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農協の存在意義と意思決定・ガバナンス構造の研究

小賀坂 行也 東北大学

2020.02.29

概要

1.序論
農業協同組合(以下、農協と略称)は、終戦直後の 1947 年に農業協同組合法(以下、農協法と略称)が施行されて発足した農業者の組織である。農協法が制定された当時と現在では、農協を取り巻く外部環境も農協の内部組織も大きく変化している。それに加えて農協は近年、国からの要請として農協の自己改革を求められており、2016 年には中央会制度が廃止される等の農協法が改正され、農協発足以来の大改革が行われた。

このような変化のなかで、農協の存在意義はどこにあるのであろうか。農業者が高齢化し兼業農家が組合員の太宗を占めている現状において、農協の基盤である地域農業の将来展望とは、認定農業者のみならず高齢専業農家や兼業農家、自給的農家などの多様な農業者を育成し、地域住民の理解を得ながら、地域農業を維持発展させていくことに他ならない。もちろん昨今の厳しい農業情勢のなかで農協は、競争力のある認定農業者や農業法人を支援する営農経済事業を行っていくことも必要ではあるが、彼らは組合員の一部に過ぎず、組合員一人一票という平等の議決権のもとで、競争力の強化や効率の追求は決して容易なことではない。

また、近年の厳しい金融環境のもとで農協経営の収益構造は大きく変貌してきており、従来の信用事業と共済事業で獲得した収益で営農経済事業を運営する構図が成立し難くなっている。このため 1990 年代以降に農協の再編が加速度的に進み、県域規模での広域合併をする事例も増えてきている。一般的に、組織規模が大きくなるに伴い組織の意思決定が円滑でなくなることはよく観察されることであるが、後述するように農協も例外ではない。

このように今日の農協は多様な組合員を抱えながらミッションの遂行に必要な収益の確保が求められており、そこでは農協のトップマネジメントや意思決定が重要性を増すとともに、どのようなガバナンス構造が適切なのかが問われている。

2.先行研究の整理と研究課題の設定
協同組合論について、戦後から 1970 年代までは農協のあり方や今後の方向に関する議論がされた。この時期には、多くの研究がマルクス経済学の枠組みで進められている。1970 年代には、協同組合論は多様な展開を示すようになり、1980 年代から計量経済学的分析が行われるようになった。

また、1970 年代前半には、地域協同組合化論争が始まる。地域協同組合化の論点が出てくるのは、正組合員である農業者が減少していくのに対して、准組合員である地域住民の数が増加していき、農業協同組合が農業者のための組織であるか問われるようになったためである。今後の農協は、これまでどおりに兼業農業者も含めた農業者を主体とするので良いという意見や、制度上も地域協同組合化して、地域住民も正組合員として意思反映させていくべきだという意見がある。これまでの農協を取り巻く環境の変化や現状を踏まえると、地域住民も含めた地域協同組合として社会的な責務を果たしていくという方向性が正しいと考えるが、その中でも農業協同組合として持続可能な地域農業を実現していくには、兼業農家も含めた多様な担い手に対して、様々な農業支援のアプローチをしていく必要があるだろう。こういう組織を実現していくには、農協経営の持続性が求められトップマネジメントや意思決定がより需要になってくる。

したがって、本研究では、農協の個別事例をもとに農協の存在意義について考察する。また、農協の存在意義を十分に発揮するために必要とされる意思決定やガバナンスについて、ガバナンス構造の整理を行い、長所及び短所を明確にした上で、今後の農協のあるべきガバナンスに対する示唆を与えることを目的とする。

3.農協の存在意義と意思決定:仙台農協の取組を事例に
東日本大震災の対応に関する事例分析から、非常事態には農協の存在意義がより明確になることが分かった。被災した農業者を支援するために意向調査を最優先として実施し、多くの農業者が営農再開を希望している意向を把握することができた。この意向をもとにその後の支援策に繋げることが可能になった。地域住民に対しては直売所を起点とした迅速な食料供給機能を担った。こうしたことから、農協の存在意義は、地域住民への食料供給も含めて地域農業にあると言えるだろう。

その後の震災復興の過程では、地域の担い手として位置付けた集落営農組織の法人化に際して、農協出資の支援策を打ち出した。2018 年には核となる集落営農組織が継続できない集落に対応するために、農協の子会社型の出資法人を設立している。こうした策を講じながら地域農業の維持発展を見据えている。このように農協は平常時でも地域農業に対する役割を求められている。

子会社法人を設立した事例からは、昨今の同業他社との厳しい競合の中で、多様化する組合員、利用者のニーズに答えるために、より専門性を高め、迅速な意思決定を行うために組織体制を改めており、地域社会に必要とされる組織としてその存在意義を高めるための選択を行っている。

中期経営計画策定の取組からは、職員の意見を農協経営に反映していくというボトムアップの仕組みが働いていることが分かった。より高度な経営を行うためには、トップマネジメントによるトップダウンが大事であるが、その一方で現場の職員からのボトムアップもまた重要である。

4.理事会制度と経営管理委員会制度の比較分析
農協のガバンナンス体制として、従来の理事会制度と経営管理委員会制度という2つがあ る。農協経営における意思決定機能は、組合員の意思を農協経営へ反映するという基本事項 に関する意思決定と監督機能と日常業務に関する意思決定と業務執行機能の 2 つが存在する。従来の理事会制度ではこの 2 つの機能を担うが、経営管理委員会制度では、前者の機能を経営管理委員会、後者を理事会が担うようにそれぞれの機能を機関として分化させたものである。経営管理委員会制度によって実務精通者による業務執行体制の強化と機動的な意思決定が可能となる。しかしその実態として、経営管理委員会制度を未だ導入している農協は少ない。経営管理委員会制度を導入している農協に地域性が見られるのは、行政や連合会による指導とその地域の農業特性に起因する農業者の意識によると思料される。

5.農協のガバナンス構造と適切な運営体制
仙台農協が行った経営の健全性確保が求められる規模の農協の実態調査においては、経営管理委員会制度の導入事例が少ないだけでなく、理事会制の農協の過半において代表権者に実務精通者が不在という危機的な状況であることが明らかになった。不祥事の未然防止のために内部牽制機能の役割が求められる管理総務部門においても、担当常務が不在なだけでなく、管轄する組合長、副組合長・専務が実務精通者ではない、いわば管理総務部門を実務精通者が管轄していない農協も存在しており、早急なガバナンスの改善が必要である。

個別調査の事例のうち、とぴあ浜松農協と越智今治農協の事例から、経営管理委員会制度の導入が機動的な意思決定に繋がっていないことが明らかになった。このことは、ガバナンス体制を検討する動機に影響している。とぴあ浜松農協はトップダウンによる意思決定が強い組織風土である。一方、越智今治農協には課題解決の手法として職員によるプロジェクトチームをつくりボトムアップで意思を反映させようという組織風土がある。こうした組織風土の違いも違いを生じている要因と思われる。

仙台農協と越智今治農協の事例からは、制度の違いはあっても役員会が定期的に開催されていることから意思決定の機動性には大差はないことが分かる。しかし、経営管理委員会制度では、2 つの意思決定を分化できるために議案の協議に専念でき、意思決定はしやすいと思料される。その一方で、理事会制度には、農業者の代表として地域性を経営に反映できるという強みがあり、仙台農協では地域の多様な組合員の意見を経営に反映することを重視していることが伺える。

6.結論
本研究では農協の存在意義は地域農業にあることを明らかにしてきた。

東日本大震災のように、農地が壊滅的に破壊され、多くの農業者の命が失われたときでも、仙台農協は多くの農業者は農業を再開したいという意向を直接把握し、国や行政に対して営農再開の支援を求め、被災した農業者に寄り添ってきた。地域農業の中核となっていた農業法人が震災の犠牲になり地域農業が継続できなくなった地域では、集落営農組織を担い手と位置付けて様々な支援を行ってきた。これまでの被災地の農業復興に農協が果たしてきた役割は大きい。これこそが農協の存在意義であると言えよう。

また、農協は農業者がどのような農産物をどの地域でどれくらい生産しているのかを把握している。そのことによって、被災直後でさえも農協物直売所を中心に食料供給が可能となったのである。まさに地域農業の実態を把握している農協の強みである。

このように、非常事態の際には農協の存在意義はより明確になるが、平常時であっても農協に求められている役割に変わりはない。食料供給という出口も含めて地域農業を維持発展させていくことが農協の存在意義である。

また、農協の存在意義を発揮するには適切な意思決定を行うガバンナンス体制の構築が必要であり、経営の高度化と内部牽制機能の強化のためには経営者である役員は実務精通でなければ対応できない状況になってきている。その対応策として、経営管理委員会制度が農協法で選択できるようになったが、必要に迫られていないため、その導入数は多くない。組合員は、経営管理委員会制度の長所である機動的な理事会の開催による迅速な意思決定に理解は示すものの、農協経営から締め出されるという疎外感から抵抗を感じることも多い。理事会制度であれ、経営管理委員会制度であれ、農協の基本的な事項の意思決定は組合員の代表者が行うことは共通であり、両制度のもつ特色を十分に理解されていないことが、経営管理委員会制度が普及しない大きな要因と思料される。理事会制度には、地域性を農協経営に反映できるという強みがある。組合員がそれぞれの制度を十分に理解したうえで、自らの農協経営の満足度をより高められるガバナンス制度の選択をするべきであろう。

また、現場の職員の意見を農協経営の意思決定に反映させるためには、プロジェクトチームを作るという手法がある。主体性のあるガバナンスにするには、実務精通の役員によるトップダウンの意思決定と自主的な職員によるボトムアップの意見反映が農協経営の両輪となるようなガバンナンス体制を構築することが望ましい。

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