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大学・研究所にある論文を検索できる 「がん分子標的薬および抗菌薬によるインフラマソーム活性制御機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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がん分子標的薬および抗菌薬によるインフラマソーム活性制御機構の解明

工藤 勇気 東北大学

2020.03.25

概要

生体は、常に様々なストレスに暴露されており、細胞レベルで個々のストレスを精確に感知し、適切な細胞応答を行うことで、生体の恒常性が維持されている。現代における医療や科学技術の急速な発展は、健康の増進や生活の利便性向上に大きく貢献する一方、医薬品の成分や環境汚染物質、食品添加物等、生体が適切に対処すべき新たなストレスを生み出した。実際、これら「現代的ストレス」は疾患発症の要因となることが判明し、しばしば社会問題を引き起こしている。しかし、細胞が現代的ストレスを感知する機構や、その結果引き起こされる細胞応答についてはほとんど解析されていない。当研究室では、医薬品への曝露を「薬剤ストレス」と捉え、そのストレス応答のメカニズム解析によって、これまでほとんど解析されてこなかった「医薬品の使用により発生する副作用疾患」の分子機序解明を目指している。医薬品の使用により発生する重篤な副作用は、激しい炎症を伴うことが多いことから、本研究では、炎症誘導に必須の役割を果たしているインフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体に着目し、医薬品による副作用発症におけるインフラマソームの関与を検討した。以下、各医薬品に関する研究結果の概要を記す。

【第一章 がん分子標的薬ゲフィチニブの炎症誘導作用の解析】
ゲフィチニブは、上皮成長因子受容体 (EGFR)のチロシンキナーゼ活性に対する選択的な 阻害作用により、抗がん作用を示す分子標的治療薬の1つである。従来の抗がん剤とは異な り、がん細胞特異的な作用メカニズムを有する医薬品として治療効果と安全性の高さが期 待され、世界に先駆けて日本において承認された。現在は、日本を含む約 90 カ国において、 EGFR 遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺癌に対して適応されている。しかし、上市直後から副作用の報告が相次ぎ、結果的には 1-10%未満という高頻度で重篤な間質性肺 炎を発症させることが判明している。間質性肺炎は、特定の医薬品やウイルス感染などによ って肺の免疫系が過剰活性化することで発症し、呼吸困難や呼吸不全といった肺機能の低 下を引き起こす。特に、免疫細胞の浸潤および活性化と、それに伴う炎症性サイトカイン量 の増加が病態形成に重要な役割を果たしていることが報告されている。しかし、ゲフィチニ ブによる間質性肺炎の発症を直接的に説明できる炎症誘導機序は未だ明らかにされていな い。そこで第一章では、生体における炎症の誘導に中心的な役割を果たしているマクロファ ージに着目し、ゲフィチニブによって引き起こされる細胞応答を評価した。

ヒトマクロファージ様細胞株 THP-1 を用いた解析から、ゲフィチニブは炎症性サイトカイン IL-1β の産生を誘導することが明らかとなった。IL-1β の産生は、NOD-like receptor 等のパターン認識受容体 (PRR)分子を中心に形成される「インフラマソーム」と呼ばれるタンパク質複合体により制御されている。各種阻害剤やノックアウト細胞を用いた解析から、ゲフィチニブは代表的なインフラマソームである NLRP3 インフラマソームの形成を促進することで、IL-1β 産生を誘導することが明らかとなった。さらに詳細な解析を進めた結果、ゲフィチニブはミトコンドリア由来の活性酸素種 (ROS)を誘導することでNLRP3 インフラマソームを活性化することが明らかとなった。

インフラマソームは、IL-1β 産生と同時に炎症促進性細胞死であるピロトーシスを引き起こすことが知られている。解析の結果、ゲフィチニブは予想通りピロトーシスを誘導することが判明した。ピロトーシスによって細胞膜の崩壊が起きた際、様々な細胞内容物が細胞外へ放出されるが、特に HMGB-1 という核内タンパク質の放出が炎症反応において重要な役割を果たしていることが知られている。興味深いことに、ゲフィチニブは既存の NLRP3 インフラマソーム活性化刺激とは異なり、NLRP3 インフラマソーム非依存的に HMGB-1 の放出を促進することが明らかとなった。詳細な分子機構の解析から、ゲフィチニブは ROS 依存的に DNA 損傷を引き起こし、核内ストレス応答分子 PARP1 を活性化することで HMGB-1 の細胞外放出を促進することが判明した。

本研究により、ゲフィチニブによる炎症誘導機構が分子レベルで初めて明らかとなった。IL-1β、HMGB-1、およびピロトーシスはいずれも間質性肺炎発症と深く関連していることから、ゲフィチニブによる重篤な副作用発症の直接的要因となる可能性が高いと考えられる。本研究成果は、ゲフィチニブによる副作用リスクの軽減や、より安全な抗がん剤の開発に貢献することが期待される。

【第二章 抗菌薬バンコマイシンによる免疫応答増強作用の解析】
バンコマイシンは、グリコペプチド系抗生物質の一種で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)に対して強い抗菌力を有しており、MRSA による腸炎や骨髄移植時の消化管内殺菌に用いられる。作用機序としては、細菌細胞壁前駆体のペプチドグリカン鎖の架橋反応を阻害することで、細胞壁の合成を強く抑制することが知られている。バンコマイシンは他の抗 MRSA 薬と比べて最も多くの適応症をもつため、MRSA 感染症治療における標準薬として位置付けられている。その一方で、代表的な副作用として腎障害および難聴が報告されている。特に腎障害は、バンコマイシン投与患者の 5-25%の患者に発症するとの報告もあり、臨床上注意の必要な副作用である。バンコマイシンと共通して腎障害と難聴を症状とする疾患として、CAPS が知られている。CAPS は、炎症性サイトカイン IL-1β の過剰産生により全身に周期性の炎症を引き起こす慢性自己炎症性発熱性疾患であり、NLRP3 遺伝子の活性化型変異が発症要因である。したがって、バンコマイシンによる腎障害や難聴といった副作用の発症にも IL-1β の過剰産生が関与する可能性が考えられる。しかし、これまでにバンコマイシンと IL-1β 産生との関連性については、ほとんど明らかにされていない。そこで第二章では、バンコマイシンが主要な IL-1β 産生細胞であるマクロファージに与える影響について解析を行った。

まず、代表的な炎症誘導シグナル伝達経路である NF-κB 経路、MAP キナーゼ経路、およびインターフェロン経路に対する影響について解析を行った結果、バンコマイシンはいずれの経路に対しても活性化作用を示さなかった。次に、IL-1β 産生に関わる PRR 分子である NOD-like receptor および AIM2-like receptor の遺伝子発現に対するバンコマイシンの影響を解析した。その結果、バンコマイシン処置による NLRP1、NLRP7、NLRP12、NLRC4、および AIM2 の mRNA レベルの有意な上昇が認められた。

本研究によって、バンコマイシンはマクロファージにおいてインフラマソームを形成する複数の PRR 分子の遺伝子発現を誘導することが判明した。この結果、細胞内で多種多様なインフラマソームが形成されやすい状況となり、IL-1β の産生が過剰になる可能性が考えられる。即ち、バンコマイシンは CAPS と同様に IL-1β の過剰産生を引き起こすことで腎障害や難聴を発症させることが想定された。

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