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書き出し

英語研究室II

狩野 晃一 明治大学

2021.03.30

概要

英語研究室II
著者
雑誌名


ページ
発行年
その他のタイトル
URL

狩野 晃一
明治大学農学部研究報告
70
2
67-69
2021-03-30
English Studies II
http://hdl.handle.net/10291/21759

明治大学農学部研究報告

第70巻-第 2 号(2021)67 ~ 69

〔研究室紹介〕

英語研究室
English Studies 








Koichi KANO

本研究室では,中世英語文学および英語史を中心に

された Rolls Series 中の一巻です。先に述べた問題の

研究を行なっています。中世英語文学は,古英語期

原因は,おそらく後者,すなわち Wright の刊本にあ

( 5 ~ 11 世紀)および中英語期( 12 ~ 15 世紀)の約

るのではないかと私は踏んでいます。と言いますの

1000 年間をその範囲としています。また英語史は読

も,彼はその刊本の序文に,この作品に対して「この

んで字のごとく英語という言語の歴史を扱います。こ

12,000行に及ぶ無粋な詩行」とか「文学作品としての

れら二つの分野はそれぞれに独立しているものではな

価値は微塵もない」といった非常に厳しい評を与えて

く,互いになくてはならない存在です。

いるからです。確かに,少し後のチョーサー Chaucer

近年,とりわけ力を入れているのは次のテーマです。

(中世英文学最大の詩人で『カンタベリ物語』 The

13 世紀後期に英語で書かれた年代記の研究,古写本

Canterbury Tales を書いた)の大陸文藝文化を吸収し

とその言語の研究,そして中世英文学へのヨーロッパ

た高い芸術性に比べれば,見劣りはします。それに,

大陸文学の影響を探る研究です。ここでは現在取り組

実は Wright はケンブリッジ大学から『シェイクスピ

んでいる対象と,なぜこのような道に入り込んでしま

ア全集』を編集刊行するほどの人でしたから,詩とか

ったのかということに限ってお話ししてみたいと思い

文学とかいうものに対してのハードルがかなり高かっ

ます。

たのではないかと想像できます(さらに Hearne の校

13 世紀ヨーロッパにおいて,英語という言語は一

訂版に対しても「Harley 201写本の読みは彼の刊本を

辺境の俗語にすぎませんでした。俗語とは中世ヨーロ

はじめ参照したが,実際に写本を確認してみたらこれ

ッパ共通語として用いられていたラテン語に対する,

は信用ならないから,自分の目で確認しなおして夥し

諸地域で用いられていた言語 vernacular のことを指

い誤記リストを作ることになった」と,好意的とは程

します。その俗語で一国の年代記を書くということは

遠いコメントをしている)。彼のこういった言説には

珍しいと言えます。現在『ロバート・オヴ・グロス

大きな影響力があったようで,文学史などの中でこの

ターの年代記』The Chronicle of Robert of Gloucester

『年代記』が紹介されるときには,決まって「無批判

(c. 1290)という作品の言語,写本系統,典拠などの

に」この評が繰り返されてきたのでした。実際に丁寧

分野に関して研究を進めています。この研究を始めた

に読んでみますと,作者が詩作するにあたっての苦労

きっかけは,名前は知られている作品であるにも関わ

や工夫のあとがみられるのです。最後の出版から一世

らず,内容の吟味や言語や文学の研究対象となって来

紀以上経過していること, Wright による出版以降,

なかったのはなぜかという疑問でした。本作品の校訂

別の写本も発見されており,新たな校訂版が必要であ

版は現在まで 2 種類あります。最初のものは 1724 年

ること,この作品が利用している種々の原典にはジェ

のオックスフォードの学者で好古家 Thomas Hearne
・・
が出版した校訂版,最 新 の刊本は 1877 年,ケンブリ

フ リ ー ・ オ ヴ ・ モ ン マ ス GeoŠrey of Monmouth の
『ブリタニア列王史』 Historia Regum Britanniae を始

ッジ大学の学者 William Aldis Wright によって校訂

め,アーサー王伝説など,ヨーロッパ文学全般にとっ

― 67 ―

明治大学農学部研究報告

第70巻-第 2 号(2021)

ても重要な作品が含まれており,さらなる研究の広が

ていました。今でも鮮明に思い出しますが,ゼミ担当

りが期待できることなどを踏まえ,扱ってみる価値が

の先生が朗読をしてくださったときです。その響きに

あると思いました。

心が震えました。お高く止まったクイーンズ・イング

そこで,私が所属する「東京中世写本研究会」の実

リッシュでも,NY のビジネスマンが使いそうな英語

績ある手法を用いてテクスト・コーパスを構築し,研

でもなく,今まで習ったことのない種類の英語でし

究に役立てる計画を立てました。これはパラレル・テ

た。それもそのはず,イングランドの田舎の人びと

クストといって,ある作品の異なる写本の当該部分を

が,形式張らずゆったりと話す,あの話し方だったか

パラレル(並行)にして,年代,書写方言,自体の違

らです。つまりその綴りは方言音,地方の話し言葉を

い,筆写順序の違いを一目瞭然に示すものです。これ

書き表そうとした綴り方でした。そこから「英語の変

は非常に単純な方法ですが,効果が高い。従来の「編

種」 varieties of English/ Englishes に興味を持ち,文

集」されたテクストでは判然としない細かな異同を,

学と語学の間をゆらゆらと行ったり来たりしていまし

異なる写本でいちいち見比べることなく明らかにして

た。そのうちにどうしても英語の変種についてもっと

くれます。それぞれの写本に現れる特徴,写本伝播の

知りたくなり,先生に相談申し上げたところ,「君,

プロヴェナンス

様相,個々の写本の 来 歴 といった情報を含め,改

方言をやるなら英語史からだ」と言われ,大学院に入

めて総合的に考察されるならば,写本間の言語的な異

って本格的に始めることになりました。「英語史から

同のみならず,写本の関係性ならびに各写本の持つ

だ」と仰った先生は私の指導教授にはならず,中世英

(作成された)意義などが少なからず浮き彫りとなり,

文学の恩師,故河崎征俊先生の研究室を勧めてくださ

作品の読みに対する深化が期待されます。特にこの

って,いきなりチョーサー文学を読むことになったわ

『年代記』には,イングランドがイングランドたるべ

けです。これは,文献が読めなければ英語の歴史は辿

き精神,イングリッシュ・アイデンティティの萌芽と

れない,という単純にして最も強力な理由です。この

も受け取れる記述が散見され,筆写された箇所,加筆

流れで本当に良かったと,改めて思います。中世の言

や削除された箇所を特定し,あるいは改変された部分

語を扱うとき,必ず「書かれたもの」を相手にしなけ

などを写本間で比較するならば,当時の読者の求める

ればなりません。それ以外の言語資料は残されていな

ところや『年代記』を作らせた者,写した者の(個人

いのですから。残されているものを,いかに精度を上

的または共同体的な)声や文学的な嗜好やセンスも明

げて読み込むことができるか。これが文学研究を支え

らかになるに違いありません。文学的な価値に乏しい

ますが,語学研究ともなるのです。この両輪があって

という意見がある一方で,典拠とした『ブリタニア列

はじめて理解が深まる。そういうことを教わりまし

王史』,アーサー王伝説,聖者伝,特に South English

た。博士後期課程では古英語,初期中英語研究がご専

Legendary との関連は中世の翻訳理論やミメーシスの

門の故久保内端郎先生につき,写本研究の手ほどきを

観点からも非常に興味深く,より研究がなされても良

受けました。今私たちの手元にあるいわゆる印刷され

い分野であると思っています。

た作品(テクスト)の裏には,膨大な量の文献学的な

ところで,学部生の頃の私は中世英文学とか英語史

仕事の積み重ねがあることを知ると同時に,校訂版に

などにはそれほど惹かれていたわけではありませんで

よる「読み」には,句読点一つとっても編集者の意図

した。なんでもきっかけというものはあるものです。

が潜んでいて,作品および言語の真の解釈には写本研

3, 4 年 次 の ゼ ミ ナ ー ル で 19 世 紀 の 小 説 家 チ ャ ー ル

究が必要不可欠なのだと分かったのがこの頃でした。

ズ・ディケンズの小説を読んでいました。『デーヴィ

語形,語順,句読点に至るまでひとつひとつ蔑ろにし

ッド・コッパーフィールド』David Copperˆeld という

ない先生との精読が今の自分の研究の基礎となってい

作品でした。この作品には今まで見たこともないよう

ます。

な妙な綴り字が出てきて,どうやって読むのかと思っ
― 68 ―

このように私の研究生活の初期段階から,図らずし

英語研究室

て興味や分野の選択が,次々と有機的につながってい

く保って研究を進めることは,必ずしも即座の結果や

ったのは幸運であったように思います。一見余分なこ

多くの業績を生まないかもしれません。これからも時

とにまで興味が湧きがちですが,それを後から振り返

間がかかっても「じっくりとテクストに向き合い,丹

ってみると,なるべくしてなったようなところがあり

念に読み込む」地道な文献学的スタンスで,対象を深

ます。例えば,今まで中世英文学ではなく中世イタリ

く理解していきたいものです。担当する授業は語学

ア文学の翻訳書を 2 冊ほど出版しました。純粋な愉

(英語)のほかに文芸思潮があり,西洋の古典時代か

しみも入っています。英語だけやっている人からは,

ら近代までの文学伝統をある視点から眺める試みをし

専門以外のことをやってけしからん,となります。し

ています。ついつい自分の専門である中世に力を入れ

かし,一見関係がなさそうなイタリア文学も思いがけ

すぎてしまい,後の時代が駆け足になってしまいがち

ず色々なところで自分の専門とする英文学とも結びつ

です。ゼミナールでは中英語の抒情詩を昧読する予定

いてきます。そういうところが人間の思考や営みの面

でいます。中世ヨーロッパの豊穣な世界を少しでもお

白さで,深いところでつながっているのを見ると,歴

伝えできるよう努めてまいります。興味のある方はぜ

史文書には残っていない古の人々の精神的・知的交流

ひ研究室をお訪ねください。

が文学作品には現れうるのだと感心します。 ...

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