カイコ核多角体病ウイルスラオス株の性状解析と全ゲノム配列の決定、及び比較トランスクリプトーム解析
概要
本研究は、ラオス由来新規カイコ核多角体病ウイルス(BmNPV)株である La についてその性状やゲノム配列を明らかにすることを目的とした。始めに、La についてカイコ幼虫、及び培養細胞に感染した際の性状を BmNPV 標準株である T3 と比較した。その結果、Laは T3 よりも激しく宿主昆虫や細胞を損傷し、また T3 よりも多くのポリへドリン遺伝子を転写・発現することが明らかとなった。また、透過型電子顕微鏡によりウイルス包埋体を観察した結果、La の包埋体には T3 よりも多くのマルチプルヌクレオキャプシド型の包埋体由来ウイルスが内包されていた。次に、La が示す表現型の原因を明らかにするために、RNA-seq とサンガーシークエンスを組み合わせることにより、La の全ゲノム配列 127,618bp を決定した。他の BmNPV 株、クワコ核多角体病ウイルス(BoMaNPV)株との系統解析の結果、La は T3 と最も近縁であることが明らかとなったが、一方、83 個の遺伝子に T3とアミノ酸レベルの違いが存在おり、La の示す表現型への関与が考えられた。また、Laと T3 の RNA-seq のデータから、比較トランスクリプトーム解析を行った。その結果、Laと T3 のゲノム間には、それぞれのウイルス感染細胞で転写されやすい、または転写されにくい 5 つのクラスターが存在することが⽰唆された。更に、宿主遺伝⼦の転写量を⽐較したところ、La 感染細胞では宿主リボソームタンパク質遺伝⼦の転写量が T3 感染細胞よりも有意に低いことが明らかとなり、宿主細胞による抗ウイルス応答やウイルス側の宿主制御である可能性が考えられた。また、La では T3 と⽐較して、宿主の細胞の損傷の原因遺伝⼦である virus cathepsin(v-cath)遺伝⼦の発現量が多いことが明らかとなり、これがLa が⽰す激しい細胞の損傷の原因であると考えられた。本研究は、BmNPV の性状と遺伝⼦の関係についての新たな知⾒を提供し、更に La のような BmNPV 未解析株の⽐較性状解析と⽐較トランスクリプトーム解析が BmNPV 研究の新たなアプローチであることを⽰した。