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大学・研究所にある論文を検索できる 「肺がんにおけるPGRMC1の役割解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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肺がんにおけるPGRMC1の役割解明

林, 穎 大阪大学

2021.03.24

概要

肺がんは、本邦におけるがん死因の第一位であり、予後不良の難治性がんである。肺がんの組織型は、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大きく分類され、肺がん患者の80%が非小細胞肺がんである。なかでも、非小細胞肺がん患者においては、その約40%がEGFR遺伝子に変異を有しており、細胞の増殖・分化といった、多様なシグナル伝達に関わるチロシンキナーゼを異常に活性化することで、がん細胞の増殖や生存につながることが知られている。従って現在、臨床現場においては、EGFR変異型肺がんに対しては、ゲフィチニブやエルロチニブなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (EGFR-TKI) が第一選択薬として適用されている。しかし、EGFR-TKIは、劇的な治療効果が得られた症例であっても、数年後にはほぼ例外無く耐性を獲得し再発してしまうことが問題とされており、分子標的治療薬に対する獲得耐性の克服と新規治療薬の開発が重要な課題となっている。以上の背景のもと、EGFR-TKI獲得耐性機構の解明に向けた研究が盛んに進められ、例えば、EGFRのT790M部位に二次変異が生じることや側副経路の活性化が関与することなど、次々と新たな知見が得られている。しかし、原因が明らかとなっていない症例も未だ散見され、EGFR-TKIに対する獲得耐性の克服に向けた、耐性機序の完全解明が求められている。

本観点から、著者は、EGFR-TKIの一種であるエルロチニブを濃度漸増しながら長期曝露させて樹立した、既存のEGFR-TKIに対する獲得耐性機序に依存しないエルロチニブ耐性化細胞株(PC9/ER)を供し、EGFR-TKIに対する獲得耐性機序の解明を試みてきた。これら解析を通じ、プロテオーム解析により網羅的に発現変動蛋白質を比較解析したうえで、バイオインフォマティクスの手法を用いた、エルロチニブ耐性機序における標的候補分子のスクリーニングを図ることでで、Progesterone Receptor Membrane Component 1 (PGRMC1) を新規エルロチニブ獲得耐性因子として見出してきた。また、この機序として、PGRMC1とEGFRの相互作用がエルロチニブに対する獲得耐性を促進することを示すと共に、PGRMC1がWnt/β-cateninシグナル経路とNF-κBシグナル経路のクロストークを活性化し、がん細胞の生存に働くことを明らかとした。これら知見は、機序不明なエルロチニブ耐性を獲得後の治療戦略開発への道を開くものであり、EGFR-TKI耐性に対するPGRMC1の役割解明を推進することで、新規治療法の開発に向けた基盤構築につながり、EGFR-TKI獲得耐性の克服の実現に貢献できるものと期待する。

さらに、EGFR-TKIに対する獲得耐性の仕組みと細胞死との連関についての理解を通じて、がん治療における新規治療法の開発に資する基盤情報の集積にも取り組んできた。近年の抗がん剤の進歩は目覚しく、新たながん治療薬の開発が盛んに取り組まれており、これまでに承認された分子標的薬や化学療法剤に加え、制御された細胞死の一つとして見出された、フェロトーシスに着目したがん治療にも注目が集まっている。フェロトーシスは、アポトーシスなどの既知の細胞死とは異なり、脂質に対する酸化的損傷によって誘導される、鉄依存的な細胞死として報告され、がん治療の標的としてだけではなく、近年では、虚血性疾患や炎症性疾患でもその役割が注目されている。しかしながら、フェロトーシスに抵抗性を持つことで、治療の拡大が限られていることが問題視されているものの、フェロトーシスの抵抗性機序は解明されていないのが現状である。その点、著者は、エルロチニブ獲得耐性関連蛋白質として見出したPGRMC1の過剰発現が、フェロトーシス促進剤による細胞内の遊離ヘムの減少と遊離鉄の増加を促進し、フェロトーシス促進剤に対する感受性を増大させることを見出し、肺がんにおけるフェロトーシス抵抗性を規定し得ることを明らかとした。本研究により得られた知見に基づき、PGRMC1高発現の肺がん患者に対する、フェロトーシス誘導を目的とした新規治療戦略の構築に貢献できることを期待する。

以上、本研究は、エルロチニブ獲得耐性におけるPGRMC1の役割を明らかとし、その下流シグナル経路を解明することで、新規治療法の開発に向けた基盤情報の集積につながり、EGFR-TKI獲得耐性の克服の実現に貢献できるものである。また、PGRMC1とフェロトーシス誘導との連関について解析することで、フェロトーシスの実行に関わる細胞内の制御機構におけるPGRMC1の役割を明らかとした。本研究により得られた知見に基づき、PGRMC1高発現の肺がん患者に対する、フェロトーシス誘導を目的とした新規治療戦略の構築に貢献できることを期待する。このように本知見は、PGRMC1を切り口に、EGFR-TKIに対する獲得耐性の仕組みとフェロトーシスに焦点をあてた細胞死の制御機構の理解に つながることから、がんの分子生物学としても興味深いものである。そのうえで、肺がんに対する新規治療薬の開発に資するものであり、薬学的観点から重要な知見を得たので、将来的な肺がん患者のQuality of Life (QOL) 向上に大きく貢献できることが期待される。

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