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大学・研究所にある論文を検索できる 「日本および周辺地域におけるホシアメバチ属(ハチ目:ヒメバチ科:アメバチ亜科)の種多様性および進化史」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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日本および周辺地域におけるホシアメバチ属(ハチ目:ヒメバチ科:アメバチ亜科)の種多様性および進化史

Shimizu, So 神戸大学

2021.03.25

概要

第一章においては、本研究全体の背景と目的をまとめた。
 ヒメバチ科は全生物の中でも最も多様化した昆虫の一群である。本科は他の完全変態昆虫などを寄主とする捕食寄生性昆虫である。よって、陸域生態系において、寄主の個体群を制御する調整サービスを担っている。また、本科の多様性の高さは、生物多様性の理解などの研究に重要な知見を与えることが予想される。しかし、本科の研究は非常に遅れている。
 ホシアメバチ属はヒメバチ科アメバチ亜科の一群である。熱帯に種多様性の中心を持つとされているが、温帯における研究の遅れのため、実際の種多様性パターンは不明である。本属を含むヒメバチ科の系統学やそれを応用した生物地理や形態進化の解明が望まれる。
 ホシアメバチ属の中でもramidulus種群はより冷涼な温帯に多く分布しているようであり、一般に本属の種多様性の中心とされる熱帯に起源を有し、その後に温帯に進出したと推測されるがそれを示した研究はない。本種群は特殊化した大顎の形態により特徴づけられる。寄生蜂の大顎は寄主からの羽脱時に酷使され、寄主の生態・状態に関連して進化する。よって、本種群の大顎の進化も寄主利用様式、特に蛹化場所のシフトによって生じたのではないかと推測される。
 以上の背景を踏まえ、本研究では日本および周辺地域のホシアメバチ属について、種多様性(第二章)とそのパターン(第三章)を解明し、種系統を明らかにして生物地理と形態進化の歴史を紐解くこと(第四章)を目的とした。

 第二章においては、日本産ホシアメバチ属の統合分類を行った。
 ハネカクシやゾウムシ、ヒメバチのような超多様分類群に属する生物の種の認識は従来の形態分類手法ではしばしば困難である。しかし、伝統的な形態形質に加えて、幾何学的形態計測学による測定値やフェロモンの化学組成などの複数のソースを組み合わせて、種を定義する統合分類学的手法が昨今急速に発達してきている。
 夜行性のヒメバチ科は夜間活動に適したアメバチ風貌に収斂進化しているため、外部形態が非常に似通った種が多く、伝統的な形態分類のみでは十分に種の認識が行えなかった。ホシアメバチ属は典型的なアメバチ風貌を有するヒメバチの一群であり、日本においてはこれまで35種が知られてきたが、90年近く日本産種をまとめた研究は存在せず、多くの分類学的問題点が残っていた。そこで本章においては、形態形質とDNA解析を合わせた統合分類学的手法を用いて、日本における本属の種多様性の解明を目指した。
 その結果、日本からすでに知られていた35種の内7種は日本から記録を排除すべきであることが明らかになった。さらに、日本から新たに10種を記録した。そして、9種が新種であることが認められた。本研究を通して日本産合計種数は35種から47種に増えた。また、統合分類学的手法により、従来ホシアメバチ属の分類において最重要視されてきた形質の一つである前翅の骨片形状が同種内においてもメラニズムの程度の差により変化することが明らかになり、従来の重要と考えられてきた形質の慎重な再評価が必要であることが示された。また、DNAバーコーディングはほとんどの場合、形態分類の結果と一致したが、一部の分類群では不一致が見られた。DNAバーコーディングと形態分類の結果が不一致した分類群に関しては今回は従来の分類体系を維持したが、隠蔽種の存在などの可能性があり、今後更なる研究が必要である。

 第三章においては、日本列島におけるホシアメバチ属の種多様性パターンを解析した。生物の種多様性は一般に低緯度の熱帯地域に向かうにつれて高くなるが、ヒメバチ科は逆緯度勾配を示す典型例として注目されてきた。しかし、従来知られていた本科の種多様性パターンは分類学的および調査努力のバイアスを十分に考慮できておらず、実際はより複雑なパターンを示すことが近年の研究により指摘されている。
 ヒメバチ科の中では例外的にアメバチ亜科は熱帯に多様性の中心を持つとされてきた。しかし、温帯における研究は熱帯と比べて少なく、実際の緯度勾配の解明には熱帯と温帯両方における頑強な分類学的基盤および十分な採集努力に基づいた解析が必要である。そこで本章においては、第二章において構築した日本産ホシアメバチ属の分類学的基盤と3,000個体以上の分布データを用いることで、日本列島における本属の種多様性が緯度と共にどのように変化するのかを解析した。
 その結果、本属の種多様性は低緯度に向かうと共に有意に増加することが示された。しかし、本研究においては各地域の生息地面積の効果を排除できていないことなどから、本研究の結果は予備的なものであると言える。琉球諸島の面積は他地域と比較して明らかに狭いにも関わらず本属の種多様性の高さが特に際立っており、琉球諸島は本属の種多様性ホットスポットの一つである可能性は非常に高い。また、日本国内に分布する総種数推定を行った結果、総種数は約55種と推定され、第二章において認められた47種を上回る種数となった。これは、日本産種の分類学的研究がまだ終わっていないことを示唆している。本属のより詳細な緯度分布パターンを解明することや分類学を完了するためには、更なる調査を継続する必要がある。

 第四章においては、日本および周辺地域産ホシアメバチ属の種系統関係を推定し、熱帯から温帯への前適応的進出を明らかにした。
ホシアメバチ属は広く知られたグループであるが、多くの分類学的問題点が残っている。本属には約60種群が含まれているが、系統的な検証は行われていない。種群の設置などによる巨大分類群内の細分化は、そのグループ内に扱いやすいコンパクトな研究ユニットを与えることとなり、研究スピードのアップにつながる。したがって、本属内の系統関係を明らかにして、種群の再定義をする必要がある。その最初の試みとして、第二章で構築した分類学的基盤と材料を用いて日本および周辺地域産種を対象とした本属初となる分子系統樹を構築し、従来の種群体系の評価および再定義を行った。
 本属の種多様性は低緯度に向かうにつれて増すことが第三章において示されたが、日本の温帯地域に分布する種が熱帯に由来するのか温帯に由来するのかは不明である。そこで、構築した系統樹を用いて本属の極東における生物地理史を推定した。さらに、大顎形態が熱帯と温帯の季節性の違いにより異なるホストの生態に適応して進化してきたのではないかという仮説を立て、その検証のために大顎形態の進化史と生物地理史を比較した。
 ミトコンドリア遺伝子2領域(CO1とNADH1)および核遺伝子4領域(LWRh、NaK、Wg、および28SrDNA)の合計6遺伝子領域の部分配列を用いた分子系統解析の結果、解像度の高い樹形を得ることに成功した。その樹形は、従来の種群の多くが系統的に意味のないまとまりであることを示した。したがって、従来の種群体系と照らし合わせながら系統分類学的に幾つかの種群の再定義を行った。
生物地理史の再構築の結果、極東アジア産種の祖先分布は熱帯であることが推定された。南から北への分散が頻繁に生じていることが推定され、特に温帯と熱帯の境界に位置する亜熱帯地域を中心に分散や種分化が生じていることが示唆された。なかでも現在では広く温帯に分布するramidulus種群の祖先において、熱帯から温帯への進出が生じた事が明示された。大顎形態の進化史の再構築の結果、単純な大顎が祖先状態であり、ramidulus種群の祖先において特殊化が生じたことが推定された。
 温帯に進出したramidulus種群は特殊化した大顎を進化させ越冬場所として温帯における冬季の低温から護られた隠蔽環境利用を可能としていた。大顎の特殊化は熱帯から温帯への進出に先んじて生じており、温帯への進出以前に獲得された前適応的な形質であると示された。

 第五章においては、本研究を通して得られた新たな知見に基づいて、従来、知見に乏しかった極東アジア地域における、寄生蜂の多様性創出維持の系統進化学的背景などに関して総合的に考察を行った。
 ミトコンドリアCO1領域は万能なプライマーがあることなどから、バーコード領域として最も一般的である。しかし、偽遺伝子などにより、機能しない事例もよく報告されている。実際、第二章の統合分類学においても、バーコード解析と形態分類の結果の不一致が一部見られた。したがって、より安定した新たな領域の探索が求められる。第四章において用いたNaKは、単一コピーであること、挿入欠損が存在しないこと、本研究において新たに作成したプライマーにより簡単に増幅可能であることなどからバーコード領域となり得る可能性を有することが分かった。さらに、NaKはコドン位置ごとの進化速度のばらつきが大きいため、種定義から高次系統関係の解明まで幅広く利用可能な万能な領域であると考えられる。
 ホシアメバチ属でも熱帯の系統が進化的に古く、温帯の系統が若いことが示された。これは進化的時間で見たとき熱帯環境の方が昔から安定して存在してきたため、熱帯に分布する分類群はより長く多くの多様化の機会を得てきたとする系統的ニッチ保守性仮説と一致する。
 寄主となる食植性昆虫の植物由来の毒性が熱帯に向かうにつれて高くなるため、寄生蜂の寄主特異性も熱帯に向かうにつれて高まるとする仮説により、ホシアメバチ属の熱帯から温帯へ分散がその逆よりも盛んであることが説明できる。熱帯の寄主の高い毒性は温帯から熱帯への侵入を難しくする要因であると同時に熱帯における多様化に大きく貢献してきたと考えられる。

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