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上皮細胞におけるエンドサイトーシスの新規制御機構の解明

浦江, 聖也 東京大学 DOI:10.15083/0002002391

2021.10.13

概要

上皮細胞は生体の内側と外側を分離させる役割を果たすとともに、特定の物質の通過及び輸送を行うことで、生体内に固有の物質環境を作り出している。受容体を介した物質の細胞内への取り込み、すなわちエンドサイトーシスはこのような上皮細胞による物質輸送の最初の工程として重要である。

 Cubilin(CUBN)は複数の物質のエンドサイトーシスを担う受容体であり、生体内では腸及び腎尿細管上皮に発現している。CUBNは最初にビタミンB12/内因子複合体の輸送を担う受容体として同定されたが、のちにそのリガンドはアルブミン、トランスフェリン、ヘモグロビン、免疫グロブリン軽鎖、アポリポ蛋白A-I、HDLなど多岐に渡ることが分かった。またCUBNは他の受容体と比較して、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを有していないことが特徴であり、そのため共役分子に結合することによって初めて正常に機能する。

 CUBNの共役分子として最初に同定されたのはmegalinである。megalin自体も複数の物質輸送を担う受容体分子であり、一部の分子についてはCUBNと共役して輸送を行っていることが知られている。しかし、ビタミンB12/内因子複合体、トランスフェリン、アポリポ蛋白A-IなどのリガンドはCUBNが特異的に輸送しており、また腸管ではmegalinは発現していないのにCUBNによる輸送が行われていることから、CUBNはmegalinに依存せずに物質輸送を行えると考えられている。

 一方でCUBNの輸送機能に不可欠な共役分子としてamnionless(AMN)が知られている。AMNは最初に羊膜形成不全をきたす動物モデルの原因遺伝子として同定されたが、CUBNとの機能的関連が考慮されるようになったのは、AMN及びCUBNのどちらの遺伝子変異でも、Imerslund-Grasbeck症候群(IGS)という先天性疾患が引き起こされることが分かったからである。実際AMNの生体内での発現分布はCUBNに類似しており、また後にAMNはCUBNと強固に結合してcubamという受容体複合体を形成していることが発見された。AMNがなくてはCUBNは細胞膜に輸送されず、そのためCUBNが正常に受容体として機能するためにはAMNが不可欠であることが分かったのである。

 先述のIGSの患者では、ビタミンB12/内因子複合体を含む蛋白質の吸収が障害されるため、蛋白尿や大球性貧血が引き起こされる。AMN及び一部のCUBNの変異が疾患を引き起こすメカニズムとして、CUBNが細胞膜に輸送されなくなることが知られている。以前に我々は培養細胞においてcubamの膜発現量を定量的に評価する実験系を確立し、cubamの膜発現にはAMN依存的なCUBNの糖鎖修飾が必要であることを発見し、cubamの膜発現における分子メカニズムを解明した。

 一方、cubamのエンドサイトーシスのメカニズムについては未だに分かっていないことが多い。以前にアダプター分子であるARH及びDab2がAMN及びmegalinに結合して、これらの分子をクラスリン依存的エンドサイトーシスに誘導することが報告された。しかしAMNを介したCUBNのエンドサイトーシスとmegalinを介したCUBNエンドサイトーシスに機能的な相違はあるのか、またそもそもcubamのエンドサイトーシスを制御するメカニズムがあるのかについては、何も知見が得られていなかった。

 今回これらのcubamの細胞内輸送に関する課題に取り組むため、AMNの結合蛋白分析を行った。同位体ラベルを利用したSILAC法を用いて、我々はAMNの新規結合蛋白候補として、NVL2を同定した。NVL2はAAA-ATPaseファミリーに属する分子であり、これまでは主として核小体に局在してリボソーム合成に関わっていることが知られていた。我々は免疫沈降を用いて、培養細胞内で実際にAMNとNVL2が結合することを確認した。

 免疫染色では、既報通り内在性NVL2は核小体に局在していることが複数の培養細胞で確認された。しかし一方で、内因性にAMNを発現していない培養細胞HEK293TでAMNを強制発現させたところ、NVL2の局在が核外の細胞質に移動することが見いだされた。さらに実際にAMN及びNVL2が細胞質で結合しているかを確認するために、HEK293T細胞にAMN及びNVL2を強制発現させ、proximity ligation assay(PLA)を行ったところ、実際に細胞質での結合シグナルが確認された。また生体組織での免疫染色では、腎及び腸の両方においてNVL2は主として核小体に局在していたが、NVL2の一部が上皮細胞の細胞質局在しており、そこに同じく発現しているAMNと共局在することが分かった。これらの結果から、AMNを発現している細胞では一部NVL2が核外に移行して細胞質に局在していることが確認できた。

 次にAMNとNVL2の相互作用をさらに詳しく調べるために、我々はAMNの断片から成る合成ペプチドを用いて実験を行ったところ、NVL2がAMNの細胞内領域と結合することが分かった。AMNの細胞内領域には2か所の生物種間保存性が高い領域が存在しており、これらは両方とも既知のエンドサイトーシスシグナルモチーフであることが既に報告されている。これらのモチーフとNVL2との相互作用の関係を調べるために、それぞれのモチーフを変異させた合成NVL2蛋白を用いて実験を行ったところ、AMNとNVL2の結合にはAMN細胞内領域のC末端よりのモチーフ(第2モチーフ)が必要であることが分かった。また先述のAMN発現によるNVL2の核外移行も、この第2モチーフに依存していることが見いだされた。一方で我々はAMN細胞内領域と同様のエンドサイトーシスシグナルを有するLDLRおよびmegalinがNVL2と結合するかについても調べたが、結合を示す実験結果は得られなかった。

 さらに我々はNVL2がcubamの細胞内輸送機能にどのように関わっているのかを調べた。CUBN及びAMNの両方をHEK293T細胞で強制発現させ、内因性NVL2をノックダウンさせた実験系を用いたところ、cubamの膜発現はNVL2ノックダウンにより障害されることはなかった。一方cubamのエンドサイトーシスはNVL2ノックダウンによって有意に障害され、またこれはノックダウン耐性のNVL2の強制発現によってレスキューされた。このことから、NVL2はcubamのエンドサイトーシスを促進する働きを有していることが分かった。

 NVL2がcubamのエンドサイトーシスを促進する分子メカニズムを解明するために、これまで知られている関連分子との相互作用をさらに詳しく調べた。その結果、NVL2とアダプター分子ARHの直接的な相互作用は見られなかったものの、NVL2ノックダウンによりAMNとARHの結合量が増えることが分かった。このことからNVL2はcubam受容体からARHを引き離し、受容体を含む膜小胞が早期エンドソームと癒合できるように促し、また同時にARH分子がリサイクルされるように促進している可能性が示唆された。

 今回の研究により、我々は核小体蛋白NVL2がAMNと相互作用し、さらに膜受容体cubamのエンドサイトーシス機能を制御していることを発見した。近年、核小体は従来知られていたリボソーム合成の機能以外に、DNA修復、細胞周期、細胞増殖、テロメアーゼ活性など様々な機能に関わっていることが報告されている。我々の研究結果は核小体蛋白が膜受容体の細胞内輸送を制御していることを示す最初の報告であり、新規の受容体輸送機構であるのみならず、核小体機能についても新たな知見をもたらすものである。この分子制御機構が生体内でどのような重要性を持つのかについては、今後さらなる検証が必要である。

 またNVL2はAMNと特異的に相互作用しており、megalinとの相互作用は見られなかった。このことはmegalinを介さないcubamエンドサイトーシスに特有の調節機構が存在することを示唆する。しかし一方で、NVL2が結合を介さずに受容体エンドサイトーシスを制御している可能性もあり、megalinを含めた他の受容体にNVL2が機能的影響を与えていないか、今後検証する必要がある。

 さらにNVL2はcubam受容体とアダプター分子ARHの分離に寄与していることが示唆された。クラスリン依存性エンドサイトーシスでは、膜より切離された輸送小胞から、それまで小胞を被覆していたクラスリン格子などのエンドサイトーシス関連分子が離脱することで初めて輸送小胞が早期エンドソームと癒合できるため、関連分子離脱の過程は非常に重要である。これまでに受容体とアダプター分子の分離を促進する分子メカニズムは知られておらず、今回得られたNVL2作用機序の知見は、クラスリン依存性エンドサイトーシスの過程における新たな分子メカニズムの発見となり得る。NVL2がクラスリン依存性エンドサイトーシスの分離段階でどのような作用を及ぼしているのかについて、更なる研究が期待される。

 今回我々はcubam受容体の新規輸送制御機構として、核小体蛋白NVL2によるエンドサイトーシス制御機構を発見した。この発見はさらにAMN特異的なエンドサイトーシス制御機構の存在を示唆するとともに、クラスリン依存性エンドサイトーシスにおける新たな分子メカニズムの存在をも示唆している。これらの事実は、特に腸管及び腎尿細管での上皮細胞におけるエンドサイトーシスの分子制御機構に新たな知見をもたらすものである。

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