バルーンアシスト小腸内視鏡を用いた小腸腸内細菌叢の組成に関する研究
概要
近年、ヒトの腸内細菌叢と様々な疾患(代謝性疾患など)との関連が報告されている。しかしなが ら、これらの研究はそのほとんどが糞便や大腸の細菌叢を分析しており、消化吸収の主座である小腸の細菌叢は検体採取の困難さから十分に解析されていない。我々は、小腸の粘膜細菌叢の組成と機能を調査し、便中細菌叢や他の消化管部位の粘膜細菌叢と比較した。
バルーンアシスト小腸内視鏡と細胞診用ブラシを用いて、胃・十二指腸・空腸・回腸・終末回腸・直腸の6部位から粘膜擦過検体を採取した。また、全対象者から糞便の採取も行い比較対象とした。 29名の参加者から得られた133検体をメタ16s解析により解析した。空腸のα多様性はChao1 indexにおいて7群中最も低く、下部消化管や便と比較して優位に低くなっていた。β多様性解析の結果、空腸と回腸の細菌叢は下部消化管や糞便と有意に異なっていた(p<0.001)。空腸と十二指腸の細菌叢は類似したクラスターを形成していた。回腸の細菌叢は上部消化管と下部消化管にまたがる広いクラスターを形成し、空腸の細菌叢とは有意に異なっていた(p<0.001)。構成比分析においては、Veillonella属とStreptococcus属は空腸に多く存在したが、下部消化管と便中では減少した。一方で、 Bacteroides属は回腸から急激にその割合を増やし、糞便では最優勢属のひとつとなっていた。予測メタゲノム解析では、炭水化物やアミノ酸代謝経路に関与する遺伝子は便中細菌叢の方が有意に多く、二次胆汁酸生合成経路に関与する遺伝子は回腸から急激に増加していた。小腸粘膜細菌叢の多様性や組成および代謝機能は下部消化管や便中細菌叢と大きく異なり、代謝性疾患と腸内細菌叢の関連性を調査する上では、小腸粘膜細菌叢の解析も重要な役割を有することが示唆された。