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慢性胃炎患者と胃炎マウスモデルの病態別解析

坪井, 真代 東京大学 DOI:10.15083/0002005031

2022.06.22

概要

背景・目的:
慢性胃炎は胃癌の重要なリスク因子であり、病態を理解することは、その後に発生する胃癌のリスクの理解につながる。ヒトにおいて、慢性胃炎の主な原因Helicobacter pylori(H.pylori)感染で胃癌のリスク因子である。しかし、H.pyloriが原因と考えられていた慢性胃炎患者の中には、A型胃炎が原因で慢性胃炎を発症している患者もいることが報告されており、慢性胃炎の病因を鑑別することが重要である。A型胃炎患者とH.pylori胃炎患者の2群に分類し、臨床像、胃内細菌叢、累積胃癌発生率の検討を行った。

次にマウスにおいては、H.pylori感染に加え、遺伝子改変を誘導することができる。ヒト胃炎の組織学的変化の再現を試みることは、胃炎、胃癌の病態解明の一助となると考えられる。しかし、既存のマウスモデルの特徴や病態の違い、類似性は明らかではなく、これらを横断的に解析し、特徴を比較した。さらに、一般にマウス胃炎モデルでは腸上皮化生とは異なる化生性変化であるSPEMが誘導されるものの、腸上皮化生はほとんど起きないとされる。そこで腸上皮化生マウスモデルとして、条件的にCDX2を発現させることのできるLSL-Cdx2マウスを作製し、胃上皮に強制発現した際の影響を評価した。さらに各マウスモデルの、RNAsequenceを用いたTranscriptome解析、CyTOF解析を用いたimmune profilingを行い、各モデルの類似性と差異の検討を行うこととした。

方法:
まず、ヒト胃炎患者を対象とした検討を行った。2005年1月から2017年12月までの期間に上部消化管内視鏡検査を受けた患者のうち、高度の内視鏡的萎縮性胃炎(木村・竹本分類opentype)と診断された患者を対象とした。これらの患者のうち、過去1年に胃癌の診断や胃切除術を受けた患者、軽度萎縮性胃炎の患者(木村・竹本分類closedtype)は除外した。血清学的検査にて抗胃壁細胞抗体が10倍値以上の値を有する患者をA型胃炎、陰性をH.pylori胃炎群とした。年齢、性別、併存疾患、H.pylori感染、内服薬、血液検査値、上部消化管内視鏡検査所見と病理組織学的所見を調査した。一部の患者の胃体部粘膜よりDNAを採取し、16srDNA解析により粘膜内細菌叢を評価した。

胃炎マウスモデルの検討は以下のマウスを用いた。1)野生型C57BL/6Jマウス(wildtype:WT)にDMP777を投与したマウス(DMP)。2)WTマウスに高容量タモキシフェンを投与したマウス(TAM)。3)WTマウスにH.Pylori,PMSS1株を経口感染させたマウス(H.pylori)。4)胃壁細胞プロモーター下にヒトIL1βを発現する、トランスジェニックH/KATPase-IL1βマウス(IL1β)。5)主細胞と胃腺管頚部幹細胞のマーカーであるMist1のプロモーター領域下にタモキシフェン誘導性に任意のタイミングでCre遺伝子を発現するMist1-CreERTマウスとKras遺伝子座にloxP-Stop-loxP配列(LSL)と変化型Kras遺伝子(KrasG12D)が挿入されているマウスを交配させた、Mist1-CreERT;LSL-KrasG12Dマウス(MK)。6)胃粘膜上皮細胞マーカーのTFF1プロモーター領域下にCre遺伝子を発現するマウスと、がん抑制遺伝子PTENのコンディショナルノックアウトマウスであるPtenflox/floxマウスを交配させ、TFF1特異的に、PTENが欠損するTff1-Cre;Ptenflox/floxマウス(PTEN)。さらに、CAGプロモーター下にLSL-Cdx2配列を挿入したCAG-LSL-CDX2ベクターを作製、マイクロインジェクションを施行し、新規にLSL-Cdx2マウスを作製した。このマウスをTff1-Creマウスと掛け合わせ、TFF1プロモーター領域下にCDX2を発現するTCマウス、さらにKras変異を加えたTff1-Cre;LSL-KrasG12D;;LSL-Cdx2(TKC)マウス、Lgr5陽性幹細胞にタモキシフェン誘導性にCDX2を発現するLgr5-CreERT;LSL-Cdx2(LC)マウスを作製した。これらのマウスの胃を免疫組織染色で評価した。また、マウスの胃体部組織を用いてRNAsequence解析とCyTOF解析を行った。

結果:
2005年1月から2017年12月までの期間に上部消化管内視鏡検査を受けた患者は2225人であった。このうち軽度萎縮性胃炎患者1336人、1年胃内に胃癌と診断された患者169人、胃癌手術歴のある21人、APCAが未測定の患者568人を除外し、A型胃炎患者60人とH.pylori胃炎患者71人を解析した。A型胃炎患者は、甲状腺疾患の割合(25.00%)がH.pylori胃炎患者(8.45%)と比べて有意に高かった。A型胃炎患者の血液ガストリン値(1412pg/mL)、血液葉酸値(11.33ng/ml)はH.pylori患者(血液ガストリン値353pg/mL、血液葉酸値6.93ng/ml)と比べて有意に高値であった。上部消化管内視鏡検査所見では、高度胃粘膜萎縮の割合は、A型胃炎患者とH.pylori患者間に違いは認められなかった。一方、前庭部に比して胃体部優位の胃粘膜萎縮の割合は、A型胃炎患者(31.67%)がH.pylori胃炎患者(7.04%)よりも統計学的に有意に高かった。病理組織学的な好中球浸潤、腸上皮化生、萎縮はA型胃炎患者とH.pylori胃炎患者の間で差は認めなかった。さらにこのうち14人のA型胃炎患者と15人のH.pylori胃炎患者の胃内細菌叢を評価した。A型胃炎患者では、Streptococcus、Veillonella、Prevotellaがgenusレベルで最もリード数が多い菌種であった。H.pylori胃炎患者では、Bacteroides、Veillonella、Prevotellaが最もリード数が多い菌種であった。Streptococcus、Haemophilus、Selenomonaus、GranulicatellaはA型胃炎患者のみに同定された。

PCoA解析では、上位2つの主座標の寄与率はPC121%とPC212%でA型胃炎とH.pylori胃炎の胃内細菌叢は異なっていた。A型胃炎はStreptococcus(p=0.046)、Selenomonaus(p=0.031)、Granulicatella(p=0.034)、Bacillus(p<0.001)の割合が、H.pylori胃炎と比べて有意に高値であった。

累積胃癌発生率の解析では、平均観察期間はA型胃炎で6.2年、H.pylori胃炎で7.4年であった。観察期間中に胃癌の診断をされた患者はA型胃炎で1人、H.pylori胃炎患者で4人であった。胃癌の累積発生率は、A型胃炎では5年で0%、10年で0.03%であった。H.pylori胃炎では5年で0.03%、10年で0.05%であり、有意差を認めなかった(p=0.457,log-rank)。

次に胃炎マウスモデルの評価をした。DMP投与とTAM投与モデルは壁細胞の減少と主細胞の変形、減少を認めたが、投薬中止後に速やかに回復した。慢性胃炎モデルでも同様に壁細胞の減少と主細胞の変形を認めた。加えて、表層上皮細胞の過形成と粘液を伴う化生性変化が確認できた。急性胃炎モデル、慢性胃炎モデル共にTFF2を発現するSPEM細胞の出現を認めた。DCLK1陽性の刷子細胞は正常と比較して、いずれのモデルでも増加していたが、特にIL1βとH.pyloriモデルで著明に増加していた。急性胃炎モデルでは投薬を中止すると萎縮の改善と共にSPEMは消失したが、慢性胃炎モデルで認められるSPEMはアルシアンブルー染色陽性であり、この変化は不可逆的であった。しかし、全てのモデルで腸上皮化生マーカーのMUC2、CDX2は陰性であった。新規の腸上皮化生モデルであるTCマウスでは全胃にわたり、表層細胞の過形成が目立ち、特に前庭部で腺管構造が腸の絨毛様に変化し、同時に杯細胞の出現を認めた。免疫染色では胃前庭部の杯細胞はMUC2陽性、CDX2陽性であった。これらの杯細胞の下部にKi67陽性細胞が存在し、さらにその下にMUC6陽性の(TFF2と同じ分布を示す)SPEMが存在するというヒトの腸上皮化生に類似した変化が生じた。胃特異的な内分泌細胞であるガストリン産生細胞(G細胞)は、Cdx2発現マウスで減少を認めた。一方、胃体部においてはCDX2の発現は誘導されたが、杯細胞は出現しなかった。経時的に1年間観察しても、CDX2の恒常的発現はあるものの、杯細胞の前庭部に限局した分布は変化せず、体部では腸上皮化生や腫瘍の形成は認めなかった。同様に、LCマウスではLgr5のリコンビネーション効率依存性にモザイク状にCDX2が発現し、CDX2が発現している腺管ではMUC2陽性の杯細胞が出現したが、前庭部のみの発生であった。CDX2を発現した腺管と発現していない腺管ではKi67の発現に差はなく、このマウスを1年間観察してもCDX2やMUC2の発現は進展しなかった。一方、TCマウスにKras変異を加えたTKCマウスを作製すると、胃体部にも杯細胞を含む腸上皮化生が出現した。Krasが発現するとマウス体部の壁細胞は消失し、体部腺管は前庭部様に変化することから、体部の腸上皮化生の出現には前庭部化が必要な可能性がある。これらのマウスでRNAsequence解析を行った。WTマウスの体部と比較して大腸への類似性を検討すると、TKCマウスが最も大腸に類似しており、転写レベルでも最適な腸上皮化生モデルであることが示された。最後にCyTOFで得られたデータをViSNE解析により比較した。Krasモデルでは、未熟好中球分画(MDSC)が増加していた。PTEN、H.pyloriおよびIL1βモデルではMDSCの増加と成熟好中球増加の両方が確認された。さらに、H.pyloriモデルとIL1βモデルでは、CD11c陽性樹状細胞、CD19陽性B細胞、およびCD3陽性T細胞の増加が示され、獲得免疫応答の強い関与が示唆された。免疫染色で確認すると、H.pyloriモデルとIL1βモデルではリンパ濾胞様の構造が粘膜下層からlaminapropriaに認められ、その内部には多数のCD19陽性B細胞が集族し、その周囲をCD11c陽性樹状細胞、CD3陽性T細胞が取り囲んでいた。胃炎における免疫応答の場として、炎症に伴うリンパ濾胞が形成され、小腸のパイエル板と同様にIgA抗体やIgG抗体の産生部位であることが確認できた。IL1βモデルにおいて、B細胞をCD20抗体で阻害すると、有意差はないものの、正常マウスに比較して、B細胞を阻害したIL1βマウスでは炎症、過形成、萎縮、化生の全項目でスコアが高かったことから、B細胞は萎縮・化生性変化を抑制する働きがあると示唆される。

結論:
A型胃炎とH.pylori胃炎は臨床像、胃内細菌叢が異なっていることを明らかにした。一方で、A型胃炎の胃癌発生リスクはH.pylori胃炎と違いは認められなかった。胃炎マウスモデルの特徴の解析では、新規に作製したTKCマウスが病理学的・遺伝子発現解析の双方で最も大腸に近似していることがわかった。また、IL1βモデルは免疫プロファイルがH.pylori感染に類似しており、除菌後もしくはH.pylori非感染胃炎のモデルとして有用な可能性がある。また、B細胞が胃炎進展に対して保護的に作用することが示唆された。

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