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大学・研究所にある論文を検索できる 「遺伝子治療への応用に向けたCRISPR-Cas12a搭載アデノウイルスベクターの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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遺伝子治療への応用に向けたCRISPR-Cas12a搭載アデノウイルスベクターの開発

塚本, 智仁 大阪大学

2022.03.24

概要

遺伝子治療は、遺伝子を目的の細胞に送り届けることにより、遺伝子疾患などが原因で不足した遺伝子発現を補うことや新たな機能を付与することが可能となる治療方法であり、先天性遺伝子疾患に対する有力な治療法として注目を集めてきた。一方、近年登場したCRISPR-Cas9によるゲノム編集技術は、ゲノム内の任意の場所に遺伝子を挿入することや遺伝子の突然変異を直接修復することを可能とし、さらに、その高い標的特異性により不測の遺伝子変異リスクが低く抑えられることから、遺伝子治療に革新をもたらす技術として期待されている。Cas12a(Cpf1)は、Cas9同様に二本鎖DNA切断活性を持つCas分子であるが、Cas9とは異なる性質を併せ持つ。中でも、目的の標的以外を切断してしまうオフターゲット効果がCas9よりも著しく低いという優れた特性を持つことから、遺伝子治療への応用にあたってはCas9よりも格段に安全性が高いとされ期待が寄せられている。

 CRISPR-Casシステムを用いた遺伝子治療においては、Cas分子を標的組織で高効率に発現させることが重要であることから、Cas遺伝子の導入効率がゲノム切断効率を決める要因となる。ウイルスベクターは、目的の組織に高効率に遺伝子を送達するツールとして広く用いられ、特にアデノウイルス(Ad)ベクターは、エピゾームとしてウイルスゲノムが染色体外に存在するため安全性が高いことや、初代培養細胞や組織などの非分裂細胞にも効率よく遺伝子導入できることから、遺伝子治療等に汎用される。本研究では、まず、Cas12a搭載Adベクターの開発と効率的なCas12a搭載Adベクターの回収方法に関する検討を行い、次に、Cas12a分子を改良することによるゲノム編集効率の改善を試みた。

 第1章では、まず、AsCas12a(Acidaminococcus BV3L6由来Cas12a)搭載Adベクターの作製を試み、Adベクター回収に成功した。これを用いてAAVS1遺伝子座を標的として初代培養細胞に適用したところ、キメラマウス由来ヒト初代肝細胞(PXB細胞)では12%、ヒト臍帯静脈内皮細胞のHUVECでは最大59%のゲノム編集率(indel)を示した。このことから、AsCas12a搭載Adベクターがヒト初代培養細胞に適用可能であることが示された。しかしながら、AsCas12a搭載Adベクターは、回収に成功したものの収量は著しく低く、またLbCas12a(Lachnospiraceae bacterium ND2006由来Cas12a)搭載Adベクターは全く回収することができなかった。Cas12a搭載Adベクターの回収が困難である原因を調べた結果、Adベクター増幅中のパッケージング細胞(HEK293:ヒト胎児腎細胞株)におけるAdゲノムコピー数が、GFP搭載Adベクターと比較してAsCas12aおよびLbCas12a搭載Adベクターではそれぞれ約1/100、1/1000まで低下していた。この結果はAdベクター増幅中に発現したCas12aがAdベクターの産生を阻害することを示唆しており、Cas12a搭載Adベクターを高収量で回収するためには、パッケージング細胞でのCas12aの発現を抑制する必要があると考えられた。そこで次に、Cas12aを発現させるプロモーターを、恒常的発現を誘導するCBhプロモーター(chicken β-actin hybrid promoter)から肝臓特異的AHAプロモーター(apolipoprotein E enhancer and ahuman alpha1-antitrypsin promoter hybrid promoter)またはTet-onシステムに変更した。その結果、AsCas12a、LbCas12aのいずれを搭載したAdベクターも高収量で回収することに成功した。続いて、恒常的発現を誘導するプロモーターを用いた場合でもCas12a搭載Adベクターを高収量で回収するために、shAsCas12aまたはshLbCas12aを発現するパッケージング細胞をそれぞれ樹立した。これらの細胞を用いてCBhプロモーターによりCas12aが発現するAdベクターの回収を試みた結果、AsCas12a搭載Adベクターは高収量で回収することに成功した。一方、LbCas12a搭載Adベクターについては、増幅中のAdゲノムコピー数は改善されたものの、Adベクターを回収することはできなかった。この理由として、LbCas12aのshLbCas12aによる抑制が不十分であったためと考えられる。ここまでの検討で回収に成功したAdベクターをHuh-7細胞(ヒト肝癌細胞株)に作用させたところ、AsCas12aでは最大で約30%、LbCas12aでは約50%のindelを示し、高いゲノム編集機能を持つことが確認できた。最後に、本章で得られた知見に基づいて、AHAプロモーターによりAsCas12aまたはLbCas12aを発現し、Rosa26遺伝子座を標的とするAdベクターを新たに作製し、マウスに投与したところ、肝臓で4-28%のindelが確認されたことから、本研究で開発したCas12a搭載Adベクターはマウス肝臓におけるin vivoゲノム編集が可能であることが明らかとなった。

 第2章ではCas12aに各種核局在化シグナル(NLS)を付与し、核局在性を向上させることにより、ゲノム編集効率の改善を試みた。既報をもとに、Cas12aのC末端側にNPNLS(Nucleoplasmin NLS)が1個付与された1xNLS(ZetscheB et al., 2015)、NPNLSおよびSV40NLSが付与された2xNLS(LiuP et al., 2019)、c-MycNLSが6個付与された6xNLS(GierRAetal.,2020)を作製した。作製したCas12aはAHAプロモーターでそれぞれ制御させ、AAVS1遺伝子座を標的とするAdベクターに搭載した。得られたAdベクターをHuh-7細胞に作用させ免疫蛍光染色を行ったところ、AsCas12a、LbCas12aいずれについてもNLSの個数が増加するに従って核への局在性が向上した。また、T7E1assayによってindelを調べたところ、AsCas12a、LbCas12aいずれについても、1xNLSに比べて2xNLSおよび6xNLSが高いゲノム編集効率を示した。ウエスタンブロッティングによりタンパク質発現を調べたところ、AsCas12aは1x、2x、6xNLSのいずれも同程度の発現を示した一方で、LbCas12aは1x、2x、6xNLSの順でタンパク質発現が増大したことから、LbCas12aは細胞質で分解を受けることが示唆された。そこで、MG-132(プロテアソーム阻害剤)またはクロロキン(オートファジー阻害剤)を作用させたところ、MG-132を作用させた場合は1xNLSおよび2xNLSでLbCas12aの発現レベルが著しく増大し、クロロキンを作用させた場合にはLbCas12aの発現は増大しなかったことから、LbCas12aは細胞質のプロテアソームによる分解を受けることが明らかとなった。以上の結果より、NLSの追加付与が核移行性を向上させたことによりプロテアソームによる分解を回避した結果、LbCas12aタンパク質の安定性が改善されることが示唆された。最後に、1x、2x、6xNLSをそれぞれ持つAsCas12a搭載Adベクターをマウスに静脈内投与し、1週毎に4週まで肝臓におけるindelを調べた。その結果、1xNLSでは1週目でindelがほとんど検出されなかったが、週を追って増加し続け、4週目では約40%に達した。一方、2xNLSおよび6xNLSは、1週目で既に12-30%の高いindelが検出され、4週目では約40%に達した。以上の結果より、NLSの追加付与により、in vivoゲノム編集の編集完了までの時間が大幅に短縮されることが明らかとなり、より効果の高い遺伝子編集ツールとなる可能性が示された。

 本研究で世界に先駆けて開発したCRISPR-Cas12a搭載Adベクターは、Cas9についてこれまでの報告に匹敵する高いin vivoゲノム編集効率を示したことから、Cas12aの持つ高い安全性を活かした質の高い遺伝子治療への応用が十分可能であると考えられる。本研究成果が今後の遺伝子治療技術の発展に資することを期待したい。

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