日本における血液浄化を要する急性腎障害患者の疫学
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 宮本佳尚
本研究は Diagnosis Procedure Combination (DPC)データベースを活用して、日本におけ
る血液浄化療法を要する急性腎障害(dialysis-requiring acute kidney injury; AKI-D)の
記述疫学及び、敗⾎症性 AKI-D に対する造影剤使⽤が予後と関連するか?を明らかにす
る研究を行い、下記の結果を得ている。
1. 2007-2016 年の間、AKI-D 患者の院内死亡が 2007 年の 44.9%から 2016 年の 36.1%と
低下したことを明らかにした。同期間の AKI-D 患者の背景因子は高齢化、併存疾患の増
加、背景疾患における敗血症の増加を認めた。こうした背景の変化を調整した上での「調
整後死亡」も低下しており(2007 年を基準として、2016 年のオッズ比 0.66)
、診療の質
の向上の可能性あるいは腎代替療法の適応の変化が示唆された。
2. ヨード造影剤使用とその後の AKI 発症の関連は指摘されていたが、その因果関係は明
らかでなく、近年ヨード造影剤と急性腎障害の関連は交絡因子による部分が大きいことが
指摘されていた。一方ヨード造影剤の使用の有無に関するランダム化比較試験は倫理的な
理由から実施が困難である。本研究では、傾向スコア・マッチングによる交絡調整を行
い、AKI 患者においてもヨード造影剤が短期死亡・退院時透析依存といったアウトカムと
の関連が見られなかったことを明らかにした。
以上、本論文では DPC データベースを有効に活用することにより、AKI に対する診療プ
ラクティス・予後の変化を明らかにし、さらにランダム化比較試験の施行が困難な対象に
おける薬剤の評価を行なった。こうした解析結果は、観察研究特有の限界点はあるもの
の、主に集中治療領域の診療ガイドラインへの反映や今後の研究の発展に重要な貢献をな
すと考えられる。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。