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大学・研究所にある論文を検索できる 「既存剤との交差耐性回避を志向した殺菌剤の探索研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

既存剤との交差耐性回避を志向した殺菌剤の探索研究

松﨑, 雄一 東京大学 DOI:10.15083/0002008313

2023.12.27

概要



査 の 結 果 の 要 旨





松﨑 雄一

本論文は農業現場の植物病防除における大きな障害である耐性菌問題を克服するべ
く、耐性菌問題が甚大なコムギ葉枯病菌 Zymoseptoria tritici を主な対象として、分子分
類学的あるいは構造科学的アプローチを用いて殺菌剤の探索を行い、既存剤と交差耐性
のない選択制殺菌剤を開発し、その作用点を解明することを目的としたものである。
本論文は 4 章から構成される。
第 1 章「序論」では研究の背景について記述されている。医薬に対する耐性菌が大き
な社会問題となっているのと同様に、農薬においても耐性菌の蔓延が問題となっている
ことが記述されている。また、特に生物間選択性を有する選択性殺菌剤は標的菌のタン
パク質等に特異的に結合する作用機作をもつため、非選択性殺菌剤と比較して、一般に
効果が高く、治療効果も持ち、毒性が低いなど優れた性能を持つものの、標的タンパク
質遺伝子等の変異により比較的容易に耐性菌が出現しうるため、耐性菌蔓延が大きな問
題となりうることが論じられている。最後に欧米では大規模に栽培される穀物などの生
産において耐性菌問題が甚大であり、その克服に向けた対策が待ち望まれていることが
順を追って説明されている。
第 2 章は「ピリダクロメチルの開発」である。従来殺菌剤の開発において対象菌の詳
細な分子系統学的位置づけが重視されることはなかったが、本論文ではコムギ葉枯病菌
の分類学上の位置に着目し、本菌ならびに近縁な菌に対して有効な剤のスクリーニング
を行った結果、ピリダジン誘導体が高い活性を示すことを見出したことが報告されてい
る。次いで開発化合物として選抜したピリダクロメチルは in vitro での抗菌試験にて種々
の子嚢菌および担子菌に高い抗菌活性を示し、in planta 試験にて高い予防効果、治療効
果、残効性を併せ持つことを明らかにしたと記されている。また、フランスおよびスペ
インの野外圃場試験でコムギ葉枯病およびメロンうどんこ病に防除効果があることが
示され、感受性モニタリングの結果、耐性株は検出されず、ピリダクロメチルは薬剤耐
性菌にも有効であることが示されたと報告されている。ピリダクロメチルの作用点はチ
ューブリンであること、および結合部位はチューブリンダイマーが重合する際の界面に
位置するビンブラスチン結合部位であることを示唆したと述べられている。一方、実験
室での突然変異誘発により得られたピリダクロメチル耐性突然変異体には親株からの
明確な生育速度や病原性の低下は認められなかったことから、その実用化にあたり耐性
株の蔓延に十分に注意する必要があることが論文中で示唆されている。
第 3 章は「メチルテトラプロールの開発」である。コムギ葉枯病菌の既存の薬剤耐性

株のうち、QoI 剤に対する耐性株では耐性株が2つのタイプ、すなわち G143A アミノ
酸置換型と F129L アミノ酸置換型しか存在せず、F129L 型の実用面での影響は限定的
であることから、G143A 型耐性株に高活性を示す化合物を開発すれば、既存の耐性株に
も十分な効果がある剤を見出せると考えたことが記述されている。既報の X 線構造解
析データより、G143A アミノ酸置換により生じたアラニン残基のメチル基と QoI 剤分
子の中央ベンゼン環との立体障害が示唆されたことから、これを回避可能な化合物につ
いてファーマコフォア部分の化学構造に着目したスクリーニングを行い、さらに構造改
変を行った結果、野生型株に既存剤と同等以上の抗菌活性を示し、かつアミノ酸置換の
影響を殆ど受けないメチルテトラプロールを見出したことが報告されている。メチルテ
トラプロールは既存剤と比較して G143A 型と F129L 型のいずれのアミノ酸置換の影響
も受けにくいことが示され、また in planta 試験において予防効果、治療効果、および充
分な残効性を示したことが記されている。また、野外圃場試験においてもコムギ葉枯病、
オオムギ網斑病、およびテンサイ褐斑病に対し高い防除効果が認められ、さらに欧州に
おけるコムギ葉枯病菌およびオオムギ網斑病菌の感受性モニタリングの結果、メチルテ
トラプロール耐性株は検出されなかったことが報告されている。コムギ葉枯病菌から抽
出したミトコンドリア画分における電子伝達系阻害試験の結果、メチルテトラプロール
は電子伝達系阻害作用を示したことから、メチルテトラプロールの作用点は既存の QoI
剤と同様にミトコンドリアにおける電子伝達系複合体Ⅲであることを示唆している。
第 4 章「総合考察」では本論文中で用いた分子分類学的アプローチと構造科学的アプ
ローチによる殺菌剤開発の独自性と汎用性について評価し、農薬分野だけでなく、医薬
分野においても個々の研究者による独創的なアイデアが今後の薬剤開発においてます
ます重要となることを示唆している。また、新規薬剤を用いた耐性菌マネジメントにつ
いて論じられ、新たな耐性菌が顕在化するリスクを想定したマネジメントが重要である
と結論づけられている。最後に、環境分野の重要課題であるカーボンニュートラルと本
論文の関わりについて論じられ、農薬使用を一律に問題視するのではなく、その是非に
ついては正負両面のバランスを考慮しながら、科学的見地に立った冷静な議論が必要で
あることを述べて論を閉じている。
以上、本論文は世界中で問題となっている耐性菌問題の克服を目指し、標的菌だけで
なく、耐性菌に対しても高い効果を示す新規殺菌剤ピリダクロメチルおよびメチルテト
ラプロールを開発し、これら新規殺菌剤の有効性を圃場試験にて確認したものである。
また、両化合物の作用点を明らかにし、将来的にピリダクロメチルおよびメチルテトラ
プロールにも耐性を示すような菌株が発生する可能性を鑑みたリスク評価も行ってい
る。これらの知見は殺菌剤開発を通じて植物病害防除に寄与するだけでなく、耐性菌に
対抗する新たな手段を見出した点で農学的に重要な研究成果である。以上より、本論文
は博士(農学)の学位請求論文として合格と認められる。

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