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大学・研究所にある論文を検索できる 「細菌人工染色体を用いたDNAウイルスの遺伝子改変系の構築およびイヌを対象とした疾患への応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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細菌人工染色体を用いたDNAウイルスの遺伝子改変系の構築およびイヌを対象とした疾患への応用

松郷, 宙倫 東京大学 DOI:10.15083/0002006916

2023.03.24

概要



査 の 結 果 の 要 旨





松郷 宙倫

アデノウイルスやヘルペスウイルスは、医学領域では遺伝子治療用のベクターやベクタ
ーワクチン、あるいは腫瘍溶解性ウイルス(OV)のバックボーンとして注目されている。
これらの目的に応用できる組換えウイルスの構築には遺伝子改変技術が必要になるが、獣
医学領域に適用できるウイルスについての遺伝子改変技術は確立されていない。これらの
DNA ウイルスはゲノムサイズが大きいため、通常のプラスミドをベースとしたウイルスゲ
ノムのクローニングや意図する変異の導入は極めて困難である。本研究では、複数の DNA
ウイルスについて、細菌人工染色体(BAC)をベースとした遺伝子改変系を確立し、それ
を基盤にイヌを対象とした疾患への応用を目指したウイルスベクターを構築し、評価した。
第一章第一節では、ベクターのバックボーンとしてイヌアデノウイルス(CAdV1 および
CAdV2)の遺伝子改変系を確立した。CAdV の感染性 BAC クローンを構築し、遺伝子改変
した組換えウイルスを簡便かつ効率的に作出することに成功した。第二節では、CAdV2 の
遺伝子改変系を用いてプラークバリアントの増殖性を規定する機構を探索した。バリアン
ト間で異なる塩基配列をもつ変異ウイルスを作出したところ、ヘキソン ORF の同義置換で
ある 18408 番目の塩基が増殖性(プラークサイズ)を規定していた。18410 番目から始ま
る別フレームの ORF にコードされるこれまでに報告にない未知タンパク質 X の存在を同定
し、その細胞死誘導能によるウイルスの細胞外への放出促進作用を検出した。これらの成
果は、CAdV の基礎研究やベクターウイルス構築などの応用研究に貢献する。
第二章では、第一章で確立した CAdV2 の遺伝子改変系を活用して、イヌインフルエンザ
ウイルス(CIV)ベクターワクチン候補株を作出した。イヌに呼吸器症状を引き起こす CIV
は変異や遺伝子交雑によりヒトへの感染能を獲得する潜在性があり、ワクチンによる予防
と制御が期待される。第一章で作出した E1 欠損型 CAdV2 をベクターに CIV の防御抗原で
ある HA を発現する組換えウイルスを構築し、
CIV に対する防御効果をマウスで評価した。
組換えウイルスの免疫により CIV と CAdV2 両方に対する中和抗体が上昇し、マウス馴化
CIV で攻撃したところ対照群に比べ肺のウイルス力価が減少した。経鼻免疫による防御効
果が高かった。本組換えウイルスは、イヌの感染症に対する多価ベクターワクチン候補株

になる。
第三章では、コウモリアデノウイルス(BtAdV)の遺伝子改変系を確立し、イヌ腫瘍細
胞で選択的に増殖する OV 候補株を作出した。BtAdV はイヌ細胞で効率的に増殖し、CAdV
ワクチン抗体とは交叉しない。まず、BtAdV Mm32 株のイヌ腫瘍培養細胞における効率の
よい増殖性、細胞傷害性がわかったため、その遺伝子改変系を構築し、腫瘍選択性が付加
されるテロメラーゼ逆転写酵素プロモーター(cTERTp)を E1A 転写制御領域に挿入した
Mm32-cTERTp を作出した。野生型ウイルスと比べ、イヌの正常細胞における増殖性、細
胞傷害性は同等であったが、腫瘍細胞においてそれらは有意に高くなった。したがって、
Mm32-cTERTp はイヌの腫瘍を標的とした OV 候補株として有望である。BtAdV 遺伝子改
変系は遺伝子治療用のベクター等の構築にも貢献する。
第四章では、ブタヘルペスウイルス 1 型(PRV)の遺伝子改変系を確立し、OV 候補株を
構築した。まず、PRV の感染性 BAC クローンを作製し、腫瘍選択性を付加するため神経侵
襲性に関わる UL37 の R2 領域への変異の導入(37R2)、非分裂細胞における増殖に関わる
UL39 の欠損(39Δ)
、およびその両方を改変(37R2/39Δ)した組換えウイルスを作出し
た。39Δと 37R2/39Δは in vitro において腫瘍細胞選択的に増殖し、マウスにおける病原
性が高度に弱毒化していた。イヌ骨肉腫細胞 HMPOS を移植したヌードマウスを用いて抗
腫瘍効果を調べたところ、37R2/39Δは腫瘍の成長を有意に抑制した。したがって、37R2/39
Δは、イヌの腫瘍を標的とする安全で効果的な OV 候補株として有望である。
本研究では、BAC を用いた複数の DNA ウイルスの遺伝子改変系を初めて確立し、イヌ
の疾患に対する応用性と有用性を評価した。また、CAdV の増殖性を規定する新規タンパク
質の同定は、病原機構の解明だけでなく CAdV ベクターウイルスの産生効率の上昇にも応
用できる。CIV の HA を搭載した組換え CAdV2 は、これまでに例のない多価のベクターワ
クチン候補株になるとともに、同様な戦略はイヌの他の病原体に対するワクチン開発にも
応用できる。さらに、イヌの新たな癌治療を標的としたこれまでに例のない BtAdV ベース
や PRV ベースの OV 候補株の作出にも成功した。総じて本研究は、イヌの癌や感染症など
重要な疾患に対して革新的で独創的な予防法や治療法の開発につながる知見を提供した。
これらの研究成果は、学術上応用上寄与するところが少なくない。よって、審査委員一同
は本論文が博士(獣医学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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