Glutamine deficiency induces lipolysis in adipocytes

概要

〔目的(Purpose)〕
Glutamine (Gin)は生体内で最も豊富なアミノ酸であり、白色脂肪組織はGinを産生することが知られている。経ロで摂取したGinは小腸のenterocyteでglutamateに代謝されるため、Ginは脂肪組織や筋組織などから合成され全身に供給されている。GinはGlulという遺伝子によりコードされるGlutamine SynthetaseによりGlutamateとNH4+、 ATPから合成されている。Ginは、TCA回路のエネルギー基質として用いられるなど生体内で多くの役割を持つことが知られている。Ginを絶食中のイヌに静注した際に動脈血中の遊離脂肪酸濃度が低下し、肝臓での脂肪酸の取り込みが減少したという報告があり、Ginがlipolysisに関与する可能性が示唆されているが、脂肪組織におけるGinの役割はこれまで明らかではなかった。本研究では、脂肪細胞機能に対するGinの作用を検討した。

〔方法ならびに成績(Methods/Results)〕
ヒトのマイクロアレイ解析の報告をもとに検討すると、Giulの遺伝子発現は白色脂肪組織で多かった。3T3-L1脂肪細胞について、分化前と分化後のmRNAの発現を比較すると分化後にはGlulの発現は有意に増加した。マウス脂肪組織分画を用いた検討で、成熟脂肪細胞分画(mature adipocyte fraction)は間質血管分画(stromal vascular fraction)と比較してGlulのmRNAの発現が有意に高かった。また、3T3-L1細胞の培養上清中のglutamine濃度について検討したところ、分化後の細胞上清中のglutamine濃度は時間依存的に増加した。分化後の3T3-L1細胞にGlutamine synthetase の inhibitor である methionine sulfoximine(MSO)を投与すると、培養上清中の glutamine は有意に低下した。In vivoについて、6週齢の雄性マウス(C57BL6/J)を用い、24時間の絶食後に再摂食させた摂食群,48時間の絶食群(ともにn=5)について解析した。血中Gin濃度は絶食群で低い傾向があり、精巣周囲脂肪のGin 濃度は絶食群で有意に低かった。精巣周囲脂肪から抽出したmRNAにっいてリアルタイムPCRで解析を行うと絶食群でAtglは有意に増加した。3T3-L1脂肪細胞をGin不含培地で培養し、Gin合成酵素阻害剤であるmethionine sulfoximine(MSO)を投与すると、ATGLのmRNA発現とタンパク発現は共に増加した。また、MSOを投与した細胞の培養上清ではLipolysisの最終産物であるグリセロール濃度は高値であった。このGinによりAtglの発現が調整されるメカニズムについて、FoxO1に関し検討を行った。FoxO1のinhibitorであるAS1842856を3T3L1細胞に負荷した際、 AtglのmRNAとタンパク発現はともに低下した。また、絶食を行ったマウスの精巣周囲脂肪におけるFoxO1の活性について検したところ、不活性化型リン酸化であるP-FOXO1 (Ser256)が減少しており、FoxO1の活性化が示唆された。MSOを投与した3T3-L1細胞でもP-FOXO1 (Ser256)が減少しており、Gin欠乏によるATGL増加はFOXO1活性を介することが示唆された。

〔総括(Conclusion)〕
脂肪細胞はGlutamineを産生放出する。飢餓時の白色脂肪組織でGlutamine濃度が低下した状態ではAtglの発現が增加し、Lipolysisが誘導されることで遊離脂肪酸をエネルギー基質として全身に供給する可能性が示された。