シングルセルトランスクリプトーム解析を駆使したウイルス感染に対する動物種特異的自然免疫応答の同定
概要
シングルセルトランスクリプトーム解析を駆使した
ウイルス感染に対する動物種特異的自然免疫応答の同定
2022
麻生
啓文
目次
略語一覧……………………………………………………………………………………2
序論…………………………………………………………………………………………4
結果………………………………………………………………………………………13
考察………………………………………………………………………………………18
結論………………………………………………………………………………………20
方法と材料………………………………………………………………………………21
発表論文…………………………………………………………………………………29
謝辞………………………………………………………………………………………30
引用文献…………………………………………………………………………………32
1
略語一覧
BH
Benjamini‒Hochberg
cDC
conventional dendritic cell
cDNA
complementary DNA
CIU
cell infectious unit
COVID-19
coronavirus disease 2019
DEG
differentially expressed gene
DNA
deoxyribonucleic acid
FC
fold-change
FDR
false discovery rate
GEM
gel beads-in-emulsion
GO
Gene Ontology
GSEA
gene set enrichment analysis
GSVA
gene set variation analysis
HOI
higher-order orthogonal iteration
HSV-1
herpes simplex virus type 1
IFN
interferon
IFN-α
IFN alpha
IFN-I
type-I IFN
ISG
IFN-stimulated gene
LPS
lipopolysaccharide
MOI
multiplicity of infection
NGS
next-generation sequencing
2
NK
natural killer
PAMP
pathogen-associated molecular pattern
PBMC
peripheral blood mononuclear cell
pDC
plasmacytoid dendritic cell
PFU
plaque forming unit
PRR
pattern recognition receptor
QC
quality control
RNA
ribonucleic acid
RNA-seq
RNA sequencing
RT-qPCR
real-time quantitative polymerase chain reaction
SARS
severe acute respiratory syndrome
scRNA-seq
single-cell RNA-seq
SeV
Sendai virus
UMAP
Uniform Manifold Approximation and Projection
UMI
unique molecular identifier
3
序論
人類の生存は、おそらく有史以前から感染症の流行に脅かされてきた。特に頻繁
に多くの人の移動を伴うグローバル化した近代社会では、インフルエンザ、エイズ、
重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome; SARS)、エボラウイルス病、
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019; COVID-19)などの新たに出現
したウイルスの感染症(新興ウイルス感染症)によって社会生活に大きな影響が及
ぶ事態が頻発している。そのため、新興ウイルス感染症がどのように現実の世界で
起きるのか、その分子機序の解明、ならびに、その知見に基づく制御法の開発はき
わめて重要である。
新興ウイルス感染症の多くは、自然界においてそのウイルスを保有する宿主動物
(自然宿主)からヒトへ異種間伝播した人獣共通感染症と考えられている 1 (図
1A)。そして異種間伝播によってその宿主に適応したウイルスの遺伝子変異が起こ
り、新たな宿主で感染伝播が拡張、時には複数の宿主動物間を循環することもある。
複数の宿主に適応循環するウイルスは、宿主によって異なる病原性を示すことは少
なくない。長期に個体内でウイルスが生存可能な自然宿主では、そのウイルスは病
原性を示さないことがほとんどである(図1B)。その一例として、自然宿主が旧世
界ザルであるBウイルス(オナガザルヘルペスウイルス1型)があげられる。ユーラ
シア大陸南部を中心に広く分布するアカゲザル(Macaca mulatta)ではBウイルスは
無症候性感染しているが、ヒト(Homo sapiens)では咬傷などによるBウイルス接触
感染者の約半数に脳脊髄炎などの神経障害を伴う致死性徴候が観察される 2。同様に、
マールブルグウイルスは、自然宿主であるエジプトルーセ ットオオコウモリ
(Rousettus aegyptiacus、以下ルーセットオオコウモリ)からウイルスが分離され、
この宿主では無症候性感染している。ところがこのウイルスがヒトに感染すると、
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きわめて重篤な熱性徴候が誘導され、ヒトからヒトへの伝播例も少なくない 3。明確
な臨床症状を伴う感染様式は顕性感染、感染後にほとんど臨床症状がない感染様式
は不顕性感染と分類されるが、コウモリ種は、ニパウイルス、エボラウイルスや新
型コロナウイルスに近縁のウイルスが不顕性感染する自然宿主であることが知られ
ている 4(図1B)。
図1. ウイルスの異種間伝播と病原性
(A)ウイルスの異種間伝播と感染拡大の関係性の概念図を示す。通常、自然宿主に感染しているウイルスは
特定の種にのみ感染する。異種間伝播してそれまで感染できなかった種に感染できるようになると、新たな宿
主内で感染拡大する。(B)ウイルスの病原性は宿主によって異なることを示す概念図。「+」は病原性があ
ることを示し、「–」は病原性がないことを示す。ウイルスの病原性は宿主によって異なる。特に、コウモリ
は多くのウイルスの自然宿主であり、顕著な症状を示すことなく感染していると考えられている。
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このように宿主種によって、顕性感染あるいは不顕性感染などの異なる感染様式
が生じる要因として、宿主動物種ごとの免疫応答、特に炎症性サイトカインの産生
様式の異同が以前から観察されている 5。そして最近、ルーセットオオコウモリでは、
マールブルグウイルス感染ヒト個体で感染症の重篤化に関連する炎症性サイトカイ
ンCCL8、FAS、および、IL6の発現誘導が起きづらいことが報告された 6。この結果
からマールブルグウイルスがルーセットオオコウモリに不顕性感染する理由の一つ
が、それらの炎症性サイトカインの誘導が欠如あるいは低下であること、すなわち
コウモリはヒトと自然免疫応答の様式が大きく異なることが示唆されている。この
ように、宿主の自然免疫応答の違いとウイルスの病原性発現様式には関連性があり、
したがって動物種ごとにどのような自然免疫応答が作動あるいは作動しないかを明
らかにすることは、ウイルスの病原性発現機構の解明への重要な手掛かりとなる。
特にコウモリは様々なヒト病原性ウイルスの自然宿主と想定されている 4(図1B)。
コウモリ種とヒト種では自然免疫応答様式がどのように異なるかを明らかにするこ
とは、ウイルス感染時の重症化を阻止する新たな治療法の開発に貢献すると考える。
自然免疫応答の誘導分子群は脊椎動物では広く保存されており、病原体関連分子
パターン(pattern-associated molecular pattern; PAMP)によりパターン認識受容体(p
attern recognition receptor; PRR)分子群が活性化されることで下流のインターフェロ
ン誘導分子群を中心にした自然免疫応答反応が惹起される
7-10(図2)。ヒトおよび
純系マウス種(Mus musculus)の一連の免疫学研究から明らかになっているPAMPと
PRRの組み合わせとしては、以下のものが挙げられる。ウイルス由来のPAMPとし
て、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid; DNA)ウイルスの細胞質内DNAは、D
NAセンサーであるcGAS (CGAS)、AIM2、IFI16、あるいは、TLR9によって認識され
る 7, 8, 11。リボ核酸(ribonucleic acid; RNA)ウイルスの二本鎖RNAは、RNAセンサー
であるRIG-I (DDX58)、MDA5 (IFIH1)、LGP2 (DHX58)、TLR3によって
7, 8、RNAウ
イルスの一本鎖RNAは、RNAセンサーであるTLR7/8によって認識される 7, 8。細菌由
来のPAMPとして、グラム陰性菌のリポ多糖(lipopolysaccharide; LPS)は、TLR4に
6
よって認識される
7, 8, 12。それぞれに対応するPRRによりPAMPが認識されると、イ
ンターフェロン(interferon; IFN)応答、および、炎症応答が誘導される
7, 8(図2)。
IFN応答では、1型インターフェロン(type-I IFN; IFN-I)がまず感染細胞より遊離し、
隣接する細胞にIFN-I受容体を介在したシグナルによって様々なIFN誘導性遺伝子(I
FN-stimulated gene; ISG)の発現が誘導され、自然免疫応答が増幅される。ISGの中に
は、cGAS、RIG-I、LGP2、MDA5などの主要センサー分子自身に加えて、Viperin
(RSAD2)、IFI6、OAS1、IFIT3などの抗ウイルス性活性を有する分子が多く含まれ
る 13。特に、先行研究において見出された哺乳類共通のISG群 13(coremamm ISG)は、
哺乳類に共通する自然免疫機構の一端を担う遺伝子群であると考えられる。炎症応
答では様々な炎症性サイトカインが産生され、細胞遊走性サイトカインがそれぞれ
の免疫担当細胞を炎症部位へ遊走させるなど、種々の免疫応答が引き起こされる。
これらの自然免疫応答は、ひとたび病原体を認識して作動すると正のフィードバッ
ク機構が働くことで、素早い免疫防御反応が実行される。その一方、本来宿主を病
原体から守る防御機構であるはずの自然免疫応答が過剰に作動すると、反って宿主
に悪影響を及ぼすことがある。例えばCOVID-19の重症例では、過剰なサイトカイン
産生により免疫細胞が異常に活性化し、血圧低下などを伴う全身性の病状悪化が加
速するサイトカインストームという現象が知られている
14。このような異常な免疫
細胞の活性化を防ぐために、生体には免疫応答の負のフィードバック機構が存在す
る。例えば、SOCS2は自然免疫応答により発現が上昇する分子でありながら、NF-κ
Bによる炎症性サイトカインの転写抑制に働く機能が知られており、炎症性サイト
カインが過剰に発現誘導された際のストッパー役を担っている 15, 16。
7
図2. 病原体のセンシングによる自然免疫応答の惹起
病原体を認識して自然免疫応答を引き起こすメカニズムの概念図。病原体由来のPAMPを宿主細胞が発現する
PRRが認識し、下流の自然免疫応答を惹起する。
最近の免疫学の解析手法は、従来の細胞機能の解析手法と今世紀はじめに導入さ
れたゲノム情報解析手法との統合によって急速に進歩している。全ゲノム解析によ
り明らかにされた全遺伝子配列情報は、医学生物学において行われてきた抗体を用
いた特定細胞の分取法や実験動物による解析実験より解明された種々の免疫細胞機
能の知見と統合化され、免疫応答時の発現遺伝子群およびシグナリングに関するそ
の分子機能の関係性の知見、それぞれの各免疫細胞の生体反応における機能を明ら
かにしてきた。特にモデル動物である純系マウス種の免疫機構の解析では、細胞表
面分子に対する抗体による特定の細胞の検出・抽出、そして、免疫関連分子の遺伝
子改変動物による生体における機能解明が進んできた。しかしながら、モデル動物
を使った手法では、解析対象の動物種の細胞表面分子を認識する単クローン抗体の
作製が求められ、広範な動物種間の比較解析の実行には大きな壁があった。一方、
近年急速に進歩した解析手法としては、網羅的解析、いわゆるオミクス解析がある。
対象検体のDNA塩基配列を網羅的に決定する次世代シーケンス(next generation sequ
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encing; NGS)法が様々な研究分野で展開され、科学的にきわめて大きなインパクト
を与えている。サンプル細胞のメッセンジャーRNAを逆転写したcomplementary DN
A(cDNA)の塩基配列決定法をRNAシーケンシング(RNA sequencing; RNA-seq)と
いい、RNA-seq等による網羅的遺伝子発現量解析であるトランスクリプトーム解析
が広く試みられている。そして、フローセルデバイスによる単一細胞の細胞分取法
が進歩し、そのトランスクリプトーム解析として1細胞レベルのシングルセル解析の
技術展開が近年目覚ましく、取得データの大規模並列化、いわゆるハイスループッ
ト化が大きく進んでいる。1細胞単位でRNA-seqを実行する手法をシングルセルRNA
-seq(single-cell RNA-seq; scRNA-seq)といい、scRNA-seqにより取得した大量のデー
タをコンピューターにより高速処理が可能なシングルセルトランスクリプトーム解
析が実現化した。細胞分取法に関しても、2009年頃は1細胞の単離に限外希釈法によ
る手動分取を行っていたが
、マイクロ流路内の生成エマルジョンの各液滴内に1細
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胞を離隔しNGSライブラリを作製する装置であるChromium(10X Genomics)の開発
によりハイスループット化され、シングルセルトランスクリプトーム解析が汎用解
析法のひとつとして定着した 18。
オミクス解析技術の進歩は、ヒトやマウスのような従来の解析対象に加えて、コ
ウモリのような非モデル動物の解析においても大きな恩恵をもたらした。NGSの解
析対象は、ヒトやマウスといった解析対象だけでは無い。ほとんどの生物が共通し
て利用するメッセンジャーRNAの配列を解析する手法であるトランスクリプトーム
解析の対象は、ウイルス感染細胞に存在するRNAも解析対象とすることができる。
免疫学分野では、発現タンパク質を特異的に認識する抗体を利用した細胞検出・分
類する手法がこれまで行われてきた。しかし、この手法では解析対象種の特異的抗
体がない非モデル生物の解析が困難である。一方、生物に共通のRNA分子を対象と
するRNA-seq解析は利用展開の可能が大きく、特にscRNA-seqでは、遺伝子発現パタ
ーンをもとに細胞の種類、例えばT細胞や単球などを判定することができるため、
非モデル動物でも細胞種の分類後にその細胞内の発現パターンの取得が可能である。
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つまり、NGS解析によって、抗体を用いた解析が困難なコウモリ種細胞のオミクス
解析が可能である。
さて、オミクス解析研究により、コウモリ・ヒト間では様々な点で異なることが
明らかとなってきた
19, 20, 21。その例として、ルーセットオオコウモリのゲノム解析
からIFN-I遺伝子を含む免疫関連遺伝子の遺伝子座の重複を含む多様性の存在
22 、オ
ーストラリアクロオオコウモリ(Pteropus alecto)におけるトランスクリプトーム解
析からIFN-Iの正常組織における恒常的な発現があげられる
23。これらの報告は、コ
ウモリ種の免疫反応が他の哺乳類よりも強化されていることでウイルスに対する耐
性を得ていることを示唆している。一方、コウモリにおけるいくつかの免疫応答の
減弱が、コウモリの様々なウイルスに対する耐性の理由であるとする報告もある 20, 2
2, 24。例えば、主要なDNAセンサーであるcGASによるシグナリングの減弱や、同じ
く主要なDNAセンサーであるAIM2およびIFI16の遺伝的欠損が、ルーセットオオコ
ウモリを含むコウモリ科動物共通の特徴として報告されている
24, 25(図3)。これら
のヒト・コウモリ間の自然免疫応答の違いが、ウイルスの感染性が宿主によって異
なる理由の一つとなりうるため、ヒト・コウモリ間での自然免疫応答の異同のさら
なる解析は重要である。
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図3. DNAウイルスのセンシングにおけるヒト・コウモリ間の違い
DNAウイルス感染時の免疫応答における、既知のヒトとコウモリ間の違いを示す。DNAウイルス感染時、ヒ
トではPRRの一種であるDNAセンサーがウイルスDNAをPAMPとして認識することで、自然免疫応答を誘導で
きる。しかし、コウモリでは主要なDNAセンサー4遺伝子が働かないため、DNAウイルス感染時の自然免疫応
答が働かない、あるいは少なくとも減弱していると考えられている。
以上のように、コウモリの免疫システムに関する先行研究において、ゲノム解析
22, 23, 25、トランスクリプトーム解析 6, 26-28、分子レベルおよびシグナリングレベルの
解析
24, 29, 30から、コウモリはヒトと大きく異なる自然免疫応答を有する可能性が示
されてきた。しかしそもそも、ウイルス感染に対してコウモリのどの免疫細胞がど
のような応答をしているのか、そしてそれがヒトとどのように異なるのか、十分な
知見が得られていない。そこで本研究では、ウイルス感染に対する自然免疫応答が
霊長類とコウモリの間でどのように異なるのかを明らかにすることを目的とした。
そのため、4動物種から得た末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)
および3種類の感染性の刺激を用いて、1細胞レベルの網羅的遺伝子発現解析実験、
つまり、シングルセルトランスクリプトーム解析を行った。第1節で実験条件の妥
当性を検証したのち、第2節にてシングルセルトランスクリプトームデータを取得
した。第3節では、第2節で得たデータセットに対して細胞種の分類を行った。第
4節では、第1節から第3節までで得られたデータセットをもとに、自然免疫応答
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の動物種間比較の重要性について検討した。その後、第1節から第3節までで得ら
れたデータセットをもとに、動物種特異的自然免疫応答パターンの解析(第5節お
よび第6節)、動物種特異的細胞集団の解析(第7節および第8節)、および、コ
ウモリのDNAウイルス感染に対する応答パターンの検証(第9節)を行った。
12
結果
(要約)
第1節
実験条件の妥当性検証
本研究では、ウイルス感染に対する自然免疫反応が霊長類とコウモリの動物種間
でどのように異なるのかを調べるために、ウイルス感染に対する網羅的遺伝子発現
応答の差異を検討した。具体的には、ヒト、チンパンジー、アカゲザル、ルーセッ
トオオコウモリ(以下コウモリ)から分離したPBMCに、herpes simplex virus type 1
(HSV-1)、Sendai virus(SeV)、LPSをそれぞれ暴露刺激、あるいは非刺激の、
計16種のPBMC検体(4種の動物細胞 × 4条件)を作製し、そして刺激後1日目にそ
れらの細胞を回収し、scRNA-seq解析を行い、それらのデータを取得・解析した。
そこで、本研究において用いたヒト、サル、コウモリ由来のPBMCには、HSV-1お
よびSeVの感染が成立すること、そして、HSV-1感染、SeV感染、LPS刺激に対し
て自然免疫応答が誘導されることを実験的に検証し、感染の成立および自然免疫
応答が確認された。
第2節
1細胞レベルのトランスクリプトームデータ取得
本研究で取得したscRNA-seqデータセット、各動物種のリファレンスゲノム配列、
および、トランスクリプトモデルを用いて、1細胞レベルのトランスクリプトーム
データを取得した。その後に低品質のデータを持つ細胞を除外するQuality Control
(QC)を行った結果、計16サンプルのscRNA-seqのデータから合計40,717細胞の発現
遺伝子データが基準を満たすと判定され、それらの細胞の発現遺伝子データのみ
を用いて以後の解析を進めた。
13
第3節
細胞種の分類
各細胞の遺伝子発現パターンに基づき、細胞種の判定解析を行った。その結果、
4動物種に共通の細胞種として、「B細胞」、「ナイーブT細胞」、「キラーT細胞
/Natural Killer(NK)細胞」、「単球」、「従来型樹状細胞(cDC)」、そして「形
質細胞様樹状細胞(pDC)」の計6細胞種に分類することができた。以下、この6細
胞種への分類結果を用いて、動物種間比較解析を行った。
第4節
自然免疫応答における動物種間比較解析の重要性
動物種間の違い、刺激による違い、細胞種による違いのなかで、特にどの違い
が自然免疫応答の特徴を形成するのか、各条件(動物種×刺激×細胞種)におけ
る発現誘導パターンの階層的クラスタリングにより検証した。その結果、自然免
疫応答における動物種ごとの違いは、刺激ごとの違いおよび細胞種ごとの違いよ
りも大きなものであることが示唆された。これは、動物種間比較解析の重要性を
裏付ける結果である。
第5節
動物種特異的自然免疫応答パターン抽出手法の構築
テンソル分解を用いた動物種特異的自然免疫応答パターン抽出手法を作成した。
各条件(動物種×刺激×細胞種)における各遺伝子のfold-change(FC)のデータを
用いて、動物種、刺激、細胞種、遺伝子の4つの軸からなる4階テンソルを作成し
た。続いて、その4階テンソルを、テンソル分解の手法の一つであるTucker分解に
より処理することで、各軸に対応する4軸からなるコアテンソルと各軸の分解前後
の対応関係を示す4つの因子行列を得た
31 。動物種の軸に対応する因子行列A1のパ
ターンから、動物種間共通の特徴、コウモリ特異的な特徴、サル特異的な特徴に
分解できることが示唆された。さらに、動物種特異的な免疫応答パターンの詳細
14
な解析のために、コアテンソルと3つの因子行列(刺激、細胞種、遺伝子に対応)
の積を用いて、刺激特異性と細胞特異性に基づく発現遺伝子の分類を行った。
第6節
コウモリ特異的自然免疫応答の同定
コウモリ特異的な遺伝子発現パターンの同定を行った。その結果、刺激および
細胞種に共通で、動物種共通で発現誘導が強く、その中でも特にコウモリで誘導
が顕著な25遺伝子を見出した。また、主要な病原体センサーや抗ウイルス性分子
の遺伝子が25遺伝子のうち約半数を占めていた。 ...