論文の公開元へShuffling babies and autism spectrum disorder
概要
【緒言】
座位のまま臀部を擦って移動する shuffling は自立歩行に先行する移動方法であり、その有病率は 3〜9%と報告されている。Shuffling baby は軽度の筋緊張低下があり、歩き始めが遅くとも、最終的には良好な転帰を示すと考えられてきた。多くの shuffling baby を対象とした研究では、長期的な発達予後が明らかにされていないが、我々は臨床で shuffling を行い、Autism spectrum disorder (ASD)と診断される児を経験した。
ASD の早期診断と早期介入は、そのこどもの長期的な社会的・行動的転帰を改善する可能性があるとされている。ASD の早期診断のために、乳幼児健診で使える行動マーカーの同定が重要であるが shuffling baby の中から ASD を見出す特徴的な所見が明らかにされていない。そこで我々は、ASD は shuffling baby に多く見られ、乳児期に ASD を示唆する兆候が見られるのではないかと仮説を立て、豊田市こども発達センターを受診した shuffling baby の臨床的特徴と神経発達予後を検討した。
【方法】
2007 年 4 月から 2015 年 3 月までに、豊田市こども発達センターを受診した shuffling baby を登録した。豊田市子ども発達センターの医療圏は豊田市とみよし市の人口 48万人(年間出生数 4500 人)を担っている。受診の主訴が shuffling だけでなく、その他の目的で受診したこどもも対象とした。小児神経科医が診察と親からの問診で shuffling の診断をし、ASD の診断は児童精神科医が Diagnostic and Statistical Manual (DSM)の診断基準に沿って行った。(2017 年 4 月 1 日以前は DSM-Ⅳに、それ以降は DSM-Ⅴに従った。) Shuffling の定義は、座位のまま足や腕を使い臀部を擦って前進することとした。
Shuffling baby の中から、もともと shuffling をする事があると報告がある脳性麻痺とダウン症候群を除外し、発達の経過に影響する疾患を有する 7 人(水頭症、小頭症、脳皮質形成不全、原因不明の脳白質病変、クラインフェルター症候群、先天性の多発奇形症、先天性心疾患それぞれ 1 人)を除外した。後方視的に性別、初診時の年齢、家族歴、発達のマイルストーン(定頚、独座、shuffling、四つ這い、自立歩行、始語)、視線のあいにくさ、筋緊張、発達指数を調べた。3 歳過ぎまで経過が追えなかったこどもは、電話や手紙で家族から聞き取り調査を行なった。
統計解析には SPSS を用いて、フィッシャーの正確検定かマン・ホイットニーの U検定で ASD 群と非 ASD 群を比較した。
【結果】
51 人を shuffling baby として登録した。男児は 25 人だった。2 人は在胎週数が 35 週で早産児だったが、周産期の合併症は見られず、修正週数で評価した。13 人は 3 歳前に外来での経過観察を終えていたが、10 人は電話や手紙での聞き取りで追跡調査を行った。3 人は連絡がつかないため、今回の研究から除外した。20 人(42%)が ASD と診断された。初診時年齢の幅は ASD 群で 10 か月から 3 歳 4 か月(中央値 1 歳 7 か月)、非 ASD 群は 7 か月から 1 歳 8 か月(中央値 1 歳 2 か月)だった。初診時の主訴が shufflingを含む運動発達遅滞だったのは ASD 群で 13 人、非 ASD 群で 24 人だった。主訴が精神遅滞か言語発達遅滞だったのは ASD 群で 7 人、非 ASD 群で 3 人だった。主訴が斜視だった 1 人は非 ASD だった。最終の経過観察年齢は ASD 群で 3 歳から 12 歳(中央値 6 歳)、非 ASD 群は 3 歳から 12 歳(中央値 5 歳)だった。臨床的な特徴を表 1 に示した。Shuffling の家族歴は ASD 群では 10%、非 ASD 群では 39%と高率(p=0.046)だった。初診時に視線があいにくかった 12 人(60%)は全て ASD だった(p<0.001)。筋緊張の低下や、運動発達の経過(図 1)に 2 群間の有意差を認めなかった。始語は ASD 群で 11 か月から 28 か月(中央値 15 か月)、非 ASD 群は 9 か月から 24 か月(中央値 12 か月)だった(p=0.025)。
遠城寺式発達検査(移動運動、手の運動、基本的習慣、対人関係、発語、言語理解の 6 項目で評価する)を ASD 群の 19 名と非 ASD 群の 15 名に経過中に 2 回以上施行した。全領域の発達指数では 2 群間に有意差はなかったが、社会性をみる基本的な習慣 (p=0.010)と人間関係(p=0.008)の指数が ASD 群で有意に低かった。(表 1)
【考察】
shuffling baby に関する多くの論文が 1970 年代から 1980 年代に掲載されており、その当時に現在の ASD の概念を論じることはできなかったが、1989 年の Botos らの論文では、shuffling 児に言語発達の遅れを報告している。
Shuffling の原因はまだ不明だが、非 ASD 群で家族歴が高いことから、遺伝子変異などが因子の可能性がある。親の過保護や親の態度によって shuffling を含む運動発達に影響するという論文もあり、多因子が影響する。
その中でも ASD 児が shuffling を行う原因を考える。まず我々の報告でも、過去の論文でも Shuffling baby は筋緊張が低下していることが多いとされており、ASD は低緊張であると言う論文もあることから、筋緊張の低下が ASD の shuffling の一因である可能性がある。
第 2 に、ASD を含む発達障害児では特異的な運動発達を示す事があり、それらは不器用さ、運動障害、ジストニックなど様々な様相を呈するとされ、その中の一つの運動として shuffling をすると考えられる。
第 3 に、感覚の過敏性も一因であると考えられる。ASD では触覚の過敏や感覚の過敏などの感覚異常を持つ事が多い。四つ這いは手や膝の感覚刺激を有するので、ASD児はこの感覚刺激を避けるために shuffling を行う。
【結論】
以上より、今回の研究で shuffling baby の中には ASD を合併する群が存在する事が示唆され、その要因には ASD 児の筋緊張の低下や特異な運動発達の経過、感覚の異常が関連している可能性がある。Shuffling baby の診療においては筋緊張の低下や運動発達を重視した診察をする傾向があるが、それらは shuffling の原因であり、ASD の有無に留意し、視線のあいにくさや始語の遅れ、基本的な習慣や人間関係の成長に注意を払うことが重要である。
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