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大学・研究所にある論文を検索できる 「酢酸フェニル型アセチルドナーを用いた超高収率なヒストンアセチル化を可能にする化学触媒システムの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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酢酸フェニル型アセチルドナーを用いた超高収率なヒストンアセチル化を可能にする化学触媒システムの開発

梶野, 英俊 東京大学 DOI:10.15083/0002005159

2022.06.22

概要

【背景・目的】
染色体を構成する主要なタンパク質であるヒストンの翻訳後修飾は、遺伝子発現の調節に密接に関与している。特にヒストンテールのリジン残基のアセチル化は遺伝子転写の活性化と正の相関があることから、アセチル化レベルの低下は様々な疾患との関連が示唆されている。我々は、内在性酵素に依存せずにヒストンアセチル化を促進できる化学触媒システムを開発できれば、新たな疾患治療概念になると考えた(Fig.1)。我々の化学触媒システムは触媒とアセチルドナーの2分子で構成される。これまでの研究で、アセチル化触媒であるDMAPを複数連結した触媒分子(3Py8DMAP3Py(PDP)、16DMAP)と、アセチルドナー分子(3NMD8R)を開発した(Fig.2)。これらは分子自体のカチオン性部位(DMAP、8R)とDNAのアニオン性部位の間ではたらく静電相互作用や、DNAへのリガンド(3Py)を介してクロマチンに結合し、近接効果によりヒストンとの反応性が向上する。我々は本触媒システムで生理条件下においてヒストンのアセチル化に成功しているが、報告した触媒システムによるアセチル化収率は最適条件でも低収率(十数%)にとどまっており、さらなるアセチル化収率の向上が課題であった1。そこで本研究では、高収率なヒストンアセチル化を可能にする化学触媒システムの実現を目的として研究に着手した。

【方法・結果】
0)問題点と解決手法3NMD8RはDNAへのリガンドである
8Rに、アセチル基供与性を示すNMDを3分子連結した構造をもっている。低収率の原因の一つとして、このNMD自体の比較的高い反応性が挙げられた。NMDはタンパク質のリジン残基と触媒非依存的に反応してアセチル基を消費してしまうほか、加水分解も受けることから、反応系中で十分なアセチルドナー濃度を保つことができていないと考えた。そこで、リジン残基による求核攻撃や加水分解に耐性がある一方で、触媒分子によっては活性化されるアセチルドナー分子の開発を試みた。

1)新規アセチル基供与性分子の探索
理想的なアセチル基供与性分子として、それ自体の反応性は低いが、DMAPによってNMDよりも高いアセチル化収率を示す分子を探索した。化合物のスクリーニングはリジンを含むモデルペプチドを用いる、独自の評価系で行った。アセチル基供与性と脱離基の酸性度には相関があるため、NMDが有する脱離基のpKa(9.85)を参考に様々なpKaの化合物を検討したところ、フェノール(pKa9.95)が脱離基となる酢酸フェニル(PAc)が理想的なアセチル基供与性を示した(Fig.3)。PAcの理想的な反応性をDFT計算と実験の両面から解析した。計算の結果、PAcはDMAPとプロトン化されたアミンと共に六員環遷移状態を経由し、アセチルピリジニウムイオンの生成と同時にフェノキシドアニオンによるアンモニウムの脱プロトン化が起こることが示唆された(Fig.4)。脱離基の塩基性が低いチオ酢酸Sフェニルを用いた対照実験ではDMAPによる反応の加速がPAcと比較して弱いことからも、アミンの脱プロトン化の重要性が示唆された。

2)3PAc8Rの安定性の評価
3分子のPAcを8Rへ連結した3PAc8Rは、水中で3NMD8Rよりも高い安定性を示した。また、3PAc8RはPDP非存在下では夾雑タンパク質やヒストンに対するアセチル化をほとんど促進しなかった。

3)アセチルドナー分子の反応性の向上
再構成ヌクレオソーム(rNuc)に対して、PDP存在下、3PAc8Rは3NMD8Rを上回る反応性を示したが、依然として低収率であった。しかし、ヒストンアセチル化収率向上のために3PAc8Rの濃度を高くすると、予想に反してその収率は低下した。これは、PDPも3PAc8Rもヌクレオソーム結合性をもつため、rNuc上で両化合物が競合したためであり、アセチル化収率向上のためにはPDPと競合しない分子設計が必要であることが示唆された。NMDと異なり、PAcはDMAPによって強く活性化されることから近接効果は不要と考え、8R部位を水溶性のエチレングリコール(gly)鎖に置換したPAc-glyを合成した(Fig.5左)。その結果、PDP存在下PAc-glyの濃度依存的にヒストンのアセチル化収率が向上し、最適条件ではrNucのヒストンH3テールを90-100%の高収率でアセチル化することに成功した(Fig.5右)。

4) Xenopus egg extract systemへの応用
本触媒システムによるヒストンアセチル化が染色体機能に与える影響を調べるために、カエル卵抽出液由来の無細胞系を用いた。アフリカツメガエル精子核(Xenopus laevis sperm nuclei、以下XSP)を卵抽出液に加えることで、試験管内で細胞周期の進行やDNA複製に伴う染色体上のイベントを再現することが可能である。そこで、本触媒システムで高度にアセチル化したXSP(Ac-XSP)を間期卵抽出液に加え、高アセチル化状態のヒストンが核内イベントに与える影響を解析した。まず、16DMAPとPAc-glyを用いてAc-XSPの調製を行ったところ、ヒストンH3、H4の広い範囲で、リジン残基のアセチル化レベルが10%以下から50-90%に上昇した。このAc-XSPを間期卵抽出液に加え、DNA複製効率を測定したところ、コントロールのXSPに比べてその効率は大きく低下した(Fig.6)。Ac-XSP上でのDNA複製因子のクロマチン結合を調べた結果、複製開始前複合体(pre-RC)の形成は行われる一方で、pre-RCの活性化が阻害されていること、また核膜孔複合体の形成に伴うDNA複製因子の核内輸送を促進する因子ELYSタンパク質のクロマチンへの結合が顕著に低下することが明らかになった。これらの結果は、本触媒システムによる過剰なアセチル化が核膜孔複合体の形成不全を誘導し、核内輸送の異常を介してDNA複製を阻害していることを示唆している。

【総括】
本研究において私は、新たなアセチルドナー分子としてPAc-glyを開発した。PAc骨格はDMAPから求核攻撃を受けると、六員環遷移状態を介して反応活性種であるアセチルピリジニウムイオンの生成と、脱プロトン化によるリジンの活性化が同時に起きることで、効率的にアセチル化を進行させることが示唆された。PAc-glyを用いた触媒システムは、rNucやXSPのヒストンを最大で90%を超える超高収率でアセチル化することに成功した。さらに、高度にアセチル化したXSPをカエル卵抽出液に加えると、DNA複製が顕著に阻害されることを見出した。今後、ELYSタンパク質の結合を阻害しているアセチル化リジン残基の特定など、より詳細なDNA複製の阻害機構の解析を行うことで、ヒストンの翻訳後修飾の細胞周期における役割について、新たな知見を得られる可能性がある。

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参考文献

1. Ishiguro, T.; Amamoto, Y.; Tanabe, K.; Liu, J.; Kajino, H.; Fujimura, A.; Aoi, Y.; Osakabe, A; Horikoshi, N.; Kurumizaka, H.; Yamatsugu, K.; Kawashima, S. A.; Kanai, M. Chem 2017, 2, 840-859.

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