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大学・研究所にある論文を検索できる 「簡便な体位変換を組み合わせた前負荷増大負荷心エコー図検査は、左室駆出率の低下した慢性心不全患者のリスク層別化に有用である」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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簡便な体位変換を組み合わせた前負荷増大負荷心エコー図検査は、左室駆出率の低下した慢性心不全患者のリスク層別化に有用である

柴田, 奈緒 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景】
負荷心エコー図検査は弁膜症、心筋症、肺高血圧症、および先天性心疾患など、非虚血性心疾患に対してもその有用性が認知されるようになってきた。しかし、左室駆出率の低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction: HFrEF)においては、その侵襲性、煩雑さ、および安全性の問題より、負荷心エコー図検査は広く日常臨床に普及しているとは言えない。下肢挙上負荷は非侵襲的前負荷増大負荷手技であり、運動負荷や薬剤負荷の代替手段として用いられるが、正確に前負荷予備能を評価するには負荷量が不十分である。また、体幹挙上手技は静脈灌流量を減少させ非侵襲的に前負荷を低下させる手技だが、日常臨床ではあまり用いられていない。そこで、我々は体幹挙上手技(前負荷低下)と下肢挙上手技(前負荷増加)を組み合わせることで、十分な前負荷の変化をもたらし、正確な前負荷予備能評価が可能となるのではないかとの仮説をたてた。したがって、本研究の目的は、第 1 に体位変換の組み合わせ(体幹挙上から下肢挙上へ体位変換)による血行動態変化に関する評価を行うこと、第 2 に体位変換負荷エコー図検査が HFrEF 患者のリスク層別化に有用であるかどうかを検討することである。

【方法】
101 人の HFrEF 患者と年齢、性別を合致させた 35 人の健常人を前向きに検討した。これら全員に対して通常の心エコー図検査を実施した後、体幹挙上と下肢挙上を組み合わせた体位変換負荷エコー図検査を実施した。なお、HFrEF 患者は左室収縮率が 40%以下のものと定義した。また心血管イベントを心不全 死、心臓突然死、植え込み型除細動器の適切作動、および心不全増悪入院による複合エンドポイントと定義し、中央値 12 ヶ月間の心血管イベント追跡を行った。

【結果】
体位変換負荷エコー図検査は全例に対して実施され、いずれの合併症もなく安全に施行できた。また負荷検査に要した時間は、通常の検査時間に加えて平均 15 分と短時間であった。中央値 12 カ月間の追跡期間中、21 人が心血管イベントを起こし、内訳は 9 人が心臓突然死または植え込み型除細動器の適切作動、12 人が心不全増悪入院であった。

HFrEF 患者全体と健常群の臨床背景を比較すると、患者群は血圧、一回心拍出量係数(stroke volume index: SVi)が低値であり、また左室収縮能低下に伴い高度な左室リモデリングを伴っていた。体位変換負荷に伴う血行動態変化は健常群と HFrEF 患者全体においてともに同等であり、半坐位時には左室拡張末期容積、SVi、僧帽弁通過血流波形 E 波の低下を、逆に下肢挙上時にはこれらの心機能諸指標の増大反応を認めた。なお、HFrEF 患者群では体位変換負荷により SVi が 21%と有意に増加した。

HFrEF 患者内でイベント群、非イベント群に分け背景因子を比較すると、両群間で年齢、性別に有意な差は認めなかったが、イベント群では血清 BNP値、血清クレアチニン値がそれぞれ高値であり、また心不全による症状が重症な患者が多かった。加えて、イベント群では左室容積の拡大、左室駆出率低 値、および E/e’高値を認め、これらの結果よりイベント群ではベースラインで心不全がより進行した状態であったことが示唆された。負荷時の血行動態変化については、非イベント群では体位変換による SVi の変化量が有意に大であ り、SVi と E/e’をもとに Frank-Starling 曲線(心機能曲線)を描くと、イベント群より左上方かつ上行脚に位置していた。つまり、非イベント群では Frank-Starling 機構が保持されていることが示された。一方、イベント群では体位変換に伴う SVi の変化量が乏しく、その結果心機能曲線は平坦となり、Frank-Starling 機構の障害が示された。また、左室拡張末期容積係数と E/e’をもとに拡張期左室圧容量曲線を描くと、イベント群は左室容積の拡大、左室拡張末期圧の上昇を反映して、曲線は右上方に位置しており、左室スティッフネスの亢進(心筋の柔軟性の低下)が示された。

多変量解析では、体位変換負荷に伴う SVi の変化量が唯一の独立した心血管イベント予測因子であることが示された。また、体位変換負荷検査の予後予測因子としての付加的意義を sequential Cox モデルにより検討すると、背景因子に安静時心エコー図計測値を加えても付加的効果は認めなかったが、そこへ負荷時の SVi 変化量を加えることで予後予測能の有意な増大を認めた。さらに HFrEF 患者を負荷時の SVi 変化量をもとに 3 群に分類すると、SVi 変化量が下位 1/3 のサブグループは他の 2 群と比較し有意に心事故回避率が低値であった。

【考察】
本研究は、半坐位と下肢挙上手技を組み合わせた簡便かつ非侵襲的な体位変換負荷エコー図検査による前負荷予備能評価が、予後予測に有用であることを初めて示したものである。非イベント群は健常群と同様、体位変換負荷にともない有意に SVi が変化したのに対し、イベント群では体位変換負荷に伴う SViの変化が乏しくなっていた。負荷時の SVi 変化量は HFrEF 患者における独立した予後予測因子であり、臨床背景、安静時エコー値に予後予測因子としての付加的意義を与えるものである。

健常人では、運動時には心拍出量は安静時の 5 倍程度まで増加し、その機序のうち心臓に対する前負荷の動員が最も重要な因子とされている。既報によると、下肢挙上手技では 150−200 mL の静脈還流量の増大がもたらされ、一回拍出量は 7−10%程度増加するとされている。一方、半坐位時には 8−14%の静脈還流量減少をもたらすと報告されている。下肢挙上、半坐位ともに単独では前負荷予備能を評価するにはその負荷量が不十分であるが、本研究ではこれらを組み合わせることにより十分な負荷量を得ることができた。HFrEF 患者では体位変換の組み合わせにより SVi は 21%増加し、これは 20μg/kg/分のドブタミン負荷に相当する。体位変換の組み合わせにより大きな前負荷の変化が得られたことが正確な前負荷予備能評価に結びつき、ひいては本法により HFrEF 患者における長期予後予測が可能になったものと推察された。

HFrEF 患者における体位変換負荷法の有用性を検討した報告は数少ないが、重度の心不全患者では体位変換に伴う心拍出量変化が低下していることが報告されており、我々の研究結果とも合致する。また左室収縮能が保たれた心不全患者(heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)においても、体位変換負荷は前負荷予備能評価、リスク層別化に有用であることが報告されている。これは収縮予備能だけではなく、前負荷増大に伴う急な心筋伸展に対し心室コンプライアンス(心筋の柔軟性)を増加させられないことが前負荷予備能低 下、ひいては心拍出量の低下に寄与していることを示唆し、これも本研究結果と合致する。これら既報では、体位変換時の応答が予後とどのように関連しているか検討されていないが、本研究では下肢挙上と半坐位での SVi の差(ΔSVi)が HFrEF 患者の独立した予後予測因子となりうることを示すことができた。

前負荷変化を用いた負荷手法は、疾患の重症度、整形外科的問題、または加齢に伴う筋力低下のため運動耐容能が低く、十分な運動負荷検査が実施できない患者において特に付加的価値があると考えられる。体位変換負荷は安全で、費用もかからず、短時間で、かつ特殊な器具を用いずに簡便に施行できる手法であり、運動耐容能が低く合併症リスクの高い HFrEF 患者において、運動負荷や薬剤負荷の代替的な評価手段となることが期待できる。前負荷予備能評価 は、左室駆出率の低下した慢性心不全患者において、予後不良な患者を特定し効果的な治療法の選択、適切な医療資源の投入に有用である。

【結語】
体位変換負荷心エコー図検査は、非侵襲的で費用がかからず、簡便、迅速に HFrEF 患者の前負荷予備能を評価できる手法である。またこの負荷法は HFrEF患者のリスク層別化に有用であることが示唆された。

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