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大学・研究所にある論文を検索できる 「日本語版統一多系統萎縮症評価尺度の作成と,本尺度を用いた多系統萎縮症自然歴の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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日本語版統一多系統萎縮症評価尺度の作成と,本尺度を用いた多系統萎縮症自然歴の検討

近田, 彩香 東京大学 DOI:10.15083/0002005009

2022.06.22

概要

序文研究の背景と目的
多系統萎縮症(MSA)はパーキンソニズム、小脳失調、錐体路徴候に加えて自律神経障害を伴うことを特徴とする神経変性疾患である。

MSAが家族内で複数人発症している家系から、COQ2遺伝子の変異がMSAと関連していることが指摘され、COQ2変異による稀な変異がMSAと関連していることが指摘された。COQ2変異によりコエンザイムQ10の合成が低下するためコエンザイムQ10投与が治療となる可能性があり、治験が開始となった。当院主導で開始となった治験の治療効果判定は、統一多系統萎縮症臨床尺度(以降UMSARS)が用いられることとなった。

2004年、ヨーロッパ多系統萎縮症研究グループがMSAの臨床評価スケールとなるUMSARSを発表し、現在、自然歴調査や臨床治験における評価ツールとして世界中で広く使用されている(Mov Disord 2004;19:1391-40)。しかしながら、the International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research (ISPOR)taskforce for translation and cultural adaptationの提唱した翻訳に関するガイドライン(Lancet Neurol 2019; 18: 724-35)に従って翻訳し、信頼性・妥当性を検討した日本語版UMSARSは作成されていない。また、日本でUMSARSを用いたMSAに対する前向きの自然歴の調査はまだ行われていない。後ろ向きの自然歴の調査を行い、直近の日本でのMSAの長期的な自然歴を把握することも治験での評価時や臨床での病状把握の際に有用であると考える。

今回の研究の目的は、日本語版UMSARSを作成し、日本におけるMSAの自然歴調査を行い、自然歴のデータから予後因子を探索することである。

【日本語版UMSARS作成のための翻訳】
The ISPOR task force for translation and cultural adaptationのガイドラインに則ってオリジナルUMSARSの翻訳を行った。

オリジナルUMSARSの開発者(Wenning GK)と版権者であるthe International Parkinson and Movement Disorder Societyの承諾を得てUMSARSの翻訳を開始した。すでに、2つの独立したグループがUMSARSの日本語訳を行っており、それらを統合して統合和訳版UMSARSを作成した。用いた日本語訳のUMSARSは、1つはJapan MSA research consortium翻訳のもので、もう1つは大友学、尾方克久らが翻訳したものであった(医療2008;62:3-10)。その後、英語に再び逆翻訳してもらった。逆翻訳後の英語化されたUMSARSをオリジナルUMSARSの開発者(Wenning GK)に評価してもらい、指摘のあった点について修正を加えた。実際にMSA患者に使ってみて、理解しにくい部分があれば修正を加え、完成させた。

オリジナルUMSARSの日本語訳が完成した。

今回の翻訳作業は、国際的なガイドラインに則った標準的な方法であり、日本語版UMSARSを日本中で広く使うためには必要な方法であった。

【日本語版UMSARSの信頼性・妥当性の検討】
作成した日本語版UMSARSの信頼性・妥当性の検討を行った。信頼性は内部整合性と検者間信頼性で、妥当性は他の評価スケールとの比較で評価を行った。

対象者はGilmanの診断基準でpossibleもしくはprobable MSAの基準を満たした。内部整合性、UMSARS Part IIの検者間信頼性、妥当性の検討のために70人、PartIの検者間信頼性のために56人の協力を得た。1人の神経内科医が、UMSARS Part I、Part II、Barthel Index(BI)、Schwab and England Activities of Daily Living Scale(SES)、Functional Independence Measure(FIM)の評価を行い、MSA-Pの場合はMovement Disorder Society-Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(MDSUPDRS)、MSA-Cの場合はthe International Cooperative Ataxia Rating Scale(ICARS)の評価も行った。検者間信頼性評価については2人の神経内科医が同一の参加者に対して評価を行った。内部整合性は、Cronbachのα係数で評価し、検者間信頼性は、重み付けCohenのκ係数で評価した。妥当性は、UMSARSと他の評価スケールとをSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。

Cronbachのα係数はPartIで0.87、PartIIで0.90であり、高い内部整合性があることが示された。検者間信頼性は、すべてκ係数が0.5以上であった。PartIと他のスケールとの相関は、Spearmanの順位相関係数にて、BIで-0.75、SESで-0.71、FIMで-0.82、MDS-UPDRSpart2で0.81だった。PartIIと他のスケールとの相関は、Spearmanの順位相関係数にて、MDS-UPDRSpart3で0.86、ICARSで0.85だった。いずれも高い相関が示された。

当検討で、私たちは作成した日本語版UMSARSの信頼性・妥当性があることを確認した。

【多系統萎縮症の前向きの自然歴調査】
日本語版UMSARSを用いて12ヶ月間、MSA患者を前向きに評価し、その変化量を調べた。

2016年8月~2018年5月に登録したpossibleもしくはprobable MSAの患者197人を対象とした。全ての参加者は登録時に神経内科医によってPart IとPart IIの評価が行われ、登録12ヶ月後に神経内科医によってPart IIの評価が行われ、電話にて看護師によるPart Iのインタビューが行われた。UMSARSスコアの変化量は、登録時のスコアと12ヶ月後のスコアの差と定義した。

患者全体の12ヶ月での平均変化量はUMSARS Part Iで7.2(標準偏差5.3)で、UMSARS Part IIで7.1(標準偏差5.6)だった。病型別の12ヶ月でのUMSARS Part IIの平均変化量はMSA-Pで7.9(6.1)、MSA-Cで6.7(5.4)だった。

前向きの自然歴調査の結果とすでに報告のあるアメリカの報告(LancetNeurol2015;14:710-19)とヨーロッパの報告(Lancet Neurol 2013; 12: 264-74)と比較すると、アメリカでの報告に比べてUMSARSスコアの変化量が当報告・ヨーロッパ報告で大きいことがわかった。ヨーロッパ・当報告と比較をするとアメリカの報告での対象患者は発症後経過年数が長い傾向にあることから、UMSARSスコアの変化量は、発症早期の方が大きく、病状が進行すると小さくなっていくことが考えられた。

【多系統萎縮症の後ろ向きの自然歴調査】
長期的な予後を検討するため、カルテ上の病状のマイルストーンの記録を用いて、MSA患者を後ろ向きに評価し、発症からマイルストーンに至るまでの期間を調べた。2005年1月~2017年3月に東京大学医学部附属病院神経内科に入院歴のあるMSA患者を抽出し、possibleもしくはprobable MSAの133人を対象とした。マイルストーンに関する情報をカルテから抽出した。生存・歩行期間についてはカプランマイヤー法で中央値を算出した。

生存期間の中央値は10年だった。病型別ではMSA-Pの生存期間中央値は18年で、MSA-Cの生存期間の中央値は10年だった。気管切開実施の有無で群分けし、気管切開なしでの生存期間中央値は9年、気管切開ありでの生存期間中央値は18年だった。MSA-Pの死亡確認数は7、気管切開ありでの死亡確認数は8であり、少ないためこれらの生存期間中央値は信用できる数値ではないと判断した。杖等補助具使用もしくは伝い歩き開始までの期間の中央値は3年だった。ADL車椅子レベルもしくは臥床状態となるまでの期間の中央値は4年だった。

1985-1999年の患者を対象としたWatanabeらが報告したMSAの後ろ向き自然歴調査では、介助歩行となる中央値は3.0年、生存期間の中央値は9.0年だった(Brain2002;125:1070-83)。Watanabeらの報告では、気管切開症例は気管切開手術を受けた時点で打ち切りとしている。当研究では、気管切開をしていない例での生存期間中央値は9年であり、歩行に補助が必要となる期間の中央値は3年で、Watanabeらの報告に近い数値であった。直近の日本での生存期間の傾向は1985-1999年時のものと大きな違いはなかった。

【前向きの自然歴調査を用いた予後因子の検討】
得られた前向き自然歴調査の結果を用いて、MSAの予後因子の検討を行った。

各所見や症状を説明変数、UMSARS Part IIスコアの12ヶ月変化量を目的変数としてMann-Whitney U検定もしくは単回帰分析を用いて検討した。

病型、性別、possibleかprobable MSAか、尿失禁の有無、COQ2遺伝子変異の有無、起立性低血圧の有無、男性におけるインポテンツの有無、登録時の小脳失調とパーキンソニズムの合併の有無で層別化し、UMSARS Part IIの12ヶ月変化量の差を群間で検討し、いずれも有意差は見られなかった。登録時のUMSARS Part IIスコアと、12ヶ月後のUMSARS Part IIの変化量に相関があるか、単回帰分析で評価を行い、有意な相関が見られた。発症年齢と12ヶ月後のPart II変化量では有意な相関は見られなかった。登録時のUMSARS Part IIスコアと、病型、性別、possibleかprobable MSAか、尿失禁の有無、COQ2遺伝子変異の有無、起立性低血圧の有無、登録時の小脳失調とパーキンソニズムの合併の有無を説明変数とし、UMSARS Part IIの12ヶ月変化量の差を目的変数として重回帰分析を実施し、登録時のUMSARS Part IIスコアと尿失禁で有意な相関がある事が示された。

登録時のUMSARS Part IIスコアが大きいほどUMSARS Part IIスコアの増加量が小さい傾向にあった。ヨーロッパとアメリカの既報では経過年数を重ねるほどUMSARSスコアの変化量が小さくなることが示されており、当研究でも同様の結果が得られたと考える。また、自律神経障害が生存期間に影響を与えているという報告は複数あり、尿失禁のみでなく自律神経障害自体が病状進行に影響を与えた可能性がある。

【後ろ向きの自然歴調査を用いた予後因子の検討】
得られたMSAの後ろ向きの自然歴調査の結果を用いて、予後因子の検討を行った。

生存期間に対する予後因子の候補をCox回帰分析で評価した。また、各因子の「杖等補助具使用もしくは伝い歩きまでの期間」の群間の差をLogrank検定で検討した。病型、年齢、性別、胃瘻造設の有無、夜間NPPV使用の有無、気管切開実施の有無、フォローアップ期間についてのCox回帰分析の結果、p値が0.05を下回ったのは気管切開実施の有無で、Hazard比は0.34であった。Logrank検定の結果では、66歳以上の発症で歩行補助具使用もしくは伝い歩きになるまでの期間が有意に短いことが示された。

今回の研究では、気管切開の有無が生存期間に影響することが示された。ただし、未知の交絡因子が存在する可能性は考慮される。

終章 結語
今回の研究では、日本語版UMSARSを作成し、それを用いた日本のMSAの前向き自然歴調査と後ろ向きの自然歴調査を行った。この研究結果は、今後MSAの治験を日本で行う上で意義があると考える。

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