慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態形成におけるSirtuin3の役割の研究
概要
慢性閉塞性肺疾患:Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD)はタバコなどの微粒物質の吸入による炎症により気道炎症と肺気腫が生じ、これらにより気流閉塞が引き起こされる疾患であり、感染などによる増悪を繰り返すことで進行する。タバコ煙刺激などによりミトコンドリアにおいて産生が増加する活性酸素種(ROS)は、COPDの病態形成における重要な機序の1つと考えられている。Sirtuin3(SIRT3)は脱アセチル化を担うNAD+依存性の酵素であり、主にミトコンドリアに局在し、ROS産生を調節する。本研究では、SIRT3がCOPDにおいて防御的に作用するとの仮説を検証することを目的とした。
まず、SIRT3過剰発現マウス、SIRT3欠損マウスの表現型を解析した。SIRT3過剰発現マウスの肺は、野生型と表現型の差異を認めなかったが、欠損マウスにおいては、加齢に伴う気腔の増大がより進行することが示された。
次に、これらのマウスを用いて、porcine pancreatic peptide(PPE)、Lipopolysaccharide(LPS)の経気道投与によるCOPDモデルマウスを作成した。急性期では、SIRT3過剰発現マウスにおいては、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好中球数の上昇が軽減し、欠損マウスにおいては好中球数の上昇が増悪した。また、慢性期においては、SIRT3過剰発現マウスにて気腫病変、BALF中のマクロファージ数が軽減し、欠損マウスでは増悪した。急性期の気道炎症、慢性期の気腫化共に、SIRT3が保護的に働くことを示した。
Invitro試験では、SIRT3が気道上皮細胞からのサイトカインの放出を抑制することで、気腫化の形成を抑制する可能性が示唆された。SIRT3により酸化ストレスに対する保護作用をもつ酸化還元酵素(SOD2、OGG1、NRF2)が上昇することから、これらの因子が複合的に作用しているものと考えられる。
これらの結果より、SIRT3が、COPDの気道炎症、気腫化の両方の病態に深くかかわっている可能性が示唆された。