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先天性腎尿路異常の発症に関する研究 : 腎発生におけるCBWD1の役割

吉田, 賢弘 東京大学 DOI:10.15083/0002005110

2022.06.22

概要

先天性腎尿路異常(congenital anomalies of the kidney and urinary tract;CAKUT)は腎尿路の形態異常を先天的に有する疾患を包括した概念である。先天性疾患全体の20-30%を占め、有病率は出生1000人につき3-6人程度である。

CAKUTは尿路感染症や慢性腎不全(chronic kidney disease;CKD)のリスクファクターである。小児のCKDや末期腎不全(end-stage kidney disease;ESKD)の原因として最多であり、本邦でも39.8-62.2%の割合を占める。腎代替療法、特に透析の導入は小児にとって負担が大きく、末期腎不全の患児は健常児と比較して死亡率が30倍上昇することが分かっている。

CAKUTの原因は環境要因や遺伝子異常の影響が挙げられる。環境要因として母体糖尿病、肥満、内服薬の影響などが考えられている。遺伝子異常については単一遺伝子の異常やcopy numbe rvariants、エピジェネティックな変化の影響が考えられる。

小児CKD、ESKDへの対策としてCAKUTの病態理解が必須であり、そのために腎発生のメカニズムを考える必要がある。

ヒトやマウスの腎臓発生は多段階的に進行する。まず中間中胚葉から前腎、中腎、後腎が発生する。前腎、中腎は消退し、後腎が腎臓として機能する。マウスでは胎生8.75日(EmbryonicDay8.75、以下E8.75と表記する)に中腎管が発生し、尿生殖洞へ向けて伸長し、E9.5で到達する。後腎の形成はE10.5に後腎間葉に向けて中腎管から尿管芽が出芽伸長して開始する。E11.5に尿管芽は後腎間葉に侵入し、後腎間葉は尿管芽周囲に凝集し、キャップ状の構造(cap mesenchyme;CM)を形成する。CMは尿管芽の分岐を促進し、自らは上皮様の管へと変化する。これは間葉・上皮転換(mesenchymal to epithelial transition;MET)と呼ばれる。上皮化した後腎間葉は形態を変化させ、コンマ状の凝集体、S字体と変化し、S字体の上部は遠位尿細管に分化し、尿管芽へ結合する。下部は糸球体や近位尿細管へ分化する。尿管芽は糸球体側が集合管、対側が尿管へと分化し、ネフロンが形成される。

尿管芽の侵入やMETなど腎臓発生に関わる主要なシグナル経路として、後腎間葉から分泌されるglial-cell-line derived neurotrophic factor(GDNF)とチロシンキナーゼ受容体(RTK)であるRETを介したGDNF-RET signal pathwayが知られている。

GDNF-RET signal pathwayに関わる遺伝子のうち、GDNFの発現を調節するものとしてPairedboxgene2(PAX2)、Eyesabsenthomolog1(EYA1)などがある。PAX2のホモ欠損マウス(Pax2-/-)とEYA1のホモ欠損マウス(Eya1-/-)では後腎間葉でのGDNFの発現が低下し、低形成腎や腎無形性を認める。

RETの制御に関与する遺伝子として知られているものにSprouty1(Spry1)、Gatabinding protein3(GATA3)がある。Spry1はRTKアンタゴニストとして知られており、Spry1欠損マウスでは異所性に尿管芽が出芽し、重複尿管、水尿管を認める。GATA3は転写因子であり、発生期の腎臓においては、中腎管と尿管芽に発現する。中腎管でのGATA3ノックアウトマウス(HoxB7/Cre;Gata3flox/flox)ではRetの発現が低下し、腎無形成や低形成、重複腎等を認める。このように多くのCAKUTの原因遺伝子がGDNF-RET signal pathwayを制御することで腎臓発生に関与していることが知られている。

当研究室では2019年にCobalamin Synthetase W Domain-Containing Protein1(CBWD1)がCAKUTの原因遺伝子であることを同定した。片側低形成腎、片側腎無形成を呈するCAKUTによりESKDに進展し、腎移植を受けた兄妹例を含む家族5名にエクソーム解析を実施した。腎外病変は認めていなかった。エクソーム解析では既知のCAKUT原因遺伝子の変異は同定されなかったが、9番染色体177574-179736の周辺領域においてホモ接合性欠失を患者のみに認めた。同部位はCBWD1のExon1を含む領域であった。欠失部位の配列の詳細を同定するために全ゲノムシークエンスを実施し、欠失領域を9番染色体178351-182100と同定した。次にCbwd1の発現部位を同定するためマウス胎仔腎を用いて免疫染色を行ったところ、Cbwd1はE13.5から尿管芽に発現を強く認めた。CBWD1の遺伝子異常がCAKUTの原因であるかを調べるためにCRISPRCas9を用いてCbwd1ノックアウトマウス(C57BL/6N-Cbwd1em1、以下とCbwd1+/-と表記する)を作製した。P0マウスの腎臓を解析するとCbwd1+/-の4%、Cbwd1-/-の29%で重複腎盂、重複尿管、水尿管を認めた。以上によりCBWD1がCAKUTの新規原因遺伝子であると同定した。

CBWD1がCAKUTの原因遺伝子であることは明らかとなったが、ノックアウトマウスが重複腎盂や重複尿管、水腎症といった表現型を呈する機序は不明である。そこで、腎臓発生におけるCBWD1の分子メカニズムの解析をGDNF-RET signal pathwayとの関連に注目して行うこととした。

Cbwd1の発現部位を同定するために、E12.5、Adlutの野生型マウスとCbwd1-/-から各種臓器を採取し、mRNAを抽出して逆転写し、cDNAを作成した。qPCRを施行したところ、各種臓器でCbwd1の発現が低下したため、Cbwd1は各種臓器に発現していることが分かった。発生期の腎臓におけるCbwd1の詳細な発現部位を同定するため、P0マウスの胎仔腎で連続切片を作成し、抗CBWD1抗体と尿管芽のマーカーとして抗GATA3抗体で免疫染色を行い、Cbwd1とGata3が共に尿管芽の細胞核内に発現することを確認した。

培養細胞内でのHA-CBWD1とFlag-GATA3の局在を検討するためHCT116細胞に強制発現させ、免疫染色を行った。Flag-GATA3は細胞核に発現している一方でHA-CBWD1は細胞質主体に発現し、一部が細胞核に発現していた。Flag-GATA3を強制発現させてもHA-CBWD1の局在は変化しなかった。

Cbwd1とGata3が共に尿管芽の核に発現し、Cbwd1ノックアウトマウスがGata3ノックアウトマウスと同様に水腎症、重複尿管、重複腎盂といった表現型を認めることから、CBWD1とGATA3が相互作用をする可能性を考慮し、免疫沈降による結合実験を行った。HA-CBWD1ベクターとFlag-GATA3ベクターをHCT116細胞に共発現させ、Flagビーズを用いて免疫沈降を行ったところHA-CBWD1とFlag-GATA3が生化学的に結合していることが分かった。そこで、結合が直接的であるかどうかを評価するため、GST融合CBWD1タンパクとHis融合GATA3タンパクを作成し、Pull-down Assayを行った。すると、CBWD1とGATA3が直接結合することが示された。

次にCBWD1の結合部位を解析した。CBWD1はモチーフ解析でDNA-binding domainとCOBW domainを有するため、それぞれを削除したベクターを作成した(ΔHead、ΔNuc、ΔCobw)。変異ベクターと野生型ベクターをHCT116細胞に共発現させてFlagビーズを用いて免疫沈降を行ったところ、ΔHeadとΔCobwでは結合に変化は認めなかったことから、DNA-binding domainがGATA3との結合に関与している可能性が考えられた。

GATA3はRetのプロモーター領域にあるGATAエレメント配列(5’-A/TGATAA/G-3’)に結合し、Retの発現を促進することが知られている。そこでE14.5の野生型マウスから胎仔腎を採取して抗GATA3抗体、抗CBWD1抗体でChIPを行い、ChIP産物に対して、マウスのRetプロモーター領域のGATAエレメント配列を含むプライマーを用いてqPCRを行った。すると、GATA3、CBWD1ともにGATAエレメント配列を含む領域にinvivoで結合することが明らかとなった。CBWD1がRETの転写活性を調節するかどうかを調べるためにルシフェラーゼアッセイを行った。GATAエレメント配列を含むRetのプロモーター領域をpGL3ベクターに導入したレポーターベクター(pGL3-Ret)を作成し、Flag-GATA3発現下にRetのルシフェラーゼ活性が平均2.19倍(SD0.091)亢進した(P<0.001)が、GATAエレメント配列に点変異を導入した(MutpGL3-Ret)レポーターベクターを用いたアッセイでは、Flag-GATA3投与下でもRetのルシフェラーゼ活性が平均1.18倍(SD0.090)と亢進しなかった(P=0.082)。

次にこのpGL3-RetとHA-CBWD1、Flag-GATA3を共発現させて解析を行った。Flag-GATA3単独でRetのルシフェラーゼ活性は平均1.46倍(SD0.11)亢進した(P

ルシフェラーゼアッセイの結果からCbwd1がin vivoにおいてもRetの発現を制御する可能性を考えた。Retm RNAを評価するためqPCRを行った。E11.5、E12.5、E14.5の野生型マウスとCbwd1-/-の腎臓を採取し、qPCRを行ったが、いずれもGata3、RetのmRNAは有意差を認めなかった。

次に蛋白質レベルでのRet発現の変化を評価するためにE11.5、E14.5の野生型マウスとCbwd1-/-の腎臓を抗Ret抗体で染色したが、いずれもRetの発現に明らかな差は認められなかった。

今回の実験ではCBWD1とGATA3の生化学的な結合を見出した。またChIPAssayによりGATA3とCBWD1がRetのプロモーター領域にin vivoで結合することを、またルシフェラーゼアッセイによりCbwd1単独ではRetの転写活性を調節しなかったものの、Gata3と共発現させることでRetの転写活性を増幅させることが分かった。以上より、CBWD1はGATA3のcofactorとしてRETの転写活性を正に制御している可能性が考えられた。

今回の実験では野生型マウスとCbwd1ノックアウトマウスとの間で、E11.5以降のRetの発現の分布と量に明らかな差を認めなかった。この原因として3つのことが考えられた。第一に使用したマウスの問題である。CAKUTの所見を認めていたマウスはCbwd1-/-の29%であったことから、今回の実験でCAKUTを認めないマウスを評価し、有意差が得られなかった可能性が考えられた。また、Cbwd1ノックアウトマウスは重複尿管を呈する。尿管芽の出芽はE10.5で生じるため、それ以前でのRetの発現や機能に影響を生じている可能性があるため、より未分化な状態での胎仔腎や中腎管を用いた実験が必要とも考えられた。二つ目に実験手法の問題がある。中腎管でのGata3ノックアウトマウス(GATA3ND-/-)では異所性の尿管芽の出芽を認め、同部位でRetの発現を認めることが知られている。今回施行した免疫染色は単一断面を評価していることから、異所性に出芽し、Retが発現する尿管芽を評価できていない可能性が考えられた。そのため、wholemount免疫染色により3次元的にRetの発現を評価する必要があると考えられた。3つ目の問題としてCbwd1、Gata3複合体がRet以外の遺伝子を調節し、複合的にGDNF-RET signal pathwyを調節している可能性が考えられた。Gata3はRet以外にも腎発生に関与する転写因子であるLIMhomeobox1(Lim1)を調節することが知られている。このため、抗CBWD1抗体、抗GATA3抗体を使用したChIP-sequenceを行い、Cbwd1、Gata3複合体が制御する遺伝子を検索する必要があると考えられた。

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