リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「蛍光分光法によるタンパク質間相互作用に及ぼすイオン特異的効果についての研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

蛍光分光法によるタンパク質間相互作用に及ぼすイオン特異的効果についての研究

加藤, 茜 KATO, Akane カトウ, アカネ 九州大学

2022.03.23

概要

溶液中のタンパク質分子は拡散し他の分子との衝突を繰り返すなかで標的分子を認識し選択的挙動(in vivo における代謝やシグナル伝達、生体構造の形成、in vitro における結晶化現象など)を示す。生体高分子が高濃度に存在する環境下において、タンパク質分子が凝集せずに標的分子あるいは表面のみを認識し特異的に結合できるのは、系に存在するタンパク質分子間の相互作用の均衡によるものだと考えられている。タンパク質間相互作用は排除体積効果や静電力、van der Waals 力、生体特異的相互作用、疎水性相互作用、水和力などが複雑に絡み合った結果としてもたらされる。従ってタンパク質分子挙動の数理学的理解のために、これらの相互作用を敏感に検出できる手法によりタンパク質分子間相互作用を抽出し定式化することが望まれている。

本論文において筆者らは、上記の目的のために、蛍光分光法を用いることによるタンパク質分子間相互作用の抽出及び定式化を試みた。相互作用を抽出するための観測対象としてタンパク質分子の回転拡散運動に着目した。タンパク質分子の回転拡散運動は隣接する他のタンパク質分子やイオン種、溶媒との相互作用の影響を受けることが知られている。モデル系として hen egg-white lysozyme(lysozyme)- イオン溶液を用い、蛍光偏光解消法により lyzoyme の回転拡散係数 Drot を計測し、Drot の lysozyme 濃度依存性から相互作用パラメーターとしてビリアル係数を導出した。本実験では高濃度下での蛍光測定において問題である多重光散乱や共鳴エネルギー移動、再吸収を防ぐために、蛍光標識した F-lysozyme を試料に微量添加しトレーサーとした。導出したビリアル係数の値と系に存在するイオン種及び lysozyme 結晶化との相関を示し、本手法によるタンパク質間相互作用の定式化が妥当であるかを議論した。

測定の結果、F-lysozyme分子のDrotは溶液中のlysozyme濃度が増加するに伴い減少した、すなわち回転拡散が遅延した。回転拡散の遅延は溶液中のイオン強度及びイオン種に依存的であった。本結果から回転拡散係数についての第2、第3ビリアル係数(B2, B3)を導出したところ、B2は負の値を示しイオン強度に依存して減少、B3は正の値を示しイオン強度に依存して増加した。これは2体間相互作用が引力として、3体間相互作用が斥力として作用しそれぞれイオン強度とともに増大していることを示している。結晶化実験の結果と照合したところ、−0.08 ml/mg < B2 < −0.04 ml/mgの適度な引力相互作用のはたらく条件においてlysozyme正方晶結晶が生じ易いことが示唆された。lysozyme間相互作用誘起のイオン順列は、Na+ > K+ > Li+ > NH4+ > Cs+であり、lysozyme表面の正電荷部位に対するイオン親和性と符合する。また本研究により斥力を示す3体間相互作用が結晶化時の分子配向緩和過程に寄与するという仮説を得た。

さらに筆者らはFörster共鳴エネルギー移動(FRET)を利用することによりイオン存在下における異種2量体タンパク質のドメイン間相互作用の解析を試みた。FRETはある2つの蛍光分子が近接している場合にドナーの蛍光分子の励起エネルギーがアクセプターの蛍光分子を励起する現象であり、これを応用してドナー‐アクセプター間距離の変化をナノメートルオーダーで検出することができる。モデルタンパク質としてGFP-GST融合タンパク質を用い、GSTドメインのN末端に蛍光標識を施すことによりGFPをドナー、GSTドメインの蛍光色素(Cy3)をアクセプターとするFRET対を構築した。時間分割蛍光測定によりアクセプターの存在/非存在下でのドナーの蛍光強度減衰を求め異なる寿命成分の和として解析することでFRETに関与する寿命成分を抽出した。さらにFörsterにより提唱されているFRET機構に従いFRET速度、FRET効率、ドナー‐アクセプター間距離を算出し、一価カチオン存在下での相互作用変化を追跡した。

構築したFRET対の臨界距離(FRET効率が50%となる距離)は62.5 Å、ドナーの蛍光スペクトルとアクセプターの励起スペクトルの重なり積分は5.96×1013 M-1cm3と見積もられた。FRET効率及びドナー‐アクセプター間距離はイオン種及び濃度に依存して変化し、異種2量体タンパク質のドメイン間相互作用におけるイオン特異性が示された。Li+、Na+、NH4+存在下ではイオン濃度増加に伴いドメイン間相互作用は増加した後減少する2相性を示した。一方K+、Cs+の存在下ではイオン濃度濃度増加とともに相互作用は単調増加した。低イオン濃度(0.1 M)におけるドメイン間相互作用の誘起順はLi+ > NH4+ > Na+ > K+ > Cs+であり逆Hofmeister系列にほぼ一致した。本研究において、筆者らはタンパク質間相互作用の微小変化を捉える方法として蛍光偏光解消法と FRET を適用し、イオン存在下における相互作用変化を定量的に評価した。本研究で用いたモデルタンパク質(lysozyme、GFP-GST 融合タンパク質)においては相互作用誘起のイオン順列は逆Hofmeister 系列と一致し、タンパク質-イオン間の直接的な相互作用がタンパク質間相互作用に大きく寄与しているという知見を得た。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る