA グループでは 2014 年より,また多くの各単位 JA においても「JA の創造的自己改革」として「農業者所得の増大」,「農業生産の拡大」,「地域の活性化」を基本目標として掲げており,現在も進行中である。また,2015 年農協法の改正では「農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない。」(第 7 条 2 項)との規定が加えられた。

ただし,「農業所得の増大」を命題として掲げることに関しては,農業の協同組合であるJA がこれまでの協同組合の非営利規程から新自由主義への方向転換であるとの批判もある。

加えて,都市型,都市近郊型 JA における事業収益として多くの比率を占める黒字部門である信用事業(金融業務)や共済事業(保険業務)についても今後の見通しが不透明な状況であり,農業者の所得の増大を目標に置いた販売事業を展開していく必要性が高まっていると考えられる。

こうした背景から,筆者は,都市近郊における広域合併 JA においても,特定の農産物の生産が特定地域に集中する過程を示す概念である「産地形成」並びに農産物の販売事業のための「販売戦略」の視点から農業者所得の増大をはじめとする JA グループにおける三つの自己改革基本目標の達成をなしえないかと問題を提議した。

ただし,都市型 JA においては「産地形成をなしえない JA」ということや販売戦略において重要な役割を担う「農産物ブランド化」の取り組みが製品差別化を見出しにくいといった先行研究があり,その困難性が指摘されている。

本研究では,都市近郊型 JA が広域合併を背景として「産地形成」と「販売戦略」をなしえるのではないかという問題意識を持ち,都市近郊 JA による事例の現地調査や実態分析によってそれを実証的に解明することを主な目的とした。

第1章 序論―研究の目的と方法
本研究では,モデル分析としての都市近郊の広域合併 JA に着目して,①都市近郊型 JAの広域合併が,産地形成型 JA になるか(第 2 章)。②都市近郊合併 JA が産地の独自性,継続性をどう果たすか(第 3 章)。③JA による農産物ブランド化は製品差別化が可能であるか(第 4 章)(第 5 章)という 3 点を目的とする。

研究方法としては,各章において先行研究に基づく理論を適用し,事例地域の現地調査による資料収取,ヒアリング結果をふまえた実態分析により課題を解明していく。

この方法を採用する理由としては,これまでの農協論では,優れた理論や見解が展開され てきたが,それらは実態調査を行ったうえで検証する実証研究が不十分であったことにある。

また,事例地区,事例 JA を都市近郊型 JA とした理由は,都市に近い利点を生かした多様な販売活動が見られる点やJA として先進的な取り組みが実施されていると考えらえたためである。

本研究の課題と対象事例に関して,第 2 章では広域合併 JA における産地形成の可能性,方向性の解明(目的①)のため,埼玉県東部地区 4JA を取り上げた。第 3 章では広域合併 JA における梨の産地形成,販売組織と販売戦略の役割の解明(目的②)のため多様な梨の販売形態が併存する埼玉県東部地区 4JA のうちの JA 南彩を取り上げた。

第 4 章では,JA 販売事業における製品差別化戦略を取り上げ,機能性表示食品の役割,効果の検証(目的③)を行った。事例対象として温州みかんで届出を行った静岡県 JA みっかび(農村型未合併 JA)をはじめとする静岡県 6JA(農村型未合併 JA,農村型広域型合併 JA)および静岡県経済連とした。また,りんご「ふじ」で届け出した青森県 JA つがる弘前(農村型広域合併 JA)を事例対象とした。続く第 5 章では,広域合併 JA における米の製品差別化戦略の可能性,方向性の解明(目的③)のため,米のブランド化戦略に取り組む埼玉県東部地区 2JA(JA 南彩,JA 埼玉みずほ)を事例対象地区とした。

第2章 「都市近郊型農協の広域合併における産地形成の課題―埼玉県東部地区を事例として―」
12 市 2 町におよぶ埼玉県東部地区 4JA は,2017 年度に「合併協議会」の設立の発表がなされるなど,合併のモデルとしても適しており,また,都市近郊のため産地化すれば農産物の販売がより活発になると思われるため事例地域とした。本章では,将来の合併をシミュレーションし,それぞれの歴史と現状,地域特性を踏まえた上で主に販売面から見た JA の組織についての検証を行ったものである。

当該地域が都市近郊の広域合併 JA として,どう農業振興していくか,先行研究から都市近郊 JA の広域合併は産地形成をなしえない「普通の農協の成立」にとどまるのか,また,広域合併後にネットワークの形成と地域特性の存在を示した運営および強固な結束としての集団のメリットが展開できるかを検討した。

ディスクロージャー誌や各単位 JA の聞き取り調査をもとに検証した結果,第一に「産地形成」について,4JA のデータから特色となる基幹的販売品目が抽出でき主産地の分化が可能になること,4JA それぞれの得意な農産物の品目が的確に分かれること,産地としての優位性を明らかにした。加えて,第二に合併後もそれぞれの特色を失うことなく,持続させることで販売額の増加をもたらすためには,広域合併を前提にしたネットワーク強化が重要であることが示唆された。

第3章 「都市近郊広域合併農協における梨産地の継続性について-埼玉県南彩農協梨販売を事例として-」
本章では,JA の販売事業による産地の在り方について都市近郊型の広域合併 JA の梨販売を事例に検討した。対象を埼玉県の JA 南彩の梨販売について聞き取り調査を中心として文献やデータをもとに研究を実施した。JA 南彩は,梨の産地であり埼玉県でも有数の果実経営体(県 803 経営体中 373)を誇るが,近年は高齢化および後継者不足が影響し経営体は 20 年前の 3 分の 1 にまで減少している。また,梨の新規就農者があっても JA による共販でなく直売中心の傾向,いわゆる「共販離れ」が課題となっている。

課題の設定として 1 点目に管内 27 の出荷組合の性格を理解し,その優位性を分析する新しい「棲み分け」理論を提議する。それは出荷時期の相違による「棲み分け」(麻野:1983)と異なる販売形態の相違によるものである。2 点目は JA の共販・市場出荷は産地形成のための手段となるかを事例 JA から検証する。梨販売事業の販売の在り方を提議し,継続性を目的とする。

その結果,産地の歴史的な背景や地域の特徴による JA 南彩管内の出荷組合の販売方法のタイプ分けにより,JA の販売事業における市場出荷が産地形成に果たす役割が明確になった。加えて,JA 出荷手数料の差引額がそれほど高額ではなく,むしろ光センサーの使用やパッケージによる地域ブランドとして,また交流の場としての選果場の活用は JA の指導事業とも把握できることが明らかになった。

第4章「農産物による機能性表示食品を製品差別化戦略とする一考察-届出を行った JA の農産物を事例として-」
JA の自己改革中の「農業者所得の増加」を実現するために農産物の販売と差別化の手段である「農産物ブランド化」の作出は重要である。この章では,機能性食品の JA 農産物届出に焦点を当てて,温州みかんの静岡県 JA みっかびと静岡県経済連,りんご「ふじ」の青森県 JA つがる弘前で調査を行った。

2015 年 4 月に開始された機能性表示食品は新規に開発・作出された製品ではなく,ある一定の地位を確立している農産物も届出や認証により,新しくブランド化されるという点から異色の製品戦略のひとつといえる。機能性表示食品届出農産物もいわゆる一時的なブランド化製品に終わることなく農業者の恒常的な所得増大を果たす持続的・安定的な製品となるためには製品差別化を達成できるブランド化農産物となることが重要である。

先行研究から①識別の手段②信頼の印③独自の価値といった役割を製品差別化のための 枠組みとして検証を行った。その結果,第一に,消費者へ「識別」するために機能性届出を した製品がこれまでのJA 独自の組織的な管理法をベースとする機能性表示食品届出により,ブランド力の強化に結び付いた側面を見出すことができ,それが製品差別化のための「識別」の機能として把握されたことである。二点目には消費者への「信頼」では機能性表示食品届 出を出発点とした JA としての役割がそれにあたり,JA のマネジメント機能が「信頼の印」としてのブランドの確立に貢献したことが挙げられる。

第5章 都市近郊型広域合併農協の組織力効果発揮のための農産物ブランド化,製品差化に関する一考察―埼玉県東部地区 2 農協の県産ブランド米を事例として―
本章では,協同組合特有の「組織力効果発揮のための経済」を合併のメリットとし,埼玉県東部地区の異なった郡同士の 2JA である,JA 埼玉みずほと JA 南彩の合併を想定して 2014 年より販売開始された県産ブランド米の「彩のきずな」の 2JA の販売開始以来の動向をブランド化戦略として導けるかについて,2JA の実地調査をもとに「想起集合」,「プラットフォーム戦略」の枠組みを援用して検証した。その結果,一点目に,2JA の米の月別取扱量から,埼玉県の方針である 3 品種への集約は,想起集合の観点から数のサイズには適合しているが,JA 南彩のデータから「彩の」という共通のネーミングの品種が彩のきずなの普及の鈍化に影響している可能性があることを示したことである。

二点目に,米粉や飼料米の近年の取り扱いデータから 2JA は,米粉の取扱量が増加していることが特徴であり,そのことにより彩のきずなの食感の特徴から米粉としての品種名の表示によって食用へのブランドの拡張の手段として活用方法があること,また管内の学校給食や学校農場の活用などから,JA が地域への普及拡大のための中間組織体として,プラットフォーム戦略を推進することによって,彩のきずなのブランド化に貢献できる可能性があることが示唆された。

終章 結論
本研究の新たな知見として都市近郊のJA が広域合併を背景として農業者所得の増大の可能性やその手段を提示した。それは,都市近郊型 JA のネットワークをふまえた産地形成と販売戦略である。

先行研究における規模の経済による広域合併論などに加えて,都市近郊 JA の実証研究を踏まえた個別の産地の特徴を活かした「新しい産地棲み分け論」の考え方を提示した。

「農業者所得の増大」という目的を達成するためには,合併 JA が新自由主義的な発想ではなく,JA の協同組合の本質としての組織特性を活用した産地形成と販売戦略に取り組むことが一層重要となることが示唆された。

本研究の過程で新たに解明すべき論点もいくつか確認され,残された課題もある。これらは今後の研究課題としてしっかり解明していくことにしたいと考える。

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参考文献

北川太一(2020)地域に根差した協同組合の実践とそれをえる理論的枠組み.協同組合研究 40-1.pp11-16.

魏 台錫 (2002)JA の販売事業における合併効果発揮のメカニズムと効果発揮のための課題.農林業問題研究 38-3.pp101-113.

両角和夫(2019)JA 合併の問題と1県1JA の課題-ネットワーク型 JA 論の視点から- 農業研究日本農業研究所研究報告 32.pp205-266.

田代洋一(2018)JA 改革と平成合併.筑波書房.pp11-12.

荒幡克己(1998)農産物市場における製品差別化に関する一考察 フードシステム研究 5-1 .pp7-14.

守口 剛(1989)店舗内におけるブランド選択過程 田島義博・青木幸弘編著 店頭研究と消費者行動分析.誠文堂新光社.pp259-265.

李 哉泫 (2013)農産物の地域ブランドの役割とマネジメント フードシステム研究 20- 2.pp135-138.

岸 康彦(2019)歴史的,制度的にみた問題と課題 JA 改革の「失われた 16 年」 公益財団法人日本農業研究所編 JA をめぐる問題と改革の課題所収.pp7-25.

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