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大学・研究所にある論文を検索できる 「Changes in the gut microbiome in relation to the degree of gastric mucosal atrophy before and after Helicobacter pylori eradication」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Changes in the gut microbiome in relation to the degree of gastric mucosal atrophy before and after Helicobacter pylori eradication

古根, 聡 名古屋大学

2022.07.05

概要

【緒言】
 Helicobacter pylori(H. pylori)感染は胃癌やMALTリンパ腫以外にも多種多様な疾患の発症と増悪にかかわることが分かってきている。それらの疾患の発症や増悪にはH. pylori感染そのものによる微小炎症のみならず、H. pylori感染により生じる腸内細菌叢の乱れも関わりえることが明らかとなった。実際に近年、腸内細菌叢の乱れ、dysbiosisが様々な疾患でみられ問題となっており、その一例として腸管内での口腔内常在菌の増加が問題となっている。H. pylori感染は胃粘膜の萎縮を生じ、胃粘膜の萎縮は胃酸濃度の低下と胃内pHの上昇を引き起こしてその殺菌作用を減弱し、腸管内に口腔内常在菌を増加させるといわれている。飯野らはH. pylori感染患者の胃粘膜萎縮の進行を血清ペプシノーゲン値で判定し、萎縮進行例では腸管内に有意に口腔内常在菌が多かったと報告した。しかしながら、内視鏡で診断された胃粘膜萎縮の程度と腸内細菌叢の関連は報告されていない。
 抗生剤投与は腸内細菌叢へ多大な影響を与える因子であり、H. pylori除菌も例外ではない。H. pylori除菌によって生じる腸内細菌叢への影響には①抗生剤による腸内細菌叢の乱れと、②胃酸分泌の回復・胃内pHの低下の二つの段階があるとされる。まず、抗生剤の投与により腸内細菌叢は劇的に変化し、これは2か月後の段階でもある程度継続するとの報告が多い。そして、抗生剤による影響が緩和された半年後の段階では、腸内細菌叢は除菌前と有意な差がなくなるといわれている。しかしながら、除菌前の時点で萎縮の程度により患者間には腸内細菌叢に違いがあり、その除菌前の患者の不均一性を考慮せず、除菌前後での腸内細菌叢に変化がないというのには疑問が残る。
 今回、H. pylori感染患者を内視鏡で診断された胃粘膜萎縮の進行の程度により群分けし、その腸内細菌叢と除菌によって生じる腸内細菌叢への変化に胃粘膜の萎縮が与える影響を比較検討することを目的とした。

【対象と方法】
 2016年6月から2017年12月の間に名古屋大学医学部附属病院にてH. pylori除菌を受ける患者を対象に、除菌前(Pre)、除菌成功後2か月(After)、除菌成功後半年(Follow)の時点での糞便を採取、Illumina社Miseqを用いて16SrRNAの解析を行った。胃粘膜萎縮の程度は上部消化管内視鏡検査にて木村竹本分類に基づいて判定した。除菌薬は一次除菌としてボノプラザン・アモキシシリン・クラリスロマイシンを7日間使用し、除菌失敗例には二次除菌としてボノプラザン・アモキシシリン・メトロニダゾールを7日間使用した。主な患者選択除外基準としては①H. pyloriの除菌歴有り、②消化管の手術後、③H2拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬、K拮抗胃酸分泌抑制薬を内服している、④20歳未満、⑤内視鏡で慢性胃炎が指摘されないである。

【結果】
 患者は10名が萎縮非進行群(closed群)、5名が萎縮進行群(open群)に分類された。年齢はそれぞれ中央値が62.5歳と74.0歳、性別・BMI・除菌理由・一次除菌の成功率に両群間で差を認めなかった。全体での一次除菌成功率は73.3%、二次除菌の成功率は100%であった(Table1)。
 腸内細菌叢のα多様性・β多様性を全患者・closed群・open群の3つの群それぞれについて、3回の検体採取のタイミング間で比較した(Figure1)。それぞれの群内でのPre、After、Followの細菌叢の多様性には有意な差を認めなかった。
各タイミングでのclosed群・open群での腸内細菌叢の組成をFigure2に示す。門レベル(Figure2A)、では常にBacteroidetes門が最も多く、H. pyloriが属するProteobacteria門の変化は認められなかった。属レベル(Figure2B)では、Bacteroides属が常に最も多く、H. pyloriが属するHelicobacter属は一貫して検出されなかった。
 各検体採取タイミング時のclosed群・open群間の細菌叢をLefseにより比較したものがFigure 3である。Pre(Figure3B)で14属(うち12属が菌名が同定)、After(Figure3C)で12属(うち11属が菌名同定)、Follow(Figure 3D)では6属(うち5属が菌名同定)の菌種がclosed群・open群間に有意な差(p<0.05)がみられた。
 Figure3Bで示された、12属の菌種のclosed群・open群各群の3つのタイミングでのRelative abundanceを示したものがFigure4である。12属のうち8属は口腔内常在菌であり、その全てがPreの時点でopen群に多かった。また、open群においてはHaemophilus属とCoprobacillus属を除く10菌種(うち7菌種が口腔内常在菌)がFollow時点で治療前より減少していた。closed群ではFollowで7菌種が減少、5菌種が増加と変化は一定ではなかった。

【考察】
 本報告は、H. pylori陽性患者の内視鏡的に診断された胃粘膜萎縮と腸内細菌叢、そしてその除菌後の変化について報告する初の報告であり、新規に以下の項目を報告した:①内視鏡診断された胃粘膜萎縮の進行と腸管内の口腔内常在菌の増加が相関する、②胃粘膜萎縮の進行による細菌叢の違いは除菌によって縮小する。
 本研究において、除菌前にopen群・closed群の比較でopen群に多く含まれた12属の細菌のうち8属が口腔内細菌叢であり、既報における血清ペプシノーゲン値の高低で定義された萎縮による腸内細菌叢の変化と類似するものであり、内視鏡による萎縮判定が腸内細菌叢の推測に有効であることを示すものであった。また、この口腔内常在菌の増加はプロトンポンプ阻害薬使用時の変化とも類似しており、萎縮進行に伴う胃酸分泌の低下、胃内pH上昇によって生じた変化であるものと考えられた。
 Preで差を認めた12属のうち10属はFollowの時点で有意差を認めなくなり、その10属のうち7属が口腔内常在菌であったことは除菌に伴い胃酸分泌改善、胃内pHが低下したことが原因であると考えられた。胃酸分泌の改善は全患者で一様ではなく、特に萎縮進行群にてその改善は著しいと報告されており、それが両群の細菌叢の違いが減少した結果につながったと考えられた。胃酸分泌の改善がプラトーに達するまでは数年かかる場合もあり、更に長期のフォローを行うことでより両群間の差が完全になくなる可能性もある。
 内視鏡観察でH. pylori感染の有無と萎縮の程度の判定は再現性をもって判定可能であり、腸内細菌叢に影響を与える因子としての内視鏡所見の重要性を提言できたと考える。
 本検討は単施設での研究で、かつ、症例数も少ない。患者背景に有意な差はないがopen群で症例の年齢層が高めである。そして、萎縮に関しては内視鏡評価のみで組織学的・血清学的が行われていないという問題点がある。腸内細菌叢は個人間の差異が大きいため、今後より大規模な研究を続けることが必要である。

【結語】
 胃粘膜萎縮が進行したH. pylori感染患者では腸内細菌叢に特に口腔内常在菌が増加するが、H. pylori除菌によって口腔内常在菌の増加は萎縮非進行例と同程度に改善していくことが明らかとなった。H. pylori除菌が腸内細菌叢の乱れ、特に口腔内常在菌の増加に由来する疾患の改善に影響するかについては更なる検討が必要である。

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