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大学・研究所にある論文を検索できる 「高齢者における舌によるゼリーの押し潰し時の口蓋圧と舌骨上筋群筋活動量」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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高齢者における舌によるゼリーの押し潰し時の口蓋圧と舌骨上筋群筋活動量

笠川, 尚彦 大阪大学

2022.03.24

概要

【目的】
 窒息や誤嚥は,高齢者の入院や死亡の原因となることが多く,QOL(Quality of Life)やADL(Activity of Daily Living)を低下させる.そのため,高齢者の窒息や誤嚥を予防するために,食塊形成能力の維持・向上や,個人の食塊形成能力に適した食品の選択が必要であると考えられる.
 一方,高齢者の中には,義歯が必要であるにも関わらず義歯を使用していない,もしくはできない高齢者が存在する.特に認知機能や,ADLの低下が認められる要介護高齢者においては,義歯の使用そのものが困難である場合も多い.これらを踏まえると,補綴歯科的介入による食塊形成能力の改善には限界があると言わざるを得ない.
 これまで,我々のグループでは,舌押し潰しによる食塊形成について舌と口蓋との接触圧(舌圧)や舌骨上筋群筋活動に着目し,ゼリーの押し潰し時にゼリーの物性がこれらに与える影響を検討してきた.しかしながら,これらは全て若年者を対象としている.高齢者は若年者と比較して,液体嚥下時の舌圧発現様相が異なることや,口蓋への最大押しつけ時の舌圧が低いことが報告されている.そのため,高齢者は若年者と比較して,加齢による舌機能の変化に伴って食品を押し潰す際の舌運動や押し潰す能力が異なっていると考えられる.
 そこで,本研究では,高齢者と若年者における,食品の舌押し潰しの様相や能力の違いを明らかにすることを目的として,ゼリーの舌押し潰し時の舌圧と舌骨上筋群筋活動量,および舌押し潰しが可能なゼリーの破断荷重の最大値を比較した.

【方法】
I. 対象者
 対象者は,高齢者群15名(男性7名,女性8名,平均年齢72.1±標準偏差5.4歳)と若年者群15名(男性7名,女性8名,平均年齢26.2±標準偏差2.8歳)とした.高齢者の包含基準は,65歳以上で大阪大学歯学部附属病院で定期的なメインテナンスを受けていること,摂食嚥下障害の既往がないこと,上顎に義歯を装着していないこと,臼歯部咬合支持があることとした.なお,本研究は大阪大学大学院歯学研究科・歯学部及び歯学部附属病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:H30-E19).

II. 被験試料
 被験試料は,2種のゲル化剤(ゲルアップJ-4504,ゲルアップIM-720)を用いて,直径20mm,高径10mmのIH柱状に成型したゼリー試料(二栄源エフ・エフ・アイ,大阪)とした.試料の物性は,破断荷重を10〜100Nまで10N間隔で10段階に調整した.

III. 測定項目および測定方法
1. 基本項FI
 対象者の身長,体重,残存歯数の記録を行った.身長,体重は問診により記録し,BMIを算出した.
2. 舌圧および口蓋圧
 対象者の硬口蓋部に貼付した5チャンネルの舌圧センサシート(ニッタ,大阪)を用いて記録した.
3. 舌骨上筋群筋活動
 対象者のオトガイ下部に筋電図電極エールローデ(メッツ,東京)を貼付し,筋電アンプNB-6201HS(ナブテスコ,東京)およびデジタルレコーダーRR-XS470(パナソニック,大阪)を用いて記録した.

IV. 測定タスク
1. 最大舌押しつけ
 対象者に5秒間の口蓋への舌の最大押しつけを指示し,その間の舌圧および舌骨上筋群の筋活動を測定した.測定は3回行った.
2. 3種類のゼリーの舌押し潰し
 対象者の汚背にゼリーをのせ,舌で1回で押し潰すよう指示し,押し潰し時の古圧発現と舌骨上筋群の筋活動を測定した.破断荷重が10N,30N,50Nの3種類を使用し,各3回ずつ計9回測定を行った.
3. 舌押し潰し可能なゼリーの特定
 対象者の舌背にゼリーをのせ,舌で1回で押し潰すよう指示し,ゼリーの破砕の可否を確認した.対象者には,破断荷重が10Nのゼリーから順に最大100Nまでゼリーの破砕を行わせ,ゼリーの破砕が行えなかった時点でタスクを終了した.舌押し潰し可能なゼリーのうち,最も破断荷重が大きなものを,舌押し潰し能力と定義した.

V. 分析方法
 最大舌押しつけ時においては,各チャネルの舌圧最大値の平均を各対象者の最大押しつけ時の舌圧(最大舌圧)とした.3種類のゼリーの押し潰しにおいては,押し潰し時の口蓋圧および舌骨上筋群筋活動の最大値,持続時間,積分値を分析項目とした.また,舌骨上筋群筋活動量は,平滑時定数100msで二乗平均平方根を行い,対象者間の個体差を調整するため,最大舌押しつけ時の筋活動を基準として%MVC(Maximum Voluntary Contraction)を算出し分析に用いた.
分析①高齢者と若年者の全身および口腔の状態の比較
 身長,体重,BMI,残存歯数の比較には,t検定およびMann-WhitneyのU検定を用いた.
分析②高齢者と若年者のゼリーの舌押し潰し様相
1) 口蓋圧および舌骨上筋群筋活動量の比較
 ゼリーの舌押し潰し時の口蓋门ίと舌骨上筋群筋活動量の比較には,t検定およびMann-WhitneyのU検定を用いた.
2) ゼリーの破断荷重の変化による比較
 3種類のゼリーの破断荷重による違いを,高齢者,若年者それぞれで比較した.口蓋圧の比較には,繰り返しのある一元配置分散分析を用いた.舌骨上筋群筋活動量の比較には,平均振幅,積分値の比較にはFriedman検定を,持続時間の比較には繰り返しのある一元配置分散分析を用いた.それぞれ有意差が認められた場合の多重比較には,Bonferroni法を用いた.
3) 各チャネル間の舌圧発現順序の比較
 3種類のゼリーの舌押し潰し時における,各チャネル間のΠ蓋圧発現順序の違いを比較した.
分析③高齢者と若年者の最大舌圧と舌押し潰し能力の比較
 最大舌圧と舌押し潰し能力について,高齢者と若年者間で比較した.比較には,t検定およびMann-WhitneyのU検定を用いた.また,最大舌圧と舌押し潰し能力との関連の検討にSpearmanの順位相関係数を用いた.
 すべての統計解析には,IBM SPSS Version21.0(IBM Japan,東京,日本)を用い,有意水準は5%とした.

【結果と考察】
分析①高齢者と若年者の全身および口腔の状態の比較
 BMIについては,本研究の高齢者,若年者の平均値はそれぞれ22.2±3.9, 21.6±1.9であり,わが国の一般住民と同程度であった.残存歯数については,本研究の高齢者,若年者の平均値はそれぞれ22.9±3.6, 27.9±0.5本であり,高齢者はわが国の一般住民と比較して多かった.今回対象とした高齢者は,定期的な口腔内のメインテナンスを受けていることを包含基準としているため,このような結果が得られたと考えられる.
分析②高齢者と若年者のゼリーの舌押し潰し様相
 3種類のゼリーの舌押し潰しについて,口蓋圧は高齢者と若年者で違いを認めなかった.一方で,舌骨上筋群筋活動量は,筋電図持続時間を除いて高齢者の方が若年者と比較して高い値を示し有意差を認めた.高齢者は,若年者と比較して発揮できる最大舌圧が低いため,より高い割合で舌骨上筋群筋群を活動させる必要があったと考えられる.
高齢者と若年者間で,押し潰すゼリーの破断荷重の違いによる口蓋圧や舌骨上筋群筋活動量への影響には違いを認めなかった.また,ゼリーの舌押し潰し時の各チャネル間の口蓋圧発現順序についても高齢者と若年者間で違いは認められなかった.
分析③高齢者と若年者の最大舌圧と舌押し潰し能力の比較
 最大舌圧,舌押し潰し能力ともに,高齢者の方が若年者と比較して低い値を示し有意差を認めた.内舌筋および外舌筋は骨格筋繊維によって構成されており,骨格筋量は加齢によって減少するため,高齢者の方が最大舌圧は低い値を示したと考えられる.舌押し潰し能力については,破断荷重の大きなゼリーの押し潰しには,強くゼリーを口蓋に押しつける必要があると考えられる.高齢者は若年者よりも最大舌圧が低いため,高齢者の方が舌押し潰し能力が低い値を示したと考えられる.
 最大舌圧と舌押し潰し能力の関連については,高齢者においては最大舌圧と舌押し潰し能力の間に有意な正の相関を認めた.一方で,若年者においては有意な相関を認めなかった.若年者の場合,最大舌圧が大きい者は100Nより大きな破断荷重のゼリーを押し潰せる可能性があり,本研究で製作可能なゼリーが最大100Νであったことが,結果に影響したと考えられる.

【まとめ】
I. ゼリーの押し潰しにおいて,押し潰し時の口蓋圧は高齢者と若年者間で有意差を認めなかった.一方で,舌骨上筋群の筋活動量は,高齢者の方が若年者と比較して大きかった.
II. 最大舌圧および舌押し潰し能力は,高齢者の方が若年者と比較して低かった.
III. 高齢者においては,最大舌圧が増加するにつれて,舌押し潰し能力が増加した.

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