リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Seed-initiated Assembly of π-Conjugated Molecules in Aqueous Media」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Seed-initiated Assembly of π-Conjugated Molecules in Aqueous Media

深谷, 菜摘 名古屋大学

2022.06.03

概要

π共役分子が一次元に集合した超分子ポリマーは,π骨格の分子間相互作用に起因して特異な光・電子物性を発現するため,機能性材料として注目を集めている.なかでも,水中における超分子ポリマーは,光捕集アンテナや光応答性ドラッグデリバリーシステムなどへの応用の観点から興味深い.優れた機能をもつ超分子ポリマーの創出には,長さや分子配向などの構造要素を精密に制御するための精密超分子重合が鍵となる.そのひとつのアプローチが種(たね)重合法である.分子の自発的な集合化では,超分子ポリマーの長さが不揃いとなってしまう.これに対して,種重合法では,種(超分子ポリマーの断片など)の末端選択的に超分子重合が進行するため,種の添加により重合開始のタイミングを速度論的に制御できる.この重合法の実現には,核形成-成長過程を伴う分子の自発的な集合化を一時的に抑制する準安定状態の形成が必要となる.しかし,水媒体中におけるπ共役分子の自己集合では,疎水効果により準安定な集合体が複数形成しやすく,超分子ポリマーへの転移に関わるエネルギーランドスケープの制御が難しい.水媒体中での種重合の実現は超分子化学分野において挑戦的な課題のひとつであり,種重合に適した準安定状態を形成させる分子設計指針の確立が重要である.そこで本論文では,π共役部位に働く疎水効果に着目し,水溶媒中において種重合を実現するπ電子系の創出と,π電子系集合体の機能開拓に取り組んだ.本論文は,序論,本論三章,結論から構成される.

第一章では,疎水効果を利用するフォールディング特性と種重合への有用性について論じている.超分子ポリマーを設計する上で水素結合は有用な非共有結合であり,低極性溶媒中で種々のπ共役分子を一次元状に集合化できる.また,申請者のグループでは,アミノ酸から合成されるジアミド骨格が分子間水素結合により自己集合する初期過程において,分子内水素結合により形成する折りたたみ構造が準安定状態として働き,種重合できることを報告している.しかし,水媒体中では,アミド基と水分子の相互作用により分子内水素結合が阻害されるため,準安定な状態を発現させる新たなアプローチが求められていた.そこで本研究では,フォールディングを促すための相互作用として疎水効果に着目した.アミノ酸に疎水性分子骨格を導入したジアミド誘導体は,水媒体中において,疎水効果により疎水性部位が近接するように折りたたまれ,超分子ポリマーの形成を一時的に抑制する準安定状態として働くと考えた.これを実証するため,アミノ酸の C 末端と N 末端にアミド化反応にてピレニル基とフェニル基を導入したジアミド誘導体を設計,合成した.単分散状態の構造について知見を得るため理論計算を行った結果,ジアミド部位は水分子に囲まれ,分子内水素結合を形成しないことがわかった.一方,末端アリール基に注目すると,水中では近接するように折りたたまれた構造を形成した.溶媒をメタノールに変えた場合は,末端アリール基が離れた構造が主に確認されたことから,折りたたまれた構造への変化は疎水効果によるものと考えられる.スペクトル測定により自己集合過程を追跡したところ,自発的な集合化が一時的に抑制された.これは,疎水効果による折りたたみ構造が準安定状態として働くことを示唆する結果である.また,誘導期に種を添加すると超分子重合を開始でき,得られた準安定状態が種重合に有用であることを実証した.

第二章では,水媒体中において準安定な折りたたみ構造を形成するπ共役分子の開拓と種重合について論じている.π共役分子として着目したジチエニルジケトピロロピロール色素(TDPP)は,光安定性や蛍光量子収率が高く,魅力的な光物性を示す.本研究では,疎水効果によるフォールディングの一般性について検討するため,ベンズアミド基を導入した TDPP 誘導体を設計,合成した.種々のスペクトル測定および顕微鏡観察により自己集合特性を評価した結果,良溶媒中において単分散状態に帰属される吸収バンドが 533 nm に観測されたのに対し,貧溶媒である水の割合を増やすと 595 nm 付近に鋭い吸収帯を示す一次元集合体の形成が確認された.また,自己集合を一時的に抑制できる条件を見出し,誘導期を伴う時間発展的な超分子重合を観測した.そこで,誘導期における分子構造に関する知見を得るため,量子化学計算による検討を行った.その結果,疎水効果によりベンズアミド基のフェニル部位が TDPP 部位側へ折りたたまれた構造がエネルギー的に安定であることが示唆された.また,誘導期に種を添加すると,超分子重合を直ちに開始できた.さらに,種の添加量を変えて,超分子重合の速度と超分子ポリマーの長さの制御に成功した.以上の結果から,疎水効果によるフォールディングの利用により,π 共役分子の種重合を実現できることを示した.

第三章では,水媒体中での二次元状集合体のサイズ制御および光励起ダイナミクスについて論じている.両親媒性分子は水媒体中における集合化の促進に有用な分子骨格であり,疎水性部位と親水性部位の分子設計により,二次元集合体といった多様な構造を形成する.申請者は,π共役骨格を含む両親媒性分子に種重合法を適用すれば,二次元状集合体への自己集合過程を速度論的に制御できると着想した.そこで,異なる親水性側鎖と疎水性側鎖を導入した両親媒性ジチエニルジケトピロロピロール(TDPP)色素を新たに設計,合成し,自己集合特性を評価した.直鎖アルキル基を有する TDPP 誘導体はシート状の J 会合体を形成することがわかった.

また,分子動力学計算と量子化学計算を組み合わせた手法により,集合体内部の分子配列様式を特定した.続いて,自己集合の機構について知見を得るため,溶媒および温度を変えて評価した結果,シート状集合体から単分散状態に転移する途中でナノ粒子状集合体の形成が確認された.この状態の熱力学的安定性は,親水性側鎖の長さと疎水性側鎖の直鎖・分岐構造に依存することがわかった.さらに,速度論的かつ選択的にナノ粒子状集合体を調製する条件を見出し,得られた準安定状態を利用する種重合法によりシート状集合体のサイズ制御を達成した.加えて,過渡吸収分光測定により,光励起に伴う励起子の拡散挙動と,コヒーレントな分子振動に関する知見を得た.これらの結果は,二次元状集合体の形成とその種重合の実現,光励起ダイナミクスの制御において疎水性・親水性部位の精密な分子設計が重要であることを示している.

以上の成果は,水媒体中におけるπ共役分子の速度論的な集合挙動に関する理解を深めるとともに,水媒体中におけるπ電子系超分子ポリマーおよびπ電子系二次元状集合体の種重合を実現する分子設計において重要な指針を示すものである.

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る