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大学・研究所にある論文を検索できる 「セルラーオートマートン法による製剤の崩壊及び溶出挙動の予測手法」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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セルラーオートマートン法による製剤の崩壊及び溶出挙動の予測手法

横山 怜示 富山大学

2021.03.03

概要

医薬品は、有効成分である薬物だけで構成されるわけではなく、薬物と配合性に優れ、かつ適切な機能を有する添加剤と適切な製造プロセス及び厳格な製造管理を経て、ヒトへ投与できる剤形へと加工されて完成する。医薬品の多くを占める経口固形製剤がヒトの生体内で期待される薬効を示すためには、服用された製剤がヒトの消化管内で適切な速度及び量で溶解し、ヒトの消化管から吸収される必要があり、その吸収性に影響する薬物の溶解挙動を適切に設計することは製剤設計において非常に重要である。生体内や溶出試験液下での製剤中の薬物の崩壊及び溶出挙動は、薬物の溶解度や粒度分布、顆粒径や顆粒の錠剤内での配置状態、空隙率、製剤の製造法や製造条件など多くの因子によって影響を受けることが知られている。そのため、これら因子が製剤品質に与える影響を理解しながら製剤設計を進めることは医薬品開発において重要である。しかし、一般的に、研究開発段階における開発化合物は非常に高価で、製剤化検討に使用可能な原薬量は限られ、それ故に製剤品質に影響を与える潜在的因子について十分に検証を行うことは難しい。そこで、近年、製剤品質に影響する重要因子を理解するため、固形製剤における粒子や錠剤の機械的特性や溶出挙動をモデル化し予測するシミュレーションモデルが多く研究、開発されている。例えば溶出挙動のシミュレーションでは離散要素法などの in silico 手法の適用が研究されている。しかし、それら in silico 手法は膨大な計算コストを必要とするため、現時点では実用段階とは言い難い。一方で、古典的な薬物溶解速度論( Noyes-Whitney 式など) に in silico 手法を適用して溶出挙動をモデル化しようとする研究も行われている。なお、Noyes-Whitney 式で溶出挙動を予測するためには崩壊過程で逐一変化する錠剤の表面積を正確にシミュレーションしなければならない。このような背景のもと、本研究では錠剤の崩壊過程をシミュレーションする手法として、セルラーオートマートン( cellular automaton;CA)法に着目した。CA 法は、CA ルールに基づいて変化する周囲のセルの状態に従って、自分のセルの次の状態を決定し、自他のセルがお互いに影響を与え合うモデル系である。CA アルゴリズムは、そのルールの単純性からこれまで多くの研究に適用されている離散要素法に比べて計算負荷が低く、多粒子/多成分から構成されるモデルにおいて速やかな計算処理が可能である。そこで本研究では、CAアルゴリズムを適用して錠剤の崩壊過程における薬物粒子近傍の状態やその薬物粒子の溶解に寄与する表面積の変化をシミュレーションし、その表面積変化を Noyes-Whitney 式に反映させることで即放性製剤の崩壊及び溶出挙動を高度に予測する手法の確立を試みた。これまで錠剤の崩壊挙動を考慮した CA アルゴリズムが溶出予測モデルに適用されたことはなく、本技術が確立できれば経口固形製剤の製剤設計に大いに貢献するものと期待される。

また近年では、新薬開発の成功率の低下や医薬品の特許満了に伴い、複数の有効成分を 1つの剤形に製剤化した配合剤が多く開発、上市されている。配合剤には液剤や顆粒剤、カプセル剤など様々な剤型が存在しているが、その中でも複数の粉体を積層させて圧縮成形する多層錠は、各粉体層に配合する賦形剤、結合剤及び崩壊剤等の種類及び量を調節したり、バリアー性または膨潤性/浸食性を有する粉体層と薬物層を組み合わせたりすることで、各薬物層の崩壊から溶出までのプロセスを個別に設計することができる。これまでに Higuchi モデルや Ritger-Peppas モデルといった数理学的フィッティング手法を用いて実験データや速度論的解析から多層錠の薬物溶出プロファイルを解明する研究がなされているが、多層錠の溶出プロファイルを予測することは非常に困難である。それは、錠剤形状や溶出性に影響しうる添加剤成分の束一的な特性といった重要因子を網羅的に反映した予測モデルが存在していないためであり、その解決にはこれら重要因子と錠剤の崩壊及び溶出挙動を紐づけた予測が必要であると考えられる。そこで、本研究では先に確立した予測手法を用いて、多層錠の不溶性隔離層が薬物溶出に与える影響について詳細に解析した。

1. Noyes-Whitney 式及びセルラオートマタアルゴリズムによるメフェナム酸錠の崩壊及び溶出挙動の新規予測手法 1Noyes-Whitney 式に CA アルゴリズムを適用した新規溶出挙動予測手法を構築するため、難溶性のメフェナム酸( mefenamic acid;MA)をモデル薬物として用いて解析を行った。試料錠剤として、打錠圧を変化させて錠剤空隙率の異なる 4 種類の MA 錠を調製し、それらの溶出挙動を測定した。続いて、試料錠剤の崩壊及び溶出挙動を予測し、その CA アルゴリズムに適用した崩壊モデルの妥当性を解析するために、溶出シミュレーションを行った。なお、 CA アルゴリズムによる溶出挙動のシミュレーションを実施するには、錠剤の内部構造( 錠剤内の顆粒や添加剤の分布)を近似したモデルの作成が必要となる。そこで、本研究ではシンクロトロン X 線マイクロトモグラフィーを用いた画像化から構築した錠剤内部構造モデルと、製剤設計支援ソフトウェア( F-CAD)を用いて錠剤配置を近似した仮想錠剤内部構造モデルの 2 種類を用意し、CA アルゴリズムによるシミュレーションに用いた。薬物溶出の数値解析は、CA アルゴリズムで算出した薬物粒子の表面積及び拡散係数の変化を Noyes- Whitney 式に反映させて行った。In vitro 評価の結果、MA 錠の初期溶出性は空隙率の減少に伴い低下した。In silico 評価においては、X 線マイクロトモグラフィー錠剤内部構造モデル及び F-CAD 仮想錠剤内部構造モデルは共に in vitro 結果と同等であった。以上から、溶出予測における錠剤配置を近似化したモデルの妥当性を明らかにした。崩壊モデルの解析については、崩壊挙動を考慮しない溶出予測モデルが in vitro 結果と大きく乖離した一方、崩壊挙動を考慮した溶出予測モデルは in vitro 結果と同等であった。以上、本研究で適用した崩壊及び溶出モデルは現実の物理的挙動と理論的に類似しており、実験と良好な相関を示すことが示唆された。また、空隙率などの物質特性や製造パラメータが溶出性に与える影響を予測できる可能性が示された。以上の解析から、F-CAD ソフトウェアに基づく錠剤配置の近似化手法及び崩壊から溶出までの複雑な多段階のプロセスを解明するモデル化手法として、3 次元 CA 及び Noyes-Whitney 式を複合させた新規の予測モデルの有用性が明らかとなった。

2. 多層錠における不溶性隔離層が薬物の溶出性に与える影響の予測手法の検討 2
上記で構築した新規溶出予測手法を多層錠からの溶出挙動予測へ応用した。試料錠剤として難溶性の MA 及び易溶性のアセチルサリチル酸( acetylsalicylic acid;ASA)を含有する 2層錠及び、不溶性のポリカプロラクトンで構成される隔離層で薬物層を隔てた 3 層錠を調製し、それらの溶出性を in vitro 及び in silico で解析した。特に、不溶性隔離層が溶出挙動に与える影響を解明するため、Noyes-Whitney モデルに基づくフィッティング及び 3 次元 CAアルゴリズムの数理学的シミュレーションを解析した。その結果、MA の in vitro 溶出性は 2層錠及び 3 層錠で同等の溶出プロファイルを示した一方、ASA の in vitro 溶出性は 2 層錠に比べて 3 層錠では顕著に低下した。この原因として、不溶性隔離層から薬物層への水の浸透及び薬物層の崩壊のプロセスにおいて、ASA 層が MA 層に比べて強く影響を受けた可能性が考えられた。In silico 溶出性については、3 次元 CA アルゴリズムを用いる予測モデルが実験結果と高い相関を示し、不溶性隔離層が MA 層及び ASA 層の薬物溶出に与える影響を予測できた。モデルを比較する目的でフィッティングに用いた単純な Noyes-Whitney モデルは崩壊挙動を考慮せず、溶出初期から速やかなシンプルな溶出パターンを示す一方、CA アルゴリズムを用いた予測モデルは錠剤内部への液体の浸透やその停滞、崩壊剤の膨潤といった薬物溶出至る多段階の物理的ステップを再現するように溶出初期にシグモイド型の溶出パターンを示した。以上の解析から、CA アルゴリズムを用いる予測手法によって、溶解度の異なる薬物やその組成が異なる多層錠の溶出性を予測できる可能性が示され、本研究で確立した予測手法が組成や原薬/添加剤の物性、錠剤形状及び製造パラメータなどの差異が薬物溶出に与える影響を理解する上で非常に有用であることが明らかとなった。

結論
本研究から、F-CAD ソフトウェアに基づく錠剤内部の近似化手法、さらに崩壊モデルを適用した 3 次元 CA アルゴリズム及び溶解速度式である Noyes-Whitney 式を複合した新規の溶出予測手法が、実際の製剤における物理的挙動と理論的に類似していることを明らかにした。また、本予測手法を用いて、処方中の薬物や添加剤などの物質特性及び製造パラメータが溶出性に与える影響を予測できる可能性が示された。本研究の予測手法は、十分な検討用原薬や検討期間を確保しにくい医薬品の研究開発段階において、溶出性に影響を与える重要因子を迅速かつ的確に把握することを可能とし、現在の製剤開発プロセスを加速させる非常に有望なツールであると考えられる。今後、例えば、in silico による効率的で頑健性を有する処方設計及びプロセス設計や難溶性薬物の生物学的利用能の向上、品質保証などへの応用が期待される。

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参考文献

1. Yokoyama, R. , Kimura, G., Schlepütz, C. M., Huwyler, J. P uchkov, M.: Modeling of disintegration and dissolution behavior of mefenamic acid formulation using numeric solution of Noyes-Whitney equation with cellular automata on microtomographic and algorithmically generated surfaces. Pharmaceutics 10, 259 ( 2018).

2. Yokoyama, R. , Kimura, G., Huwyler, J., Hosoya, K., Puchkov, M. : Impact of insoluble separation layer mechanical properties on disintegration and dissolution kinetics of multilayer tablets. Pharmaceutics 12, 495 ( 2020).

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