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大学・研究所にある論文を検索できる 「難治性がんにおける分子標的医薬の初期耐性および獲得耐性の機序解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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難治性がんにおける分子標的医薬の初期耐性および獲得耐性の機序解明

芳賀, 優弥 大阪大学

2021.03.24

概要

腫瘍特異的に高発現もしくは機能異常が認められる分子を標的とした分子標的医薬の台頭も相俟って、がん治療は著しい発展を遂げている。これら分子標的医薬は複数の癌種において第一選択薬として用いられているものの、継続的な薬剤投与によって薬剤に対する効果が失われる獲得耐性が臨床現場における克服課題となっている。また、治療初期において、初期耐性を示す患者の存在も指摘されている。このような背景のもと、申請者は薬剤耐性の分子機序を理解することが、従来の治療戦略の改良や新規治療法の開発・確立につながると考え、獲得耐性(非小細胞肺がん)と初期耐性(トリプルネガティブ乳がん; TNBC)の両観点から分子標的医薬の耐性機序解明を試みた。

上皮成長因子受容体(EGFR)変異非小細胞肺がん患者には、これまで5種類のEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が承認されているものの、継続的な治療による腫瘍の耐性化や、それに伴う再発・転移が問題となっている。従って、EGFR-TKI耐性化の克服は解決すべき喫緊の課題であるが、その分子機序は未だ不明な点が多い。さらに近年、長期的な薬剤曝露による薬剤耐性細胞(Drug resistant cells)と比較して、短期的な薬剤曝露によって生じる薬剤抵抗性細胞(Drug tolerant persisters; DTPs)の存在が提唱されるなど、その耐性過程を理解することが求められている。

本観点から申請者は、第一章において新規EGFR-TKI曝露により生じる薬剤抵抗性細胞および薬剤耐性細胞の細胞特性とその分子機序解明、第二章においてドラッグリポジショニングの概念に立脚したEGFR変異非小細胞肺がん患者への治療法提案に取り組んだ。

第一章では、耐性化機序がほとんど不明である新規EGFR-TKI Dacomitinibを用い、EGFR変異非小細胞肺がん細胞株(PC9)をモデル細胞株として用いた。まず、短期間の高濃度薬剤曝露によって作成したPC9DTPsと長期間に渡って薬剤曝露を継続させることで作成したDacomitinib耐性細胞(PC9DR)の特性解析を通じて、EGFR-TKI耐性化過程におけるその分子機序解明を試みた。その結果、PC9DRは、HDAC阻害剤への感受性増加や、AXL受容体の発現増加など、DTPsと類似した特徴が認められた。さらに、PC9DRにおいて、新規EGFR-TKI耐性変異は認められず、また、薬剤耐性を促進することが知られている上皮間葉転換(EMT)が誘導されていることが示された。従って、PC9DRがDTPsと類似した特徴を有していたことから、本研究において長期的な薬剤曝露によって樹立したPC9DRは、DTPsの特性を維持したままEGFR-TKI存在下で増殖可能な細胞株であると考えられた。次に、PC9DRがDTPsと類似した特徴を有すること、PC9DRにおいて認められたEMTが可逆的な細胞特性変化であることを踏まえ、PC9DRが示した薬剤耐性についてその可逆性をinvivoにおいて検証した。ヌードマウスに両細胞株を移植し、Dacomitinibを投与したところ、PC9由来の腫瘍の縮小が認められた。さらに驚くべきことに、PC9DR由来の腫瘍もDacomitinibに対して耐性を示さず、腫瘍縮小が認められた。

これらの結果から、PC9DRが、マウス宿主内特異的な因子によって薬剤に対して感受性を再獲得するという耐性獲得における新たな過程を見出した。これは、これまでに提唱されていた不可逆的な耐性細胞への過程における新たな細胞特性であると考えられ、新しい概念に基づくEGFR-TKI投与指針や他の薬剤との併用療法の可能性にもつながることが期待できる点で、極めて意義深い知見である。

EGFR-TKI耐性機序に関する研究は多く実施されているものの、臨床現場における治療克服に向けて、新規治療法の確立が切に望まれている。そこで申請者は第二章において、EGFR変異非小細胞肺がん患者に対する有効な治療法の確立に向けて、既存薬の適応拡大を図るドラッグ・リポジショニングの観点から検討した。申請者は、既に複数の癌種において抗腫瘍効果が認められ、適応拡大に向けた研究が盛んな抗真菌薬Itraconazoleに着目しその抗がん作用機序を解明すると共に、近年着目を集めるDTPsへの影響評価を実施した。まず、Itraconazoleが非小細胞肺がん細胞に及ぼす影響評価を試みたところ、EGFRやAXL、インスリン様成長因子1受容体(IGF1R)の発現減少を誘導することで、細胞生存率の抑制効果を示した。さらに、EGFR-TKI耐性細胞への温床になり得る存在であるDTPsに焦点を当てて、Itraconazoleの与える影響について検証することとした。その結果、Itraconazoleが、EGFR-TKIの高濃度曝露によって生じるDTPsの出現を抑制することが示された。Itraconazoleが既に安全性や体内動態が検証されている点を加味すると、これら知見は、EGFR-TKIとItraconazoleの併用が効率的なDTPsの排除を通じた効果的な治療法になり得ること が考えられた。

一方で、獲得耐性と対比して、治療初期にも関わらず治療反応性を示さない初期耐性についても、様々ながん種において報告されている。従って、分子標的医薬の治療成績向上のためにも初期耐性の克服は臨床現場において避け得ない喫緊の課題である。なかでも、同一癌種患者群における分子発現病態の不均一性が指摘されているTNBCでは、分子標的医薬に対して初期耐性を示す患者が一定数存在している。そこで、申請者は第三章において、Src-TKIであるDasatinibをモデル薬剤として用い、TNBCにおける初期耐性の理解および新規治療法の提案を試みた。まず、複数種類のTNBC細胞株を用いてDasatinibの感受性を評価したところ、標的分子であるSrcが阻害されているにも関わらず初期耐性を示す細胞株の存在を見出した。そこで、Dasatinibに対する初期耐性機序を、Srcの下流シグナル分子から追究したところ、細胞増殖に重要な役割を果たすAktの活性維持が初期耐性を促進していることを明らかとした。次に、初期耐性克服に向けた新規治療法確立に向け、Aktおよびその下流分子であるmTORを阻害した際の影響を評価した結果、Dasatinib耐性細胞株における薬剤感受性を増加させることを見出した。これら結果は、TNBCにおいて問題とされる初期耐性について、Dasatinibをモデルケースとしてその機序を明らかとしたものであり、他の様々な薬剤の初期耐性機序についても検討が進めば、個々のTNBC患者に対する個別化医療の実現につながると考えられる。

本研究では、臨床現場において不可避な分子標的医薬の薬剤耐性の理解を目指し、獲得耐性および初期耐性の観点から機序解明を試みた。獲得耐性については、非小細胞肺がんにおけるEGFR-TKI獲得耐性に焦点を当て、新たな耐性機序過程を見出し、Itraconazoleを用いた有効な治療法を提示した。さらに、初期耐性については、TNBCにおけるDasatinibに対する初期耐性機序にAktの活性化が関与していることを明らかとした。今後は本研究で明らかとした知見をモデルケースとして、他の癌種・薬剤にも適応させることで、獲得耐性や初期耐性に苦しむ患者が一人でも少なくなるような医療に貢献できると期待され、本研究は医学・薬学のさらなる進展に叶う重要な知見であると考えられる。

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