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大学・研究所にある論文を検索できる 「腹膜炎敗血症モデルマウスにおける肺の生体防御能低下に対するサイトカイン投与による免疫制御療法の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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腹膜炎敗血症モデルマウスにおける肺の生体防御能低下に対するサイトカイン投与による免疫制御療法の検討

露嵜, 仁志 東京大学 DOI:10.15083/0002002478

2021.10.15

概要

敗血症(Sepsis)後に起きる免疫抑制は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因の一つである。本研究では回盲部結紮穿孔(cecal ligation and puncture; CLP)による腹膜炎後に緑膿菌による肺炎を引き起こすモデルマウスを用いて、肺胞マクロファージの機能評価とサイトカイン投与による肺胞マクロファージの機能の賦活化について検討した。

 敗血症中に免疫抑制が起こり、二次的にARDSへと進展する病態は集中治療領域でしばしば治療に難渋する病態であり、明確な治療法は未だ見つかっていない。Hotchkissらによって報告された、CLPによって腹膜炎による腹腔内の炎症を引き起こし、二次的に通常であれば重症肺炎にならない菌量の緑膿菌を投与することによって緑膿菌肺炎を引き起こすTwo hit mouse modelは敗血症に引き続くARDSの病態をよく反映したモデルである。Two hit mouse modelにおいて敗血症後に肺における免疫抑制状態がどのような機序で起きているかは未だ明らかになっていない。そこで今回我々は、肺において一次的な免疫機能を果たしている肺胞マクロファージに着目し、敗血症後の炎症状態において肺胞マクロファージの機能が低下し、それが肺における免疫抑制状態の原因となっている可能性について検討した。

 さらにIFNβとGranulocyte macrophage-colony stimulating factor(GM-CSF)という二種類のサイトカインに着目し、これらのサイトカインをTwo hit mouse modelに投与、すなわち敗血症中のマウスが二次的に肺炎になる前に予防的に投与することで肺胞マクロファージの機能を改善させ、免疫抑制状態を賦活化することで感染に対する防御能を改善するかどうか検討した。IFNβは皮下投与、GM-CSFは経気管内投与によって投与した。

 IFNβはリンパ球、マクロファージ、線維芽細胞、骨芽細胞などで産生されるtype1IFNに分類されるサイトカインであり、ウイルス感染症や病原体に対する防御効果、腫瘍増殖抑制作用や免疫抑制作用がある。近年BellinganらによってIFN-βをARDS患者に全身投与することで28日生存率が改善したと報告された。

 一方、GM-CSFは骨髄の前駆細胞の機能、生存、分化、増殖に重要な役割を果たすサイトカインとして報告され、肺胞マクロファージやⅡ型肺胞上皮細胞の増殖や機能、に重要な役割を果たしているとされている。更に、GM-CSFに対する自己抗体の発現によってGM-CSFの効果が制限されると肺胞マクロファージの機能異常を引き起こし、肺胞内のサーファクタントや蛋白質の蓄積によって肺胞蛋白症(Pulmonary alveolar proteinosis; PAP)という病態が起こることが解明されている。また、肺胞蛋白症では肺胞におけるガス交換機能の低下による呼吸不全が主な症状だが、同時に易感染状態になることが知られている。肺胞蛋白症の治療には全肺洗浄によって物理的に肺胞内に蓄積したサーファクタントを洗い流す手法が古典的に知られているが、近年GM-CSFの吸入療法が人において実用化されつつある。このようにGM-CSFは肺胞マクロファージの機能に重要な役割を果たしているサイトカインである。

 さて、Two hit modelマウスの肺胞マクロファージの貪食能に着目した検討の結果より、①肺炎後の肺胞洗浄液(BALF)中の細菌量がCLP群で対照群と比較して有意に多いこと、②一次的免疫防御能に重要な役割を果たす肺胞マクロファージの貪食能がCLP群では対照群と比較して有意に低下していること、③肺胞マクロファージにおいてCLP群では炎症性サイトカインIL-6やケモカインKC MCP1の産生能が低下していること、が示された。したがって、Two hit mouse modelにおける好中球の肺胞内への遊走機能不全、肺内の感染防御機能の低下、肺組織のARDS様変化、死亡率などの増大の原因として、第一に腹腔内の炎症によって、遠隔臓器である肺胞マクロファージの貪食能低下が起こっていると考えられた。そして第二に炎症性サイトカインIL-6の産生能やケモカインKC、MCP-1の産生能低下などの機能低下が起こり、肺内への好中球の流入を抑制することにつながり、結果として肺胞内での細菌の静菌作用の低下が引き起こされ、重症肺炎やARDSに至ることが示唆された。

 次にIFNβを肺炎前に一回投与することによって肺胞マクロファージそのものの貪食能が改善されることが示された。

 更に、GM-CSFに対する本検討の結果より、Two hit modelに対するGM-CSF気管内投与でもBALF中の細菌量がTwo hit群でSham群と比較して有意に多く、GM-CSF気管内投与によってSham群と同じ程度まで細菌量が改善したことから、GM-CSFの気管内投与によって肺における免疫抑制状態が改善していることが示された。

 肺胞マクロファージの表面抗原はCLPによる腹膜炎由来の炎症によってCD11c, Siglec-Fの発現量は有意に低下しており、肺胞マクロファージの成熟度が低下することによって炎症性サイトカインの放出能やケモカインの産生能が低下している可能性が示唆された。GM-CSFはCD11cの発現量を有意に改善しSiglec-Fについても改善する傾向が認められた。また、肺胞マクロファージの炎症性サイトカイン、ケモカインの産生能を改善させた

 以上より本研究では、腹腔内の炎症によって肺胞マクロファージの貪食能の抑制、炎症サイトカイン産生能やケモカイン分泌能の抑制が起きており、肺内の免疫防御能の低下につながっていることが確認された。更にIFNβとGM-CSFといったサイトカイン投与によって肺胞マクロファージの機能改善が改善され、腹膜炎による肺の免疫防御能抑制状態が賦活化された。IFNβやGM-CSFを手術や敗血症といった炎症が続いている状態に予防的に投与することによって、肺の免疫防御能を改善し、二次的に肺に感染が起こった際の重症化が防げることが示唆された。

参考文献

9. 謝辞

p. 59~60

p. 49~58

論文の内容の要旨

論文題目

腹膜炎敗血症モデルマウスにおける肺の生体防御能低下に対するサイトカイン投与による

免疫制御療法の検討

氏名 露嵜 仁志

要旨

敗血症(Sepsis)後に起きる免疫抑制は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因の一つである。

本研究では回盲部結紮穿孔(cecal ligation and puncture; CLP)による腹膜炎後に緑膿菌に

よる肺炎を引き起こすモデルマウスを用いて、肺胞マクロファージの機能評価とサイトカ

イン投与による肺胞マクロファージの機能の賦活化について検討した。

敗血症中に免疫抑制が起こり、二次的に ARDS へと進展する病態は集中治療領域でしば

しば治療に難渋する病態であり、明確な治療法は未だ見つかっていない。Hotchkiss らによ

って報告された、CLP によって腹膜炎による腹腔内の炎症を引き起こし、二次的に通常で

あれば重症肺炎にならない菌量の緑膿菌を投与することによって緑膿菌肺炎を引き起こす

Two hit mouse model は敗血症に引き続く ARDS の病態をよく反映したモデルである。

Two

hit mouse model において敗血症後に肺における免疫抑制状態がどのような機序で起きて

いるかは未だ明らかになっていない。そこで今回我々は、肺において一次的な免疫機能を

果たしている肺胞マクロファージに着目し、敗血症後の炎症状態において肺胞マクロファ

ージの機能が低下し、それが肺における免疫抑制状態の原因となっている可能性について

検討した。

さらに IFNβと Granulocyte macrophage-colony stimulating factor(GM-CSF)という二

種類のサイトカインに着目し、これらのサイトカインを Two hit mouse model に投与、す

なわち敗血症中のマウスが二次的に肺炎になる前に予防的に投与することで肺胞マクロフ

ァージの機能を改善させ、免疫抑制状態を賦活化することで感染に対する防御能を改善す

るかどうか検討した。IFNβは皮下投与、GM-CSF は経気管内投与によって投与した。

IFNβはリンパ球、マクロファージ、線維芽細胞、骨芽細胞などで産生される type1 IFN

に分類されるサイトカインであり、ウイルス感染症や病原体に対する防御効果、腫瘍増殖

抑制作用や免疫抑制作用がある。近年 Bellingan らによって IFN-βを ARDS 患者に全身投

与することで 28 日生存率が改善したと報告された。

一方、GM-CSF は骨髄の前駆細胞の機能、生存、分化、増殖に重要な役割を果たすサイ

トカインとして報告され、肺胞マクロファージやⅡ型肺胞上皮細胞の増殖や機能、に重要

な役割を果たしているとされている。更に、GM-CSF に対する自己抗体の発現によって

GM-CSF の効果が制限されると肺胞マクロファージの機能異常を引き起こし、肺胞内のサ

ーファクタントや蛋白質の蓄積によって肺胞蛋白症(Pulmonary alveolar proteinosis; PAP)

という病態が起こることが解明されている。また、肺胞蛋白症では肺胞におけるガス交換

機能の低下による呼吸不全が主な症状だが、同時に易感染状態になることが知られている。

肺胞蛋白症の治療には全肺洗浄によって物理的に肺胞内に蓄積したサーファクタントを洗

い流す手法が古典的に知られているが、近年 GM-CSF の吸入療法が人において実用化され

つつある。このように GM-CSF は肺胞マクロファージの機能に重要な役割を果たしている

サイトカインである。

さて、Two hit model マウスの肺胞マクロファージの貪食能に着目した検討の結果より、

①肺炎後の肺胞洗浄液(BALF)中の細菌量が CLP 群で対照群と比較して有意に多いこと、

②一次的免疫防御能に重要な役割を果たす肺胞マクロファージの貪食能が CLP 群では対照

群と比較して有意に低下していること、③肺胞マクロファージにおいて CLP 群では炎症性

サイトカイン IL-6 やケモカイン KC, MCP1 の産生能が低下していること、が示された。し

たがって、Two hit mouse model における好中球の肺胞内への遊走機能不全、肺内の感染

防御機能の低下、肺組織の ARDS 様変化、死亡率などの増大の原因として、第一に腹腔内

の炎症によって、遠隔臓器である肺胞マクロファージの貪食能低下が起こっていると考え

られた。そして第二に炎症性サイトカイン IL-6 の産生能やケモカイン KC、MCP-1 の産生

能低下などの機能低下が起こり、肺内への好中球の流入を抑制することにつながり、結果

として肺胞内での細菌の静菌作用の低下が引き起こされ、重症肺炎や ARDS に至ることが

示唆された。

次に IFNβを肺炎前に一回投与することによって肺胞マクロファージそのものの貪食能

が改善されることが示された。

更に、GM-CSF に対する本検討の結果より、Two hit model に対する GM-CSF 気管内投

与でも BALF 中の細菌量が Two hit 群で Sham 群と比較して有意に多く、GM-CSF 気管内

投与によって Sham 群と同じ程度まで細菌量が改善したことから、GM-CSF の気管内投与

によって肺における免疫抑制状態が改善していることが示された。

肺胞マクロファージの表面抗原は CLP による腹膜炎由来の炎症によって CD11c,

Siglec-F の発現量は有意に低下しており、肺胞マクロファージの成熟度が低下することによ

って炎症性サイトカインの放出能やケモカインの産生能が低下している可能性が示唆され

た。GM-CSF は CD11c の発現量を有意に改善し Siglec-F についても改善する傾向が認め

られた。また、肺胞マクロファージの炎症性サイトカイン、ケモカインの産生能を改善さ

せた

以上より本研究では、腹腔内の炎症によって肺胞マクロファージの貪食能の抑制、炎症サ

イトカイン産生能やケモカイン分泌能の抑制が起きており、肺内の免疫防御能の低下につ

ながっていることが確認された。更に IFNβと GM-CSF といったサイトカイン投与によっ

て肺胞マクロファージの機能改善が改善され、腹膜炎による肺の免疫防御能抑制状態が賦

活化された。IFNβや GM-CSF を手術や敗血症といった炎症が続いている状態に予防的に

投与することによって、肺の免疫防御能を改善し、二次的に肺に感染が起こった際の重症

化が防げることが示唆された。

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