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乳管上皮細胞の癌化のマーカーとしての5hmcの解析

伊藤, 勅子 信州大学

2021.02.22

概要

1.研究開始当初の背景
本邦での乳癌罹患率は上昇を続けており、2014 年の罹患数は 86,000 人以上と推測された。診断時に進行癌となっている症例も少なくない一方で、臨床病期 0 期の非浸潤癌(上皮内癌)も増加しており、新規発見乳癌の約 1 割の 8,000 例が非浸潤癌であった。しかし、このように非常に早期の乳癌が増えているにも関わらず、本邦の乳癌死亡率は増加が続いていることから、近年発見が増加している非浸潤癌の中には、臨床的に顕性化しない可能性のある癌が多く含まれているのではないか、すなわち過剰診断となっている可能性が議論され始めていた。非浸潤癌の病理組織診断では、病理診断専門医の間でも癌か否かの診断が分かれることもあり、経験を積んだ乳腺病理専門医の診断が必要になることが時に経験される。しかし、どの医療機関にも乳腺に精通した病理専門医が常勤しているわけではないため、乳腺を専門とする病理診断医と乳腺が専門でない医師の診断が一致しないことも経験された。そのため、鑑別診断を行う際に、病理診断の補助となる客観的かつ普遍的なマーカーがあれば、その有用性は高いと考えられた。

2.研究の目的
DNA 脱メチル化の中間代謝産物として 5-ヒドロメチルシトシン(5hmC)が合成される。複数の臓器で、正常の上皮細胞では核で発現が認められる 5hmC の発現が、上皮細胞の癌化に伴い著明に低下することが報告されている(①②③④)。そこで、乳腺組織において 5hmc の発現が、正常乳管上皮細胞と乳癌細胞とで異なるか解析を行い、5hmC が乳管上皮細胞の癌化の指標となり得るか解析する。臨床乳癌の病理組織診断において、非癌細胞と癌細胞とを鑑別するのに有用なマーカーは未だ開発されていない。今後増加が予測される非浸潤癌の診断に有用な客観的マーカーが確立できれば、病理組織診断における過剰診断、過少診断を減らすことが可能となり、国民にとって福音となると同時に医療費の削減にも寄与できると考えられ、その意義は大きいと考えられる。

3.研究の方法
【対象】2009 年~2013 年に信州大学医学部附属病院で乳癌の手術を施行した症例から浸潤径1cm以上の浸潤癌 70 例(全例女性)を任意で抽出し、手術検体のパラフィン包埋標本から腫瘍部と非腫瘍部を抽出し、連続切片を作成した。研究開始に際しては、信州大学医学部医倫理委員会で承認を得た(試験番号 4091)。

【方法】5hmc の発現は、Anti-5-hydroxymethylcytosine (5-hmC) antibody [RM236](Abcam)を用いて、免疫染色法で評価した。陽性コントロールとして色素細胞性母斑を用い、陰性コントロールとして悪性黒色腫を用いた(Figure 1)(④⑤)。5hmc の正常乳腺組織の乳管上皮細胞と浸潤部の乳癌細胞それぞれ 500 個の核のうち、5hmC 陽性の核の割合を定量的に評価した正常乳腺組織での 5hmC 発現と、年齢、閉経状況との関連を解析した。正常乳腺組織と乳癌浸潤部組織での 5hmC 発現を比較した。量的データの比較には Student-t 検定、質的データの比較には Mann- Whitney 検定を用い、p < 0.05 を有意差ありとした。エストロゲン受容体(ER)、上皮細胞増殖因子受容体 2 型(HER2)、Ki67 の免疫染色はそれぞれRoche Tissue Diagnostic の抗体を用いて行った。

4.研究成果
(1) 解析した症例の臨床病理学的所見 (Table 1)
解析した症例は、全例女性で、平均年齢 60.3±12.6 歳。閉経前 23 例(32.9%)、閉経後 47 例(67.1%)。浸潤径は 2.22 ± 1.97 cm、組織型は、浸潤性乳管癌 62 例(88.5%)、浸潤性小葉癌 2例(2.9%)、特殊型 6 例(8.6%)。リンパ管侵襲は、ly0 33 例(47.1%)、ly1 以上 37 例(52.9%)、静脈侵襲は、v0 53 例(75.7%)、v1 以上 17 例(24.3%)。リンパ節転移陰性 47 例(67.1%)、陽性 23 例(32.9%)、浸潤性乳管癌の組織学的悪性度は、Histological grade1 8 例(12.9%)、grade2 34 例(54.9%)、grade3 20 例(32.2%)。ER 陰性 29 例(41.4%)、score1 2 例(2.9%)、score2 0 例(0%)、score3 39 例(55.7%)、HER2 は、score0 19 例(32.9%)、score1 12 例(27.1%)、score2 16 例(22.9%)、score3 23 例(17.1%)。Subtype は、luminal type 24 例(34.3%)、luminal HER2 type 18 例(25.7%)、HER2 type 12 例(17.1%)、triple negative type 16 例(22.9%)であった。

(2) 非癌部乳腺組織の 5hmc 発現と患者背景因子との関連 (Figure 2)
非癌部乳腺組織での 5hmC 発現は、年齢に関わらず一様に高く、乳管上皮細胞の ER 陽性率と正の相関が認められた。

(3)非癌部乳腺組織と乳癌組織の 5hmC 発現の比較 (Figure 3)
5hmC の陽性率は、全症例で非癌部乳腺組織に比べ、乳癌組織で低下しており、非癌部乳腺組織での 5hmC 陽性率 34.4 ± 25.7%であったのに対し、乳癌浸潤部では 0.8± 3.1%であり、乳癌浸潤部では有意に低下していた(p<0.01)。

(4)閉経状況と非癌部乳腺組織および乳癌組織での 5hmC 発現の解析 (Figure 4)
5hmC 陽性率は、閉経前症例(n = 23)の非癌部乳腺組織 32.2 ± 22.5%、乳癌浸潤部 0.7 ± 3.5%、閉経後症例(n = 47)の非癌部乳腺組織 33.4 ± 26.5%、乳癌浸潤部 0.76 ± 2.0%での 5hmC 陽性率 32.2 ± 22.5%であったのに対し、乳癌浸潤部では 0.7 ± 1.0%と、閉経状況に関わらず、乳癌浸潤部では有意に低下していた(p < 0.01)。

(5)乳癌の subtype と 5hmc 発現の解析 (Figure 5A, B)
5hmC 陽性率は、luminal type (n = 24)の非癌部乳腺組織 26.1 ± 15.5%、乳癌浸潤部 0.5 ± 2.5%、luminal-HER2 type (n = 18)の非癌部乳腺組織 42.4 ± 27.5%、乳癌浸潤部 0.6 ± 5.3%、 HER2 type (n = 12)の非癌部乳腺組織 35.3 ± 25.3%、乳癌浸潤部 0.5 ± 1.3%、triple negative type (n = 16)の非癌部乳腺組織 38.2 ± 20.2%、乳癌浸潤部 0.6 ± 1.2%と、suptype に関わらず、5hmC 発現は非癌部乳腺組織に比べ乳癌浸潤部では有意に低下していた(p < 0.01)。

(6)考察
正常乳管上皮においてER陽性率と5hmC陽性率は正相関することから正常乳管上皮細胞においては、DNA脱メチル化とERはいずれかが他方を制御している可能性が考えられる。一方、浸潤癌部における5hmC発現は、閉経状況や乳癌のsubtypeに代表される乳癌細胞の性質には依存せず、一様に癌細胞での低下が認められた。この結果から、DNA脱メチル化機構の異常が、乳管上皮細胞の癌化の要因の一つである可能性が示唆された。

さらに、今回の解析結果から、5hmC発現は閉経状況や乳癌のsubtypeによらず乳癌浸潤部の癌細胞で低下しており、DNA脱メチル化機構の異常が乳癌発生に関与している可能性が示唆され、 5hmCの発現低下が乳癌細胞のバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。5hmCは細胞の核に発現しており、免疫組織染色での評価は比較的容易である。5hmCの評価が、早期乳癌の客観的な病理組織診断の一助となる可能性が示唆される。

この論文で使われている画像

参考文献

① Yang H, Liu Y, Zhang JY, et al. Tumor development is associated with decrease of TET gene expression and 5-methylcytosine hydroxylation. Oncogene. 2013;32:663–66

② Haffner MC, Chaux A, Meeker AK, et al. Global 5-hydroxymethylcytosine content is significantly reduced in tissue stem/progenitor cell compartments and in human cancers. Oncotarget. 2011;2:627- 37

③ Uchiyama R, Uhara H, Uchiyama A, et al. 5-Hydroxymethylcytosine as a useful marker to differentiate between malignant melanomas and benign melanocytic nevi. J Dermatol Sci. 2014;73:161-3

④ Wielscher M, Liou W, Pulverer W, et al. Cytosine 5-Hydroxymethylation of the LZTS1 Gene Is Reduced in Breast Cancer. Transl Oncol. 2013;6:715-21

⑤ Mikoshiba Y, Ogawa E, Uchiyama R, et al. 5-Hydroxymethylcytosine is a useful marker to differentiate between dermatofibrosarcoma protuberans and dermatofibroma. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2016;30:130-1

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