介護老人保健施設利用者の自宅退所への端緒~調査と介入による家族面会数に着目した検討~
概要
介護老人保健施設入所者(以下:入所者)の在宅復帰率は低下している。低下の理由は家族の意見や存在が重要視されていたことにあった。
家族と入所者の関わり方を理解する為に、我々は家族の入所者への面会に着目した。家族の面会の有無が自宅復帰に影響を及ぼすかもしれないと仮定し、その確認を行った。
本研究の目的は研究 1では自宅群(老健より自宅に退所した人)と医療群(老健より医療機関へ退所した人)の家族の面会数を調べること、研究 2では研究 1の結果より家族に対して、面会数を増加させる介入を行い、自宅復帰に繋げることであった。
研究1の対象者は 138人(自宅群: 47人、医療群: 91人)で、調査項目は各群の面会数、要介護度、自立度、認知度、入所期間とした。その結果、自宅群の入所後 2週間の面会数は医療群より多かった。自宅群は医療群と比べ、要介護度、認知度が低く、自立度は高かった。自宅退所に際しては自立度が高く介護があまり必要ではないという結果のみならず、家族の面会数も多いという結果が得られた。すなわち面会数が自宅への退所に重要な要因になるかもしれないことが分かったので、入所者家族の面会に関する研究 2 を計画した。
研究2の対象者は 86人(介入: 38人、対照: 48人)とし、方法は介入群には入所者家族の面会時にスタンプカードヘ押印し、 4 つ押印が貯まれば兼品を贈与し、対照廊は通常の面会とした。入所者 (l)家族数と面会数、独居・同居における面会数と配偶者の有無の面会数を比較した。また、面会数、家族数、要介護度、自立度、認知度、配偶者の有無について群間比較を行った。加えて、面会数を従属変数、年齢、家族数、要介護度、自立度、認知度を独立変数として重回帰分析を行った。重回帰分析では強制投入法を実施した。また、介入、対照期間後に老健から退所した人の退所先の別(自宅または医療機関)についても比較した。その結果、入所者の家族数と面会数に弱い正の相関がみられた。「独居か同居か」と「配偶者の有無」によって面会数に差は無かった。対照群の家族人数、要介護度、自立度、認知度については差がなかった。面会数は介入群の方が対照群よりも多かった。面会数を従属変数、年齢、家族人数、要介護度、自立度、認知度を独立変数として璽回帰分析を行った結果、家族数が説明力のある変数といえるが、要介護度.、自立度、認知度については説明力がないと判断した。
今回は研究 1で入所者家族の面会数を調査し、家族の面会数は入所 後 2週間において、自宅群の方が多かった。面会数が多いと、入所者と家族の関わりが維持され、疎遠化の防止が期待できる。つまり、面会数が多いことで単純接触効果が影響し、自宅復帰につながっていると考えられる"家族との疎遠化が発生しなければ、自宅退所の可能性が増すと考えられ、家族と入所者との疎遠化を防止するためには面会数を増して、関わりの維持に努める必要があると考えた。そこで、我々は研究 1の結果を元に、家族の面会数を増やすことで家族と入所者との疎遠化を防止し、より自宅への復帰が容易になると考えた。
研究 2では、面会数は入所者の家族数が多いと面会数も多くなると考えられたが、実際は弱い正の相関にとどまった。一方、介入群と対照群を比較したが、「独居か同居か」と「配偶者の有無」によって面会数に差は無かった。加えて、面会数を従属変数、年齢、家族数、要介護度、自立度、認知度を独立変数として重回帰分析を行ったが、面会数に影響を与えるのは、入所者の家族数のみであった。
これらのことから、面会数に影響を与えるのは入所者の家族数と介入の有無である。差はみられなかったものの、介入群の方が若干家族人数の多い傾向にあったため、介入群の面会数が多かったのかもしれない。しかし、面会数を増やすために対象者の家族人数を増すような取り組みを我々が行う事は不可能で、面会数を増やすには、もう一方の因子である介入を行うことが現実的であろう。
研 究 2の目的であった介入によって面会数を増加させて自宅復帰に繋げることについては対照との差がみられなかった。本来であれば長期にわたって追跡調査が必要で、研究期間が結果を導くためには不適切であった可能性があるので退所者数を増やして再確認する必要がある。入所者が自宅に退所できないのは、家族との関わりだけではなく、研究 1でも明らかとなっているように医療の必要性が生じたことである。今回の研究で、入所者が自宅退所に必要な要件は医療の必要性が発生しないこと、家族が入所者の自宅復帰を希望することである。但し、面会数が増えることで老健職員との接触が増えることや、単純接触効果もあいまって家族との疎遠化を防ぐなどの質的効用が期待できるため、今後はそちらを分析すぺきである。