材料界面・表面と生体分子の相互作用分析

概要

令和 4 年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
材料界面・表面と生体分子の相互作用解析

Analysis on the interaction between biological molecules and material interface and surface
京都大学大学院エネルギー科学研究科エネルギー応用科学専攻
資源エネルギーシステム学分野
袴田 昌高
研究成果概要
ナノポーラス金（ナノメートルオーダの孔径・リガメント径を有する金、nanoporous gold, NPG）
の細胞挙動への影響が種々検討されている。異なる孔径を持つ NPG 培養基板が細胞接着と
分化に及ぼす影響を理解することを研究の目的とし、その一部として、京都大学化学研究所
スーパーコンピュータシステムを利用し、細胞接着斑 (focal adhesion, FA) の形成に関するモ
ンテカルロ (MC) シミュレーションを行った。
Cahn–Hilliard 式に基づき、NPG の多孔質構造のモデルを作成した。多孔質構造には 20
nm から 150 nm の均一な孔径を持たせた。細胞接着を担う膜タンパク質であるインテグリンの
クラスター化を、単一のインテグリンの活性化、単一のインテグリンの ECM への結合、インテグ
リン同士の結合の 3 つの反応に分けて考えた。6 × 6 µm2 の正方形のモデル領域を 100 × 100
の正方形グリッドに分割し、1000 個のインテグリンをランダムに配置して、インテグリンのクラス
ター化の MC シミュレーションを実施した。
NPG が単一のインテグリンの ECM への結合エネルギーにのみ影響する場合、クラスター化
したインテグリンの数は孔径の減少とともに減少した。また、FA サイズは孔径の減少とともに増
加する傾向があった。細胞接着は、FA の密度よりも FA のサイズに依存することが知られてい
る。したがって、孔径の細胞接着性への依存性を、NPG による ECM への結合エネルギーの変
化のみから説明することはできない。
一方、NPG がインテグリンの結合エネルギーと会合エネルギーの両方に影響を与えると仮
定した場合、FA の密度とサイズは孔径の減少とともに減少した。これは実験的な観察結果と一
致した。
その他の計算結果、実験結果、また先行研究との照合により、NPG 基板により誘起された
細胞外シグナルは、インテグリンのクラスタリングに関連するタリンとキンドリンといった特定の
細胞内タンパク質に伝達されていることが示唆された。 ...