肺動脈性肺高血圧症におけるエストロゲンのnon nuclear pathway を介した役割の解明
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名
常盤 洋之
本研究は肺高血圧症(PH)においてその病態に多面的に関与することが知られてい
るエストロゲンについて、その作用機序の詳細を nuclear / non nuclear pathway にわけ
て明らかにすることで、PH の新規治療法としてのエストロゲンへの介入方法を検討した
ものであり、下記の結果を得ている。
1.SU5416(血管内皮細胞増殖因子受容体阻害薬)と低酸素によって肺動脈性肺高血圧
症モデル(SuHx 誘導 PAH モデル)マウスにおいて、エストロゲンの投与は右室収
縮期圧の改善、肺高血圧症の病態に関わる各種遺伝子発現の変化の改善をさせ、肺高
血圧症の病態の進展予防効果を持つこと。
2.遺伝子改変によりエストロゲン受容体(estrogen receptor: ER)αの non nuclear
pathway を選択的に阻害したマウスに対して同様の実験を行うと、同マウスの同腹仔
のうち正常型 ERαをホモで有するもの(対照群)においてはエストロゲンの投与に
より右室収縮期圧の改善、右室自由壁/左室・心室中隔重量比の低下、末梢肺動脈にお
ける中膜肥厚の改善を認めたが、変異型 ERαをホモで有するものにおいてはこれら
の表現型の変化が消失・あるいは減弱しており、エストロゲンによる肺高血圧症の進
展予防効果が損なわれること。
以上の結果から、本論文は SuHx 誘導 PAH モデルマウスにおいてエストロゲンが有
する病態進展予防作用のうち、少なくとも一部分は ERαの non nuclear pathway を介し
た効果であると推論されることを示した。本研究は PH におけるエストロゲンの多様な機
能を nuclear / non nuclear pathway という新たな観点から整理したものであり、PH にお
いて性差が果たす役割の解明や、それに基づいた新たな治療薬の開発に重要な貢献をなす
と考えられる。
よって本論文は博士(医学 )の学位請求論文として合格と認められる。