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神経興奮物質カイノイド類の生合成経路と生合成を利用した類縁体生産に関する研究

前野 優香理 東北大学

2022.03.25

概要

カイノイドは、カイニン酸 (kainic acid, KA) を母核とする異常アミノ酸の化合物群であり、代表的な化合物として、紅藻が生産する KA[1]、紅藻や珪藻が生産するドウモイ酸 (domoic acid, DA)[2]、担子菌が生産するアクロメリン酸A (acromelic acid A)[3]が知られている (Figure 1)。カイノイドは、その化学構造中にグルタミン酸部位を有するため、イオンチャネル型グルタミン酸受容体 (ionotropic glutamate receptor, iGluR) の強力なアゴニストとして作用する[4,5]。カイノイドが大量に脳に侵入した場合、海馬などの iGluR に強固に結合し過度な活性化と、それに伴う細胞死が起きるため、哺乳動物に記憶喪失などの症状を引き起こす[4]。iGluR の機能失調は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患と密接に関連していることから、KA や DA は神経生理学の分野で研究用試薬として多用されている。また、近年、アメリカ西海岸域で DA による生態系への損害が報告された。DA 生産珪藻を摂食した魚貝類に DA が高濃度に蓄積することで、食物連鎖を経て海鳥の大量死や、海洋哺乳類の方向感覚の低下といった甚大な被害が起きている[6,7]。

このような背景から、KA と DA の生合成研究や、構造活性相関研究は重要な研究課題であるといえる。DA の生合成研究は、1990 年代に Wright らのグループにより始まり、DA 生産珪藻を用いた 13C 酢酸ナトリウムの取り込み実験が行われた。その結果、13C ラベル化率が高い部分構造と、低い部分構造の二つに分かれたため、その生合成はゲラニル二リン酸と L-グルタミン酸の二成分が出発物質であるということが提唱された (Figure 2)[8,9]。しかし、彼らの最初の報告から 20 年以上が経過していながら、その二成分から、どのように DA が形成されるのかは、未解明のままであった。そこで本研究では、DA 及び KA の新規生合成関連化合物の探索と、ラベル体取り込み実験により、これらの詳細な生合成経路の解明を目指した。さらに、化学合成では立体制御が困難な環構造を有する DA 類縁体を、近年同定された DA 生合成環化酵素を用いて簡便かつ効率的に合成し、類縁の生理活性評価を行うことで構造活性相関の知見を得ることを目指した。また、未だ DA の生合成遺伝子が同定されていない DA 生産珪藻種 Nitzschia navis-varingica の特有の DA 生合成機構を解明すべく、生合成遺伝子を探索した。

第一章では、DA 生産紅藻 Chondria armata (和名ハナヤナギ) から分子式を指標とした LC-MS による類縁体探索を行った。探索の結果、6 種の未知化合物が検出されたため、これらを各種カラムクロマトグラフィーにより単離精製した。構造解析の結果、6 種は全て新規化合物であり、そのうちの開環型の化合物 2 種の安定同位体標識体を化学合成した。これらを DA 生産珪藻 Pseudo-nitzschia mutiseries の培地に添加し、取り込み実験を行った。ラベル体 2 種のうち 1 種はラベル化DA へと変換され、DA の生合成中間体であることが証明された。もう一種はDAへと変換されなかったことから、環化反応時の副生成物であることが示唆された。単離した類縁体の化学構造と取り込み実験の結果から DA の生合成経路を提唱した。

第二章では、紅藻 Digenea simplex (和名マクリ) から新規 KA 類縁体を探索した。探索の結果、4 種の新規 KA 類縁体を単離、構造決定した。得られた 4 種の化学構造をもとに、K Aの生合成及び新たな代謝経路を推定した。さらに、得られた新規類縁体についてマウスへの脳室内投与試験により毒性を評価した。その結果、KA の 4-イソプロペニル基が α 位に結合することが活性発現に重要であることが示された。

第三章では、近年同定されたDA 生合成環化酵素 DabC を用いた、簡便かつ高率的な DA類縁体生産系の構築と DA の構造活性相関の知見を得ることを目指した。4 種の開環型疑似基質を化学合成し、DabC を発現させた大腸菌培養液中に添加することで環化産物への変換を試みた。その結果、三種の疑似基質は環化反応が進行し、DA 類縁体を得ることに成功した。得られた環化産物と天然から単離した DA、isodomoic acid A (IA) についてマウスへの脳室内投与により毒性を評価し、側鎖のゲラニル基末端のカルボニル基が活性発現に重要であることが示された。さらに、分子と iGluR のドッキングシミュレーションを行い、結合モデルからも、この構造活性相関が支持された。

第四章では、P. multiseries と並び代表的な DA 生産珪藻である N. navis-varingica[10,11]から DA の生合成遺伝子を探索した。本種は DA のみならず、その異性体である isodomoic acid A, B (IA, IB) を生産し、それらの生産比は生息域によって異なるという、興味深い種である (Figure 3)[12,13]。Nitzschia 属特有の DA 生合成機構を解明すべく、はじめに、既報のDabC や KabC との相同性を利用したdegenerate PCR 法による DA 生合成環化酵素 (NitDabC) の探索を行った。次に、委託によるゲノム解析の結果から NitDabC の候補遺伝子を選択し、その発現、機能解析を試みた。さらに、ラベル化生合成中間体を用いて珪藻細胞破砕液から酵素反応の活性を指標とした環化酵素の探索を行った。

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参考文献

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