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大学・研究所にある論文を検索できる 「下肢陽圧負荷法を用いた生理的加齢による前負荷予備能の変化、および左室駆出率の保たれた心不全患者の前負荷予備能に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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下肢陽圧負荷法を用いた生理的加齢による前負荷予備能の変化、および左室駆出率の保たれた心不全患者の前負荷予備能に関する検討

庄野, 阿侑 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景】
人口構成の高齢化が進んだ現在、心不全患者数は増加の一途を辿っており、いまや全世界的に大きな社会問題となっている。多くの先進諸国において、一般人口に占める心不全患者の有病率は 1~2%程度と言われているが、人口構成の高齢化に伴いその罹患率は上昇し、心不全患者の実に 80%が 65 歳以上の高齢者で占められている。これまでの疫学研究によると、年齢を 10 歳重ねるごとに心不全リスクは 20%ずつ増加し、70 歳では 10%が、さらに 80 歳以上では実に 20%もの患者が心不全に罹患することが知られている。

高齢者は高血圧や糖尿病、慢性腎臓病や慢性閉塞性肺疾患など多くの並存疾患を有し、これらが心不全の発症に関与していることは疫学的に証明されているが、加齢そのものが心不全の大きなリスクファクターであることが多くの疫学研究から明らかとなってきた。つまり、加齢により心臓の細胞生理学的、分子生物学的な変化が生じ、これが高齢者特有の心臓機能障害をもたらし、心不全発症に大きく関与していることが想定されている。一方で細胞レベル、分子レベルでの変化のみならず、臓器レベルでも、加齢による心筋の脱落および線維化の進行に基づく心室の“萎縮(atrophy)”を基盤とする収縮能の低下や、心室拡張能の低下が生じ、典型的には左室収縮能が保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)として血行動態の破綻に至る。このような加齢に伴う心筋機能および構造の変化のみならず、高齢者では負荷に対する心血管予備能の低下や、急激な血行動態変化に対する追従性が乏しくなることが推定されている。そのため、循環動態の変化に対する代償性応答が乏しく、これが高齢者特有の循環動態的特徴のひとつと言える。

近年、下肢陽圧(leg-positive pressure: LPP)負荷法が有望な負荷検査法として知られるようになってきた。急性非代償性心不全の重要な病態として、主に内臓静脈の反応性収縮による血液プールの胸腔内移動と、それによる心室拡張末期圧の上昇および肺うっ血が招来される経路が注目を集めている。そのため、下肢陽圧負荷によってもたらされる急激な静脈還流量の増加は、急性非代償性心不全の病態生理を考慮した場合、極めて合理的かつ病態に忠実に準拠した心負荷検査と考えることができる。

今回の研究では、正常対象者の LPP 負荷に対する各年齢層の血行動態的反応と、HFpEF 患者のそれとを比較検討することにより、生理的加齢現象に連続した HFpEF 発症への道程の一端を明らかにすることを目的とした。

【方法】
神戸大学医学部附属病院と徳島大学病院より HFpEF 患者 25 名、正常対象群 77 名(若年群:20〜40 歳 27 名、中年群:40〜65 歳 25 名、高齢群:65 歳以上 25 名)の合計 102 名を前向きに登録した。HFpEF 患者は左室駆出率が 50%以上を示すが、胸部レントゲン写真での肺水腫、脳性ナトリウム利尿ペプチドの上昇、右心カテーテル検査での左室拡張末期圧上昇などの心不全の存在を示す他覚的所見を伴った労作時呼吸困難感を有する患者と定義した。

全対象者に安静時の経胸壁心エコーに引き続き LPP 負荷下での経胸壁心エコー図検査を行った。安静時の心構造に関する指標と、安静時と LPP 負荷時の血行動態的指標に関するデータ収集を行った。

【結果】
安静時の心エコー図検査において、加齢に伴い左室心筋重量(若年群 69±17 g/m2、中年群 69±18 g/m2、高齢群 81±21 g/m2)および左室壁厚は増大し、求心性肥大により左室内腔は狭小化を示した。このため、相対的壁厚(若年群 0.33±0.06、中年群 0.42±0.09、高齢群 0.55±0.10)は加齢に伴い進行性に増大する結果となった。一方、HFpEF 群では加齢による生理的変化の程度を逸脱した壁厚増加を示し、左室心筋重量と相対的壁厚の著しい増大を示した(左室心筋重量 110±31 g/m2, 相対的壁厚 0.58±0.18, ともに ANOVA P<0.001)。左室拡張能指標に関しては、左室充満圧を反映する E/e’が加齢により有意に増加し、加齢に伴う左室拡張能の低下が示された(E/e’; 若年群 6±2、中年群 8±2、高齢群 10±2)。HFpEF 群ではさらに左室充満圧の増大がみられた(E/e’; 15±5, ANOVA P<0.001)。

LPP 負荷検査において、若年群では E/e’の上昇を伴うことなく(E/e’; 6±2 to 6±1, n.s)一回拍出量係数の増加反応(SVi; 38±7 to 42±8 mL/m2, P<0.05)を認めた が、中年群と高齢群では E/e’の上昇を伴った(中年群 8±2 to 9±3, P<0.05; 高齢群 10±2 to 12±3, P<0.05)SVi の増加反応を認めた(中年群 40±6 to 44±6 mL/m2, P<0.05、高齢群 37±8 to 42±8 ml/m2, P<0.05)。さらに、HFpEF 群では SVi の増加は得られず(43±13 to 44±14 mL/m2 , n.s)、E/e’の著明な増加を認めた(15±5 to 17±7, P<0.05)。

多変量解析では左室心筋重量係数(HR 1.051, P<0.01)、LPP 負荷時の SVi の増加量(ΔSVi; HR 1.480, P<0.001)および E/e’の増加量(ΔE/e’; HR 0.780, P<0.01)の 3 項目が HFpEF の存在を規定する因子となった。

【考察】
生理的な加齢に従い左室は求心性肥大が進行し、この形態的変化に伴って左室弛緩能は低下し左室充満圧の上昇がみられた。これらの変化は HFpEF 患者ではさらに顕著となっており、LPP 負荷検査による左室充満圧の増大に対して前方拍出量の増大反応が得られなかった。

生理学的観点からは、左室拡張末期圧は拡張期左室壁応力と相対的壁厚に比例する。今回の検討結果から、HFpEF では相対的壁厚が生理的な加齢の範囲を逸脱する程度にまで増大しており、結果として拡張期左室壁応力、すなわち左室前負荷の増大に対する左室拡張末期圧の上昇幅が大きくなるものと考えられた。これにより、生理的な加齢の延長線上にある HFpEF 心の形態的変化により拡張予備能が低下するメカニズムが説明できる。

今回 LPP 負荷検査により得られたデータをもとに各群における Frank-Starlingの心機能曲線を作図すると、加齢に伴い心機能曲線の右方偏位と傾きの低下を認めた。これは、加齢に伴い左室充満圧の上昇に対する前方駆出量増大反応の低下を意味し、HFpEF 群ではさらにその反応低下が顕著となることを示した。これは取りもなおさず HFpEF 群における収縮予備能の低下を示している。

LPP 負荷検査を用いることで HFpEF 患者の収縮予備能、および拡張予備能の両者が低下していることが実証された。HFpEF は非常に頻度の高い心不全サブグループであるにも関わらず、その診断は時に困難である。安全性が高く施行が容易である LPP 負荷試験は HFpEF の診断ツールとしても有用であると考えられる。

【結語】
HFpEF 患者では、正常の加齢による変化の程度を逸脱した心構造的、血行動態的変化を示した。また HFpEF 患者では、前負荷増大負荷に対する拡張予備能および収縮予備能が低下していることが明らかとなり、これらが HFpEF における症状発現、および心不全発症の一因となりうることが示唆された。

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