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大学・研究所にある論文を検索できる 「Troponin I2 as a Specific Biomarker for Prediction of Peritoneal Metastasis in Gastric Cancer」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Troponin I2 as a Specific Biomarker for Prediction of Peritoneal Metastasis in Gastric Cancer

Sawaki, Koichi 澤木, 康一 名古屋大学

2020.04.02

概要

【背景】
進行胃癌は治癒切除術後も微小転移の残存により高頻度に再発することが臨床上の大きな問題となっている。なかでも腹膜播種は、早期診断困難かつ治療抵抗性であり、鋭敏なバイオマーカーの開発が急務である。本研究では、胃癌腹膜播種を予測しうる新規バイオマーカーを同定することを目的とした。

【対象と方法】
根治的胃切除術および S-1 による補助化学療法を施行した Stage III 胃癌症例を、長期無再発群、腹膜播種再発群、肝転移再発群、リンパ節再発群の 4 群に分け、胃癌原発巣組織を対象とした網羅的遺伝子発現比較解析により腹膜播種再発群で特異的に高発現している遺伝子を検索した。抽出された候補遺伝子の胃癌細胞株における発現量を調べ、PCR array 法で上皮間葉移行関連 84 遺伝子の発現量との相関性を検討した。 262 例の胃癌症例から得た原発巣および非癌部胃粘膜組織中の mRNA 発現量を定量的 PCR 法によって調べ、主に転移再発形式との相関性を評価した。さらに、免疫組織学的染色法にて胃癌原発巣組織中のタンパク発現と腹膜播種再発の相関性を調べた。

【結果】
網羅的遺伝子発現比較解析の結果、トロポニン複合体の構成因子である Troponin I2, Fast Skeletal Type (TNNI2) が腹膜播種再発群に特異的かつ有意に高発現 (長期無再発群の約 32 倍) していた (Table 1)。TNNI2 mRNA 発現量は非腫瘍性腺上皮細胞株と比べて 14 種中 8 種の胃癌細胞株で 5 倍以上の上昇を認めた。胃癌細胞株の分化度による差はなかった (Fig. 1a)。また、PCR array の結果を解析すると上皮間葉移行促進因子である tumor inhibitor of metallopeptidase 1 (TIMP1)、vascular protein sorting 13 homolog A (VPS13A)、pleckstrin 2 (PLEK2)、snail family transcriptional repressor 3 (SNAI3)発現と有意な正の相関性を、上皮間葉移行の過程で抑制される tissue factor pathway inhibitor 2 (TFPI2)とは負の相関性を示していた (Fig 1b)。 262 症例を胃癌原発巣組織中 TNNI2 mRNA 発現量で高発現群・低発現群の 2 群に分けて解析すると、高発現群では有意に非高齢者、病理学的漿膜浸潤、病理学的浸潤性増殖、腹膜播種/腹腔洗浄細胞診陽性の頻度が高く、有意に術後全生存期間が短縮していた (Fig 2b)。一方で、リンパ節転移や同時性肝転移と TNNI2 発現の間には有意な相関を認めなかった。Stage I – III の根治的切除例を対象に術後腹膜播種再発に対する多変量解析を行うと胃癌原発巣組織中 TNNI2 mRNA 高発現は独立した危険因子であった (Table 2)。また、術後累積腹膜播種再発率は高発現群で高い傾向を認めた。一方で、術後累積血行性転移再発率は高発現群と低発現群で有意な差を認めなかった (Fig 3a)。胃癌原発巣組織中 TNNI2 タンパク発現度を評価するために免疫組織学的染色法を行い強発現、低発現、陰性の 3 群に分けて解析を行なった。胃癌原発巣組織中 TNNI2 タンパク発現度が強くなるにしたがって腹膜播種再発の頻度が増加する傾向を認めた (Fig 3b)。

【考察】
本研究では、網羅的遺伝子発現比較解析から胃癌腹膜播種の新規バイオマーカー候補として TNNI2 を同定し、胃癌原発巣組織中の TNNI2 高発現が腹膜播種と相関していることを示した。TNNI2 は 11 番染色体 q15.5 に位置し、正常組織では骨格筋に多く発現している。カルシウム依存性に筋収縮を制御するトロポニン複合体の構成タンパクの 1 つであるが、消化器癌における役割についての報告はなく、胃癌における分子生物学的意義は未知の遺伝子である。

上皮間葉移行は癌の進展や悪性形質獲得に重要な役割を果たしており、様々な転写因子により調節されている。PCR array 法を用いて TNNI2 と上皮間葉移行関連遺伝子との相関を調べたところ上皮間葉移行促進因子である TIMP1, VPS13A, PLEK2, SNAI3と正の相関を、上皮間葉移行の過程で抑制される TFPI2 とは負の相関を示した。TNNI2がこれらの遺伝子と関連することで上皮間葉移行の過程に関与し癌の進展に何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。

胃癌原発巣組織中 TNNI2 mRNA 高発現群は低発現群に比べて胃切除時の腹膜播種もしくは腹腔洗浄細胞診陽性の症例を有意に多く認めた。一方で、リンパ節転移や同時性肝転移とは有意な相関を認めなかった。この結果から、TNNI2 は腹膜播種に特異性の高いバイオマーカーとして有用であると考えられる。今後さらなる検討は必要であるが、上部消化管内視鏡検査による生検組織を対象とした PCR 法で TNNI2 mRNA発現量を調べることにより腹膜播種のリスクが評価可能となり、胃切除術を実施前の審査腹腔鏡の適応判断の一助となり得る。

さらに、根治的切除症例を対象とした腹膜播種再発危険因子の検討では TNNI2 高発現は独立危険因子として抽出された。また、胃癌原発巣組織中 TNNI2 タンパク発現度も腹膜播種再発と相関していた。この結果より、根治切除症例の標本を対象とした PCR 法もしくは免疫組織学的染色法によって術後腹膜播種再発のリスクが評価できる可能性が示された。治癒切除術後に腹膜播種再発の高リスク症例に対しては、可及的早期段階で腹膜播種再発を診断するために骨盤腔まで含めたシンスライス CT 検査や腹部超音波検査を現行のガイドラインでの推奨頻度より密に計画することが望まれる。

【結論】
以上の結果により、胃癌原発巣組織中 TNNI2 発現は、胃癌腹膜播種予測バイオマーカーとして有用である可能性が示唆された。