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大学・研究所にある論文を検索できる 「デクスメデトミジンにプロポフォールまたはミダゾラムを併用した静脈内鎮静法での回復過程の比較」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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デクスメデトミジンにプロポフォールまたはミダゾラムを併用した静脈内鎮静法での回復過程の比較

中川, 光 大阪大学

2022.03.24

概要

【背景】
 静脈内鎮静法は広く歯科臨床で用いられ、鎮静薬としてはプロポフォール(PROP)およびミダゾラム(MDZ)が主に使用されてきた。近年、作用機序が異なるα2Αアドレナリン受容体作動薬であるデクスメデトミジン(DEX)も使用可能となった。実際の歯科治療のための鎮静法では鎮静深度の維持のため、2種類の鎮静薬を併用することが多く、PROPの発売後は、MDZとPROPを用いた静脈内鎮静法が一般的であった。静脈内鎮静法に伴う合併症として、処置中の患者の体動が挙げられる。先行研究により、DEXとMDZによる鎮静法は、PROPとMDZによる鎮静法と比較して処置中の体動が少ないことが明らかになった。DEXにより体動が減少したと考えられたが、鎮静状態からの回復時間が延長することも判明した。回復時間の延長は外来診療において重要な問題である。そこで、DEXとMDZによる鎮静法からの回復時間の延長はDEXによる鎮静効果の遷延と考え、DEXを初期負荷投与のみで使用し、維持にはPROPを用いることにより、鎮静中の体動が増加することなく、鎮静状態からの回復時間を短縮できるという仮説を立てた。本研究の目的は、この仮説を検証するため、DEXとPROPによる鎮静法とDEXとMDZによる鎮静法において、鎮静状態からの回復時間と処置中の患者の体動を比較することである。

【方法】
 本研究は大阪大学大学院歯学研究科倫理審査委員会の承認を得て行った(R1-E30)。対象は当院で静脈内鎮静下に歯科治療が予定された患者のうち、20歳以上65歳未満、ASAPSIまたはⅡの患者とした。使用薬剤が禁忌の者、向精神薬を服用している者等は除外した。予備調査の結果よりサンプルサイズを54名とし、2群間並行前向きランダム化比較試験とした。同意の得られた患者をDEXとPROPによる鎮静群(DEX+PROP群)とDEXとMDZによる鎮静群(DEX+MDZ群)の2群にランダムに割り付けた。
 DEX+PROP群では、DEXを6Hg/kg/時で5分間、持続投与(初期負荷投与)を行い、その後、PROPを標的濃度調節持続静注を用いて投与し鎮静状態を維持した。DEX+MDZ群では、DEXを初期負荷投与後、0.2〜0.7μg/kg/時に減速して処置終了まで持続投与した。MDZは、DEXの初期負荷投与開始と同時に0.02mg/kg投与し、初回投与から30〜45分後および処置中の必要時に0.01mg/kgを追加投与した。目標とする鎮静深度は、脳波を用いた鎮静度の指標であるBispectral index(BIS)値で70〜80とした。鎮静薬投与中から処置後の回復過程において、呼吸・循環動態および鎮静深度を監視するため、血圧(BP)、心拍数(HR)、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)、BIS値をモニター類により継続的に記録した。また、処置中には患者の体動、咳反射、いびきの有無を記録した。体動はスコア化(0:処置を妨げる体動なし、1:指示により治まる体動が1回あった、2:指示により治まる体動が2回以上あった、3:指示により治まらずに抑制を必要とした)し、0と1を「許容可」、2と3を「許容不可」の体動と定義した。咳反射は発生回数を記録した。いびきについてもスコア化(0:いびきなし、1:いびきはあるが、SpO2は96%以上で維持されていた、2:呼吸数の低下・奇異呼吸が見られたが、指示により改善した、3:指示により改善せず、下顎挙上や鎮静深度調節を必要とした)して記録した。処置終了と同時に鎮静薬の投与を終了し、回復過程の観察を行った。
 回復過程では、鎮静薬投与終了からAldretescore9点以上、座位可能、立位可能となるまでの時間を順に測定し記録した。立位可能となった後、ロンベルグテスト(直立姿勢で閉眼させ、30秒間ふらつきなく姿勢を維持できるかを確認する身体の平衡機能検査)を実施し、可能であれば退室を許可した。鎮静薬投与終了からロンベルグテスト可能となるまでの時間を、主要評価項目とした。また、処置終了後、術者は術者評価用紙を記入し、処置中の患者の体動および咳反射の有無、鎮静法に対する満足度を評価した。患者に対しては退室後にアンケート用紙を配布し、翌日に記入するよう指示した。患者アンケートでは、処置中の記憶の有無や内容、回復過程での気分不良・ふらつき・眠気の有無、鎮静法に対する満足度を調査した。統計解析として、連続変数には対応のないt検定またはMann-WhitneyのU検定、反復測定による二元配置分散分析および多重比較(Bonferroni補正)、またはFriedman検定および多重比較(Bonferroni補正)、順序変数にはMann-WhitneyのU検定、名義変数にはFisherの正確確率検定を用いた。危険率はp<0.05で有意差ありとした。

【結果】
 同意が得られた54名をDEX+PROP群27名、DEX+MDZ群27名に割り付けた。年齢、性別、Body Mass Index、処置内容、処置時間では両群間で有意差を認めなかった。主要評価項目である、鎮静薬投与終了からロンベルグテスト可能となるまでの時間は、DEX+PROP群で14[12-15]分(中央値[四分位範囲])、DEX+MDZ群で22[17.5-30.5]分であり、DEX+PEOP群で有意に短かった(p=0.000144)。処置中の体動、咳反射、いびきの有無について、両群間に有意差を認めなかった。DEX+PROP群の3名、DEX+MDZ群の4名に「許容不可」の体動が認められた。体動、咳反射の有無については、術者による評価でも両群間に有意差がないことを確認した。鎮静中および回復過程の平均血圧、HR、SpO2、BIS値について両群間に臨床的に有意な差は認められなかった。徐脈、頻脈、血圧低下、血圧上昇、低酸素血症の発生について、重篤な有害事象は両群で認められなかった。DEX+MDZ群で鎮静状態からの回復過程において徐脈(HR<45回/分)のため、副交感神経遮断薬であるアトロピンを使用した症例が2例あった。患者アンケートは、各群25名より回収され解析対象となった。処置中の記憶レベルについて、両群間の有意差は認められなかったが、記憶の内容に関する自由記述欄では、DEX+PROP群で医療者との会話の内容等が回答されており、具体的な記憶が残っている傾向を認めた。鎮静下での処置全体に対する満足度は、患者アンケートおよび術者評価用紙で調査し、患者と術者による評価の双方で両群間の有意差を認めなかった。

【考察】
 初期負荷のみのDEXとPROPでの維持による鎮静法は、初期負荷と維持投与のDEXと単回投与のMDZによる鎮静法と比較して、処置中の患者の体動が増えることなく、鎮静状態からの回復に要する時間が短縮することが明らかとなった。DEXの局所麻酔下における非挿管での手術および処置時の使用に関するこれまでの報告では、DEXの鎮静効果は既存の鎮静薬と同等であるが、特に術後において徐脈や血圧低下といった循環動態に関する副作用の発生が有意に多いとされている。また、DEX単独で鎮静法を施行する場合には、鎮静効果の発現に15分程度を要し、鎮静状態からの回復に要する時間が比較的長い。これらの時間的要因により、多くが外来患者を対象とする歯科診療においては、DEXの使用頻度が低いと考えられる。しかし、DEXには鎮静状態でも患者の応答が維持されるという特徴により、処置時の患者の体動が少ないという大きな利点があるため、DEXを用いた鎮静法での患者の院内滞在時間を短縮することが、臨床的に非常に重要である。DEXを用いた鎮静法での回復時間延長には、DEXの血中消失半減期の関与が考えられる。今回、回復時間を短縮するためDEXを初期負荷投与時のみに使用する計画を立案した。処置終了時まで持続投与した場合と比較して、初期負荷のみの場合では処置終了時点の血中濃度が低下し、回復に要する時間を短縮可能であったと考えられた。また、DEXを初期負荷のみ使用する場合にも、初期負荷および維持投与に用いる場合と比較して処置中の患者の体動は増えなかった。DEX+PROP群の処置時間は49.2±16.8分であったため、30〜60分程度の歯科診療であれば、本研究でのDEXとPROPを用いた静脈内鎮静法を積極的に活用できると考えられる。しかし、長時間の処置では、時間経過とともにDEXの血中濃度も低下するため、DEXの初期負荷投与のみによる体動抑制効果が維持されるかどうか、さらなる検証が必要である。
 DEXの鎮静効果は青斑核に分布するα2Αアドレナリン受容体を介して発現するが、循環抑制は延髄孤束核等に分布するα2Αアドレナリン受容体を介した交感神経抑制作用によるとされる。この交感神経抑制作用は鎮静効果の有効血中濃度よりも低濃度で生じるため、DEXによる鎮静後は徐脈や血圧低下が遷延しやすいとの報告もあり、青斑核と延髄孤束核等のα2Αアドレナリン受容体に対するDEXの親和性に差がある可能性がある。今回、鎮静薬投与終了からロンベルグテスト可能となるまでの時間は中央値が14分であったが、回復時間が延長した症例では座位へ移行した際に血圧低下と気分不良を認め、座位での経過観察に時間を要したため、最大値は85分であった。DEXの効果遷延は個人差が比較的大きいと考えられ、DEXの使用時には初期負荷のみであっても慎重な回復過程の観察が必要である。

【結語】
 DEXの初期負荷とPROPでの維持による静脈内鎮静法は、初期負荷と維持にDEXを用いて単回投与のMDZを併用する静脈内鎮静法と比較して、鎮静状態からの回復に要する時間が短縮することが明らかになった。また、処置を妨げる体動の発生頻度に差はなかった。DEXにPROPを併用する鎮静法は、外来患者の歯科治療のための静脈内鎮静法として有用である。

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