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大学・研究所にある論文を検索できる 「酸化ストレスによるマクロファージ機能変化が歯周病の進行に与える影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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酸化ストレスによるマクロファージ機能変化が歯周病の進行に与える影響

山口, 継乃 大阪大学

2022.03.24

概要

【研究目的】
 歯周病は口腔内細菌叢の破綻により惹起された炎症が慢性化して歯周組織破壊につながる疾患である。歯周組織の炎症においてマクロファージ(Μφ)は炎症性サイトカインの主要な産生細胞の一つであるとともに、同組織の修復過程にも関与する重要な免疫担当細胞である。歯周病の病原因子の一つであるグラム陰性菌の細胞壁構成成分であるエンドトキシン(LPS)は生体内でToll Like Receptor(TLR)を介して炎症反応を惹起するが、Μφ、単球などの免疫担当細胞は過剰な炎症による組織傷害を抑制するために、エンドトキシンへの長期暴露の際に炎症反応を抑制するendotoxin tolerance(脱感作)機能を持つ。歯周病患者では健常者と比較してマクロファージの脱感作抑制的に働くTLR4やGM-CSFの発現が亢進していることから脱感作が破綻していることが示唆されている。さらに、歯周病の病原因子の一つであるPorphyromonas gingiva/is菌由来のLPS(P.g LPS)はマクロファージに対して他のグラム陰性菌とは異なる脱感作誘導を行い、それが歯周病の発症に関与している可能性がin vitroで示唆されているものの歯周病と脱感作の関連の詳細な研究や分子レベルの知見はなく、不明点が多い。
 一方、酸化ストレスは加齢に伴って増加し、歯周病を含む様々な疾患の発症・進行に関与すると考えられている。しかしながら、歯周病の病態を考える上で、酸化ストレスがΜφの脱感作に如何なる影響を及ぼし得るのかについては検討がなされていない。
そこで本研究では、酸化ストレスがΜφの脱感作に与える影響、及びΜこおける脱感作の抑制が歯周病の発症・進行に及ぼす影響について検討することを目的とし、in vitroで、酸化ストレスの影響並びにその作用メカニズムを解析するとともに、酸化ストレス亢進マウスの構築を行い、in vivoでの酸化ストレス、マクロファージの脱感作機能、歯周組織破壊の関連を解析した。

【材料および方法】
 マウス腹腔マクロファージを採取し、P.g LPS(invivogen社)での単回刺激群、または24時間刺激後に洗浄し再度P.g LPSで刺激した脱感作誘導群、同LPS刺激をせずに培養を行った無刺激群を準備した。それぞれの群に対してH2O2で酸化ストレスを誘導することにより、遺伝子発現及び培養上清中サイトカイン量の変化を解析した。
 ヒトと異なり、強力な抗酸化機能を有するアスコルビン酸(AsA)を生合成できるマウスでは、ヒトで見られる加齢に伴う酸化ストレスの亢進を認めないため、AsA生合成経路中の酵素SMP30を欠損しヒト同様にAsA生合成ができないSMP30K〇マウスを用いて、酸化ストレス亢進マウスモデル(酸化マウス)を作製した。同マウスはAsAを全く投与しないと酸化ストレスの亢進及び壊血病症状を呈する一方で、8.52mMの高濃度AsAを飲水投与すると酸化ストレスの亢進も壊血病症状も認めない。そこで、低濃度AsAの飲水投与で、壊血病発症なく、酸化ストレス亢進のみを認めるモデルが作製可能と考え予備検討を行い、AsAよりも溶液中で安定なAsA誘導体を0.107mMの濃度で16週間飲水投与する酸化マウスを設定した。さらに同酸化マウスに対して抗酸化剤であるN-アセチルシステイン(NAC)を投与し、酸化ストレスを抑えたNACマウス、比較対照として8.52mMAsA誘導体を飲水投与したコントロールマウスを作製し、3つのマウスモデルの比較で酸化ストレスに起因する表現型を解析することとした。解析は血中成分、ならびにこれらマウスの腹腔Μφの脱感作応答の違いを対象とした。また、上記3種のマウスに対して、上顎第二臼歯に5-0絹糸を1週間結紮することで歯周組織破壊を誘導し、歯肉における種々の遺伝子発現を検討すると共に、歯槽骨量をμ-CTで解析した。

【結果】
 マウス腹腔ΜφにP.g-LPSを二回処理することで脱感作が誘導され(脱感作誘導群)、単回刺激群と比較して炎症性サイトカインTNF-αの産生量は低下し、一方で抗炎症性のサイトカインIL-10の産生量は有意に増加した。さらに、H2O2の添加により、それらの効果は低下し脱感作効果が抑制されることが示された。また、無刺激群と比較して単回刺激処置ではTLRシグナル経路の抑制に働くIrakm, Myd88sh,Socsl及びIL-10の発現促進に働くTwist2の発現が亢進しているのに対し、H2O2の添加によって、それらの発現は抑制された。
 今回樹立した酸化マウスは、壊血病症状は呈さず、全身および歯周組織における酸化ストレスが亢進すること、NACマウスでは酸化ストレスがコントロールマウス同等であることが確認された。酸化マウス由来腹腔Μφでは他の二つのモデルマウス由来の腹腔Mと比較して脱感作誘導群での有意なTNF-α産生量の亢進と、IL-10産生量の低下、また単回刺激群でのIrakmなどのTLRシグナル抑制因子の有意な発現低下を認めた。
 酸化ストレスによる脱感作の低下が歯周病の発症進行に与える影響を検討するため、3種のモデルマウスそれぞれに対して絹糸結紮により歯周組織破壊を誘導した。その結果、酸化マウスでは結紮7日、結紮除去後10日時点での歯槽骨量の低下に加えてTnfa,Il1b,Mmp8,Mmp9の発現が増加かつ長期化し、逆に抗炎症性サイトカインのIl10、Tgfbに関しては有意にその発現が抑制された。さらに、酸化マウスの歯肉では他の2群と比較して絹糸結紮後に脱感作の誘導に働くIrakm,Myd88sh,Socsl, Socs3の発現が低下し、絹糸を除去して10日後の回復期にはMyd88sh及びTwist2の発現がそれぞれ有意に低下していた。

【結論および考察】
 本研究により、酸化ストレスがΜφのP.g LPSに対する脱感作に抑制的に働くことが初めて明らかにされ、そのメカニズムの一つとして、LPS刺激時のTLRシグナル抑制因子の発現を酸化ストレスが抑制することが示唆された。さらに酸化ストレス亢進と全身のAsA低下を認める酸化マウスではコントロールマウスと比較して歯周病誘導時の炎症が亢進・長期化しており、その歯肉においても脱感作抑制に働くTLRシグナル抑制因子の発現低下が認められた。全身AsAは低下しているが酸化ストレスはコントロールと同等のNACマウスではこの炎症長期化や歯肉のTLRシグナル抑制因子の発現低下は見られなかったため、酸化ストレスの亢進がTLRシグナル抑制因P発現低下の原因であることが示唆された。以上のことから、歯肉においても酸化ストレスは、TLRシグナル抑制因子の発現を低下させ、それに伴う脱感作抑制が、酸化ストレスによる歯周病の炎症増悪・長期化のメカニズムの一つである可能性が示唆された。本研究は、マクロファージのLPSに対する脱感作抑制が、酸化ストレスにより歯周病の進行が促進する機序の一端である可能性を示唆しており、マクロファージの脱感作機能回復を作用点とする酸化ストレス制御による新たな歯周病治療技術の開発につながる知見として期待される。

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